【withコロナ・採用活動最前線】優秀層がコンサル・商社希望からデジタル領域に移行!?採用・インターンシップのオンライン実施は今後もトレンドに。
2020/10/26
新型コロナウイルス感染症の流行は、企業の新卒採用活動、学生の就職活動にも変化をもたらしました。採用活動の中でも、特にオフラインで実施することの価値が高いと考えられてきたインターンシップ。コロナの影響で大きく変化しており、オンラインのメリットを活かして、採用・インターンシップを成功させてきた企業も多数あります。今回はコロナ禍で変容する採用・インターンシップの今について、人を軸にした新産業ビルダーとして事業を展開するスローガン株式会社の伊藤豊社長と、同社で顧客企業向けに短期インターン設計を行う中島織文氏、長期インターン事業を担う槙村美夢氏にお聞きしました。
Contents
ざっくりまとめ
- 新卒採用はコロナ影響で一時的に縮小傾向、ただしデジタルに強い人材のニーズは高い
- 短期インターンは多くの企業で完全オンライン化したがプログラム設計に工夫が必要
- 新卒一括採用が見直される中、一部の大手企業も長期インターンに注目し始めている
- 採用活動の完全オンライン化は、地方・海外の学生にアプローチできるのが大きな利点
- コロナ収束後は元に戻るのではなく、最適な手法を是々非々で検討すべき
デジタル人材の獲得は止めるべきではないという風潮も
伊藤:緊急事態宣言の前後では、採用をどうするか各社が判断を迫られる中、先行きの不透明さから採用を一旦止める判断をする会社が一時的に増えました。一部には、新卒を止めて中途にシフトする動きもありましたし、逆にベンチャーを中心に、新卒を獲得するチャンスと捉えて採用を強化した企業もありました。
大手企業のうち、業績への打撃をダイレクトに受けてしまった企業は、新卒採用を縮小または停止するところが出てきています。ただ一方で、多くの企業がデジタルシフトを念頭に組織の再構築を進める中、デジタル人材獲得の重要性を認識し、そのポテンシャルを持つ新卒、とりわけ優秀層の採用は止めるべきではないのでは、という議論が高まっている一面もあります。
新卒採用市場全体を見ると、ここ数年続いてきた売り手市場が、今年は大きく転換しそうだという見方が一般的ですが、優秀層に限って見ると、採用ニーズは引き続き強いといえます。
―学生のマインドにはどのような変化がありますか?
伊藤:世の中の不確実性が高まる中で、より安定志向に向かうと一般的には言われていますね。事実、新卒学生全体としてはそうなのでしょう。就職先選びも、将来性がある企業、コロナ禍でも生き残る企業に目が向いています。
一方、ごく一部の優秀層の学生については、違う傾向が見て取れます。これまで優秀層の学生にはコンサルティングファームや総合商社が人気でしたが、最近はそれよりもデジタル領域で何か新しいものをつくり出したいと考える人が増えていると感じます。不確実な時代だからこそ「自分の力で生きるしかない」と考え、「そこで働くと自分に力がつくか」という視点で就職先を見極めようとする傾向があります。
槙村:コロナ以前から「不確実性が高まる」と叫ばれており、そこから生じる焦りがあるのだと思います。それが、「学生のうちに働く経験を積んでおいたほうがいいのではないか」「デジタル領域の知見を得ておいたほうがよさそうだ」という考えにつながり、早期から短期・長期インターンシップに参加する動機になっていると感じます。
ベンチャーを中心に短期インターンは完全オンライン化
中島:今企業が行っているインターンシップは、1~5日間程度の「短期インターンシップ」と、6カ月以上、長いと1~2年にも及ぶ有給の「長期インターンシップ」、この2つに大別できます。
通常、短期インターンは、「サマーインターン」と呼ばれることからも分かるように、夏休みの8~9月に実施されます。この時期に実施するのは、外資系コンサルティングファームや難関ベンチャー、一部の大手企業など、早期から積極的に優秀層にアプローチしようという企業が中心です。このサマーインターンに参加を希望する学生の選考は、5~7月に行われていました。
しかし今年はオリンピックの開催が予定されていた関係で、スケジュールが前倒しになっていました。そんな中、3月頃から徐々にコロナの影響が顕在化します。各社、様子を見ながら対応を検討していましたが、当社の顧客企業の大半を占めるスタートアップやベンチャーでは、6月時点で9割方の企業がオンラインでの実施を決定していました。
ただ、一般的には、「オンラインでは効果が見込めないから」「準備が追いつかない」といった理由で、実施自体を取りやめた企業も多かったと思います。特に一部の大手企業は、その頃が2021年卒採用の選考のピークと重なったこともインターンを取りやめる大きな理由となりました。
学生側の受け止め方は企業よりも柔軟でした。今の学生が就職活動を始めた時期には、セミナーなどがほぼオンラインへ移行していたためです。むしろ移動の必要がないため、オンラインでいつでも全国のインターンに参加できる状態になったことは、地方や海外在住の学生、理系の院生、部活動をしている学生などを中心に、大きなメリットとして受け止められました。
