スペースマーケットが旧来型不動産ビジネスに巻き起こした革命 ~ デジタルシフト&シェアリングエコノミーが生み出したイノベーションとは

長い歴史を持つ不動産ビジネスに、デジタルシフトによる変革の波が訪れて数年。空き家問題解消と不動産流通の活性化といった課題を背景に、物件情報の流通方法などがデジタルによって大きく変わりつつある。そのようななか、“売買 or 賃貸”という選択肢が一般的だった不動産ビジネスの在り方そのものにデジタルシフトで新風を巻き起こしているのが、空き家や空きスペースを時間単位で貸し借りできるというシェアリングビジネスで急成長しているスペースマーケットだ。
同社は、デジタルシフトによってどのような価値を生み出し、どのような未来を思い描いているのだろうか。株式会社スペースマーケット代表取締役の重松大輔氏に、創業期から出資を行い、事業を支援している株式会社オプトベンチャーズ代表取締役の野内敦氏が聞いた。

●デジタルシフトで不動産業界に革命をもたらす

野内:空間を時間単位で貸し借りできる仕組みを作り、ネット上に流通させるというデジタルシフトをなぜ思いついたのでしょうか。

重松:約5年前に創業したきっかけは、海外市場の動きですね。当時、海外市場ではAirbnbやUberのようなシェアリングエコノミーが大きな盛り上がりを見せていましたが、日本では会議室を検索できるようなウェブサイトはあり、貸し会議室のビジネスも成長しているものの、ネット上で簡単に検索から予約・決済ができるサービスコマースというのは存在していませんでした。海外の動きを見て、ネット上で完結する会議室など空間のシェアリングサービスは必ず来ると思っていましたね。

野内:場所や空間を持っている企業や個人が時間単位で簡単に流通させることができる点が面白いですよね。

重松:貸会議室だけでなく、映画館の貸切りやロケやイベントのための場所貸しなど、場所や空間を貸すビジネス自体はもともと存在していました。例えば、映画館ならば営業上映することがメインなのでそこまで貸出に積極的ではありませんが、どの映画館にもアイドルタイムは存在して貸し出しなどを行っていた。飲食店も同じくアイドルタイムには貸切りなどで場所を提供している。そういったビジネスモデルをデジタル化できないかと考えました。

加えて、時代背景もあったと思います。当時は貸し会議室や貸しセミナールームなどのビジネスや、フリマアプリなどCtoCのビジネスが盛り上がってきたところで、ユーザー側も場所をレンタルするということや個人間で取引するということに抵抗がなくなってきていた。加えて、従来型の不動産モデルに対して疑問を抱く人も増えてきていたと思います。
野内:デジタルシフトから新しいサービスの価値を生み出すという好例ですよね。実は5年前に私も審査員をしたベンチャーピッチにスペースマーケットが出場していたのですが、そのときにプレゼンを聞いて「このビジネスは間違いなく成功する」と思っていました。そのときのプレゼンが、その後に出資・事業支援するきっかけになりました。

スペースマーケットのビジネスモデルは、不動産という価値をデジタルで細分化してその権利を流通させるというものです。不動産の取引では空間を仕切って「面積」という物差しで価値を取引しますが、スペースマーケットはそこに「時間」という新しい物差しを取り入れたわけです。空間と時間を掛け合わせてビジネスを生み出すという考えにはもともと可能性を感じていたので、「ついに来た」と思いましたね。

民泊サービスであるAirbnbは宿泊を伴いますが、スペースマーケットのビジネスモデルはさらに細分化して1時間単位で流通させますよね。月極駐車場のビジネスモデルが主流だった中でコインパーキングのビジネスモデルが誕生したときくらい大きなイノベーションなのではないでしょうか。不動産の賃貸取引は3年から5年が一般的ですが、それを1時間単位でできることは画期的ではないかと思います。

重松:自分が持っている空間を使ってくれる人を探して、審査や内覧などをして、時間単位で予約を受け付けて、利用料金を決済するというのは、普通にやれば大変な労力を必要します。それをネット上ですべて完結することができるようになったというのが、デジタルシフトの大きな恩恵なのではないかと思います。また、規制に関しては、時間貸しについては宿泊を伴うものはNG、公序良俗に反しないこと、物件の管理規約を遵守すること、という以外に取引に大きな規制がなく、そこもビジネスを立ち上げる上で大きなポイントでしたね。

●プラットフォームを介したサービスコマースが、世の中のビジネスモデルを変える

野内:とはいえ、サービスを始めた当初は大変だったのでは?

