特別対談「Digital Shift Summit開催にかける想い」

立教大学ビジネススクール教授 田中道昭氏と株式会社オプトホールディング代表取締役社長グループCEO 鉢嶺登の対談を緊急セッティング。『Digital Shift Summit』の見どころを、田中氏のリードをもとに鉢嶺がとくと語った。
折しもこの対談は、オプトホールディングが社名変更を発表した直後に行われた。インターネット広告代理店からデジタルシフトカンパニーへと、いま、まさに変革を試みるオプトグループの決意と意気込みに、ぜひ触れていただきたい。

※Digital Shift Summitは2020年3月5日の開催を延期しました。詳細は、下記特設サイトでご確認いただけます。本インタビューは、開催延期決定前に収録されたものです。
https://www.optholding.co.jp/digital-shift-summit/

【『Digital Shift Summit』直前緊急対談】株式会社オプトホールディング代表取締役社長グループCEO 鉢嶺登 × 立教大学ビジネススクール教授 田中道昭氏

7月1日、オプトホールディングは、デジタルホールディングスへ

田中 今日は、3月5日に開催を控える『Digital Shift Summit』の見どころを鉢嶺さんにお伺いしようと思っていたのですが、2月12日に社名変更、主要事業の変更という実に大胆な発表をされていますので、まずは、そちらの話からお伺いします。
今年7月1日から、株式会社デジタルホールディングスに社名を変えられ、鉢嶺さんも代表取締役社長から代表取締役会長になられるようですね。

鉢嶺 当社はこれまでインターネット広告代理店のイメージが強かったと思うのですが、2月12日に「デジタルシフトカンパニーに、完全に軸足を移す」ことを発表いたしました。これにあわせ、2030年に目指す指標も売上1兆円から企業価値1兆円に変更しました。
いま、デジタル産業革命という大きな波が来ていますが、我々のほとんどのお取引先が、目下、デジタル化に悩まれています。そういった皆様を全力でサポートするため我々は軸足を変え、その象徴として社名も変えることにしました。これにともない、私は会長職に、社長職は現在、取締役グループCOOを務める野内敦に託します。私自身は現場におり、デジタルシフトによる新規事業の立ち上げに邁進します。
社名を変え、戦略も目標もKPIも全てを変えてデジタルシフトカンパニーになっていく覚悟です。

田中 すばらしいですね。いま、皆さんがご覧になっている『Digital Shift Times』は昨年6月の立ち上げから8カ月が経ちます。そして、オプトがデジタルシフトを標榜されてからは約2年。この流れのなか、今年7月には社名も変えられるとは、スピード感のある決定と感じます。
社名変更と同時に、目標も2030年に企業価値1兆円に変えられましたが、これが実現したとき、デジタルホールディングスは、日本または世界においてどういう存在になっていたいと思いますか。

鉢嶺 デジタル産業革命という100年に1度の革命が来ており、すべての企業がデジタル化しないことには生き残れない時代になっています。その一方、どう取り組もうかと悩まれている企業が非常に多いので、我々が全面サポートすることで日本の社会全体、企業全体のデジタルシフトをけん引する立場になっていたい思いがあります。
そして、デジタルシフトは日本にとって一大事業なので、我々がその象徴になるのなら、このくらい大きな金額規模になっていなければ、という思いから企業価値1兆円の目標を掲げています。目の前に非常に大きな市場がある、と強く思っています。
田中 ビジョンを提示するだけではなく、数字やKPIまで明らかにされたことに相当の意気込みを感じます。

鉢嶺 今回は、IR上でも二つのKPIを明確な指標として出しています。一つは、デジタルシフト事業の売上成長率です。2019年現在の売上は10億円ですが、2030年には1,000億円、成長率は150%と非常に高いものを目指しています。もう一つは、全事業に占めるデジタルシフト事業の粗利構成比です。2019年時点の4%から2030年には80%に伸ばします。これは、ネット広告代理店という手数料モデルから完全に新しいビジネスモデルへと変わることを意味します。ですから、完全に新しい会社になるような心意気でチャレンジしたいと思っています。

田中 鉢嶺さんは、これを機に会長というポジションでデジタルシフトの源流に携わる。いわば、新たな事業を担っていこうというお気持ちにあると思います。

鉢嶺 そうですね。私は現場におります。お客様と直に接し、お客様の相談にも乗ります。お客様ととことん向き合っていくつもりです。これから立ち上げていくわけですから、自分もワクワクしています。

