スポーツやフィットネス、保険業界からの引き合いも!?高精度に変化した ZOZOSUIT 2が描くファッションテックの未来とは。
2021/1/21
ファッション通販サイトとして有名な 「ZOZOTOWN」を運営するZOZOは、身体3Dモデルの生成を実現する高精度な計測テクノロジーとして、3D計測用ボディスーツ「ZOZOSUIT 2」を発表しました。また今回は「ZOZOSUIT 2」に加えて、スマートフォンで足の3Dサイズ計測が可能な「ZOZOMAT」を活用した新サービスの共創パートナーも同時に募集しています。株式会社ZOZO取締役兼COOの伊藤 正裕氏に、新しく発表されたZOZOSUIT 2の改良点や特徴、他企業と共創する狙いについて伺いました。
Contents
ざっくりまとめ
- ZOZOSUIT をより高精度に改良した理由は、旧型リリース後に洋服づくり以外の用途にも利用したいという要望も多く寄せられ、計測テクノロジーの需要の高さとより幅広い活用の可能性を感じていたため
- 計測データの活用領域としては、下着、スポーツ、フィットネス、保険、ゲームなども視野に。技術の活用状況によっては、プラットフォーマーとしての展開も考えられる
- ZOZOが目指す基本姿勢は、経営戦略でも掲げている「MORE FASHION×FASHION TECH」。テック系ではサプライチェーンのスリム化や究極の受注生産も視野に
- ファッションテック企業として、ブランドパートナーに対し、ZOZOが蓄積した統計データやパターンメイキングソフトなどをオープンに提供するしくみも検討
プライベートブランド販売の入り口から、多様な用途に利用できるサービスへ
計測スーツなのでハードウェアはもちろんですが、アルゴリズムも新しくなっています。ただ基本的な思想は従来と同じ。スーツを身体にまとって、カメラでシルエットを把握していくコンセプト自体は変わりません。旧型ではマーカー(スマホカメラの認識対象)が約400点でしたが、新型は約50倍の平均20,000点に増やしているため、情報として欠落する箇所がなくなりました。ZOZOSUIT 2の3D計測結果は、3Dレーザースキャナーの3D計測結果と比較した際に平均誤差が3.7mmとなる精度を誇っています。
また、旧型をリリースした後に、洋服の購入時だけでなく、さまざまな使い方をしたいというお客様の声が多く、いろいろな引き合いをいただきました。
たとえば、下着づくりに利用したり、フィットネスやヘルスケア分野でも体型データを使えたりするのでは? というお問い合わせがありました。実際にZOZOSUITをダイエットの記録として定期的に使う方もいて、その記録データをTwitterで発信される方もいます。
トレーニングに使えば、筋肉の増強を把握できたり、体型変化のデータを病気の早期診断やリスク分析に利用できる可能性があったり。そういう使い方をするためには、もっと解像度や精度を高める必要があったので、そこに特化する形でZOZOZSUIT 2を作り直したのです。
そこでZOZOSUIT 2では、マーカーの模様を生地全体に施して背景に影響されないようにしたり、計測時に無意識に腕や足が動いていたとしても、アルゴリズム上で補正し、正確に測定できたりするように工夫を凝らしています。
ZOZOSUIT 2はECの限界を超えるための鍵になる
たしかに事業戦略上の位置づけは変わりましたが、3D計測でモデリングし、データを活用するというコンセプトは同じです。大局的にマーケットを見たとき、さらにECを普及させていくためには、私たちのような企業がやるべきことが多くあります。
最近の店舗は体験型が主流で、そこにコストをかけています。店舗に訪れたお客様は、ブランドの世界観を体験して、実際に商品を手に取って試着し、店員からアドバイスをもらって、納得した上でワクワクしながら商品を購入します。実は、これはすごい体験なのです。その体験によってブランドを気に入ってもらい、LTV(Life Time Value)という長い視点で利益を回収するモデルが多い。
しかし、リアルの場を持たないECの場合は、店舗と同じような体験の提供が難しい。
だからこそ、商品画像を充実させたり、値引きをしたりするだけではなく、デジタルの力を利用し、安心して商品を買っていただける環境をつくる必要があります。そのためにはお客様のインサイトを知ることが重要です。趣味・趣向から、予算感、身体のサイズまで、深く知れば知るほど、商品を的確に提案できるわけです。
