米・広告代理店のテックイノベーター「トレードデスク」~デジタルシフト未来マガジン〜

「デジタルシフト未来マガジン」では、オプトグループで新たな事業を創造しデジタルシフトによる変革を推進している石原靖士氏が捉えた国内外のデジタルシフトの最新事例を紹介する。
石原 靖士 -Yasushi Ishihara-
㈱オプトホールディング グループ執行役員
㈱オプト 執行役員

SaaS系の新規事業を立ち上げ・グロース後、事業売却。2015年にオプト執行役員に就任し、エンジニアとクリエイティブの組織を拡大。2019年4月、オプトグループ執行役員に就任し、レガシー業界のデジタルシフトを狙った、顧客との共同事業開発を推進中。
今回は、アドテク企業「トレードデスク」です。アドテクとは、アド(広告)とテクノロジー(技術)を合わせたアドテクノロジーの略語で、主にweb上の広告配信をテクノロジーを用いて効率的に行うことを指します。インターネットとともに、web上で広告を出すことが浸透するにつれて急速に成長した市場です。

アメリカのアドテク市場では、GoogleやFacebook、Amazonなどの大手プラットフォームの寡占化が進んでいて、なんとこの3社だけで60%以上のシェアを占めています。プラットフォーマーの寡占化が進んだことで、市場自体が成熟した結果として、アドテク企業の上場廃止や倒産も目立っています。

2019年には、独立系最大手のアドテク企業「Sizmek」が倒産し、破産申告を行いました。このような市場環境にも関わらず、トレードデスクはここ5年間で10倍以上の成長を遂げ、時価総額は1兆円をこえています。果たしてどんな戦略でアドテク市場での存在感を強めているのか?もちろんそこにはデジタルシフトなポイントがありました。

詳しく見ていきましょう。

トレードデスクとは?

トレードデスクは、2009年に設立され、2011年に配信事業を開始しました。2018年には、トレードデスクのプラットフォーム売上は4.7億ドル(約500億円)、トレードデスクによって配信された広告費は23億ドル(約2500億円)まで成長しています。

もともとアドテク市場には、「ミドルプレーヤーが多すぎる」という問題がありました。市場自体が急速に大きくなるとともに、広告枠の提供、アドテクツールの販売、広告主から広告運用の請け負い、あるいはこの3つの中から複数の事業を行うなど、プレーヤーが乱立する状態だったのです。そのため、企業間で複雑な競合関係が生まれ、大きな中間マージンが発生していました。この課題を解決したのがトレードデスクです。

トレードデスクは、他のアドテク企業が複数の役割を担おうとする一方で、テクノロジーを駆使して広告代理店向けに広告を運用する分野に特化しています。広告主と接する請負業には手を出さず、代理店のみと取引することで、競合企業を極力減らしているのです。

さらに、運用で発生する業務や必要なツールをトレードデスク上に集約できることも大きな特徴です。取引先となる代理店にとっては、一元管理できるためトレードデスクを使うことにメリットが生まれます。競合には当てはまらないことから、アドテク業界の多くの企業と連携することができ、ツールを集約するトレードデスクがアドテクにおけるプラットフォームの役割を果たしているのです。

トレードデスクの2つの強み

トレードデスクの成長のポイントは、「ビジネスモデル」と「組織力」にあります。


■ポイント1「ビジネスモデル:取引先を代理店に絞り、特化したサービスを提供」
トレードデスクの一番の特徴は何と言っても、競合を回避し、アドテクのプラットフォームになるというビジネスモデルを確立したことです。

プラットフォームとして集約している業務は幅広く、利用できるツールの品揃えも顧客である代理店が満足できるものが揃っています。他社が開発したエージェンシーの広告関連業務で活用するツール(ソフトウェアやテクノロジー)もトレードデスクに集約できるため、ツールを提供している企業もトレードデスクとは完全な競合になりにくいので連携しやすいと言えますね。

また、GoogleやFacebookとも連携していて、配信料金が競合することもありません。アメリカではOTTビデオ(※)市場が活況を呈していて、この分野へも積極的に投資。Netflix、ESPN、CBSなど主要なテレビ向けプラットフォーム・放送局とも連携済みです。

※OTT(over the top)=インターネットによるコンテンツ配信を意味し「OTTビデオ」は、ネット配信される動画のこと。

取引先を代理店に絞り、特化したサービスを提供することで、顧客のニーズに的確に応えることができているのです。その結果、多くの代理店は広告運用を丸ごとトレードデスクに任せるという構図ができあがりました。


■ポイント2「組織力:徹底的な自動化とアドテク人材支援」
トレードデスクは社員数約400人と、売上の規模から考えると非常にスリムな組織です。売上が700億円以上なので、単純計算で社員1人あたり1.7億円以上稼いでいることになります。これは驚異的な数字です。

テクノロジーを活用することで自動化を進め、売上の増加に合わせて従業員が増えないモデルを作り、売上とコストが比例しないようにしているのです。

そして、トレードデスクのメンバーは、代理店が必要とするプラットフォームやアドテクとの連携を可能にするテクニカル人材です。もちろん、こうしたテクノロジーに強い人材は自社プラットフォームも使いこなせます。顧客のニーズに柔軟に合わせ、徹底的に代理店の広告運用をサポートする体制を整えているのです。

業界への貢献―アドテク人材の育成支援

トレードデスクはアドテク人材の育成のためにオンライン講座も開講しています。

トレードデスクを使っている代理店向けのプログラムになっていて、基礎的な知識から特定の業種に向けた内容まで幅広く扱っています。こうしたサービスも代理店からトレードデスクが選ばれる要因です。

もちろん対外向けだけではなく、社内でも活用されていて、自社のプラットフォームを使いこなせる人材を育成しています。

トレードデスクに学ぶデジタルシフトの勝ち筋

不要な競合を生まない戦略と集中に加え、徹底的なテクノロジーの活用と自動化で利益の出やすいスリムな組織を作る。その一方で、OTTビデオとの連携を強めているように、これから伸びる領域への投資を果敢に行っていく――。

テクノロジーを用いて、どのようなポジショニングを作るかという点で、トレードデスクの戦略は、多くの企業の学びになるでしょう。

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