「原則出社」の企業はこれから人材難に!? リモートHQを展開する株式会社HQが見据える、リモートワークトレンドと今後の変化

コロナ禍に入って3年、企業勤務の人たちにとってリモートワークやリモート会議は、今や当たり前となっています。この働き方の変化に対して、企業が新たに対応する必要が出てきたのが社員の「在宅勤務環境の整備」です。そんななか注目を集めているのが、社員が自宅の勤務環境を整備できるように支援する「リモートHQ」。チェアやウェブカメラ、観葉植物など1,000点を超えるリモートワーク関連備品から、社員がポイントの範囲内で自由に備品を選ぶことができます。

リモートHQを運営する株式会社HQは2022年11月、新たに7億円の資金調達を行ったことと同時に、リモートワーク時の通信費や電気代を非課税で企業負担にできる機能を追加したことを発表しました。人々の働き方が日々変化していくなか、HQはどのようにサービスを展開させていくのか。今回は株式会社HQのCEO 坂本 祥二氏に、サービスの立ち上げ経緯や今後のリモートワーク事情の変化、企業としての展望についてお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- リモートHQは、コロナ禍で激変する働き方と、企業が提供すべきインフラの変化に対応するサービスとして立ち上げられた。

- 意外にも、ベンチャー企業だけでなく大企業からのサービスに対する反応がよかった。

- 能力が高く希少性のある人材は、働く企業や環境を自身で選べる傾向が強くなり、企業側は人材流出防止や採用の観点から出社を無理強いできない状況に。

- HQは今後、リモートワークの環境整備以外の分野にも進出し、働き方の環境整備を支援していく。

コロナ禍をきっかけに、企業が提供すべきインフラが激変

——リモートHQの立ち上げ背景を教えてください。

私がまだ前職にいた頃にコロナ禍が始まり、社会の大きな変化を目の当たりにしたことがサービス立ち上げのきっかけです。前職でも、まずはコーポレート部門の社員がリモートワークになり、その後、あらゆる職種の社員がリモート勤務にシフトしていきました。前職では店舗ビジネスもやっていましたし、新規事業もコロナの煽りを受けて売上がほぼなくなってしまっているような状態でした。最初は「どうリモートワークに対応するか」という業務的な視点で変化を捉えていたのですが、徐々に「コロナをきっかけに企業と個人の関係が激変している」と感じるようになりました。

——具体的にはどのような変化でしょうか?

そもそも社員は皆、同じ企業に所属しながらも「子育てをしている」「会社から離れた場所に住んでいる」など、一人ひとり違った環境や事情の上で仕事をしていますよね。そのような違いによる影響が、コロナ禍を通してより顕著になっているのを感じました。働く環境の変化に伴って、企業が提供すべきインフラが激変していると考えたのです。そこで、コロナ禍に対応するサービスではなく、コロナ禍をきっかけに変化した社会の5年後、10年後のスタンダードとは何かを考え、それに対応していくサービスとしてリモートHQの提供を開始しました。

「リモートHQ」に大企業が好反応

——サービス立ち上げ当初の想定と、実際のサービスの広まり方にギャップはありましたか?

当初は、IT系の比較的小規模なベンチャー企業などが取り入れてくれるのではと考えていました。規模が小さいほうが変化に対応しやすく、若い経営者が多いので新しいサービスに対する判断が柔軟なのではと思っていたからです。しかし、実際にサービスをリリースしてみると、ベンチャー企業だけでなく大企業でもリモートワークへの対応が早く、リモートHQに対する反応もよいことが分かりました。IT系やベンチャー企業がリモートワーク、ハイブリッドワークを取り入れている割合が高いかといえばそうでもなく、社内の仕組みが定型化されていないことも多いため、逆に動きが遅くなる傾向がありました。一方、大企業にはすでに磐石な仕組みやビジネスモデルがあるため、そこに大企業の改革推進力が掛け合わさることで一気に物事が動いたわけです。

実はリモートワークに関して、大企業の一部ではコロナ禍以前より「そういうことをやっていきたい」という動きがあったものの、社内の抵抗勢力が強い状況だったとのこと。コロナ禍の影響でその流れが変わり、一気にアグレッシブな動きに転じたようです。もちろん、稟議や与信確認に関してはベンチャー企業のほうがスピード感があり、導入完了まででみると早い傾向にありますが、リモートHQに対する「引き」を感じたという点では大企業のほうが早かったですね。

——世間的なイメージともギャップがありますね。利用者からの声でも想定と違う点はありましたか?

