VRで活性化する体験型エンタメ施設・横浜駅直通『アソビル』!次世代テーマパークのVR活用法とは
2020/2/20
Contents
そのなかで今回お話を伺ったのは、作家・西野亮廣さんが手掛ける絵本『えんとつ町のプペル』の世界観を忠実に再現したVR(バーチャル・リアリティ)コンテンツについて。まるで自分が絵本のなかに入り込んだかのような体験ができるとあり、大人から子どもまで幅広い世代に人気を博しています。今回は、『えんとつ町のプペルVR』を導入した株式会社アカツキライブエンターテインメントの田中苑子氏を訪ねました。
※本記事は、『drop:フィジタルマーケティング マガジン』で、2019年9月6日に公開された記事を転載したものです。
アソビルが提供する「新しい体験」とは?VRを導入した理由
様々な遊びの集う、複合型エンターテインメント体験ビルです。弊社はこれまで、サバゲーフィールドやパーティークリエーションサービス、飲食事業など、建物の一室をリノベーションしてソフトコンテンツを入れるエンターテインメント体験を提供してきました。今回はそれらのノウハウを活かしつつ、今までにない新しいエンタメビルをつくるというチャレンジで、元・横浜中央郵便局別館であった地下1階、地上4階、屋上のあるビル一棟をまるごとお借りし、企画運営をすることになりました。
フロアごとにコンセプトが異なり、地下はカフェ&バー、1階はグルメ、2階はエンタメ、3階はものづくり、4階はキッズテーマパーク、屋上はスポーツコート。それぞれのフロアで多種多様なコンテンツを楽しむことができます。
――VRコンテンツは、2階のエンタメフロアに採用されているもののひとつですよね。
はい。2階では「厳選されたエンタメ体験のセレクトショップ」というコンセプトをもとに、インスタ映えで話題になった『うんこミュージアム YOKOHAMA』や『リアル脱出ゲーム』などをはじめとする体験型コンテンツを複数導入しています。『えんとつ町のプペルVR』もエンタメフロアで展開しているもののひとつで、それぞれ一定期間でコンテンツを入れ替えながら運用しています。
――今回、VRコンテンツを導入したのには、どういった意図があったのでしょうか。
VRにこだわりがあったわけではなく「様々な新しいエンタメ体験が集う」というコンセプトの観点で、VR導入の案がありました。また、VRは体験時間が短く、他コンテンツからの「ついで集客」という観点でも期待がありました。ジャンルに縛られない、本来であれば別々の施設で開催されるような多種多様なコンテンツが集まる2階フロアにおいて、VRはとても効果的なツールだと思っています。
子どもの頃の夢を叶えてくれる、『えんとつ町のプペルVR』導入の効果
導入に踏み切ったのは、“お客様へ新しい発見を届ける”という私たちの思いに合致したからです。今までエンタメに使われてきたVRは、ホラーやスリルなど刺激を楽しむものがほとんどでした。しかし『えんとつ町のプペルVR』は、映画を360°でみる感覚で、物語を純粋に楽しむツールとして活用できると感じました。
以前、個人的にVRを体験したときは、何もない場所で突然セットを付けて体験を開始したため、現実との乖離があって作品に入り込めなかった経験がありました。ですから、もしVRを導入するのであれば、なるべく現実と仮想現実の乖離をなくしたいという思いがあったんです。
小さい頃、絵本やアニメをみて「物語のなかに入ってみたい」と夢みたことがある方は多いのではないでしょうか。『えんとつ町のプペルVR』は、はじめに会場のなかで絵本の扉を開き、本のなかに自分たちが吸い込まれていくところからはじまります。そうすると、現実から物語のなかに入ったかのような感覚が味わえるので、作品への満足度が格段に違ったんです。VRは、使い方次第で子どもの頃の夢も叶えられるツールなのだと感じました。
【360° VR】キングコング西野著『えんとつ町のプペル』のVR体験が横浜で
当初期待していた「ついで集客」は、思いのほか苦労した面があります。VRは、実際にやってみないと面白さがなかなか伝わらないので。それでいうと、ポスターもそうですね。パッとみで絵本の展示だと思われたり、だからと言ってVRのヘッドディスプレイをつけた人をポスターに入れても、良さが伝わるわけではありません。実際に体験するストーリー映像を見ていただくこともできますが3Dデータを無理矢理2Dにしているので、世界観を十分には伝えられないんです。
ですから、最近ではデモプレイでみていただけるよう、機材を外に持ち出し、通りかかった人に試してもらうなど試行錯誤しています。我々の仕事は提供するだけでなく、お客様にどうすれば届けられるのかを考え、プロデュースすることです。クリエイターの方がどんなに良いものをつくっても、お客様に届けられなければ意味がありません。なので、今後も試行錯誤を重ね、最適な方法をみつけていきたいと思っています。
――結果的に、当初期待した効果は実感できているのでしょうか?
