デジタルシフト未来マガジン〜Workable〜 世界88か国6000社以上の企業が利用Workable 採用管理システムATSは、HRTechの一元管理システムになるか?

「デジタルシフト未来マガジン」では、石原靖士氏が捉えた国内外のデジタルシフトの最新事例を紹介する。
石原靖士
㈱オプトホールディング グループ執行役員
㈱オプト 執行役員

2003年、旧ソフトバンクIDC㈱に入社。ネットワークエンジニアとして従事した後、2006年に㈱オプト(現:㈱オプトホールディング)入社。営業、マーケティング職を経て、2010年にWebマーケ会社の㈱デジミホ(旧オプトグループ)の取締役に就任。SaaS系の新規事業を立ち上げ・グロース後、事業売却。2015年にオプト執行役員に就任し、エンジニアとクリエイティブの組織を拡大。2019年4月、オプトグループ執行役員に就任し、レガシー業界のデジタルシフトを狙った、顧客との共同事業開発を推進中。
今回は、人事業務のデジタルシフトをけん引する「Workable」に注目してみました。Workableは、「ATS」と呼ばれる採用管理システムを提供するアメリカのスタートアップ企業。WorkableのATSは、米メルカリなど2万社以上で利用されています。

ATSという言葉になじみがない方も多いかもしれませんが、人事業務に携わる人にとっては一般的に浸透していて、日本でも国産のATSがいくつもあり、多くの企業が導入しています。まずは、ATSとは何かについてご紹介します。

■採用管理システムATSとは?

ATSとは、「Applicant Tracking System」の略で、日本語では「採用管理システム」と呼ばれています。米国では2000年代に人材採用のプロセス管理に特化したソリューションとして開発され、いまでは採用だけでなく、入社後の人事評価データなども一元管理し、人事業務を効率化するツールとして認知されています。まさしく、人事領域においてデジタルシフトを推進する中核的なソフトウェアであり、HRTechの先駆けといえる存在です。
しかし、同じATSでも、日本と海外では開発元が注力している機能が異なっています。
主なATSサービス

主なATSサービス

国産ATSは、主に採用活動にフォーカスした製品が多く、Indeedやジョブカンといった採用メディア、アプリを経由して応募してくる候補者の選考プロセスを管理するものとなっています。採用候補者に対して企業が積極的にアプローチする、いわゆるダイレクトマーケティングの要ともいえるでしょう。

しかし、日本におけるATSの歴史はまだ浅く、採用の業務効率化がメインで、大手の参入もありません。一方、米国では15年以上前に普及しはじめ、現在は採用だけでなく、入社後の評価から労務まで、人事業務全体に対応する(入り口から出口までケア)大型SaaSサービスに成長。SAPやオラクル、IBMなどの法人IT大手が主戦場となっています。

■ATSスタートアップ「Workable」

先ほど、米国のATSは採用だけでなく、人事業務全体の統合が求められていると述べましたが、今回注目するWorkableは採用業務を強みとする異色なサービスです。だからこそ、日本のATSにとっても学びとなるポイントがたくさんあると思います。詳しく見ていきましょう。

Workableは2012年にギリシャで創業された会社で、現在の拠点はアメリカ・ボストンにあります。今までに90億円程度の資金調達を行っている注目企業で、圧倒的なUX(ユーザーエクスペリエンス)と使いやすさ、他のサービスとの柔軟な接続性で支持され、急成長を遂げました。同社のサービスを約2万社が導入しています。そのうち有料課金している会社が約6,000社。売上の推定は2000万ドル(20億円)です。価格は、年間で278ドル(約28,000円)となっていて、大手企業だけでなく、中小企業でも利用しやすい値段であることもサービス拡大の一因でしょう。

