認知症は高齢化社会において最も深刻な問題の一つであり、今後の治療戦略においては早期診断がとても重要になる。しかしながら、認知症の診断のための検査はさまざまな制約を抱えている。例えば、アミロイド PETによる検査費用は非常に高額であり、脳脊髄液の採取は侵襲的だ。そこで、簡単で非侵襲的で安価な認知症のスクリーニングが望まれている。また、老化は全身的なプロセスのため、顔で判断する見た目年齢は余命、動脈硬化、骨粗鬆症の指標となることが知られている。これまでに東京大学医学部附属病院 老年病科 秋下雅弘教授、亀山祐美助教(特任講師(病院))らのグループも、見た目年齢が暦年齢よりも認知機能と強い相関を示すことを報告している。そこで、本研究グループは、人工知能(AI)を使って、顔の情報から認知機能低下を見つけ出すことができるかどうかを調べたとのことだ。
東京大学医学部附属病院 老年病科を受診して物忘れを訴える患者、および同大学 高齢社会総合研究機構が実施している大規模高齢者コホート調査(柏スタディ)の参加者の中から同意を得た人の正面の表情のない顔写真を使い、認知機能低下を示す群(121 名)と正常群(117 名)の弁別ができるかどうかについて、AIワークステーションで解析した。何種類か試した中で最もよい成績を示したAIモデルは、感度 87.31%、特異度 94.57%、正答率 92.56%と高い弁別能を示すことができたという。AIモデルが算出するスコアは、年齢よりも認知機能のスコアに有意に強い相関を示したとのことだ。さらに、年齢の影響を少なくするため、年齢で2つのグループに分けて解析したところ、どちらの群でも良好な成績を収めることができたため、年齢の影響は少ないだろうと考えられるという。また、AIワークステーションによる判断は顔のどの部分で行われているのかわかりづらく、ブラックボックスの側面があるため、顔を上下で分けて解析したところ、どちらも良い成績だったが、顔の下半分のほうが少し良い成績を示したとのことだ。
今回の研究は人数も限られているため、そのまますぐに応用ができるわけではないが、もっと多くの顔写真を集め、AIに学習させることができれば、将来的にAIを用いて顔で認知機能低下をスクリーニングすることができるようになるかもしれない。実用化を目指して、今後も本成果から得られた方法について研究を深めていく予定とのことだ。