テレワークとは?
テレワークは、「遠方の」や「遠距離」といった意味を持つ「tele」と「work(仕事)」を組み合わせた造語で、「遠隔勤務」という意味を表していますが、ICT(情報通信技術)を活用して、オフィスに通勤することなく自宅や出先、シェアオフィスなど遠隔地で働くという新しいワークスタイルです。自宅で勤務する場合には、通勤に要していた時間がなくなるため、その分、ライフワークバランスを考えた柔軟な働き方が可能になります。
少子高齢化や団塊世代のリタイアによって、人手不足が長らく叫ばれていますが、テレワークでは時間や場所の制約を受けることなく働くことができます。したがって出勤が困難な妊娠中や育児中あるいは介護中のスタッフであっても継続して勤務できるほか、ケガなどによって一時的に通勤ができない人も業務に携わることができるため、人手不足の解消という点でも大きな注目を集めています。
こうしたテレワークを行うためには、ICT(情報通信技術)が欠かせません。パソコンとインターネット、電話、FAXといった従来のビジネスツールに加え、新しいデジタルサービス、ツールを使って、遠隔地でもオフィスで働く場合と変わらない働き方を目指すものです。またテレワークは自宅での勤務だけではなく、携帯電話やスマートフォンを使って顧客先や移動中のカフェなどで働くモバイルワーク、サテライトオフィスや複数の企業や個人が利用している共同利用オフィスなどで働く、施設利用型勤務もテレワークの一種だと考えられています。
テレワーク導入の課題
さまざまなメリットのあるテレワークは、脱残業や生産性の向上といった働き方改革が叫ばれる時代の潮流にあったワークスタイルだと言えます。加えて、新型コロナウィルス感染症拡大の影響によって、テレワークの導入する企業や、検討している企業が増えています。一方でテレワークには導入に際して、いくつかの課題が指摘されているのも事実です。とくに社員同士や取引先とのコミュニケーションにまつわる課題や労務管理、脆弱になりがちな情報セキュリティに対する課題もあります。まずは企業がテレワークを導入し、成功させるために必要だと考えられる3つの導入課題を整理しておきましょう。
課題1|コミュニケーションが不足する
テレワークを導入する企業で、真っ先に課題としてあがるのが、「コミュニケーション」についてです。従来はひとつのオフィスに社員やスタッフが集まり、業務を行うのが一般的でした。したがって、会議や打ち合わせを行ったり、業務の報告をするなど、日々の多くのコミュニケーションは対面で行われていたわけです。一方、テレワークではオフィスに集まる必要がなくなり、自宅や出先、シェアオフィスなど遠隔地から、ネットワークを介して業務を行うようになります。必然的に対面によるコミュニケーションが減り、情報伝達の量や質が低下していくと考えられます。
もちろんメールや電話といったツールを活用し、報告や連絡をすることも容易な時代ですが、微妙なニュアンスが文面や電話から伝わらないことで意思疎通に齟齬が出たり、雑談など緩いコミュニケーションを交わす機会がなくなることで、一体感や親密さが損なわれる可能性が指摘されています。また、報連相が徹底されにくくなる結果、業務効率が下がり、会社への帰属意識も薄くなると考えられています。
こうした課題を解決するために活用されるのが、ICT(情報通信技術)です。メールや電話だけでなく、業務内容やテレワークのスタイルに合わせたコミュニケーションを重視するツールを導入することが不可欠になります。たとえば、気軽に会話を交わすことができるチャットツールや、遠隔地にいる相手の顔色を見ながらコミュニケーションができる「Microsoft Teams」や「Zoom」といったビデオ通話ツールを活用するのもひとつの方法です。業務的なメッセージを送るだけではなく、互いの様子が共有できるSNS機能を利用することで、離れていても組織に属している感覚が得られると期待されています。また、チームで情報を共有できるようなタスクの把握と進捗状況報告機能を持つツールも併せて利用すれば、より効率的に働くことが可能になります。
課題2|正確に労務管理をするのが難しい
オフィスでの勤務なら、フロアを確認したり、タイムカードの情報などから、従業員の始業や終業、あるいは休憩を取ったのかなど、一目で勤務状況を把握することができます。残業が増えている社員がいるなら、指摘することも容易です。一方でテレワークになると、従業員が勤務している様子が見えにくく、労務管理をすることが難しくなります。勤務状況の報告方法をあらかじめ決めておかなければ、適切に勤怠管理をすることができなくなってしまいます。従業員からの報告がなければ、どんな働き方をしているのか、窺い知ることができません。