重松:それは大変でしたね。特に仕入れ(貸してくれる場所や空間の調達)が本当に大変でした。サービスを軌道に乗せるためには、まずは場所を貸してくれる人がいなければなりません。最初は企業などに訪問営業して場所を提供してもらいました。

一方で借り手も集めなくてはなりませんが、はじめはなかなか集まらなくて。最初は苦労しましたが、場所と人が集まり取引のボリュームが生まれてくるにつれて、借り手・貸し手ともに集客手法はデジタルにシフトしていきました。ようやくここ1、2年くらいで世の中に浸透しつつあることを実感するようになりましたね。

野内:個人が持っているアセット、スペースマーケットの場合は場所や空間をデジタルの価値に変えてオンライン上に陳列して、それを使いたい人に届けることができるという流通網ができたことが、大きなポイントですよね。

もともと、個人と個人の取引をピア・ツー・ピアでダイレクトに行うことはリスクが高く手続きも難しい。間に入って信用を補完する存在が求められるわけです。そこにスペースマーケットをはじめ、メルカリやAirbnb、Uberなどプラットフォーマーが登場したことで、C to Platform to Cのシェアリングサービスは一気に加速したと言えると思います。今後は、このエコシステムに企業も参画して、B to P to C、B to P to Bも盛り上がり、最終的には個人向け、企業向けというビジネスの垣根もなくなるのではないでしょうか。
重松:オフィスが保有するアセットの活用などはまさにそうですよね。例えば、大企業などで大量に会議室を保有している場合などは会議室が空いている時間帯は他社に貸すこともできる。企業にとってオフィス賃料は大きな負担ですが、そのアセットを活用してよりフレキシブルな経営ができるようになるのではないでしょうか。社外に貸し出すことを前提にオフィスをデザインして、収益を生み出すことも今後はあると思いますね。

●デジタルシフトで不動産業界の流通網を壊し、新しい選択肢を生み出す

野内:立ち上げ当時の苦労話を聞きましたが、一方で予期していなかった嬉しい化学反応などはありましたか?

重松:創業初期は貸会議室ビジネスの盛り上がりなどを背景にして、企業向けに会議室の時間取引で事業を拡大させることを想定していたのですが、現在はパーティーやイベントなどの用途での取引が現在の大きな比重を占めていますね。

例えば、近年ハロウィンが大きく盛り上がっていますが、創業1年目の秋にはこのハロウィンパーティーでの利用ニーズが非常に高かったのです。また最近では、コスプレイヤーの撮影会に使用する場所などへのニーズも高いですね。やってみたことで、世の中にはこんな需要があるんだということに気づかされました。

野内:ちなみに私はちょっと違う視点でこのサービスを見ています。普通、シェアリングサービスはユーザーサイドのデマンドで考えますよね。しかし、私はサプライヤー側のイノベーションを見ていて。つまり、スペースマーケットは不動産の旧来からある流通構造を壊しにいっていると思います。

例えば、不動産を貸そうと思ったとき、一般的には2年間はコミットしなければならず、更新したらさらに貸し続ける必要があります。しかし、スペースマーケットのビジネスモデルは不動産オーナーに物件を活用する新しい選択肢を生み出したのではないかと思うのです。不動産の稼働率が上がったり、アイドルタイムの有効活用ができれば、不動産オーナーにとって活用法は問わないわけです。今後は、不動産というアセットの活用方法をどんどんイノベーションしていかなければいけませんね。
重松:私も同感です。スペースマーケットは売買か賃貸かという不動産取引に時間貸しという選択肢を生み出すことができ、普通の不動産取引には乗せられないような空間も取引できるようになりました。オーナーにとっては、自分が保有する資産から利益を生み出せればいいと思うのです。大事なのはアセットを稼働させること。デジタルシフトできたからこそ可能になったことです。