インターンをオンライン化することで生じた問題点
中島:今までは、会場を押さえて1カ所に集まって実施していましたが、それをやめて、すべてのプログラムを、Web会議ツールを介して実施するというのが主な変更点です。そのために当日のアジェンダを変えるなどの細かなチューニングは必要でしたが、コンテンツを大幅に変えるといったクリティカルな変更はなく、各社とも即座に対応していたと思います。
短期インターンの多くは「新規事業立案型」と呼ばれるもので、学生にも人気の王道コンテンツです。チームに分かれて、出されたテーマに沿って市場をリサーチし、それを元に事業計画を練り上げ、最後に皆の前でプレゼンするというものです。
それを、従来はオフラインで、皆が額を合わせてやっていたわけですが、オンラインになることで、コミュニケーションの取り方や、誰がリーダーシップをとるかという間合いの取りにくさは多少あったと思います。ただ、学生側は早くからWeb会議ツールに慣れていたこともあり、概ね抵抗感なく参加していました。
困ったのは、インターンの本編部分ではなく、ラフな交流を図ることでした。例えば、オフライン開催時は1日が終わった後にチームで食事に行ったり、プレゼン後に打ち上げをしたりして、そこで参加者同士が親交を深め、企業や社員の魅力を肌で感じてもらう場になっていましたが、それができなくなってしまいました。
―そんな中、学生から評価が高かったオンラインインターンにはどのようなものがありましたか?
中島:ある大手SIer企業では、今年から新しい採用枠を設けることになり、そのターゲットとなるようなデジタル領域に関心・知見のある学生向けのインターンを実施しました。そのプログラム設計から学生の募集までを私たちが支援させていただいたのですが、参加した学生の満足度が非常に高いものになりました。また、企業側にとっても採用視点で意義のあるインターンになったようです。
この企業のインターンも「新規事業立案型」でしたが、実はこのタイプのインターンは王道であるぶん、他社との差別化が難しいんです。そのため、全体のストーリーや、開催期間を通じてどのようなエクスペリエンスを得てもらうかの設計をしっかり練らなければ、学生を魅了できません。そこでこの企業のインターンでは、単に新規事業を考えるだけではなく、海外での最先端のDX事例をリサーチして、それを日本の市場に持ってくることを考えた場合、どうローカライズさせるのか、自社で取り入れるとしたらどう自社のアセットや事業と組み合わせるとシナジーを生むことができるのかを、3日かけて考え抜く、少し変わった切り口のインターンにしました。
また、企業側にはグループごとにメンターを付けてもらうようお願いしました。それも固定ではなく、日を追うごとに役職の高い人がメンターとなり、基本的には終日インターンに張り付いて学生の様子を見てもらう形です。
伊藤:企業からすると、オフライン開催なら学生が集まってワークしているのを横から見ているだけで評価ができていました。それがオンラインだと見えにくくなる課題が露呈したわけです。これをクリアするためには、メンターがついて、学生と1対1で面談・フィードバックする機会をプログラムにきちんと組み込む必要があるわけです。
ただ、オンライン化による課題も見つかった一方で、オンライン化によるメリットもいくつか明らかになったと思います。例を一つ挙げると、時間を細切れに使えるということ。これまでは、開催場所や関係者の都合などで、3日間なら3日間集中して実施しなければいけなかったのが、例えば1日目は夜だけ実施して、2日目は午前中だけ、数日あけて3日目を実施するといった設計も可能になりました。
制約から解放されただけでなく、メリットを上手く生かせば、インターンのプログラム自体をよりクリエイティブに、価値を高める設計ができるようになったということ。これは企業側にもメリットが大きいといえます。
長期インターンへの学生のニーズは急増
槙村:長期インターンは、基本的には社員と同じ業務を行うものです。職種は企業によってさまざまですが、マーケティングやネット広告運用、営業、システム開発などのエンジニア系もあります。
コロナ以前は、インターンの受け入れから勤務までを全てオンラインで行うケースは極めてまれで、基本的には出社して社員と机を並べて働くやり方がメインでした。それが、今年は緊急事態宣言の前後で多くの会社が全社一斉にリモートワークに移行することになり、当然ながら長期インターン生も出社するわけにはいかなくなりました。
その頃によく聞こえてきたのは、セキュリティの問題です。インターン生にPCを貸したり、自宅から会社の機密情報にアクセスさせたりするわけにはいかないということで、インターンを停止する、新規の採用も停止するケースが多数ありました。また学生を受け入れる上で、オンラインのみでのオンボーディングが難しいという課題意識も少なからずあったと思います。
