東京大学ら、「極薄スキン圧力センサー」を開発 繊細な職人技のデジタルアーカイブに応用も
2020/11/20
東京大学大学院工学系研究科の李成薫講師、横田知之准教授、染谷隆夫教授らを中心とした研究チームは、ミュンヘン工科大学のSae Franklin博士、David W.Franklin教授、Gordon Cheng教授らと共同で、皮膚に直接貼り付けて使用する極薄のスキン圧力センサーを開発したと発表した。
■発表内容
しかし、センサーを装着すると本来の皮膚感覚が損なわれてしまうため、物体を通して間接的に伝わる情報や状態を計測することが課題となっていた。実際に、指先の皮膚感覚は大変敏感であるため、わずか数マイクロメートルの高分子フィルムやゴムシートを指先に貼り付けるだけでも本来の感覚に影響を与えてしまう。また、皮膚の感覚が損なわれないように、高分子フィルムやゴムシートの厚みをさらに薄くすると、センサーが簡単に壊れやすくなるため、耐久性を確保することも課題だった。特に指をこするような摩擦やせん断応力が発生する環境において電気的な機能を維持することはさらに困難だ。そのため、指に貼り付けた状態で皮膚感覚への影響をなくしつつ、圧力を計測できるセンサーはこれまでになかったという。
本研究グループは、指先に貼り付けても皮膚の感覚に影響を与えない極薄のスキン圧力センサーの開発に成功した。開発したセンサーは、電界紡糸法にて形成される4つのナノメッシュ層(表面側から、保護層、上部電極、中間層、下部電極)を重ね合わせて作製される。上部と下部の電極は、水溶性高分子(ポリビニルアルコール)ナノファイバーに金の薄膜(100ナノメートル)を蒸着して形成される。中間層は、ポリウレタンナノファイバーに高分子薄膜(200ナノメートル)をコートして強化している。さらに、非常に薄い(2.5マイクロメートル)ポリウレタンナノファイバーに水溶性ナノファイバーを溶解して含侵させた保護層を用いることで、薄さと高い機械的耐久性を両立することに成功した。
次に、スキン圧力センサーを指先に装着することで、指がモノに触れたときの接触圧力を計測。本来の皮膚感覚に影響を与えずに、高い感度(0.141kPa-1)で計測することができる。18名の被験者に対して、感覚への影響の評価試験を実施した。例えば、手袋などを装着し皮膚感覚が鈍くなると、指の力を正確に制御できなくなる。そのため、モノを持ち上げたり保持したりする際の把持力は、皮膚感覚が鈍くなるのに伴って大きくなる。この原理を利用して、極薄のスキン圧力センサーを指先に貼り付けた場合と貼り付けていない場合について、モノを持ち上げたり保持したりする際の把持力を比較した。その結果、スキン圧力センサーを指先に貼り付けてもモノを把持する力は上昇せず、皮膚感覚を維持できることを確かめたとのことだ。さらに、センサーはこすっても壊れない優れた機械耐久性を示す。センサーの表面を100キロパスカルの力で300回擦った前後で圧力センサーの性能を評価したところ、感度の低下を5%以下にまで低減されていることを確かめた。今後、本来の皮膚感覚に影響を与えずに、指や腕の力の加え方を正確に計測できることを利用し、医師や職人などの繊細な指の圧力を計測することやスポーツ、医療、神経工学などの分野への応用が期待される。
本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業探索加速型(本格研究 ACCEL 型)(JPMJMI17F1)と日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助事業基盤研究(S)(17H06149)の支援を得て進められた。
・指の先に貼り付けたナノメッシュ圧力センサー。