昨今、空き家問題が深刻になっていますが、それを解消するために民泊の仕組みを活用することは結構高いハードルがあると思います。規制も厳しく人を泊めるためのリフォームや保守管理も個人でしなければならない。個人でホテルを経営するようなものです。しかし、宿泊を伴わない時間貸しならば、綺麗に掃除して時間単位で貸しておけば、空き家が空き家ではなくなるわけです。

もちろん、あまりに状態が悪くなってしまった空き家を活用するには、ハードルが高いですが、時間貸しという活用の選択肢が浸透することで、空き家の「予防」につながると確信しています。カジュアルに使えるスペースとして、使われていない住宅の活用が進めばいいですね。
野内:これからのスペースマーケットについて展望を教えてください。

重松: “貸すバラエティ”をもっと増やしていければと考えています。例えば、今後は働き方の多様化が進みオフィスの在り方がもっと自由になってくる。そうなると、世の中の様々な空きスペースをオフィスとして活用できるようになってくるのではないかと思います。また、飲食店などの店舗経営も、物件を借りるところにコストを割くのではなく、様々な場所を期間限定で借りて試験出店しながらマーケティングをするという選択肢も生まれるでしょう。また、人口の都市集中に合わせてトランクルームとしてのスペースの活用も可能性があると思います。新しいスペースの活用法を提案していきたいですね。

野内:私が期待したいところは、スペースマーケットのサービスでもまだユーザーの利用シーンにアナログな部分は残っているので、今後さらにデジタルシフトが進んで取引が完全デジタル化すると面白そうだという点ですね。スマートフォンアプリで予約をすると物件のカギがロックされて、利用者のスマートフォンがカギになってロックを解除して使えて、使用時間が終わり退出するとまたロックされる、というような。飲食店を予約して利用するように、スマートフォンの簡単な操作でスペースを気軽に使えて、しかもセキュアな環境で安心して使えるようなサービスになるといいですね。そのためには、スマートロックの活用は大きなカギを握るのではないかと思います。

野内:最後に、これから既存の産業をデジタルシフトによって変革しようと考えたときに、どのような着眼点を持つべきか教えてください。

重松:マーケットが大きくデジタル化が遅れている業界には大きなポテンシャルが眠っていると思います。不動産ビジネスは、これだけマーケットが大きいのにアナログなビジネスモデルなので、スペースマーケットにとって大きなチャンスでした。こうしたチャンスが眠る業界はまだまだたくさんあると思います。当たり前にあるビジネスの中に「もったいないな」「なんか不便だな」と感じたら、そこにデジタルシフトのチャンスがあるかもしれませんね。

プロフィール

重松 大輔(Daisuke Shigematsu)
1976年千葉県生まれ。千葉東高校、早稲田大学法学部卒。2000年NTT東日本入社。2006年に株式会社フォトクリエイトに参画後、新規事業に従事し、2013年には東証マザーズ上場を経験。2014年に株式会社スペースマーケットを創業。2016年にはシェアリングエコノミーの普及と業界の健全な発展を目指し、シェアリングエコノミー協会を設立し代表理事に就任。
野内 敦(Atsushi Nouchi)
1991年森ビル入社。共同創業者としてオプト(現オプトホールディング)を創業の後、1996年より正式に参画。数々の戦略子会社の設立・運営に携わる。2013年より、投資事業の責任者として陣頭指揮を執り、出資先への経営指導やビジネスモデル開発を支援(現オプトベンチャーズ)、IPO企業を複数社輩出。現在はグループ最高執行責任者も兼務している。