デジタルサイネージ×ロボットが街ゆく人の足を止める。新包装紙「radiance」を伝えるために、伊勢丹が取り組んだこと
2020/2/20
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新包装紙のお披露目で実施されたデジタルサイネージ(動画)とロボットを組み合わせた取り組みは、富士通株式会社との協業により実現。さまざまな広告が交錯する新宿の街で、多くの人々の足を止めました。
今回は、デジタルと最新テクノロジーの連動によるプロモーションを企画した株式会社三越伊勢丹の担当者にお話を伺いました。
※本記事は、『drop:フィジタルマーケティング マガジン』で、2019年6月4日に公開された記事を転載したものです。
百貨店におけるサービスロボット活用のご紹介~三越伊勢丹~
22年ぶりに新しくなった包装紙『radiance』を伝えるために。ロボット活用に至った理由
弊社では、1997年以来22年ぶりに伊勢丹の包装紙のデザインを変更しました。そのため、まずは『新しい包装紙に変わることを認知していただく』『包装紙を通じて“伊勢丹のギフトへの想い”を伝える』、このふたつを目的として、最も効果的な方法を考えました。
――その中でロボットを活用しようと思ったのには、何かキッカケがあったのですか?
今はデパートの包装紙が使われることは少なく、伊勢丹でも各ブランドのお店で包装紙を使用する場合が多くなっています。しかし、伊勢丹にとっては新しい顔のデビューですので、それをお客様に“どのように伝えるか”は非常に悩みました。
当初はラッピングしたギフトボックスとデジタルサイネージを使ってご紹介することを考えました。しかし最近では、いたるところにデジタルサイネージがあるので、なかなか足を止めて見てもらえません。しかし、昨年の10月にテクノロジー関連の展示会で訪れた富士通さんのブースが非常に盛り上がっていました。
覗いてみると、ロボットの『ロボピン』がオリンピック音頭を踊っていたのですが、テクノロジーの専門的な知識を持つ人たちが集まる展示会で、こんなにもロボットに注目が集まっていることが気になりました。そこで「ロボットを活用することで注目度を上げることができるのではないか」と考え、富士通さんにお声かけさせていただきました。
――その展示会から企画が実現したんですね。
伊勢丹では、ホテルにお客さま方を招待する「丹青会」という販売会があります。今年は2月1日(金)と2日(土)に開催が決まっていたので、いつもご贔屓にしていただいているお客さま方に、いち早く新しい包装紙をお披露目するには相応しい場所であると考えました。
まずはそこでロボットを使って新包装紙のプレゼンテーションをさせてほしいと富士通さんにお伝えをし、11月頃にお返事をいただき準備を進めていきました。その企画が社内でも通り、その後2月20日(水)から新包装紙の店頭使用がスタートするタイミングで、「伊勢丹新宿店」でもウィンドーを使用してプレゼンテーションを行うことが決まりました。
AIを使わずヒトの動きをインプット。インストラクターが『ロボピン』に“接遇”を教える
このロボットを使ったプレゼンテーションを実施するにあたり、私たちから富士通さんにご提供したのは、“サービスの質”や“お客様が来店する場所”です。特にロボットの動きに関して、伊勢丹にある“ご挨拶の基本形”をロボピンに教えることになりました。
おそらく日本では初めてだと思いますが、接客のマナーを教える三越伊勢丹のインストラクターが、ロボットに接遇の動作を教えました。インストラクターの身体にセンサーを装着して動くと、ロボピンも同じ動きをします。その動きを記憶することでロボピンが人間の動きを学習するのです。
――人間が教えてプログラミングするのと、人間が教えずにプログラミングをするのでは全然違うのでしょうか?
全然違います。やはりお辞儀もコミュニケーションなので、頭で考えてプログラムをつくっても同じようにはできないんです。例えばお辞儀には「謝罪」「ご挨拶」などいくつかの種類があり、それぞれお辞儀の角度が異なります。そのお辞儀の特徴をプログラムを使ってロボットに表現させるとなると、なかなか思うようにいきません。
ロボピンには腰の関節がないので、インストラクターの方にロボットの動きを意識してもらいながら、全部で10種類の動作をまる1日かけてロボピンに教育してもらいました。ロボットに人間の動作をそのまま真似をさせるということは、ロボットに感情を教えるということだと思います。
――ロボピンは映像で見ると、動きがすごく可愛らしいですよね。
そうですね。ロボピンは、腕が上下したり、身体を前に倒したり、頭がグルグル動いたりと機能としてはシンプルですが、非常に人間らしい動きをします。それと、ロボピンの声は子供っぽさもあります。ロボットらしい話し方の抑揚などもあえて残すことで、全てを人間らしくしてしまうよりも親近感がわくようです。
ロボットの活用でデジタルサイネージに人が集う。2体のロボピンが新包装紙『radiance』を解説!