企業側からは、よいソリューションだと捉えてもらえると思っていましたし、実際にこれまで在宅手当を現金支給していた企業からは、本来の「手当のあり方」になり、やりやすくなったという声をもらっています。一方、社員の方々からも予想以上によい反応をいただけたことは、正直なところ意外でした。というのも社員、特にすでに自宅でリモートワーク環境を整えている方からすれば、むしろ在宅手当を現金でもらえるほうがメリットだと考えるのではないか、と想定していたからです。しかし、まだ環境が整っていない社員だけでなく、すでに環境に投資したあとの社員からも満足度が高い結果になりました。企業の福利厚生で「リモートワーク環境をよりよくできる」という部分に、予想以上のバリューを感じていただけたようでした。

——ユーザーアンケートでも、リモートHQ利用後の生産性が20%増したという効果実感の回答が出ていますね。

そうですね。我々は、大体7〜8%ほどの生産性向上の効果を実感していただければ費用対効果が高いと考えていましたが、それを大きく上回る数字でした。この数字に起因しているのは、社員の職種や現在のリモートワーク環境をデータで分析してパーソナライズした提案をしたり、コンシェルジュが直接問い合わせに応じて備品の相談に乗ったりできることだと考えています。特に後者に対する満足度が高いようです。データと実際の対話、両方から環境改善にアプローチできるのが強みですね。

また、リモートHQは備品のセレクトや返却が容易な上、企業の福利厚生内でレンタルができるため、「自分のお金では買わないけれど試してみたいアイテム」がよく借りられる傾向にあります。使い勝手のよいハイエンド備品を試せることも、生産性の向上につながっているのかもしれません。

生産性向上のためのリモートワークが今後のトレンドに

——今後、日本のリモートワーク事情はどのように変化していくと考えていますか?

私は三つの変化が生じると考えています。一つ目は、企業と社員のパワーバランスの変化。これはすでに変化している実感があります。実は、職種に関わらず、世の社員の9割はリモートワークやハイブリッドワークのほうがよいと感じているというリサーチ結果が出ています。コロナ禍に入って数年が経ち、問題なく出社できそうな状況になっても、企業側の「原則出社」という要請に妥当性を感じていない社員が多くなっているのです。

実際、エンジニアやハイレイヤーなど確保が難しい人材ほど、リモートワークやハイブリッドワークの形態を希望します。能力が高く希少性のある人材は、心地よい働き方ができない場合は辞めてしまうので、企業側も出社を無理強いできなくなってきているのです。特に日本はこれからますます人材不足が進んでいき、DXを推進するような人材の希少性も高くなります。今後は、出社する社員もいれば、リモートワークやハイブリッドワークの社員もいるという状況のなかで、どう社員を管理していくのか、マネジメント側の変革が必要になってきます。

——働き方の多様性に、企業が対応しなければならないということですね。

そうですね。二つ目の変化はそこからつながることでもありますが、コロナ禍を契機に、多様性の促進やウェルビーイング経営に対する企業の本気度が変化しているように感じています。リモートワーク環境の整備は、多様性を活かすための大きな武器になります。大企業を中心に、先進的な事例をどれだけつくっていけるかが重要になってくるでしょう。最後に三つ目として、生産性の向上という観点でも企業はコツコツと変化を続けている印象を持っています。

——生産性向上の実現に対しては、どのような変化が起こっていますか?

これまでは「どのようにリモートワークをするか」という問いに焦点を当てて動いていたものが、「リモートワークを使ってどのように生産性向上を実現するか」という問いに変化しています。リモートワークを目的ではなく手段として捉えて、生産性向上のために利用していくことが長期的なトレンドになっていくと考えています。一等地にオフィスをかまえたり、レンタルスペースを利用したりといった選択肢よりも、リモートワークのほうが生産性向上に対する費用対効果が高い。そんな状態をつくるために、我々も支援を続けていきたいと考えています。

多様なサービスを通じて、企業の生産性向上と社員の幸せを実現していく

——このように社会が変化していくなかで、御社が抱く今後の展望を教えてください。

我々は「福利厚生をコストから投資へ」ということをミッションにしています。単にリモートワークの推進を支援するだけではなく、その取り組みが企業の競争力に変わるような支援を推進していきたいですね。働く環境などを整備する支援を通じて生産性や競争力を高めていけば、企業は社員に投資できるようになりますし、社員はより充実したキャリアを築いていけるようになります。この循環を我々は「ワークライフシナジー」と呼んでいるのですが、このよい循環を企業のなかに生んでいくために、リモートワークの環境整備以外の分野でもサービスを展開していきます。

——特に可能性を感じている分野はありますか?

子育て層に対する支援ですね。リモートワークの環境整備もそうですが、働き方の多様性を活かすことができれば子育て層を雇用しやすくなり、大きなパワーを持った労働力になってくれることは間違いありません。実際に弊社でも、九州で活躍している子育て世代のリモート社員がいますし、子育て層に対する可能性は感じております。リモートHQだけではなく、今後リリース予定のさまざまなサービスを通じて、ワークライフシナジーを最大化することで、企業の生産性向上と社員の幸せを実現していければと考えています。

坂本 祥二

株式会社HQ 代表取締役

コロナをきっかけに、HQを創業。起業以前は、LITALICOにて取締役CFOとして、IPO、コーポレート部門の管轄、新規事業立ち上げ等を担う。それ以前は、モルガン・スタンレー及びカーライルにてテクノロジー業界のM&A等に関わる。

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