過疎地を救う? お手伝い×旅のプラットフォーム「おてつたび」による関係人口の増加
2022/11/15
地域活性化や地方創生という言葉が聞かれ始めて久しい昨今。UIJターン移住者に向けて補助を行っても、少子高齢化などの課題改善が難しい地域もあります。そんな多くの自治体が抱える課題に「旅」という側面からアプローチをするのが、プラットフォーム「おてつたび」です。「お手伝いをして賃金を得ながら旅がしたい」と考える方と、「人手不足を解消しながら地域の魅力を伝えたい」と考える地域の方々をプラットフォーム上でマッチングすることで、地域の課題解決や活性化に貢献しています。
今回は、おてつたびを運営する、株式会社おてつたびの代表取締役 CEOである永岡 里菜氏に、お手伝いをしながら旅をすることが地方や人々に与える価値、今後おてつたびが地方創生に対して担う役割についてお話を伺いました。
Contents
ざっくりまとめ
- 日本の過疎化地域は深刻な人手不足に悩んでいる。
- 受け入れ先のおてつたびの利用は、人手不足の解消だけではなく新たな課題や魅力の発見につながる。
- お手伝いに行く側は、賃金以外の付加価値として「地域ならではの魅力ある体験」をすることが可能。
- 地域に対する「関係人口」を増やすことで、人を取り合うのではなくシェアする。
- おてつたびが旅の選択肢として当たり前になるような未来を目指していく。
地方が抱える少子高齢化・過疎化の課題解決になるサービスを
私は東京から公共交通機関で6時間ほどもかかる、三重県尾鷲市(おわせし)の出身です。少子高齢化が進み、有名な観光地もないことから、なかなか人が訪れないという地元尾鷲市の現状に「足を運んでくれさえすれば魅力を分かってもらえるのに」と、もどかしい気持ちを抱えていました。
また、前職では農林水産省とともに、地域活性化や食育を通じた地産地消を推進する企業に勤めていたのですが、そのときに、私の地元である尾鷲市と同じように「日本にはまだまだ人に知られていない、魅力にあふれた地域がたくさんある」ということに気がつきました。そのような「それ、どこ?」と言われてしまうような地域の魅力を知ってもらいたい、地域存続の未来をつくりたいと考え始めたのがサービス立ち上げのきっかけです。少子高齢化や過疎化の課題解決など地域の方々の助けになり、同時に足を運んでくれる方々にもメリットがあるものを、とさまざまな案を考えた結果、生まれたのがおてつたびです。
——少子高齢化や過疎化に悩む地域は、どのような問題を抱えているのでしょうか?
人手が足りない、確保できないというのが一番の問題ですね。現在、おてつたびを利用してくれているおてつたび先(受け入れ先)は農業などの第一次産業が4割、宿泊などの観光業が4割、酒造やお祭りの補助などその他が2割です。そのような地域に根ざした産業は、その地域の方々の繁忙期が被ってしまっていて、特に少子高齢化が進んでいる地域では人手の確保ができないのです。
また、Iターンなどで新規就農した方はコネクションがなく、地元の方にお手伝いのお願いをすることすらできず、人手が足りない状態になってしまうというパターンもあります。人手確保ができないと、産業の成長はストップしてしまいます。
——人手不足で産業の成長がストップする、とは具体的にどのような状況でしょうか?
農業であれば農地の拡大ができない、宿泊であれば空室があるのに予約を受け付けられない、など、本来は産業を拡大する余地があるのに人手が足りないことで現状維持に留まってしまうような状況です。材料はそろっているのに、人手が足りないことが理由でできないのは非常にもったいないですよね。
SNS発信のアドバイス、デジタル周りのサポートをする例も
まずは、人手不足の解消を大前提にしています。地域の方々が本当に困っていることをしっかり解決してこそ、持続可能な地域活性化ができると考えているためです。おてつたびは、通年雇用が難しい季節変動性の高い産業と相性がよく、募集に対してもすぐに人を集められるところにメリットを感じていただいています。
一方で、「人手不足だけ解消できればよい」と考えているおてつたび先の方々がいないというのも特徴の一つですね。自分たちが抱えている課題を把握し、私たちのビジョンに共感してくださっている方がほとんどです。人手不足を解消することは、人と人が出会えるチャンスでもあるということを、理解してくださっている地域の方々が多いですね。
——おてつびと(参加者)として利用している方々に、年齢層などの特徴はありますか?