デジタルサイネージとロボピンを連動させた5分程度のコンテンツになっています。2台のロボピンが新包装紙の説明を掛け合いで繰り広げていく、といった内容です。コンテンツの流れは、まず「新包装紙のコンセプト動画(60秒)」→「新包装紙をロボピンが紹介(90秒)」→「ロボピンが自己紹介(60秒)」→「雑談(90秒)」。雑談を入れることで、ロボピンに人間らしいやりとりや動きを演出しました。
お客さまを対象にした「丹青会」と一般の通行人を対象にした「伊勢丹新宿店」でのプレゼンテーションは、それぞれ場所や対象者は違いましたが、普段のデジタルサイネージを使った取り組みやウィンドーの展示と比較して、注目度はどちらも確実に上がっていました。
【「丹青会」の展示】
ちなみにこの数値に関しては、『コンテンツをしばらく立ち止まって見ているお客さま』を対象に計測しています。関係者や従業員のアテンドでコンテンツを見ている方はカウントに含まれません。そのため、本当にロボットだけの力で立ち止まったお客さまを対象に、純粋な数値を計測しています。
――70名の方が一箇所に集まってコンテンツを見ているというのは、なかなか見られない光景ですね。
「丹青会」での実施は、目的があって足を運んでいただいているという前提がありますが、まったくご案内も何もしていないお客さまが5分間にも及ぶコンテンツをじっと見ているという状況は、デジタルサイネージだけではつくれなかったと思います。純粋にコンテンツの力だけで、これだけの人数が足を止めたというのはすごいことですし、“ロボットを連動させることでサイネージの注目度を上げることができる”ということだと思います。
特に展示の前を通った子供達は、10人いたら10人が保護者の動きに関係なく止まっていたので、子供達からの興味・関心が非常に高い印象を受けました。
【「伊勢丹新宿店」の展示】
普段の伊勢丹のウィンドーも通る人は多いのですが、立ち止まってウィンドーやデジタルサイネージを観る人はほとんどいません。そういった意味で、立ち止まり率は2.4%と数値にすると低いようにも思えますが、完全に立ち止まった方のみを抽出していると考えると、一定の効果はあったと思います。
――実施場所を変えたことで変化はありましたか?
ウィンドーで実施したときは、全体的に大人の女性が立ち止まっていました。子供はガラス越しで距離があったためか、意外と立ち止まりませんでした。歩きながらスマホを見ている方が多く、ロボピンが喋っていないと気づかれないことも多かったです。
ただ、通行人の方が話されているのを聞いていると「包装紙が変わったのね」と内容を理解される方がいました。通常、街を歩いているなかでウィンドーを見つけても、その展示が何なのかを瞬時に理解するのは難しいと思います。普段の展示よりも立ち止まっていただけて、なおかつこちらが伝えたいことを伝えることができたと感じています。
大切なのは“目的を見失わない”こと。ロボット活用の注意点と成功のポイント
成功のポイントは、“コンテンツを伝えるという目的がブレなかったこと”だと思っています。今回の施策は、あくまでも『新しい包装紙をお客さまや一般の方に伝える』という目的があって実現した企画です。弊社としては、来店されたお客さまに“体験価値を伝える”ことを重要視しています。“私たちが伝えたいことをどう伝えるか”というところで、たまたまロボピンに出会うことができました。
――導入してみてわかった課題はありますか?
やはりまだ実験的な段階なので、ロボットの立ち上げとシャットダウンも専門の方に来ていただかなくてはならないなど、現段階では専門的な方と組まなければいけないのは、なかなか難しい部分だと感じました。
そのほかにもロボットは数台のパソコンで制御しますが、処理するプログラムに若干のタイムロスが出てきたり、「丹青会」ではむき出しの状態でプレゼンテーションをしていたので、お客さまがロボピンの頭を撫でて動作が止まるアクシデントもありました。実用化していくためには、まだもう少し時間がかかるかなという印象はあります。
あとは、ロボピンの頭や背中に触感センサー、顔のカメラには顔認証機能があります。弊社ではそういった情報取得の基準を非常に厳しくしているので顔認証の機能は使用していませんが、ロボットから情報を取るということは可能です。しかし、今後こうしたテクノロジーが発展していく上で、お客さまや一般の方に安心していただくためにも取得した情報を利用することについては法令を遵守し、基準を明確にする必要があります。
――最後に、今後最新テクノロジーに期待することを教えてください。
課題も多かったですが、やはり着実な成果を得られたというところで、あらためてテクノロジーの可能性を感じた試みとなりました。
前回の東京オリンピックでは、さまざまな新しい技術が大衆化しました。そう考えると、こうしたロボットが実用的に使われる日も近いのではないかと思います。最新テクノロジーがオリンピックの後に大衆化して、我々接客業の中にも入ってくるかもしれません。
今回はあくまでもイベント装飾という観点で行った施策のひとつでした。でも、今後は私たちの業種においてロボットがどのように関わってくるのかは、楽しみであり、期待するところでもあります。