テレワークの良さは、各自が自分の裁量で労働時間を柔軟に変化させられるという点にありますが、反面、オンとオフとの区別がつけづらくなる可能性もあります。会社にとってもオフィスで勤務する従業員と比較して、勤務時間や労働状況だけではなく勤務態度を把握することも難しくなり、始業・終業時間や休憩の有無が記録でき、給与システムとも連携ができる「勤怠管理ツール」の導入が理想的だと考えられています。
課題3|セキュリティ対策を万全にする必要がある
プロフェッショナルの手によって、コストをかけて構築されたオフィスの情報セキュリティと比べると、自宅や出先でのテレワークは情報セキュリティが脆弱で、不正アクセスや情報漏えい、端末のウイルス感染といったリスクが伴います。また、第三者のいる環境で業務している場合には、ショルダーハッキングと呼ばれるパソコン画面を覗き見される行為にさらされる危険があります。さらに、パソコンやモバイル端末そのものを紛失してしまうリスクも考慮しておく必要があるでしょう。いずれの場合でも、従業員の意識改革や協力が欠かせません。PCなどへのセキュリティ対策ソフトの導入はもちろん、研修や勉強会を開催し、定期的に情報セキュリティのリテラシーを強化しておく必要があるでしょう。
ICT環境を整備してテレワークの課題を解決
テレワークでは主に3つの課題があると指摘しましたが、これらの課題はICTを活用することで解決できます。ICTは「Information and Communication Technology」の略で「情報通信技術」と訳されていますが、インターネットを活用した便利なICT技術がたくさん登場しています。手軽に利用できるWeb会議システムやビジネスチャットといったツールを活用すれば、対面ならすぐにできる、ちょっとした相談や報告も容易にでき、コミュニケーション上の問題は生じません。また、最近ではスマートフォンやパソコンから入力できるタイムカードや、ITシステムと連携させてアクティビティログを収集する機能を備えた勤怠管理システムも登場しています。
またチームで業務を行う際には、データやファイルのやり取りが欠かせません。ファイル共有システムなら、セキュリティも強固で安心して利用できます。こうしたツールの多くは、従来の業務プロセスを大きく変えることもなく導入できるというメリットがあります。研修や勉強会を開く手間が省けます。したがって、テレワークの導入を検討する際には、Web会議システムやビジネスチャット、情報共有ツールといったICTの導入とセットで考える必要があります。
コミュニケーションツールの導入
テレワークでは各自が離れた場所で作業を行なっているため、従業員間のコミュニケーションが不足しがちです。オフィスの同じフロアで作業してると、気軽に声をかけることができます。雑談や何気ない会話もしやすい環境だと言えます。テレワークでもメールを使えば、連絡ができますが、ソフトを立ち上げ、文面を書き、送信するという手間が発生するため、雑談には向きません。
そこでコミュニケーション不足を解消するツールとして、ビジネスチャットツールの利用が広がっています。たとえばTeamsやSlack、ChatWorkといったコミュニケーションツールがこれに当たります。メンバーにチャットが連絡する設計になっており、ファイル共有や音声通話も可能です。思ったことをすぐに伝えられるチャットというコミュニケーションツールを導入することで、従業員同士の交流を深める試みを各社が行なっています。
労務管理システムの導入
オフィスや店舗での勤務の場合には、タイムカードで打刻することで、正確な勤務時間を容易に記録することができましたが、テレワークではタイムカードが使えません。そのため、労働時間の管理が難しいという課題がありました。そこで利用が広がっているのが、労務管理を行う勤怠管理システムの導入です。専用のWebページにログインし、勤務時間を入力するタイプや、PCのWindowsログオンで打刻するタイプなど、遠隔地からでも従業員の労務を正確に把握することができます。残業が増えている従業員がいるとアラート通知で知らせてくれる機能を持ったサービスもあります。
ファイル共有システムの導入
