アグリテック導入で農業が変わる!日本の市場規模と世界の導入事例10選

人材不足や食料問題の解消に役立つとされている「アグリテック」。日本だけでなく世界中で開発や導入が進められています。ここでは、アグリテックの概要や導入が求められる背景、普及するメリットや実際の導入事例を紹介します。

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近年、さまざまな分野にIT技術を取り入れて、人材不足への対策や生産性アップを目指す取り組みに注目が集まっています。人間の力が必要になりがちな農業分野でもIT技術を活用した「アグリテック」の普及が進んでいます。アグリテックを導入することで、農作物の生産性向上や労働力の削減、品質管理の効率化などが期待できるため、今後はさまざまな場面で導入されるでしょう。


本記事では、アグリテックの概要や導入が求められる背景、普及するメリットについて詳しく解説します。また、具体的な導入事例を9つ紹介し、アグリテックがどのように活用されているのかを分かりやすく説明します。アグリテックに興味がある方や導入を検討している農業事業者の方は、ぜひ参考にしてみてください。

アグリテックとは農業×技術

アグリテックは、農業(Agriculture)と技術(Technology)を組み合わせた造語です。人間の力で生産や流通をおこなわれがちな農業に、IT技術を活用する取り組みのことをアグリテックと呼びます。

アグリテックを導入することで、社会的な問題を解消しつつ生産性を維持できると期待されています。農林水産省も積極的に農業にITを活用する方針であることから、今後も官民が連携してアグリテックの発展に取り組むでしょう。

アグリテックの導入が求められる背景とは?

そんなアグリテックの普及が重要視される理由として、次の2つの背景が挙げられます。

・農業従事者の高齢化による後継問題への取り組みに従事する人の減少や高齢化
・食料自給率の低下
・気候変動による作物被害

以下では、アグリテックの普及が重要視される背景を詳しく説明します。

農業従事者の高齢化による後継問題への取り組みに従事する人の減少や高齢化

近年、少子高齢化の影響で労働人口が減少していることが問題視されています。農業においても、農業に従事する人の減少が問題となっています。従来のように生産性を維持できなくなると、日本の食卓に必要な農作物が届きにくくなるので、いかに限られた人員で効率的に農作物を生産するかが課題です。

また、農業に従事する人の高齢化も問題になっています。体をつかった仕事が多くなりやすい農業ですが、体力や力のある若い世代の人が農業に従事する割合が少なくなることで、仕事の生産性が低下したり、跡継ぎがいなくなったりするかもしれません。求人を出しても人材が集まらず悩む農家もたくさんあり、将来的に日本の農業を維持するためには、若手の農業への参入が不可欠です。いかに農業に若い世代を取り込むかという点も、近年の農業における大きな課題だといえるでしょう。

農作業の効率化で人手不足に対抗する

農業の現場では、慢性的な人手不足が大きな課題となっています。特に、収穫期には多くの労働力が必要とされますが、農村部の人口減少や高齢化によって、十分な人員を確保することが難しくなっています。アグリテックは、人手不足の問題に対する切り札として注目されています。

例えば、自動運転トラクターや収穫ロボットの導入は、人手不足の解消に大きく貢献します。GPSを活用した自動操舵システムを搭載したトラクターは、オペレーターの熟練度に関わらず、高い精度で作業を行うことが可能です。また、AIを搭載した収穫ロボットは、昼夜を問わず働くことができ、人間の何倍もの作業効率を実現します。

参考:Lexus News

センサーやドローンを活用した栽培管理も、労働力の削減に効果的です。圃場にセンサーを設置することで、作物の生育状況や土壌の状態をリアルタイムで把握することができます。得られたデータをAIで分析することで、最適な灌水タイミングや施肥量を自動で判断し、作業を効率化できるのです。また、ドローンを使って上空から圃場を観測することで、病害虫の早期発見や生育ムラの把握が可能になり、的確な対策をすることができます。

このように、アグリテックは農作業を効率化することで、人手不足の解消に大きく寄与します。機械化や自動化によって、単純作業から農家を解放し、より付加価値の高い作業に専念できる環境を整備することが可能になるのです。今後、アグリテックのさらなる進化によって、人手不足の問題が緩和され、持続可能な農業経営が実現されることが期待されています。

食料自給率の低下に歯止めをかける

農林水産省によると、カロリーベースでの日本の食料自給率は以前よりも低下しており、昭和40年では73%であったのに対して、令和元年ではわずか38%になっていることが分かっています。これは、自給率の高い米の消費が減って、飼料や原料を海外に依存している「畜産物」や「油脂類」の消費量が増えたことが要因として考えられています。

