住友生命新社長 高田幸徳氏×立教大学ビジネススクール 田中道昭教授対談。「デジタル×グリーン×エクイティの時代」に、高田新社長が描く生命保険の未来構想とは

100年に一度と言われるような金融・保険業界の大変革期を迎える中、住友生命保険相互会社では昨年12月15日に本年4月1日付けで同社新社長が誕生することを発表しました。その数週間後には、三菱UFJフィナンシャル・グループでも三菱UFJ銀行の頭取交代を発表、2社共に前トップからの大幅な若返りということも重なり、変化や進化が加速されるものと期待されています。今回は、「あなたの未来を強くする」というブランドミッションのもと、「WaaS(Well-being as a Service)」というコンセプトでのサービス提供や、Vitality健康プログラムをプラスした健康増進型保険“住友生命「Vitality」”など、先進的な事業を展開する住友生命の新社長高田 幸徳氏に、立教大学ビジネススクール田中道昭教授がお話を伺います。

後編は、機関投資家としてWell-beingを目指すため、気候変動対策にどう取り組むのか、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンについての考え方、年間2億日分のデータが集まると言われる健康増進型保険“住友生命「Vitality」”の全貌について、高田新社長にお話を伺います。

*本稿は対談の要旨であり、実際の対談内容は動画をご覧ください。

機関投資家として、気候変動対策にどうコミットしていくのか

田中:今回のWell-being as a Service、WaaSという概念にしても、元々高田社長はオープンプラットフォーム構想なども含め、他企業と組む、投資するなど、最初から外に意識の目を向けて来られた経営者だと思います。高田社長ご自身、そういった発想の原点はどこにあると思われますか?

高田:田中先生の著書との出会いが原点の一つです。ホワイトオーシャン戦略シリーズの『ミッションの経営学』。この本を読んで、自分が今まで思っていたことがすっきりと整理されていると感じ、それが今、自分自身のベースになっています。まずは、新しいものやブルーオーシャンを探す前に、既存の顧客、あるいは今、目の前にいる人に対して、できることがもっとあるということ。それからミッションがなぜ必要なのかということ。そういうことを突き詰めていった時に、私たち住友生命の原点、今でいう「パーパス」は何か、と考えたのです。社是の一番目に「社会公共の福祉に貢献する」と書かれていますが、単に保険を販売するということではなく、社会が今、困っていることは何かを突き詰めていった時に、我々は何をやるべきかを考えることが必要ということだと思います。

それから先ほども「進取不屈の精神」という言葉を申し上げましたが、我々単独だけではなく、常により良い状態にしていくために、己が為ではなく、他を利するために何ができるか。それが結果的にオープンプラットフォームやアライアンスの形になっているのだと思います。これはある意味、住友の原点でもあると思うのです。ですから、住友生命の社会公共への貢献として、これから2030年、2050年に向けてやっていくことだと思っています。

田中:なるほど。まずは自分たちが持っているもの、持てるものをフル活用していく中で、自分自身や職員・顧客など、社外の方も含めてそれぞれの持ち味を生かしていく、というところから発想が生まれているのですね。Well-beingという概念は、SDGsやESGともかなりオーバーラップする概念だと思います。

まずは顧客のWell-beingを、ということだと思いますが、今は顧客だけではなく、広く社会や地球環境まで考えるべき状況となっています。次にお伺いしたいのは、機関投資家として、今Well-beingという視点で考えると欠かせない気候変動対策についてです。 バイデン政権が誕生し、日本も遅ればせながら気候変動対策にかなりシフトしてきましたが、機関投資家として昨年12月8日にClimate Action 100+*やCDP*にもサインしたことを公表していらっしゃいます。まずはトップリーダーとして、どういう気概を持ってやり抜いていくお考えでしょうか?