オフィスで勤務していたころは、ネットワーク上にファイルを置き、共同で編集や保存をしながら、書類を作成することも簡単にできました。外部からアクセスできないようオンプレミスで運用していると、セキュリティの点では問題ありませんが、テレワークのことを考えると、途端に使い勝手が悪くなります。それぞれが遠隔地で作業を行なっているため、どのような手法でファイルを共有するのか、検討する必要があります。
コストをかけずに運用するなら、手軽に利用できるファイル共有できるクラウドサービスを利用する方法もあります。GoogleドライブやDropbox、OneDrive、Boxといったクラウドストレージサービスはセキュリティも強固で安全性が高いというメリットがあります。
セキュリティ面に考慮したPC環境の整備
オンプレミスな環境であれば、外部からの不正アクセスやウイルス感染などに対し、システム側で対策することができますが、各自がPCを持ち帰って、自宅で作業する場合には、どのようにセキュリティを強化すべきか、考える必要が出てきます。外部からのアクセスを制限すればするほど、安全性は保てます。ただその分、使い勝手が悪くなっていくという、ジレンマがあります。
リモートデスクトップ方式
リモートデスクトップは、たとえば会社にあるPCに自宅から接続し、離れた場所から操作するという方法です。Windows10ではひとつの機能として実装されています。また、Googleが提供しているウェブブラウザのChromeとGoogleアカウントを使って、PCの遠隔操作は可能です。こちらは「Chome リモート デスクトップ」というもので、複雑な設定は必要ありません。出社したときと変わらないPC環境で作業が進められるという点で、リモートデスクトップは優れています。
仮想デスクトップ方式
もうひとつが、DaaS(Desktop as a Service)と呼ばれるもので、仮想デスクトップと訳されます。デスクトップの環境をクラウド上に転送して表示するというもので、ユーザーが自宅からネットワークを通じて、操作を行います。クラウド上にあるため、いつでも、どこからでも、また、タブレットやスマホなど、さまざまな端末でも操作できる点が特徴です。
クラウド型アプリ方式
クラウド型アプリとは、仮想サーバー上のシステムに接続して利用するアプリのことです。主にブラウザからアクセスして利用するサービスと、PCやスマホに専用アプリをインストールすることで利用が可能になるタイプの2種類があります。ファイル共有サービスのEvernoteやDropboxなどが代表的なクラウド型アプリで、テレワーク先の自宅からファイルにアクセスして、共有したり、編集作業が可能になります。
VPN(Virtual Private Network)方式
VPNは仮想専用線と訳されます。インターネットはオープンなネットワークですが、VPNでは専用の回線を使っているかのように仮想上のプライベートネットワークを構築する技術です。認証されたユーザーしか利用ができず、情報漏洩やウイルスに感染するリスクが低いと言われています。このVPNを使って、社内のネットワークと自宅のPCをつなぎ、業務を行うのが、VPNを使ったリモートアクセスということになります。
テレワーク導入時に選びたいICTツールのポイント
テレワークを円滑に行うためには、ICTツールの活用は欠かせません。ただICTツールは数が多く、どのツールが適しているのか、どれを選べばいいのか判断できない人もいると思います。ここでは自社に導入する最適なICTツールを選ぶ前に、必ず確認しておきたいポイントを解説します。
ポイント1|無料プランがある
説明を読み、導入したいと考えたツールであっても、まずは無料で試せるプランや無料のデモが公開されているサービスを選択するのが、賢明です。どんなに最新の技術が搭載されているツールであっても、操作してみなければ、本当に自社の業務に適したツールかどうかは判断できないはずです。無駄な設備投資を回避するためにも、実際に試すことのできるツールを選択することがポイントです。
ポイント2|スモールスタートできる
「スモールスタートができるか」という観点でのツール選びも重要なポイントです。そもそもテレワーク自体も、いきなり全社で導入するものではありません。事業部ごと、チームごとなど、少人数でスタートさせ、業務が滞りなく進めることができるか確認してから導入することをすすめます。新たなICTツールを導入する際も同様です。いきなり全社に導入することは現実的ではありません。ツールを選ぶ際は、まずは少人数から導入できるものを選ぶことが理想でしょう。「5ユーザーから導入可能」など、少人数で利用できる料金プランがあるツールを選びましょう。