ただ一方で、長期インターンに対する学生のニーズは急騰しました。コロナの影響でアルバイトの職を失ったり、予定していた留学が中止になったりした学生が多数いためです。
ニーズの高まりを受けて、IT系ベンチャーのような業務を完全オンライン化してもインターンを受け入れやすい企業が長期インターンの受け入れに手を挙げただけでなく、これまで長期インターンを受け入れたことがなかった企業が初めてトライしたケースも多くありました。
オンラインの方が質の高い採用・インターンができる可能性も
伊藤:コロナの影響とは別に、昨年辺りから新卒一括採用を見直そうという動きが経団連などから出ていました。これは、ひと言でいうと「新卒学生が企業に入る時期やルートを多様化させる」ということです。この流れを見据えて、実は先進的な大手企業で、長期インターンに関心を持つ企業も増えてきています。デジタルシフトが進む今、われわれとしても、長期インターンとしてリモートワークで働いてもらって、成果を出せることを確認してから採用する手法はアリなんじゃないかという思いはあります。
また、今後コロナがどうなるか分かりませんが、例えば「仕事上のミーティングはオンラインで十分」といった共通認識、いわゆる「ニューノーマル」ができつつあり、収束したらすべて元通りになるかというと、そうはならないと思います。インターンに関しても、せっかく地方の学生がリモートで首都圏企業のインターンに参加できるようになったのに、コロナが収束したらリアル開催に戻すのか。都市と地方の格差が無くなるという明らかなメリットがあることを知ったからには、元通りという判断にはならないでしょう。
採用やインターンへのデジタル活用は、今後も続くトレンドだと思います。コロナの流行は誰にとっても初めての経験であり、今年は応急処置的な対応になりましたが、オンラインが当たり前になる中で、オンラインだからこそできる工夫も多くあるはずです。
中島:顧客企業からは、今までインターンにアサインしにくかった社員をアサインしやすくなったという話をよく聞きます。例えば海外赴任しているハイパフォーマーな社員をリアルでは呼べないですが、オンラインなら容易に参加してもらえる。その意味で、アサインできる社員や社外からのゲストの幅が広がった事例はすでに出てきているようです。
あとは、コロナ以前に比べ採用におけるブランディングの重要性が高まったと感じます。説明会などがオンライン化することで学生のエントリーハードルが下がる分、一人当たりの受ける社数は増えていくので、どう差別化するかが企業側のこれからの課題になると思います。
槙村:長期インターンを実施している企業の中には、「フルリモートの方が順調に採用できている」という企業があります。地方や海外にいる優秀な学生は、これまで最初から対象外にしてきたけれど、オンライン化によってアプローチしやすくなった利点を十分に生かしている好例だと思います。
伊藤:そんなふうに、リアルが前提だったことでいつの間にかできた「当たり前」が、実はこだわらなくてよいことに多くの人が気づきました。オンラインを「リアルの劣化版」だと悲観するのではなく、むしろオンラインのほうが質の高いエクスペリエンスが生まれる可能性に着目すべきです。従来の「当たり前」を一度疑ってみて、オンラインの環境で何が最適かを是々非々で考えていくことが大切だと思います。
伊藤 豊
スローガン株式会社 代表取締役社長
東京大学文学部行動文化学科卒業後、2000年に日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。システムエンジニアを経験した後、関連会社での新規事業企画・プロダクトマネジャーを経て、本社でのマーケティング業務に従事。2005年にスローガン株式会社を設立、代表取締役に就任。ヒューマンキャピタルを軸に新興成長企業の成長を支援。
中島 織文
スローガン株式会社 CRF部門 部門長
大学卒業後、大手企業をメインターゲットとした人事、採用コンサルティング会社に入社。営業・コンサルタントとして、人材要件定義から採用戦略の策定、面接代行など幅広く実施。大阪支店の立ち上げも担当。2013年9月にスローガンに入社。京都支社長、大阪支社立ち上げ、関西エリア全体マネジャーを経た後、東京本社にて人材紹介部門の責任者へ。その後、新規事業の立ち上げ、営業部門の責任者を担ったのち、現任。
槙村 美夢
スローガン株式会社 ポテンシャルアクセラレーション事業部 ポテンシャルインキュベート部門 部長
慶應義塾大学経済学部に入学後、20名規模のベンチャー、インドスタートアップの2社で長期インターンを経験。スローガン入社後は、実体験を元に新規事業である長期インターン部門を設立。初めて長期インターンを受け入れる企業への導入コンサルティングを行うほか、長期インターン紹介サービス「Intern Street」を通じて、インターン希望の学生とのマッチングを図る。