【キユーピーAI活用事例】“やさしい職場づくり”と“食の安全と安心”の両立
2020/2/20
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キユーピーが見据えるのは、自社の展開だけではなく、サプライチェーン・競合他社・海外などすべての食品製造業に導入できる技術。2016年にAI活用を構想してから、2018年8月にはベビーフードで使用される冷凍の角切りポテトやニンジンの検査装置として本格導入。2019年1月にはその技術をさらにグループへ展開し、装置の応用・展開にも力を入れています。
今回は、キユーピーのAI活用法をご紹介するとともに、原料検査装置の企画・開発を担当したキユーピー株式会社生産本部 生産技術部 未来技術推進担当部長 荻野武氏に最先端技術活用のコツについても質問にお答えいただきました。
※本記事は、『drop:フィジタルマーケティング マガジン』で、2019年10月10日に公開された記事を転載したものです。
従業員の負担を軽減。キユーピー「AI活用」の狙い
その企業理念から、お客様の安全と安心を守り続けてきたキユーピーは、より良い品質とおいしさを届けるため、調達した原料の受け入れ検査を実施しています。なかでも厳しく検査を行なっているのが、赤ちゃんが口にするベビーフードに使用する原料。たとえ品質に問題のない「安全」な原料であっても、消費者の「安心」を得るため、厳しい検査を実施してきました。
ところがこうした企業努力の裏では、工場の約1/4にあたるスタッフが目視で検査を行なっていたため、従業員への身体的負担が大きく作業改善を課題としていたのです。
不良品ではなく「良品」を見極める。発想の転換が開発に転機をもたらす
そこでキユーピーが打ち出したのは、良品と不良品それぞれのパターンを学ばせていくのではなく、AIに良品のみを学習させ、良品以外を不良としてはじく方法。こうすることで学習の負荷を半減し、精度や速度を両立させながら分類していくことを可能にしました。
作業者の負担を減らす技術的な使いやすさはもちろんのこと、開発にあたりキユーピーがこだわったのは、作業者が使いやすい「シンプル&コンパクト」な操作性。実際に働く従業員からの声を反映し、スペースに限りのある加工場でも場所をとらず、誰もが簡単に分解や洗浄、操作がしやすい構造を実現しました。
キユーピー・未来技術推進担当部長に聞いた“最先端技術活用のコツ”
――今回のAI導入において、もっとも大変だったことを教えてください。
AIを導入する際に最も大切なことは「何を実現したいのか」、すなわち「志」だと考えています。AIの原料検査装置を開発する際に目指したことは「原料の安全・安心を世界へ」です。そのための条件として、1.世界一価格が安いこと、2.世界一の高性能、3.世界一簡単な操作性、を基本スペックとし、装置の完成形のハードルを自ら上げたため、実現には苦労しました。
――最先端技術活用を検討する際、パートナーの選定はどのような目線でおこなったのですか?
私たちのプロジェクトでは「世界一」を目指しています。ですから、研究者のみなさまには最先端技術を目指して「絶対に世界一をとる」という気持ちで取り組んでいただきたいと考えています。内容はどんなものでも構いませんが、それぞれの研究者が自らの研究者生命をかけて取り組まれるのが良いと思います。こう言うと高慢に聞こえるかもしれませんが、我々使う側もそれぐらいの覚悟をもって臨んでいます。そのような目線から、必要な最先端技術を選択させていただいています。
――今後も積極的に最先端技術を活用していく見通しはありますか?
実現したいこと、すなわち「志」を世界トップレベルにするのに有効であれば、今後も積極的に活用していきたいと思っています。
――今回のプロジェクトを成功に導いた一番のポイントを教えてください。
ぶれない「志」(利他的な高い目標)をもち、「覚悟」をもって実行し、実現させ、周囲の「信頼」と「共感」を得ることです。これは、イノベーションにおいて重要なプロセスだと考えています。最先端技術はあくまでも「手段」です。大切なのは、何を実現したいのか。「志」がなければ、どんな最先端技術をもっていても使いこなすことはできないと考えています。
――ご回答、ありがとうございました。