田中 本当にワクワクしている様子が表情からもうかがえます。
デジタルシフトの現場では、どういうことから始めたいと思いますか。

鉢嶺 「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の四つの面からお客様をサポートしていきます。まず「情報」ですが、我々には中国をはじめとした世界の最先端のデジタル情報をいっぱい入手できる仕組みがありますので、それらを社内だけでなく、お客様にもお伝えしてまいります。しかし、情報を得られたとしてもデジタル人材がいないことには、ビジネスは始まりません。そこで、オプトグループ1,600名のデジタル人材をお客様のもとに派遣したり、またはコンサルティングしたりする形で「ヒト」の面をサービス化したいと考えます。
次に「モノ」ですが、お客様と一緒にデジタルのビジネスモデルを立ち上げます。直近では損害保険ジャパン日本興亜株式会社(損保ジャパン)さんとの、LINEを使ったビジネスモデルの立ち上げがかなりうまくいっています。このほか複数の会社様ともいくつかのビジネスモデルの構築が進んでいますので、こういった事例をたくさん生み出せるように取り組んでいきたいですね。
四つ目は「カネ」の部分です。デジタルのビジネスを進めるにあたり、資金が必要になります。実績のない新規事業として扱う企業も多くあると思いますので、場合によっては我々が資金供給することも考えています。
以上、お客様のデジタルシフトを完全にサポートできる体制で臨みたいと思っています。

鉢嶺氏に訊く、『Digital Shift Summit』の見どころ

田中 ここからは、Digital Shift Summitについてお伺いします。
もともとDigital Shift Timesは、「その変革に勇気と希望を」をビジョンにしていますが、今回のDigital Shift Summitでは「すでに起こった未来を見つける」というサブタイトルを付けられています。
Digital Shift Summitの目的やミッションは、何になるのでしょうか。

鉢嶺 デジタルシフトは、全ての企業が取り組まなければならないことなので、まずはムーブメントを起こす必要があると考えました。となると、多くの方が一堂に会するイベントが重要と思い至り、第一弾の位置づけとして、Digital Shift Summitを開催することにいたしました。LINE CUBE SHIBUYA(旧渋谷公会堂)のような1,800名も収容できる大きな会場で実施するのは、当社グループとしては初めてです。
ここでは、オプトグループがネット広告代理店からデジタルシフトカンパニーへとシフトすることの認知を広げたい思いもありますし、ご来場者には「こういうことが実際に起きているんだね」と感じられる事例や最先端の情報を取得していただける場にしたいと思っています。
日本の企業全体、日本の社会全体をデジタルシフトしていくために、皆で協力しあえる、切磋琢磨しあえる、そういう同志や仲間が集う場になったらいいですね。

田中 仲間が集う、という話が出ましたが、1月6日にトヨタ自動車の豊田章男社長が、「Woven City(ウーブン・シティ)」を発表されましたよね。翌日からラスベガスで開催された『CES2020』に先立ってのことですが、日本企業に活路と元気を与えられただけでなく、今年のCESに参加したすべてのグローバルプレイヤーの中でも間違いなく一番大胆なビジョンでした。
おそらく今までの日本企業だったら、ビジョンは掲げても実行はせいぜい5年後、3年後というのが通常。ですが、トヨタ自動車は来年の着工ですから。ものすごいスピード感がありますよね。鉢嶺さんとしては、相当影響を受けているんじゃないですか。

鉢嶺 豊田社長といえば、年頭のあいさつも素晴らしかったですよね。日本のトップ企業のトップが「会社が変わらなければいけない」と、あそこまで力説されたうえで、今回のスマートシティ構想ですからね。最先端のことを、あれほどまでに具体的に発表されるその意気込みに、本当にしびれました。
我々と共通していると思ったのは、私たちも今回の発表を、“第三の創業”と言っているところです。25年前にFAXの会社としてスタートした当社は、20年前にインターネット広告代理店に、そして今回はデジタルシフトカンパニーへと舵を切ります。トヨタ自動車さんも織機から自動車になり、次はモビリティカンパニーになるんだ、とお話しされている。社員に向けても「自分たちには関係ないと思わないでほしい」と訴えているじゃないですか。まさしく私も同じ思いです。

