AI活用でファッショントレンドを予測し商品企画に反映|株式会社コックス「AI MD」事例インタビュー

AI
アイテム、色、ライフスタイルの多様化などから、ファッショントレンドは年々細分化されています。それによりトレンド予測が難しくなり、アパレル業界では売れ残り商品の廃棄増加が問題となっています。

日本でも年間100万トンもの衣類が廃棄処分されているとの報道もあり、近年ではこのような社会課題を解決するために、ファッショントレンドの予測にAIの技術を活用する事例も出てきました。

今回は、ファッショントレンド解析サービス「AI MD」を導入した株式会社コックスのデジタルマーケティング部長 宮野敦氏にお話を伺いました。

※本記事は、『drop:フィジタルマーケティング マガジン』で、2019年12月20日に公開された記事を転載したものです。
株式会社コックス デジタルマーケティング部長 宮野敦さん

株式会社コックス デジタルマーケティング部長 宮野敦さん

課題である“在庫問題”をAIで解決する。売上向上の相乗効果も

アイテム×カラー分析の画面

アイテム×カラー分析の画面

―― 株式会社コックスの事業内容について教えてください。

弊社は「ファッションを通じてお客さまに本質的なゆたかさを提供すること」を理念に、全国のファッションビルやショッピングモール226店舗(※)と、公式オンラインショップなどのECを展開しています。事業内容はメンズ、レディース、キッズ、ファッション雑貨、ライフスタイルグッズとその関連商品の企画、製造、小売業と、幅広く手掛けています。
(※)2019年11月末時点

―― 今回導入された「AI MD」とはどのようなシステムですか?

「AI MD」は、世界各地のリモートコンピュータにより、ソーシャルメディアを含む世界中のファッションメディアから、最新のコレクションやファッショントレンド写真を24時間自動収集しています。そのビックデータを解析することで、カラーや着こなしなどのトレンドを予測し、結果を商品企画などに反映する仕組みです。

―― なぜファッショントレンドの予測を、AIに任せたいと思うようになったのですか?

本来、次のシーズンの企画をするときは遅くとも半年前に「今年何が流行るか」というトレンド予測をして発注をかけます。今までは、バイヤーがファッション情報の収集をおこなっていましたが、情報収集にかかる時間は膨大なうえ、どうしても個人的な感覚に頼らなければならない部分がありました。

予測ミスによる在庫問題は、SDGs的な観点ではもちろん、アパレル業界全体でも課題視されています。そのため、トレンドの需要を現実に即してしっかりと捉える必要がありました。そんなときに、「AIMD」を開発したニューラルポケット株式会社の重松社長の「アパレルの経験値を形式化し、在庫を減らす」というサスティナブルなビジョンに弊社代表の寺脇も共感し、導入に至りました。

―― トレンドの需要予測を「AI MD」でおこなうことで、在庫問題の解消のほか、どのような相乗効果を期待していますか?

今後は「AI MD」で解析して定量分析をすることで、“プロパー消化率向上”、“粗利率の改善”を目指したいと考えています。実際、「AI MD」を導入したレディースの2019年のA/Wに関しては粗利が回復基調で、これまでと比較すると改善方向に進んでいる認識です。たとえば今年はベージュとブラウンがトレンドカラーでしたが、そのデータをしっかりおさえたうえで戦略を立てられたことが大きな成果につながった要因だと思います。

株式会社コックスの「AI MD」活用法とは?実務で使える機能を充実化

トレンドの未来/6ヶ月予測

トレンドの未来/6ヶ月予測

――「AI MD」の具体的な機能として、どのような情報を得ることができるのでしょうか?

