人気急上昇中のおうちフィットネススタジオ「SOELU」。既存のビジネスモデルを、デジタル化で新しい事業に。
2020/4/15
ITが発達しデジタル化が進むにつれ、店舗で受けるのが当たり前だったサービスは次々と在宅オンラインに置き換わっている。2000年代から急速に日本人に親しまれるようになったヨガもその一つ。国内だけで月一回以上ヨガ教室に通う人の数はおよそ600万人にのぼり、その数は今も増加傾向にある。そんな市場の盛り上がりに着目し、レッスンを自宅で受けられるオンラインヨガスタジオサービス「SOELU」を展開しているのがSOELU株式会社だ。同社は新型コロナウイルス感染症により、業界内でも難しい局面に立たされる企業が多い中、急速に成長しているという。
対面サービスをオンラインに置き換える際に必要な考え方とは。SOELU株式会社を創業した2名、CEOの蒋 詩豪氏とCOOの白土 聡志氏にお話を伺った。
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参加ハードルの低いレッスンで潜在層にアプローチし、市場のパイを増やす
蒋:我々は自宅で人気インストラクターのレッスンを受けられるオンラインのヨガスタジオ「SOELU」を運営しています。 先生も生徒もスタジオに行かなくて良いのが特徴です。
レッスン受講生の9割は女性で、特に子育てをしながらお仕事をされている方が多いです。ご自分の時間がなかなか取れない中、昔の体型を取り戻したい、運動不足を解消したいというニーズでのご利用が多く、妊娠中などで外に出づらい女性のご利用も多いですね。
白土:朝5時から夜中24時まで講座があり、1レッスンあたり15名ほどの方が参加されます。講師と生徒はスマホやPCを活用し、テレビ電話のような形でコミュニケーションをとります。自宅を見られるのに抵抗のあるユーザーが多いと思い、あえて生徒同士は見えないようにしています。
自宅からタオル一つで気軽に参加できるハードルの低さもあり、ユーザーの7割以上は初心者の方です。ヨガスタジオに通われている方が切り替えて使うというよりは、関心はあったけれどスタジオには通っていなかった人たちに向けてサービスを展開しており、市場のパイを広げている状況です。
蒋:インストラクターさんたちにとっても、リアルなスタジオでは予約が入らない・入れにくい時間にレッスンを開講できるメリットがあります。もともと生徒だった人が資格をとってインストラクターになった例もあります。
ユーザーニーズを読み解き、ライブフィットネス事業へ参入
蒋: 2014年の創業から3年間は今と全く関係ないキュレーションメディア事業を展開していました。創業時はM&Aも視野に入れて事業づくりを行なっていたのですが、事業を運営するうちに視座が高まったこともあり、上場して持続可能な成長を続ける会社を作りたいと思うようになったんです。そこで元の事業を譲渡し、ゼロベースでもう一回新しいサービスを作ることに決めました。
新しいサービスを作る上で3つの要素を重視しました。1つ目は今後伸びるマーケットかどうか。2つ目は我々が関心のある分野かどうか。3つ目は我々の強みが活かせるかどうか。そこで目をつけたのがヘルスケア産業でした。
ヘルスケア産業は今後世界的に見ても間違いなく伸びていく領域ですし、メイドインジャパンで海外に展開できる可能性のある商材でもあります。とはいえ、過度に専門性の高い医療などの領域では我々の強みが活かせません。ヘルスケア産業の中でどの領域ならIPOレベルのサービスを作れるのか考えた時、たどり着いたのはフィットネスでした。
フィットネス市場はここ数年微増でしたがRIZAPやカーブスなど無人ジムは急成長していました。ユーザーニーズが細分化され、これまでの総合ジムが市場を独占していた状態からニーズに特化した新しいサービスが伸びていたんです。
その上で、ジム通いが続かないという課題感を抱えている人が多いことにも気がつきました。実際、会社員や子育て中の方がジムに通い続けるのは難しく、最初の2ヶ月頑張れたとしても2年続けられる人は少ないです。私たち自身も、仕事の時間が不規則で決まった時間に通い続けることは難しかったです。どうすれば自分たちのような人でも運動を続けられるのか考えましたね。
そこで、日中にスタジオに行かなくてもフィットネスサービスが受けられると良いのではと思いつきました。当時流行していたオンライン英会話にも着想を得て、2017年よりオンラインでのフィットネスサービスの提供を始めました。
白土:最初は動画教材の提供を考えていましたが、それだと続かないのでライブでカメラ越しに先生がいる状態を作ることにしました。続けるためには人の目があることが重要なのではと思ったんです。
ちょうど同じ頃、アメリカで誕生したPeloton社が提供する、自宅で手軽に受けられるサイクルエクササイズが全米で爆発的に流行。我々が考えている方向性は間違ってないと確信しました。サイクルエクササイズに変わる、日本にフィットしたエクササイズの形を考えた時、ヨガを思いつきました。
蒋:ターゲットとしていた女性に刺さり、自宅ででき、かつ先生と一緒にやることで付加価値が高まるコンテンツを考えた時、ヨガにたどり着いたのです。
―なるほど、市場や自分たちの強みをもとに、作り上げたのが今のサービスだったんですね。2017年から今のサービスを開始されていますが、立ち上げ当初は苦労されたのでしょうか?