「誰でも体験できるコンテンツ」というところで、効果を実感できています。当初は、絵本の作者であるキングコング・西野さんのファン(30代〜40代女性)の来場が多いのではないかと想像していました。実際に西野さんのファンの方もいらっしゃっていますが、それ以上にお子様連れへのウケがよかったのは想定外でした。外部で期間限定のデモンストレーションを開催しましたが、そこでもお子様の食いつきが非常によかったです。
『えんとつ町のプペル』の絵本は、内容にもボリュームがありますし、小さなお子様にとっては字を読むのが難しい部分があります。しかしVRでは、海外の方も楽しめる設計にしているのもあり、ほとんどセリフがありません。プペルのキラキラした世界観と音楽、ちょっとした声を載せただけで物語を理解できるんです。それだけでなく、プペルはストーリー自体も深くて感動する内容なので、大人も楽しめます。そうした部分が、結果的に幅広いターゲットに受け入れてもらえたのだと思います。
――なるほど。オペレーションの面ではいかがでしたか?
『えんとつ町のプペルVR』は入場から15分程度でみられるので、空いている時間にサッと入っていただけます。一方『うんこミュージアムYOKOHAMA』は体験時間が長く、どうしてもすぐ行列ができてしまいます。ですから、このふたつを掛け合わせるのは相性が良いと感じました。
それからVRは、頭につけるヘッドディスプレイと空間の装飾のみ用意すれば良いので、ツールとして比較的容易に導入できるのが利点だと思います。とくにここのエンタメフロアは、5つの部屋をそれぞれで異なるコンテンツを常時入れ替えながら運用するので、VRのように導入に工数がかからないコンテンツは運営側としても大きなメリットです。
――2019年7月末2作品目となるVRを取り入れたのは、初回のVR導入の影響をみての判断だったのでしょうか?
夏休みに入る直前なのもあって、恐竜の世界を歩き回ることができるVR「アバル:ダイナソー」を導入しました。お子様はもちろん、最近、恐竜は大人にもジワジワと人気が出てきていて、様々な恐竜の体験型エンターテインメントが増えてきているんです。恐竜の世界に入って、横を歩いたり、追いかけられたり……そこに実際に行く体験ができるのは、大人にも刺さるものがあると思っています。
アカツキライブエンターテインメントが、これからの最新技術に期待していること
確かにプレスリリースなどでは、「VR」という言葉の引きの良さを感じます。アソビルオープン当初にVRコンテンツが入ることを楽しみにしている声は、SNSをみていてもとても多かったです。VR技術に対しての期待感はもちろん、VRをやったことがなくても言葉だけで「なんか凄そう」と感じてもらえる効果もあるようです。
――今後もVRをはじめ、最新技術を活用していく見通しはありますか?
お客様へ体験を届ける手段として、今後も技術利用は検討しています。これまでも弊社では、オンラインとオフラインの体験融合を実施してきました。たとえば、プロジェクションマッピングで投影されたブロックを、ピンポン球を当てて崩していく新感覚卓球ゲーム『PONG PONG』や、アソビル・PITCH CLUBに入るプロジェクションマッピングダーツなどがあります。現在では全館の施策として、スマホアプリをかざせばいろいろな場所にAR(オーグメンテッド・リアリティ)のアソビルモンスター(アソビルの公式キャラクター)が現れ、一緒にゲームをするという取り組みも実施しています。
アソビルは、より多くのお客様にカジュアルに新しい体験をしていただくのを大切にしています。最先端の技術を使うためではなく、楽しい体験を届けるために「AR」や「VR」が効果的であれば、これからもツールとして導入していくと思います。
――これからの最新技術に期待していることを教えてください。
「リアル」を軸にした技術開発です。現状、アトラクションや絶景で味わえる感動は、やはり生身で感じるリアルの体験には敵わないと思っています。ですから、仮想現実でリアルの再現を極めていくよりも、リアルを軸において技術を利用するエンターテインメントを提供していきたいと考えています。日常生活のなかに何かが突然現れたり、街中の風景が突然違う景色に切り替わる……というように、私たちの普段の生活を軸にした新しい世界を提供していきたいです。新しい技術と現実にあるものを上手く融合させ、新しい価値を生み出していくために、これからも挑戦し続けたいと思っています。