ポイント3|誰でも簡単に操作ができる
テレワークは、自宅やカフェ、コワーキングスペースなど1人で作業することが多くなります。そうなると、「誰でも操作が簡単なこと」もツール選びに欠かせない重要なポイントになります。遠隔地にいる社員との連絡や資料を共有する際に、操作が難しいツールを導入してしまうと、業務効率が下がりストレスを感じることが考えられます。操作が難しすぎるツールは、操作方法を覚えることに時間を要したり、メンバーに共有するためのマニュアル作成が必要になったりと業務効率が下がってしまいます。これでは思うような業務の効率化ができません。
国が企業のテレワークを推進する理由の1つに、オフィスワークの長時間労働を解消し、社員1人ひとりの生産性をアップする目的があります。ツールの操作が難しく、業務の生産性が下がってしまうことがあれば、テレワークにする意味がありません。業務効率が上がるようなツールを選ぶよう心がけましょう。
ポイント4|具体的な活用シーンを想像できる
テレワークが盛んになるにつれて、魅力的なツールが多く提供されていることも事実です。しかし、自社の業務において本当に必要なものだけを導入するためには、具体的にそのツールを活用している社員の業務内容や具体的な場面を想像できるツールを選択しましょう。企業によって、使いやすい機能や投資出来る金額などは大きく異なるため、自社の業務やテレワークの環境に合うツールを選択しましょう。
ICTの導入を推進する制度やサービス
少子高齢化が進み、働き手が不足している日本では、職場へのICTの導入が今後の経済成長を左右します。限られたリソースを有効活用するためには、ICTが欠かせません。そのため政府もICTの導入を支援する制度を立ち上げています。代表的なものをご紹介します。
厚生労働省「時間外労働等改善助成金」
時間外労働の上限設定に取り組む中小企業に対し、その費用の一部を助成する制度が、「時間外労働等改善助成金」です。労働時間の短縮や有給の取得を推進する取り組みなどに対して、助成が行われます。また、「時間外労働上限設定コース」「勤務間インターバル導入コース」「職場意識改善コース」「団体推進コース」「テレワークコース」の5つのコースが設定されています。いずれのコースでも資本金の額や常時雇用している労働者の数への条件があり、中小企業事業主として認められると申請できます。
総務省「無料コンサルティング」
総務省では、テレワークの導入を検討している企業に対して、情報セキュリティやICTツールの疑問や質問に回答する無料コンサルティングを実施しています。回答するのは、テレワークの専門家(テレワークマネージャー)で、テレワークによる効果の説明、テレワークに適したシステム、情報セキュリティなどについてアドバイスを受けることができます。
経済産業省「IT導入補助金」
経済産業省の「IT導入補助金」は、中小企業や小規模事業者を対象にした補助金です。ITツールの導入時に、その費用の一部を補助してもらえる制度で、通常枠としてのA類・B類と、低感染リスク型ビジネス枠のC類とD類の4つのタイプがあります。C類型とD類型はコロナ禍になり、新たに設けられた助成金枠で、C類型では販売管理や労務などを非対面化することで、生産性の向上を図るITツールの導入を支援し、D類型ではテレワーク環境の整備に欠かせないクラウド型ITツールの導入を支援するというものです。A類型とB類型ではソフトウェアやクラウド利用料、導入関連費が補助の対象になり、C類型とD類型ではそれらに加えて、PCやタブレットのレンタル費用も対象になります。
自社の業務に合ったICTツールの導入でテレワークを実現できる
現在、私たちが直面している状況や課題を鑑みると、テレワークの導入、そしてICTツールの導入は早急に検討するべきものです。しかし、闇雲にテレワークやICTツールを導入しても、企業に良い結果をもたらすとは限りません。テレワークの成功は、いかに自社の業務に合ったICTツールを導入できるのか、適切なICTツールの導入にかかっています。企業のテレワーク推進担当者は、しっかりとテレワークのメリットとデメリットを理解し、さらに自社に合った最適なICTツールを導入していくことが重要となります。本記事の内容を把握し、社内業務の理解や十分な環境整備に努め、今一度、ICTツールによるテレワーク成功へのプロセス見直しましょう。