たとえ相当なロングテールであっても、やはりお客様の情報をしっかり把握することが、私たちのミッションなのです。ですから当初のPBづくりという目的からは方向転換していますが、ZOZOSUIT 2の需要は必ずあると思っています。
新型コロナウイルスの影響で巣籠りが増え、EC需要が追い風に
実際にコロナ禍では、ECの需要が伸びています。巣籠りに伴うマイナス要因もあるのですが、直近データにおいてはそれでも増えている傾向です。EC初体験のお客様も多いですが、彼らの購買行動は従来の顧客と同じで、購入金額もそれほど変わりません。
コロナ禍で一瞬だけ買って需要が元に戻るということもなく、ご自身のライフスタイルのなかで、効率的に買い物したい場面ではECで買い、体験価値を得たい場面では店舗で買うという使い分けがなされているようです。
また、コロナ禍でリモートワークが普及していくと、都心部から地方に移住する人が増えてくるでしょう。物理的な距離もあって店舗へ立ち寄ることが難しい時は、ECで購入するといった形もより多くなるかもしれませんね。
ですから、いまはECで店舗レベルの世界観を提供することは難しくても、せめてお客様にはECで安心して洋服を買っていただきたいのです。店舗を訪れることが難しい大好きなブランドであっても、このサイズと色で間違いないとか、自分のコーディネートに合うかどうかとか、そういう総合的な判断ができる要素を提供するのが、私たちの仕事だと思います。
-そうなると、やはりZOZOSUIT2の役割も、さらに大きくなっていきますよね。
そうですね。やはり最終的には、ZOZOSUIT2で体型を一度計測するだけで、ZOZOTOWN上のすべてのブランドを網羅して、的確なレコメンデーションができるようになるぐらいまで持っていきたいところです。
自分がどのサイズなのかというアドバイスだけでなく、たとえばオーバーサイズが流行っているなら、そのトレンドを考慮した上で「これはいかがでしょうか?」と提案するなど。ただし、これを実現するには時間がかかると思いますが、今とは異なる方法の検討も含めて、ZOZOとしては継続的に取り組んでいくつもりです。
ZOZOSUIT 2と同じく、計測テクノロジーを活用した新サービスの共創パートナー企業を募集する「ZOZOMAT」では、このマットに足を置いて、スマートフォンのカメラで360℃撮影すると足の3D計測ができます。一度計測しておけば、ZOZOTOWN上で販売中のZOZOMAT対応している靴を対象に「あなたの足は、この靴であれば27.5cmで、こちらの靴であれば28.5cmが適しています」というように、靴ごとのサイズに関するレコメンドを受けることができます。
ZOZOSUIT 2においても、例えばいろいろな洋服へ3Dデータをマッピングすることで、オーバーサイズや抜け感など、ファッションの着回しや着こなしまで考慮した提案を目指せると思います。
下着やスポーツ、フィットネス、保険業界からの引き合いも
冒頭で触れたように、現在は計測テクノロジーを活用した新サービスの共創パートナー企業を募集しているところで、ファッション以外にも使いたいという話を実際に何件もいただいています。下着やスポーツ、フィットネス、医療がらみで保険業界からもお問い合わせをいただいています。
例えば、保険分野への活用ができれば、医療費を削減できる可能性もあるかと思います。まだアイデアベースではありますが、ZOZOSUIT 2で体型を年に一度測定し、算出した健康リスク等によって保険料を安くするなどの活用ができれば、生活習慣を改善して消費者の意識を高めるツールになるかもしれません。保険会社からすると、払い出しを減らせるメリットもありますね。
あとはVRやAR関連でもご興味をいただいています。ZOZOSUIT 2で出力された3Dモデルはポリゴンデータですから、それらをゲームやアプリに取り込んで使うことができます。VR会議で自分のアバターを作って参加したり、ゲームの世界の中に自分を登場させたりするなど、エンタメ分野での使い道があるだろうと期待しています。
-なるほど。ルンバが部屋の情報を拾うような話に近いかもしれませんね。プラットフォーマー的な構造になるという感じですか?