田中 日本のトップ企業のトップが、あれだけの危機感と使命感で日本の活路を示したことは、今年、日本企業にものすごく大きな影響を与えると思っています。その一つなのか、1月28日に非常におもしろい発表がありました。茨城県境町がSBドライブの協力のもと、今年4月1日から自律走行バスを始められるようです。法整備前なので、いざというときのために運転手を乗せるそうですが、まずは始めることに大きな意味があると思います。
鉢嶺 実行、実践ですよね。今まで日本が弱かったところですよね。中国がここまで急激に市場をキャッチアップできたのも、まずは実践して、そこでデータを取って次に生かす、そのPDCAがあったから。日本は始める前に「これは危ない」「リスクがある」などと言って結局何も進んでいない。その点、自治体から手が挙がることは、素晴らしいと感じます。

田中 そうですね。できるところから始める姿勢は、本当に素晴らしいと思いました。
いま、中国の話がありましたが、Digital Shift Summitに話を戻しますと、基調講演をどなたにお願いするかを決める際、デジタルシフトの最先端企業は、アリババ株式会社ではないか、という結論に至りました。アメリカの会社でも、日本の会社でもないところが残念なのですが、アリババはデジタルネイティブからスタートしてリアルワールドに進出するあいだに本当にいろいろなことを手がけています。「ここは、ぜひ代表取締役社長CEOの香山氏に」ということで、お声をかけるにいたったのですが、鉢嶺さんとしては、来場した方にどういうところを見ていただきたいと思いますか。

鉢嶺 アリババは、単に“Eコマースの雄”であるだけでなく、データベースと連携してさまざまなサービスを展開されています。金融や個人の信用評価のサービス、小売流通、あるいは最先端のホテルやスーパーマーケットなど、ネットとリアルを融合し、新しい業態を開発して実際に展開しているという意味でも、最先端企業といえるでしょう。
昨年、お取引先から「中国に視察に行きたい」というオーダーを非常に多く受けました。これはシリコンバレーよりも圧倒的に多かったのですが、そういった意味でも、アリババという、中国のなかでも最先端企業のビジネスモデルに触れられることは大きな意義があると思っています。さらには、中国の13億人という市場は非常に大きいですよね。日本のメーカーや流通小売業も、アリババのネットワークを使うことによって商品を中国の方に販売できるんです。これは、大きな市場がすぐ近くにあることを意味しており、日本企業にとっても、このネットワークの活用は貴重かつ重要な戦略の一部になると思っています。
田中 最もベンチマークすべき会社が、アリババということですね。そして僭越ながら、私も『デジタルシフト戦略最前線』をテーマに、GAFABATH、そして日本で最先端を走るソフトバンクグループさんを対象に、米中日企業の比較をさせていただく予定です。その後、鉢嶺新会長と野内新社長によるプレゼンテーションを経て、色々な方によるトークセッションが行われます。この辺りの見どころはいかがでしょうか。

鉢嶺 トークセッションは二つあります。一つは損保ジャパンさんとLINE株式会社さんとともに行っている新規事業についてお話しいたします。今後、さまざまな企業のデジタルのビジネスモデルをつくっていくうえで一つのケースになると思っています。LINEを使って何ができるのか、を具体的に深掘りしますので、「自社だと、どうできるのか」と発想を膨らませながら見ていただきたいと思います。

田中 こちらの事業は、LINEさんとの広告事業の話でも、デジタルマーケティングの話でもなく、デジタルシフトの事業を損保ジャパンさんに対して一緒にご提供したというプロジェクトですよね。簡単に概要を聞かせてください。

鉢嶺 こちらは、損保ジャパンユーザーの方が事故を起こしたときにLINEを使って損保ジャパンの担当者とやり取りできたり、事故車の修理代をAIが瞬時に査定してくれたりするものです。いままでコールセンターを介し、その後の対応をアナログ的に確認してきましたが、これがLINE上で完結するので、ユーザーからすると利便性が非常に高まります。損保ジャパンさんや代理店さんもまた、事故状況を把握しやすくなり、効率性が格段に上がります。サービスの開発は、LINEのテクノロジーパートナー企業でもある当社が、自社のツールをベースに開発し、提供しているものになります。
LINEは、日本人の非常に多くの方が使うプラットフォームですから、独自のアプリを作るより格段にユーザーさんの利用度も高く、開発コストも安く抑えられる。これを活用していかに新しいモデルを立ち上げるのか、効率化を図るかの部分を我々がサポートしています。この技術は、さまざまな会社様に応用できそうです。実際、複数の業態で、どうやってサービスに落とし込もうか、という話が進んでいますので、来場する方にもそのヒントを得ていただきたいと思います。加えて、かなうならこの場で大きな発表もしたいと思っています。こうご期待ください。
田中 もう一つのトークセッションが、AI人材のプラットフォームとしては日本最大ともいわれる、株式会社SIGNATEによるものです。代表の齊藤秀さんご自身が登壇者を選定されていますが、こちらの見どころはいかがでしょうか。