そんな食料自給率は、ここ数年では横ばいになりつつありますが、農林水産省は令和12年度のカロリーベースの食料自給率の目標を45%にすると掲げています。この目標を達成するためには、農業に関連する制度を整えるとともに、IT技術を活用した効果的な生産や流通をおこなうことが重要でしょう。

気候変動による作物被害を最小限に抑える

異常気象の頻発や平均気温の上昇は、作物の生育に大きな影響を及ぼし、収量や品質の低下を招くなど、農業分野でも問題になりつつあります。こうした問題に対処するためにも、アグリテックの活用が不可欠となっています。

例えば、AIを活用した気象予測システムは、ローカルな気象データを分析することで、ピンポイントの予報を提供することができます。これによって、農家は事前に対策することが可能になり、気象災害による被害を最小限に抑えることができるのです。

参考:日本経済新聞

また、環境制御技術を駆使した植物工場は、気候変動の影響を受けにくい安定的な生産環境を提供します。温度や湿度、CO2濃度などを最適にコントロールすることで、作物のストレスを軽減し、高品質な農作物を生産することが可能になるでしょう。

加えて、バイオテクノロジーとの融合によって、気候変動に強い品種の開発も進められています。ゲノム編集技術を用いて、耐暑性や耐乾性に優れた作物を創出することで、気候変動への適応力を高めることができるのです。

気候変動は、農業にとって大きな脅威ですが、アグリテックの力を活用することで、その影響を最小限に抑えることが可能になります。

スマート農業(アグリテック)の市場規模

近年、日本でもスマート農業への関心が高まっており、市場規模は年々拡大傾向にあります。

世界のアグリテック市場規模と比較しながら、日本のアグリテックがどのように普及していく可能性があるのかを見ていきましょう。

世界のスマート農業の市場規模は上昇する見込み

世界のアグリテック市場規模は、今後さらに大きく成長すると見込まれています。農林水産省によれば、2019 年の世界のアグリテック市場規模は約 132 億ドルで、2025年までに約220億ドル(約2.4兆円)に達すると予測されています。年平均成長率は9.8%と高い伸びが見込まれており、今後も世界的にアグリテックへの投資が加速していくと考えられるでしょう。

参考:農林水産省

背景には、世界的な人口増加や気候変動による食料需要の増大があります。限られた農地で効率的に食料を生産するためには、テクノロジーの活用が不可欠だと考えられているのです。また、先進国を中心に農業の担い手不足が深刻化しており、省力化や自動化のニーズが高まっていることも、アグリテック市場の成長を後押ししています。

日本のアグリテック市場規模も上昇する見込み

出典元:https://www.maff.go.jp/j/council/seisaku/kensho/attach/pdf/6siryo-10.pdf
参考:農林水産省

同様に、農林水産省によれば、2019 年の日本のアグリテック市場規模は約 8 億ドルで、2025年までに約14億ドルに達すると予測されています。

日本の農業は、高齢化や担い手不足、耕作放棄地の増加など、様々な課題を抱えています。これらの課題を解決し持続可能な農業を実現するためには、アグリテックの活用が欠かせません。

センサーやドローンを使った圃場の監視、AIを活用した栽培管理、ロボットによる収穫作業の自動化など、様々な分野でアグリテックの導入が進んでいくでしょう。

また、政府も「農業新時代」の実現に向けて、アグリテックの普及を後押ししています。2021年に策定された「みどりの食料システム戦略」では、2050年までに農業の生産性を2倍に向上させることを目標に掲げており、そのためのツールとしてアグリテックの活用を推進しています。こうした政策的な後押しもあり、日本のアグリテック市場は今後さらに拡大していくと考えられます。

アグリテックの普及で得られる4つのメリット

アグリテックの普通で生じるメリットとして、次の4つが挙げられます。

●農作業が効率化できる
●スマート農業で新たな働き方を実現できる
●農業に関するノウハウを継承できる
●都市型農業を実現できる

以下では、アグリテックが普及するメリットを詳しく説明します。

メリット1|農作業が効率化できる

1つ目は、農業が効率化できることです。

アグリテックが普及すれば、これまで人間の手でおこなっていた作業をロボットに任せられます。広大な農地で育った作物を1つひとつ手作業で収穫するのは大変ですが、ロボットが人間に代わって収穫することで、人間の負担を抑えることが可能です。