白土:立ち上げ期は苦労ばかりでした。最初は、ユーザーが利用しやすい時間帯にレッスン枠を用意することに注力しました。まだ全然ユーザーがいない状況で、朝の5時から24時までレッスンを受けられるように体制を整えました。インストラクター側が安心して働けるようにするため、たとえ受講生が0でもある程度のレッスンフィーは保証していたので、一時的に原価率が300%を越えるなんてこともありました。
蒋:その時期は非常に苦しかったですね。ただ、1レッスンあたりの単価をあげてしまうと月数回も継続して受けられないと思ったので、グッとこらえて頑張りました。
白土:結構長い間苦しかったですよね。ターゲットを定めるため、いろんな人に使ってもらう中、子育て中の女性からの反応がすごくよいことがわかりました。そこで、レッスンの時間帯からLPの見せ方までターゲットに刺さるものに作り直したのです。その結果、少しずつ売上が伸びるようになってきました。
デジタル化成功のためには、ユーザーが求める体験の設計が重要
蒋:ヨガへの世間の認知や好感度がここ数年で伸びてきているのを感じます。特にホットヨガの出現が大きかったですね。もし6〜7年前に始めていたら、サービスはここまで伸びてなかったと思います。日本が海外と比べてネット回線が安定しており、かつハイスペックなiPhoneのシェアが高いことも利用者が伸びた背景にはあると思っています。
その上で、今回の新型コロナウイルス感染症の影響はとても大きかったですね。外出できず困っている方が利用を始めるケースが多く、ユーザー数は去年末から約4倍ペースで増えています。人々が「そういえば運動って自宅でできたな」と気づいたのだと思います。
―既存サービスとして存在していたフィットネス事業をデジタルシフトにより別のサービスに生まれ変わらせた好例だと思います。デジタル化を考える上で重視したポイントはどこですか?
白土:常にユーザー目線であることです。
IT起業家的には、デジタル化と言うと、自動化やレバレッジに目を向けがちですが我々はどうすればユーザーが求める体験を提供できるのかにフォーカスしてサービスを作りこみました。フィットネスにおいて一番重要なのは続くことで、そのためにはオペレーションの自動化を図りサブスク的に動画配信をするよりも、インストラクターと生徒とが繋がるライブが必要。また、レッスンが受けられる時間も日中だけでなく朝や夜が必要、とサービスを作っていきました。
オンラインとオフラインの融合を目指す
蒋:まず、ヨガ以外の筋トレや体幹トレーニング、ダンスなどのレッスンが受けられるようにしたいと考えています。
一方、オンラインレッスンは持続可能な健康習慣を作る上での一つの選択肢にしか過ぎないと思っているため、別のサービスも検討しています。実際、ずっと自宅で運動し続けるのは体験自体がマンネリ化し、継続のモチベーションが薄まっていくのだと思っているのです。
継続した運動習慣を生み出すためには、オンラインだけでなくオフラインでもサービスを提供する必要があると思っていて、ジム利用と併用できるプランを考えています。イメージとしては、ジムをメインで使いつつ、たまに早朝や深夜にストレッチやヨガをやりたいと言う方や、逆に、基本は自宅レッスンだけど月数回は旦那さんに子どもを預けてレッスンを受けにいきたい女性が利用できるプランです。
ジムと自宅、両方を運動の場として使えるようにすれば、より多くの人に5年10年と長く運動を続けてもらえると思っています。提携いただくジム側にとっても、併用プランがあれば解約率を改善することができるので価値を提供できると考えています。
デジタルにシフト、と言うよりはデジタルとリアルの融合を今後意識していきたいですね。
中国上海出身。7 歳で渡日し、早稲田商学部を卒業。大学時代にスポーツ選手のマネジメント・エージェント業務を経験。グリーに入社し、広告事業部門を経て、2014年に ソエルを設立。17年にオンラインでヨガレッスンが受けられ るサービスを開始する。
東京大学文学部卒業。学生時代に複数のベ ンチャーの創業期に参画し、新卒で入社したグリーではソーシャルゲームの運用、プラットフォーム横串でのKPI分析チームなどを経験。2014年に蒋詩豪氏と共にソエルを設立し、プロダクト企画&設計などを担当する。