おてつびとの半数は大学生、つまりZ世代の方です。もう半数の年齢層はさまざまで、転職が決まっていて有休消化中の方、転職先や移住先を探している方もいます。ボランティア休暇中の会社員の方もいますね。都会の組織や現代社会に疲れた方が、心と体を癒す目的で利用されているケースもあるようです。
——少子高齢化が進む地域では、若い世代のおてつびとが来てくれることによるメリットも多そうですね。
そうですね。実際、自分たちにはない視点の意見が欲しい、デジタル周りでのサポートが欲しいという目的からおてつたびを利用されている例もあります。高知県の農家のおてつたび先では、はじめて作業する人がどこにつまずくのか、より効率的にできる方法はないか、などの意見をおてつびとから積極的にもらって業務改善に活かしているそうです。
ほかにも、おてつびとにSNSの発信方法で意見をもらった、という話も聞きますね。外から来たおてつびとが「もっと景色などを発信したほうがいい」など、地域の方にとっては当たり前になってしまっている部分に着目して、SNSの発信テーマに多様性を与えてくれることも多いようです。長野県安曇野市のりんご農家では、おてつびとと一緒にプレスリリースをつくってもらったところ、産直ECの購入が1日で100件以上も入ったという事例もあります。
——おてつびとにとってのメリットはどのようなものがあげられますか?
お手伝いの対価として得る賃金に加え、「その地域でしか体験できないこと」という付加価値があるのが大きなメリットではないでしょうか。人口の多い場所から短期アルバイトなどで募集してもよいのでしょうが、やはり地方では都市部ほどの時給を出せないのが現状です。その課題をカバーしつつ、時給などの条件面だけで勝負せず、その地域でしか味わえない旅行の要素を情報の付加価値として伝えることで、おてつびとを集められる仕組みが、おてつたびであると考えています。特に最近は、Z世代を中心に働き方に対する考え方が変化しています。仕事や働き方を選んだり、人生の充実度を測ったりする基準がお金だけではなくなっているのです。
——「その地域でしかできない体験」が、おてつびとが享受するメリットなのですね。
そうですね。私たちが提供する体験は「お金をいただいて美しいところや楽しいものだけを提供する」という、いわゆる観光のようなものではありません。地域の方と一緒に、楽しい部分も大変な部分もすべてひっくるめて体験をすることが「その地域でしかできない体験」だと考えています。そうすることで、生きる営みと仕事が、強くつながった現場を肌で感じることもできます。
実際、地域に対して観光や旅行とはまったく異なる関わり方をすることで「自分の視野が変化した」「就職先などを選ぶ基準が変わった」と話すおてつびとは多いです。おてつたびを利用しなければ出会うことがなかった地域が、おてつびとにとって特別な場所になる、というのも素敵ですよね。おてつたびのあとも何度もその地域に足を運ばれたり、おてつたび先とのお手紙の交換を続けていたりということも多いようです。
地方創生のカギは、地域と多様的に関わる「関係人口」の増加
実利的な部分でいうと、電子で雇用契約やお手伝い時間の管理が可能で、源泉徴収も自動で算出されます。短期労働の採用DXという観点でも、おてつたび先の業務効率化に寄与できていますね。
また、地元の方々が“働く”となると、どうしてもアクセスのよい場所を選ぶ傾向にあるので、秘境と呼ばれるような地域だと人手を確保しづらいことが多いのですが、その地域への理解を深め、観光も楽しみながらのお手伝いとなると、むしろ秘境こそ行ってみたいと考えるおてつびとが多いです。時間帯限定で人手が欲しいなどの場合も同じです。朝の時間帯に収穫作業をしなければならないなどの条件があると、仕事としては選ばれにくいことが多いのですが、おてつたびにおいては逆にそれが魅力になります。午前中は収穫作業を手伝って、午後は観光を楽しんで、という時間の使い方ができるので。