一定数以上の多くの方に計測していただくことができれば、プラットフォーマーとしての展開も可能性としてはあると思います。一方で、何度も計測いただくことはお客様に面倒をおかけしてしまうので、まずは一度の計測で多くのメリットを提供することが理想。下着も買えるし、オーダーメイドの枕も作れるし、病気の早期診断もできて保険料も安くなるとなれば、お客様にとって測る価値が高くなります。付加価値を高めていくことと、プラットフォーマーとしての展開のバランスは、まさしく今後検討していくべきテーマですね。
ZOZOSUIT2は、過剰生産傾向にあるアパレル業界変革の鍵となりうるのか
基本的にZOZOはファッションが生業なので、経営戦略でも掲げている「MORE FASHION×FASHION TECH」という2軸で成長していく方向で考えています。たとえば、MORE FASHIONにおける最近の取り組みとして、LOEWEの対象商品をZOZOTOWNで購入したお客様に、京都の職人が手染めした特別な風呂敷に包んで期間限定でお届けするという企画を実施しました。これは、非常に好評を博しました。
もちろん、これまで通りファッションテック企業としての取り組みも進めていきます。例えば、アパレル業界は過剰生産という課題を抱えていますが、その課題をデジタルテクノロジーの切り口で解決できるかもしれないと考えています。旧型ZOZOSUITでは数百万に及ぶ計測データが集まり、平均的なサイズだけでなく、ZOZOTOWNでの購買行動との紐付きも見えてきました。
今後はビッグデータ解析から、より効率的で最適な生産が実現できるようになるでしょう。これはサイズだけでなく、色や形、 カテゴリ、価格帯、すべてのことに当てはまります。デジタルシフトによって、マーチャンダイジング・サプライチェーンのスリム化に貢献できるのです。
アパレル業界のデジタルシフトによるもう1つの変化は 「DtoC」(Direct to Consumer)が多くなってきたことです。ほとんどのベンチャーは店舗を持たず、競争力が高い価格帯で参入しています。ブランドのプロデューサー自身がモデルとなり、商品を着用した自撮り写真をソーシャルメディアで告知するなどの取り組みも見受けられます。その中で生まれるお客様との対話から、人気を予測して生産量を決めているのです。つまり、ソーシャルメディアでも需要予測が可能になってきたということです。
辿り着く究極の方向性は受注生産だと思いますが、やはり課題はリードタイムの短縮化です。生地データから在庫データまで、サプライチェーンに関わるすべてのデータを一括してデータベースに入れることができれば、それに基づいて逆算し、ある商品は小ロットで生産し、最短一週間で納品できる、といったことが実現できるかもしれません。デジタルシフトによる「made to order」に向けたテクノロジーの進化も興味深いですね。
ブランドパートナーに、ZOZOが蓄積したデータや技術をオープンに提供
私たちは、いろいろなファッションブランドを応援する立場にあるわけですが、同時にテックカンパニーでもあります。ブランドパートナーには、私たちが持つデータや技術、ソフトウェアなどをオープンに提供できるしくみを整えていきます。
先ほどの話のように、ZOZOTOWNのデータを使えば、さらに在庫予測の精度を高めることができるかもしれません。PBで開発したパターンメイキングソフトを提供したり、ZOZOSUITの統計データをシェアしたりするなど、私たちなりにデジタルシフトのお手伝いができると思います。それもMORE FASHIONであり、FASHION TECHのソリューションなのです。
-資本提携なども含めて体制変化もあったかと思いますので、最後に中期的な計画の話もお願いします。
ZOZOTOWNは、若い世代に限らず、どなたにでも使っていただけるファッション通販サイトとして成長していきたいと考えています。ZOZOとしても、もっと多くの人たちに使いたいと思っていただけるような施策を打っていきたいと思います。
これから、どんどん新しい施策が出てきますからご期待下さい。MORE FASHIONとFASHION TECHで、誰もが親しみやすく、欲しいものが手に入るZOZOTOWNを目指します。Zホールディングスグループの各サービスとのタッチポイントでも、シナジー効果を発揮していきたいですね。
株式会社ZOZO取締役兼COO
2000年12月株式会社ヤッパ(現 株式会社ZOZOテクノロジーズ)設立 同社代表取締役社長
2015年12月株式会社スタートトゥデイ工務店(現 株式会社ZOZOテクノロジーズ)代表取締役CEO
2017年6月株式会社ZOZO取締役
2019年9月株式会社ZOZO取締役兼COO(現任) 株式会社ZOZOテクノロジーズ 取締役を兼任