経理業務のDX化を進め「請求書のための出社」をやめるプロジェクトが発足。1兆円以上の経済効果を期待

経理の新しい働き方を共創するプロジェクト「日本の経理をもっと自由に」とは

オンライン決済の代行サービスを提供する株式会社ROBOT PAYMENTが発起人となり、経理の新しい働き方を共創するために発足した「日本の経理をもっと自由に」プロジェクト。経済産業省に向け、産業経理の働き方の改革のための嘆願書を提出したことを受け、9月30日に会見が開かれました。
「日本の経理をもっと自由に」プロジェクトは、2020年10月1日に施行された「改正電子帳簿保存法」を契機として、電子化やIT導入により、経理業務の効率化、経理の働き方改革を行うものです。請求書電子化サービス導入率を現状の34.2%(「経理プラス」調べ)から50%への引き上げを目指します。

記者会見では、国、企業、経理などのステークホルダーを巻き込み、紙文化が根付く請求書の電子化を推進することを目的とした5つのアクションを提言しています。

経理担当者は出社が不可避なのか

コロナ禍が後押しとなり、在宅業務やテレワークが浸透しつつありますが、経理担当に関しては、どうしても出社しなければならないことが多くあります。

ROBOT PAYMENTが実施した経理へのアンケートでは、経理担当者の約7割は請求書の捺印や発送業務、入金支払い業務、紙の経費精算処理のため出社していたという事実が浮き彫りに。これは、出社不可避の、「不要不急」の業務といえるのでしょうか。

関西大学大学院会計研究科の宮本教授が、請求書を電子化した際の経済効果を試算したところ、紙代、郵送費、請求書を発行の人件費が削減され、およそ1兆1424億円の経済効果が期待されることがわかりました。

請求書の電子化サービス導入率は、未だ34%

請求書の電子化サービス導入率は、34%と進んではおらず、コスト負担が明確な課題と7割近い企業が回答しています。

記者発表内で、電子請求書サービスを提供するインフォマート事業推進・戦略営業 執行役員 木村慎氏は、経理のIT導入の障壁は、「社内理解の不足」があると語り、以下の理由を述べています。

「会社に影響が大きいところや売上に近いところに投資されるため、間接部門である経理へのIT投資の優先度は低いと判断される。
また、電子化の導入にはコストもかかり、「なぜ経理からIT化を導入するのか」と社内の同意が得られない。」

花王社内で請求書のDXに取り組む上野氏も、取引先と足並みを揃える難しさを感じているそう。

「取引先には、花王さんのためだけにデジタルに変えられない、と言われてしまうことが多いですね。他の顧客には紙で請求書を発送していると、花王だけにインターネットで対応するのは逆に手間だったりする。花王がデジタル化をどんどん推進しても、取引先がIT導入をしていないとだめ。社会全体がデジタル化するためには足並みを揃えることが必要。」と語りました。

さらに、人の問題もデジタル化導入への障壁です。たとえば経理現場が高齢化していると、新しいツールの導入には積極的ではなくなる傾向にあります。継続して活用するためには、ITに明るい人材が経理には必要です。

企業の電子化を進める鍵が経理業務にある

インフォマート・木村氏は、「企業のデジタル化を推進するには、まず経理の請求書業務の電子化を導入することがベストだ」と述べました。経理の業務はあらゆるものにリンクしており、どこかの仕組みを変更すると、関連する業務も連鎖して変更が必要となります。ほとんどの企業には取引先があるため、書類を扱う請求書業務は、多くの社員が利用し、ほとんどの企業にも存在するもの。そのため、木村氏は、経理業務の電子化を起点に、企業のデジタル化を進めることが早いと考えていると述べました。
まず請求書業務が電子化することで、請求に紐づく契約書など他の業務の電子化を推進しやすくなります。DX、デジタル推進の機運が高まっている中、請求書業務の電子化は、あらゆる業務のデジタル化推進の鍵となると言えます。

経理業務電子化を推進する5つのアクション

「日本の経理をもっと自由に」 プロジェクトは電子化推進のために、5つのアクションを提言しました。

アクション1 嘆願書提出で世論を醸成し、加速化させる

請求書電子化サービスを導入したい企業の障壁を取り除くため、セキュリティ対策とコスト面を考えるため、経産省へ嘆願書を提出。経理のDX、電子化への経産省からの啓蒙活動、IT補助金の拡充を進言するもの。また、産官学連携で、勉強会を開催し、主に電子化の安全性の研究を実施する予定。
また9月30日付の朝日新聞に嘆願内容を全面広告として掲載し、世の中に経理の電子化を宣言。50社を越える賛同企業も、法改正が解決策にはならず、電子化の必要性を世間が認識して、ITツールの導入率を上げる世論を熟成することが重要だと考える。

アクション2 エコシステム構想

すでにクラウドサービス導入している企業は多いが、さらに新しくサービスを追加する費用や労力に消極的な企業も存在する。そこで、OEMとして、他のサービスとAPI連携し、追加サービスを導入しやすい環境を提供。このエコシステムを形成することで、結果的に電子化が推進されることが狙い。また、OEM 提供や API 連携を通じて、BtoB 商取引データを収集し、将来的にはビッグデータとして活用できるという副産物も期待する。