さて、先ほども述べた通り、Workableは、主に採用業務の一元管理を行うATSです。導入企業はWorkable上で求人票を作ることで、Workableと連携している主要採用メディアに一括で登録することができます。この機能だけでも、採用メディアそれぞれで登録する手間が省かれます。そして、応募者の情報や選考状況の管理もWorkable上で可能です。Workableだけで募集から採用までを一括で行うことで、効率化を実現しているのです。

そんなWorkableの大きな特徴を3つ見ていきましょう。

特徴1:採用メディアへの一括投稿
Workableは、200以上の採用メディアへ一括で求人票を登録できる上に、その元となる求人ページを簡単に作成できるCMS機能も持っています。

※CMS: コンテンツ管理システム。専門的な知識が無くてもwebページが創れるシステムのこと
Workableを使った求人の流れ

Workableを使った求人の流れ

特徴2:独自の候補者データベースを保有
Workable自体も独自の人材データを持っています。求職者はWorkableに自分の履歴書を登録しておくと、企業から求人オファーが来ることもあり、求職者側にもメリットを提供しているといえます。人材データは1,000万人にのぼり、うち400万人分が公開されています。さらに、その中から条件に合う人材を企業にレコメンドしてくれるのです。実際にマッチした企業と人材のデータを分析し、レコメンドの質を常に向上させています。
Workableのサービス体系

Workableのサービス体系

特徴3:「採用管理の向上」
応募者の情報や選考状況、さらには全体の採用数までWorkableで管理することができます。「今、どの応募者がどういうステータスか」をWorkable上で管理できるため、人事部内での共有も行いやすくなるのがメリットです。

個々の応募者の状況というミクロな情報も管理できますし、年間の採用目標数や採用予算に対しての進捗率などのマクロな情報もレポートを出してくれるので、経営層へ採用状況を報告する作業も簡略化されます。
目標管理をする画面

目標管理をする画面

経営陣向けのレポート画面採用予算・採用枠に対する進捗状況が確認できる

経営陣向けのレポート画面採用予算・採用枠に対する進捗状況が確認できる

特徴4:「パフォーマンスの計測」
採用活動のパフォーマンスはレポート画面でまとめてくれます。各採用メディアでの自社ページのPVや応募者数、面接進行数、採用決定数などの数値を算出し、一覧で表示してくれるのです。これにより、どの採用メディアが一番効果的だったかや、どの工程に改善の余地があるかなどが一目瞭然になります。それぞれの採用メディアからデータを集めて、ひとつにまとめ直す必要はありません。このデータをもとに改善を繰り返すことで、採用活動をデジタルマーケティングのように運用することができるのです。
特徴5:他社ATSとも連携が可能
Workableは採用業務に特化して、痒い所に手が届く細やかなサービスで支持されていますが、他の人事業務には貢献していないかというと、そうではありません。入社後の管理や評価に関する他社のATSとも簡単に連携をすることができるのです。
人事業務は採用から始まります。その採用の過程で得た情報を社内向けのATSと統合することで、導入企業からすれば、使用するATSは変わりますが、採用から評価までの人事業務を一貫してデジタル上で行うことができるのです。
逆に、他のATSと連携することで、元々それらのATSを利用している企業にWorkableを導入しやすくなるというビジネス上のメリットもあります。

■Workableから考えるATSの可能性。HRTechの統合ソリューションに?

Workableのサービスから想起されるのが、運用広告という概念です。インターネット広告では、どの媒体にどの広告を載せたらどんな効果が出るか、リアルタイムで計測できるため、都度広告の掲載先を変更しています。Workableのようにおよそすべての採用メディアに対し一元的に求人情報を送れるとすれば、運用広告のように採用活動のデジタルマーケティング化を推し進めることになるでしょう。
既に、Workableには、採用メディアで自社の求人情報が検索上位に表示されるようにするSEO機能も加えられています。

そのほかのATSとも連携していますから、その影響範囲は採用にとどまらないかもしれません。HRTech企業が続々と登場する中、それらのクラウドサービスを一元的なUIで統合支援するプレイヤーが、デジタル広告業界から新たに登場する日も近いかもしれません。

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