鉢嶺 SIGNATEは、当社の100%子会社です。現在2万5,000人を超える日本中のAI技術者、データサイエンティストの方に登録いただいている日本最大のプラットフォーム「SIGNATE(シグネイト)」を運営しています。ここは、システムやアルゴリズムの開発、人材供給のお手伝い、人材教育といったサポートをさまざまな企業様に行っており、今回はそのうちの二社であります、西日本旅客鉄道株式会社(JR西日本)さん、株式会社メルカリさんの責任者の方にもご登壇いただき、具体的に何をしているのか、今後どんなビジョンを掲げているのか等、かなりリアルな話をしていただきます。AIと聞くだけでは、ざっくりしすぎていてイメージを捉えるのが難しいと思うので、ぜひ会場で、「具体的にこういうことができるんだ」という実感値を持っていただきたいと思っています。

その変革に勇気と希望を。日本全体を大きく変えるお手伝いがしたい

田中 今日は、Digital Shift Summitの見どころを鉢嶺さんに伺ってきました。最後に「その変革に勇気と希望を」というミッションを掲げるDigital Shift Timesにかける思いのもと、メッセージをいただきたいと思います。

鉢嶺 「その変革に勇気と希望を」そのものなのですが、デジタルシフト、変革ってやはり難しいですし、チャレンジャブルですよね。
私たちは、社内のシステムをデジタル化することを『デジタライズ』と呼んでいますが、そこはお手伝いしません。基本的にはビジネスモデル全体をデジタル化する、いわゆるデジタルトランスフォーメーションと言われる領域をお手伝いしています。つまり、“企業の武器づくり”ですね。そのうえでトップラインを上げていくサポートをメインにしています。新規事業の立ち上げ、かつ未知の世界であるデジタル。非常に難しい領域ですが、ここに着手しないことには日本の国力は上がりませんし、企業の付加価値は上がりません。ですから、ここは何としてもやり遂げたいと思っています。
日本全体でいえば、GAFAをはじめとしたプラットフォームの争いで日本企業が勝つことは難しい。ですから、主戦場を次の市場に移したほうがいいと思っています。日本の一番の課題である、労働力不足、少子高齢化を攻略するには、AIやロボティクス、IoTが必ず重要になってきます。そのデジタルの部分を僕らがけん引し、日本の企業、ひいては日本の社会全体を大きく変えるお手伝いをしていきたい思いがあります。

田中 最後にイベントの概要を振り返っておきましょう。
Digital Shift Summitは、2020年3月5日木曜日13時より、LINE CUBE SHIBUYA(旧渋谷公会堂)で開催されます。

鉢嶺 1,800人の方を、無料でお迎えします。

田中 でしたら、まだまだお越しいただけますね。みなさん、ぜひ足をお運びください! 鉢嶺さん、本日はどうもありがとうございました。

鉢嶺 ありがとうございました。
田中道昭(Michiaki Tanaka)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。株式会社マージングポイント代表取締役社長。「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」という独自の立ち位置から書籍・新聞・雑誌・オンラインメディア等でデジタルシフトについての発信も使命感をもって行っている。ストラテジー&マーケティング及びリーダーシップ&ミッションマネジメントを専門としている。デジタルシフトについてオプトホールディング及び同グループ企業の戦略アドバイザーを務め、すでに複数の重要プロジェクトを推進している。主な著書に、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)、『2022年の次世代自動車産業』『アマゾンが描く2022年の世界』(ともにPHPビジネス新書)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『ミッションの経営学』(すばる舎リンケージ)、共著に『あしたの履歴書』(ダイヤモンド社)など。
鉢嶺登(Noboru Hachimine)
株式会社オプトホールディング 代表取締役社長 グループCEO
公益社団法人経済同友会 幹事
一般社団法人新経済連盟 理事
一般社団法人ネッパン協議会 代表理事

1994年㈱オプト(現:㈱オプトホールディング)設立。2004年、ジャスダック上場。2013年、東証一部へ市場変更。インターネット広告代理店の枠にとどまらず、日本企業のデジタルシフトを支援する会社として業務を拡大し、幅広いサービスを提供している。また、自ら新規事業の立ち上げや、ベンチャー企業の投資育成に努めている。著書に『ビジネスマンは35歳で一度死ぬ』、『役員になれる人の「読書力」鍛え方の流儀』

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