たとえば、ファッショントレンド分析に必要な「6ヶ月予測」という機能。私たちアパレル企業は、先取りした6ヶ月後の需要を予測したうえで、発注などを行います。ご覧の画像の場合、晴れだったら「上昇傾向」、曇りだったら「現状維持」、雨だったら「ちょっと危険」というように、データで見て感覚的に分かりやすい画面になっています。

実際に、ディレクターがおこなうブランドのシーズンディレクションでは、「6ヶ月予測」を活用しています。「今年のトレンドカラーはブラウンです」と単に口で説明するよりも、「AIMD」が可視化してくれたデータを提示することで、よりわかりやすく説得力のあるプレゼンが可能になりました。
そのほか、コーデ写真もアイテム分類、色、柄、モデルの年齢、タイプなどをセグメントして閲覧できます。それを見られるようにするだけではなく、実際の商談でイメージを伝えるときにも使えるようプリントアウトができる仕様に変更してもらいました。

――「AI MD」による定量的な指標が加わったことで、現場での判断がよりスムーズになったんですね。導入して最も感じているメリットは何ですか?

やはり“情報の可視化”ができるようになったことです。「AI MD」を導入してからは、これまでデータ収集のために使っていた時間が短縮され、よりクリエイティブな部分へ時間を費やせるようになりました。

私たちが手がけているのはあくまでも“ファッション”なので、データに「クリエイティブな人間の感性」や「想像力」といった要素を足していかないと“ファッション”にはなりません。そこが「AI MD」のトレンド分析を活用するうえで最も重要だと考えています。

大切なのは、制作と現場が「一緒につくる」こと

トレンドカラー分析の画面

トレンドカラー分析の画面

―― 導入時にぶつかった課題はありましたか?

導入の初期段階では、AIを活用することの社内普及が難しかったように思います。「使ってみよう」とは言いながらも、システム画面を見るだけに留まり、実務にどのように取り入れていくかという課題がありました。ですから、まずは「AI
MD」の使い方や情報の読み取り方に関するセミナーを実施したり、ニューラルポケット様のご担当者に説明に来ていただきました。

――なるほど。そうしたサポート体制もしっかりしているのですね。担当者の方とはどのくらいの頻度でコミュニケーションをとる機会があるのですか?

ニューラルポケット様とは月に2〜3回顔を合わせる機会があるので、そうした場で課題を共有して、密なコミュニケーションをはかるよう心がけています。たとえば、データを閲覧する画面も当初はもっと読みにくい難解なものでしたが、実務に生かせるよう改修を繰り返し、「誰にでも分かりやすい画面」になっています。こうしたところも現場の声を汲み取って、感覚的にパッと見で理解しやすい表示方法に改修をおこなっていただきました。

やはりこうした施策を成功させるうえで大切なのは、システム制作会社がつくる仕組みをただ操作していくのではなく、実務をやっている人間の意見をしっかりと反映させることだと思います。そのあたりは、ニューラルポケット様としても「使いこなしてもらわなければ意味がない」と考えてくれているので、こちらもリクエストをして擦り合わせをおこないながら改修をしています。現在は毎月の数値などもお互いにやりとりをしながら、データベースの形成まで一緒に取り組んでいるところです。

「AI」と「人」の役割分担。今後のAI活用において期待していること

―― 普段の業務のなかで、別の使い方でAIを活用できそうなところはありますか?

やはり経営のなかで廃棄をなくしていくというSDGs的な観点が重要で、需要予測の部分にあたると思います。生産のリードタイムが間に合うタイミングでのジャッジにAIを活用してみたいですね。よりリアルタイムな情報から、追加発注をかけるべきか、止めるのかを判断する材料として生かしたいです。

それから、売価変更にも活用できる可能性を感じています。売れているか否かの判断を人間の感覚でおこなうのではなく、時間単位や地域別のデータから改善できるのではないかと考えています。

――活用の幅は広そうですね。

そうですね。ただ、先ほども言ったように、やはり最終的には人間の意志を取り入れなければなりません。ですから、「情報の正確性」や「情報収集における時間の短縮」をサポートしてもらい、“私たちにしかできない業務”に集中できる時間を、AIの活用で増やしていきたいです。

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