「2020年のAIトレンドと2021年の予測」が発表

AI(人工知能)テクノロジー企業のAppierは、「2020年のAIトレンドと2021年の予測」を発表した。AppierのチーフAIサイエンティストであるミン・スン氏が、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって大きく進んだ2020年のAI活用、および2021年に予測されるAI技術の進化や社会変化を予測した。

1.2020年におけるAIトレンド総括
1.1 新型コロナウイルス感染症による影響
新型コロナウイルス感染拡大の影響で生活様式が大きく変化し、それに伴いデジタル変革は従来の5倍のスピードで進み、一般消費者だけでなく学校教育においても、すべての人がデジタルデバイスを使う時代となった。最近では医療現場における高速な診断、医療機関の自動化など、病院や介護施設でもAIが使われている。こうした変革が起こる中で、AI技術を駆使して新型コロナウイルス感染症と戦っていく必要があるという。また、デジタル決済などの金融、オンライン診療などの医療、オンライン授業などの教育といった多岐にわたる分野において非接触ソリューションが拡大し、ニューノーマル経済を推進。このように様々な分野においてデジタル変革が起きたことにより、2020年はIT企業がかなり優位になった。なぜならIT企業は必要とされるソリューションを提供可能かつ多くの企業がデジタルを駆使して様々なことに対応するようになったからだ。様々な分野でデジタル化が加速したことから、2021年はすべての企業が自社をIT企業として捉えるべきであり、テクノロジーを高度に利用し、より多くのデータを収集し、AIを戦略的使うことが重要となる、とミン・スン氏は予測する。

1.2 画像認識や自然言語処理などの分野で起きた「AI革新」
オンラインから収集できるデータ量の増加やクラウド上での大規模な実証の実現により、AI革新は今後も続くと予想される。2020年には大きく3つの異なる様相においてブレークスルーが起こった。1つ目は画像認識という分野だ。教師なしメソッドであるSimCLRが提案されたことにより、少ないアウトプットで画像を認識できるようになった。2つ目は自然言語処理という領域だ。昨年、巨大な言語モデルであるGPT-3が登場した。これは言語理解、言語生成において他のモデルをかなり上回るパフォーマンスを示し、言語モデルとして初めて1千億個を超えるパラメーターを利用するモデルとなった。3つ目はタンパク質フォールディングだ。タンパク質フォールディングは医薬品の設計や新型コロナウイルス感染症などの病気の理解など化学的な発見をすることが可能だ。

2.2021年AIトレンド予測
2.1 自然言語処理
まず1つ目のトレンド予測は、生物医学の分野での自然言語処理モデルの利用増加だ。ハーバード大学の研究によると、AIに対してテキストを読むのではなく、生物学的な配列を読み込ませることで、新型コロナウイルス感染症の変異を予測することが可能になるということがわかっている。これにより現実世界において変異を念頭に置いて備えることができるということだ。

また、2020年に複数の分野でAIの進化が見られたことから、各分野でのコラボレーションが進むことも予測している。具体的には、言語でインプットし、画像でアウトプットすることなどが考えられる。2021年の初め、スタートアップ企業であるOpenAIはデモンストレーションを発表。例えば「犬を散歩させている、チュチュを着ている赤ちゃん大根のイラスト」と入力すると、それに沿ったイラストがいくつも作成される(図1参照)。これにはGPT-3が活用されており、このデモンストレーションを作成するためにAIに再学習させる必要はないということを同社は主張している。

図1
出典元:プレスリリース
2.2 人間中心AI
2つ目に人間中心のAIという考え方は今後も続くと予測している。開発されたAIのエンドユーザーは人間であることから、研究者はAIの開発にあたって人間を中心に据えなくてはならないと、ミン・スン氏は主張する。この考え方を技術の面から見ると、「安全な利用に向けて、いかに保証付きのAIを開発するか」「人間が理解できるよう、どのようにAIに自身の行動を説明させるか」「人間とのやりとりを通して、AIにどうやって効率的に学習させるか」という3つの分野に注力している。また、2021年は単に人間中心のAIということだけではなく、我々人間の行動に対してより感度の高い察知力を伴う環境知能も普及してくるという。スタンダードメディカルスクールでは現在新しい方向性に進んでいる。AIが病院や家庭に設置されているセンサーをコントロールすることによって、理論上はより多くの命を救うことに繋がるのではないかと予測している。例えば病院に設置されているセンサーを分析することで医療過誤を予防することに繋がり、また、特定の患者の状態が悪くなっているということをアラートで出すことも可能だ。さらに、赤外線センサーや震度センサーを使うことで個人のプライバシーを保護したうえで感染経路などを把握できる。

2.3 より少数のインプットに基づく学習
最後に、より少数のフィードバックからAIが学習可能になるということを予測する。10年ほど前は、専門家がルールを作成していたが、ルールは非常に複雑かつ未完成だった。次に機械学習に移ったが、データの収集にコストがかかるほか、必ずしもエンドユーザーの目的を満たすとは限らなかった。そのため、機械学習がシステムから学ぶことが重要で、その際に数人から直接フィードバックをもらい、最終的にそのフィードバックに基づいて学習させることによってよりパーソナライズしたサービス・結果が実現されることを予想している。

さらに今後は、より多くのデバイス上でAIが効果的に用いられ、時計やメガネなどのウェアラブルデバイスや、ドアベルに設置されているカメラなどの据え置き型のデバイスなど、あらゆる分野でAIが普及すると考えるという。このように今後我々人間は日常の行動でAIとやりとりができるようになると予測している。日本の事例には、子どもの近視を防止するAI搭載の眼鏡を開発・提供している企業があった。このように身近なところでAIが導入されており、この流れはさらに加速することになるとのことだ。

3.今後の課題
上記で述べたトレンドに伴う課題として、AIのバイアスがあるという。AIは人間が作っており、また活用されるデータは人間が収集したものであるために、AIにバイアスがかかっていることは当然だと言える。その対策として、データやアルゴリズムにどのようなバイアスがあったのかを監視することが必要となってくる。そして、そのバイアスによってどのような影響が出るのかを分析し、できるだけその影響が大きくならないよう、データの収集プロセスの見直しや、バイアスの少ないデータを集めること、アルゴリズムを公平にするといった調節が必要になるとのことだ。

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