農業の繁忙期と観光の繁忙期にズレがあるような地域では、農業のお手伝いに来たおてつびとが、閑散期の観光地に経済効果をもたらしてくれたという例もありましたね。仕事としてだけではなかなか人が集まらないような仕事が逆に魅力的になったり、おてつびとの来訪で閑散期にも経済効果があったりという部分は、おてつたびならではの少し変わった利点だと思います。
——地域との継続的な関わりや閑散期の経済効果など、地方創生に必要な要素を生み出しているわけですね。
そうですね。現在、総務省が「関係人口」を増やしていこうという取り組みを行っています。関係人口とは、地方への移住者を指す「定住人口」と観光客などを指す「交流人口」の間にいる、地域と多様的に関わる人たちのことです。具体的には、その地域の出身者、2拠点生活をする方、ふるさと納税をする方、何度もその地域に足を運ぶ方などのことですね。非常に定義の範囲が広い言葉です。
おてつたびを通して増えていくのが、まさにこの関係人口です。少子高齢化が進み、日本全体の人口が減っていくことは避けられません。各自治体で人を取り合ってしまっては、存続の難しい地域が出てきてしまいます。そこで、さまざまな地域に関係人口を増やし、人をシェアすることで、人口が減っていく地域が存続できる未来をつくっていけるのではないかと考えています。
「おてつたび」がインフラになる未来
おてつたびは、まとまった日数を使って地域にお手伝いに行くことが多いため、どうしても社会人が使いづらいモデルになっています。そこで、短い時間でご利用いただけるモデルをつくれないかと考え、KDDIの社員の方にご協力いただき、1泊2日での農業のおてつたび実証実験を行いました。
——今後、さまざまな企業や個人が持つICT(情報通信技術)をおてつたび先の業務に活かすなどの狙いもあるのでしょうか?
そうですね。スキルをもった方々と地域の方々が交流するなかで、よい化学反応が起きるのではないかという期待もあります。おてつたびを利用することで培われる能力や、多様なスキルを持った方々が、おてつたび先にどう貢献できるのかという部分を検証して見える化したいという狙いもありますね。
——最後に、今後の展望について教えてください。
私たちは現在、おてつたびというプラットフォームを使って、顕在化している人手不足という課題に対して取り組んでいます。しかし、それぞれの地域が抱える困りごとは、潜在的なものも含めて無数にあります。より高度なスキルを活用しないと解決できない課題もたくさん伺っています。今後はそういった部分に対しても貢献ができるような仕組みをつくっていきたいですね。
また、社会人が参加しやすいモデルの実現をはじめ、どんな年齢であっても地域とつながることができるプラットフォームでありたいですね。特定の方々だけに利用されるサービスではなく、「旅行にする? おてつたびにする?」というように旅の選択肢として当たり前の存在になり、地域の方々にとってはインフラのような存在になることを目指します。
永岡 里菜
株式会社おてつたび 代表取締役 CEO
1990年生まれ。三重県尾鷲市(おわせし)出身。千葉大学卒業後、PR・プロモーションイベント企画制作会社勤務、農林水産省との和食推進事業の立ち上げを経て、独立。
自分の出身地のような一見何もなさそうに見えてしまう地域に人がくる仕組みを創りたいと思い2018年7月株式会社おてつたびを創業。「誰かにとっての"特別な地域"を創出する」をミッションに、短期的・季節的な人手不足で困る地域の農家や旅館と、「色々な地域へ行きたい!」と思う若者が出会えるweb上のマッチングプラットフォーム『おてつたび』を運営中。