また、作物がどれくらい成熟しているかをAIが判断できるようになれば、成熟した作物に絞って収穫することもできるかもしれません。未成熟の作物を誤って収穫するリスクを抑えることで、さらに効率的な収穫が可能になるでしょう。

収穫の場面だけでなく、農薬や肥料の散布などの作業でも、ドローンを活用すれば効率的に仕事を進められるようになります。農薬や肥料の持ち運びや補充などの負担を抑えられれば、限られた人員でも効率的に作業を進められるでしょう。

メリット2|スマート農業で新たな働き方を実現できる

2つ目は、新たな働き方を実現できることです。

農業は、一年中休むことなく働き続けるイメージがあるかもしれません。体力が求められる仕事でもあるため、若くて健康的な人でなければ働き続けられないというイメージを持つ人もいるのではないでしょうか。

しかし、アグリテックを導入すれば、作物の様子を遠隔地から観察したり、トラクターなどの農機具を自動運転にしたりすることで、作業負担を軽減できます。人間がおこなっていた農作業をロボットに転換させれば、ライフスタイルにあわせた働き方を実現しやすくなるでしょう。

メリット3|農業に関するノウハウを継承できる

3つ目は、農業に関するノウハウを継承できることです。

農業においても高齢化が進んでいることから、跡継ぎ問題で悩む人も出てくるかもしれません。農業に熟練した人と新たに農業を始めようとしている人をつなぐ機会も持ちにくいため、十分なノウハウがないまま農業に取り組まなければならない人も出てくるでしょう。

アグリテックを導入すれば、熟練農家が培った豊富な知識や経験をデータ化できます。これらのデータをもとに、育成している作物の画像や気象条件、気温や降水量などのデータを組み合わせて分析すれば、より効果的な栽培が可能になるかもしれません。農業に新規参入した人でも適切に作物を栽培できれば、安定的な事業運営や食料自給率の改善などにつながるでしょう。

メリット4|都市型農業を実現できる

4つ目は、都市型農業の実現です。

以前は、農業として事業を成り立たせるためには、広大な土地を所有する必要がありました。人によっては土地を持っていなかったり、新たに土地を購入する余裕がなかったりして、農業への参入をあきらめる人もいるかもしれません。

しかし、アグリテックが普及すれば、オフィスやビルが立ち並ぶ場所であっても、ビルの屋上や地下、倉庫などの場所でも農作物を栽培できるようになります。限られた場所で農作物を栽培できるだけでなく、栽培した農作物を新鮮なうちに近隣地域で消費できるようにもなるため、事業者だけでなく消費者にとってもメリットになるでしょう。

世界で活用されているアグリテックの導入事例10選

具体的にアグリテックがどのような場面で導入されているのかを知るためには、実際の活用事例を知っておく必要があります。

以下では、アグリテックの活用事例を詳しく説明します。

太陽光と海水だけで野菜を栽培「Sundrop農場」

Sundrop農場は、オーストラリアの「Sundrop Farms」という企業が取り組んでいるスマート農場です。砂漠の中でトマトを栽培するのが特徴で、太陽光発電で得たエネルギーで海水を新鮮な水へ転換しながら栽培しています。

世界では、砂漠化や干ばつなどの自然現象によって農作物が十分に育たないところもあります。しかし、このような条件下でも農作物を栽培できれば、農作物の栽培に適していない地域でも持続的に食料を確保できるでしょう。

自動運転トラクターでラクラク農作業「U-motion」

U-motionは、「デザミス株式会社」が提供しているサービスです。IoT機器を牛に装着することで、牛の体調変化や発情の兆候などを管理できるのが特徴で、牛の状態を離れた場所からタイムリーに把握できます。

また、牛の歩行や立ち座りなどの情報や、食事や飲水などの行動を把握することも可能です。牛の状態にあわせて適切な管理ができるため、牛の体調悪化を予防しつつ効率的に育てられるでしょう。経験が浅い人でも牛の状態を的確に把握できるので、IT技術で能力を補いつつ適切に牛を育成できます。

植物工場で都市型農業を実現「Plantagon」

Plantagonは、スウェーデンの「Plantagon」という企業のアグリテックです。スウェーデン南部のリンシェーピングにある、高層ビルだけでさまざまな食料を生産しているのが特徴です。ビル内で生産される食料は年間約500トンにもなり、都市型農業の代表例といってもよいでしょう。