アクション3 自治体へのデジタル化支援

河野太郎行政改革・規制改革相が「印鑑脱却をできない理由を述べなさい」と詰め寄ったのは記憶に新しい。最も書類や印鑑が必要な業務が多そうなイメージのある立場から印鑑廃止に意欲を見せている。印鑑を廃止すれば、書類を印刷する必要がなくなるため、ペーパレス化にもつなげたい考えだ。自治体職員の 88.1%が書類の電子化を希望しているという調査結果も出ている。

本プロジェクトの自治体向けのアクションでは、電子化、ペーパレス化にあたり、サービス提供協賛企業とともに、人、もの、ノウハウをワンストップで提供していくという。この支援の目的は、制度や仕組みを変える自治体へ電子化をスムーズに推進させるということだけではない。

自治体、行政が電子化を導入することで、民間企業も半ば強制的に電子化に対応せざるを得ない。「自治体、行政が電子化を始めた」という事象が、電子化導入を画策する社内への理解を得やすくする狙い。

アクション4 賛同企業と「経理の働き方」を考えるカンファレンス開催

民間企業の電子化を進めるためには、業務フローにあったツールを選ぶことが重要だ。自社の業務フローに合わせる形で、最適なツールを選択するための勉強会や、情報発信をカンファレンスで行う。
基調講演、在宅と生産性、電子帳簿、インボイス制度、経理のキャリアなど、デジタル化、ペーパレス化に触れながら、賛同企業と「経理の働き方」を考える。

アクション5 社内のIT導入申請の提案書作成代行

紙の請求書業務の電子化を進めるよう、勤務先に IT 導入をお願いした経理はたった 14.4%。65%の経理が社内での審査、稟議が通らず、電子化が進まなかったと回答した。そのため、担当者が社内でIT導入を円滑にすすめられるよう、代理でIT導入の提案書を作成する特設サイトを開設する。

トークセッション

会見内では、花王社内で請求書のDXに取り組んでいる 花王ビジネスアソシエ株式会社 会計サービスグループ部長 兼 花王株式会社 会計財務部門 経理企画部 上野篤氏 、会計業務の電子化とソリューションを提供する 株式会社ワークスアプリケーションズ代表取締役 最高執行責任者 秦修氏 、電子帳簿保存法を担当している国税庁 課税総括課課長補佐 小倉啓太郎氏、そしてROBOT PAYMENT執行役員 フィナンシャルクラウド事業部長・藤田氏の4名で、トークセッションが実施された。

電子帳簿保存法改正に対する企業の見解

国税庁・小倉氏は、「経理の業務処理の電子化だけではなく、経理が営業担当にキャッシュレス決済を推奨し、決済や経費申請の情報がそれぞれ紐づいていれば電子化がよりスムーズになり、リモートワークの推進にもつながる」「これにより、デジタル化はますます進む」と期待を寄せています。

ワークスアプリケーションズ・秦氏は、ワークスアプリケーションズの顧客である大手企業、上場企業300~400社ほどから得た結果「75%のユーザーが、帳簿や電子帳票の閲覧や保存ができる機能を、ついで、67%のユーザーが、PDF等の電子帳票を添付して回るフローを期待している」と述べ、「大企業なので、財務、経理のテレワークは整っているよう。電子化することで、紙の煩わしい取り扱いがなくなることや、より効率的な業務構築ができることを期待している」と企業の期待を代弁しました。

花王・上野氏は、「会社のクレジットカードで決済すれば、領収書の提出は不要になります。これで、テレワークなのに領収書を出すために出社する社員を救うことができます。」と社員の負担軽減を語りました。

ワークスアプリケーションズ・秦氏は、IT導入は大変だが、「大きな変化があるときや、追い込まれた状況は大きなチャンス」と語ります。「IT導入に一番必要なのは覚悟。導入して一年経ち、業務は効率化したと実感している」と言います。

また「コロナ禍で、経理以外の従業員たちも在宅での業務体制が進み、協力体制を構築しやすいことも影響した」と話しました。

電子化によって経理という仕事はどう変わるか

ワークスアプリケーションズ・秦氏は、電子化導入がもたらす功績は、経理の高付加価値業務へのシフトだと明言しました。

「電子化が進むと、マニュアル作業やルーティンがなくなり、高付加価値の業務に人員のリソースを割ける。経理部署は、会計データから非会計データにドリルダウンして、現状分析をし、経営に提言することもできるようになる。」と予測しました。

花王・上野氏も「経理業務電子化によって仕事を奪われると危惧する必要はない。より創造的な上流業務にシフトできる可能性がある。」と話します。

経理業務の電子化は、経理業務に従事する人材の価値向上にも繋がる可能性を秘めています。そして、それは結果的に、企業の成長にも繋がると考えられます。ただのコストダウンや業務効率化として捉えては勿体無い。民間、自治体、経営者、担当者、経理以外の従業員、あらゆる立場から協力し、推進していくべき課題だといえます。

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