また、農作物の育成に使われるエネルギーの約半分を、オフィスの床暖房に活用しているのも魅力です。オフィスで排出される二酸化炭素は農作物の育成に活用され、農作物から排出される酸素をオフィスに還元しているため、効果的なエネルギー利用ができています。

衛星データで農地を分析・管理「ZeRo.agri」

ZeRo.agriは、ルートレック・ネットワークスが提供するアグリテックです。AIシステムを利用して農作物の栄養バランスをコントロールしているのが特徴で、日射量や土の水分量などから最適量の肥料と水を供給しています。

ZeRo.agriの魅力は、必要最小量の肥料と水で農作物を効率的に育成できるところです。生産者の作業負担を軽減しつつ、高品質の農作物をたくさん収穫できるので、労働力不足を補いつつ高い生産性を保てるでしょう。

牛の健康管理をIoTでサポート「Farmnote」

Farmnoteは、株式会社ファームノートが提供するクラウド型の牛群管理システムです。スマートフォンやタブレットを利用して牛群管理できるため、離れた場所からいつでも情報をチェックできます。

システムで管理できる情報の具体例として、牛の品種や出生日、発情予定日や性別などが挙げられます。病歴や治療履歴などの情報も確認できるので、より牛の個別的な情報を把握しやすくなります。

小売店向けに生鮮食品を仕入れ・配送「Limakilo」

Limakiloは、インドネシアの農家と小売店を直接マッチングさせるデジタルプラットフォームを開発しています。従来必要だった仲介人に支払う手数料を削減したり、生産地が生産過程を透明化させられることが魅力です。

インドネシアでは、農家が豊富な稲の収穫をしているにも関わらず、仲介人に搾取されることで十分な利益を得られないことが問題となっています。しかし、このようなデジタルプラットフォームを納入すれば小売店から直接売上を得られるので、適正な利益を出せるようになるでしょう。

ドローンで農薬散布を自動化「KAKAXI」

KAKAXIは、株式会社KAKAXIが提供するサービスで、太陽光のみで農作物の状態をモニタリングできるのが特徴です。無線通信がおこなえる場所であればどこでも設置できるので、電気工事や通信工事をおこなう必要がありません。

また、AIが画像を分析することで自然環境の変化を解析し、効率的な生産に役立てられるのも魅力です。記録したデータを消費者に開示できれば、信頼性の高い農作物を提供できるでしょう。

AIで収穫適期を判定するロボット「Vegebot」

Vegebotは、ドイツのフラウンホーファー研究機構が開発したアプリです。もともとは、アプリを通して食品などをスキャンして、残留農薬や塗料などの成分を検出する目的で作られていました。しかし、このアプリをつかえば、追加肥料の必要性や農作物の栄養状態を把握できることから、農作物の効率的な育成や安全な食品の提供に役立つと期待されています。

ドローンで植林し森林再生を支援「BioCarbon Engineering」

ミャンマーのスタートアップ企業「BioCarbon Engineering」は、1日に10万本の植林をおこなうドローンを開発した企業です。従来は人間の手でおこなっていた植林を自動化することによって、生育中の若木の育成に注力できるのが魅力となっています。

また、このドローンは、上空を飛行しながら地形や地質などのデータを集めることできます。収集したデータは、アルゴリズムをもとに解析することで、植林に適した種やエリアを見つけることが可能です。森林伐採や温暖化などで緑地の減少に悩む地域にとっては、効率的に緑化を進められる魅力的なツールだといえるでしょう。

砂漠でITとソーラーパネルで農業「Badia農場」

Badia農場は、アラブ首長国連邦の「UAE気候変動環境省」が運営する商業垂直農場です。垂直農業とは、高層ビルや輸送コンテナ、倉庫などで高さを利用して垂直的に農作物を栽培する方法のことをいいます。

都会にあるビルなどの中で、日光や土、農薬などをつかわずに栄養価の高い農作物を栽培できるので、地方の農地を確保したり輸送の手間をかける必要がないのがメリットです。場所に縛られず農作物を栽培できるので、人口密度の高いエリアや砂漠にある施設でも安定的に食料を確保できるようになるでしょう。

今後のアグリテックの普及と発展に向けて

ここでは、アグリテックの概要や導入が求められる背景、普及するメリットや具体的なサービス例について説明しました。

今後の食料確保問題や人材不足問題など、日本だけでなく世界の課題を解消させるためにも、アグリテックの普及は重要だといえます。ここで説明した内容を参考にして、アグリテックの発展や普及に適応できるようにしておきましょう。

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