*Climate Action 100+:機関投資家の気候変動アクション・イニシアチブ。
*CDP:英国の慈善団体が管理する非政府組織(NGO)。投資家、企業、国家、地域、都市が自らの環境影響を管理するためのグローバルな情報開示システムを運営している。


高田:我々は保険事業と共に、機関投資家として多くの資産を運用していく、あるいは事業者様に投資をしていくという使命がございます。その中で今、日本のみならず世界の課題、もっと言えば地球の課題と言われている温室効果ガス排出量削減に向けては積極的に取り組んでいきたいと思います。2050年に向けて、カーボンニュートラルには当然コミットさせていただきますし、それを2030年に向けてどのくらいのスピードでやっていけるかが大切だと思っています。

我々には株や債券、不動産、そして融資など、様々な投資項目がございます。株や社債などは企業に対してですので、エンゲージメントが基本となります。最終的にはダイベストメント*というやり方もありますが、結局我々がダイベストメントしても誰かが投資すれば同じことなのであまり意味がありません。

*ダイベストメント:株、債券、投資信託を手放したり、銀行口座から資金を引き揚げること。インベストメント(investment)の反対語。

我々の投資先が、どう気候変動対策や温室効果ガス排出量削減に進んでいけるかに対し、積極的にエンゲージメントしていきたいと考えておりますし、社会に向けても取組みを発信していく機関投資家でありたいとも思っています。そういう意味では日本の株や債券のみならず、海外の投資項目に対しても積極的にエンゲージメントしていきたいと考えています。

田中:機関投資家としては一元的にはダイベストメント、売却するということはあるかもしれませんが、それだけでは結局他の誰かに株式を買われるだけなので、むしろ協調してエンゲージメントして対峙していくことが、本質的な変化に通じるということですね。気候変動対策について、私がかねてより声高に申し上げているのは、やはり欧米だとEnvironmental Justice、Climate Justiceなど、そこにJustice=正義という言葉が使われていて、日本語での正義感や使命感よりも相当強烈な概念だと思います。

宗教心に近いような非常に強い正義感を持って成し遂げないと、このままだと地球が本当に取り返しのつかないことになってしまうということです。昨年の7月にアップルが2030年までに全製品、全プラットフォーム全体のシステム全体をカーボンニュートラルにすると宣言したことが非常に先鋭的だと思っておりましたが、オンライン開催となった今年のCES2021を拝見して一番驚いたのは、ドイツ企業のBOSCHがなんと昨年の段階ですでにカーボンニュートラルを実現したと発表したことです。

日本はデジタル以上にグリーン、気候変動対策が周回遅れになっており、このClimate Action 100+で名指しされている日本企業も結構多いです。その一方で日本企業の機関投資家として名前を連ねているということで、更にお伺いしたいのは、気候変動対策についてより具体的に、どんな行動をしていきたいとお考えでしょうか?

高田:我々、生命保険会社だけでは成り立たないと感じています。日本の投資家全体がカーボンニュートラルに向いていく、あるいはカーボンニュートラルへ取り組むことによって収益が上がるというシステムを作らないと、企業が安心して変革していけないと思います。機関投資家として我々は責任投資原則を掲げていますが、それをどこまで自らの業態を越えて機能を発揮していけるかが重要だと思います。

一機関投資家に過ぎないと言ってしまえばそれまでですが、私どものような機関投資家が先行して、積極的に取り組むことにより、いろんな金融機関がそれに賛同していけると思います。そうすると、今は気候変動対策などに積極的に取り組めていない事業会社に対して、ダイベストメントするのではなく、働きかけが進むでしょうし、2030年に向けて変わっていくことを応援できるならば、社会的に非常に意義のある投資ではないかと思います。

田中:そうですよね。 やはりダイベストメントというアクションはそれぞれの各個体に対して非常にインパクトがある行動である一方で、機関投資家としての本質的な取り組みとしては、ホールドする中で働きかけ、行動変容を起こしていくことが重要ですからね。ある意味バイデン政権が生まれたことも、非常に大きな契機だと思います。

「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンの時代」に日本企業はどう向き合うべきなのか

田中:私の話で恐縮ですが、5月の末から6月に刊行予定の最新書籍「世界最先端企業8社の大戦略」のサブタイトルは「デジタル×グリーン×エクイティの時代」というものです。掲げた三つの言葉「デジタル×グリーン×エクイティ」のエクイティについて、最近欧米ではダイバーシティ&インクルージョンに加えて、ダイバーシティ、 エクイティ&インクルージョンという言葉が用いられています。日本語に訳すと「公平公正」という意味です。

いわゆる単に平等というのは英語だとEqualityという言葉で、形式的に平等にするような意味があります。一方でエクイティ(Equity)というのは本質的に平等にしていくという考え方です。やはりエクイティが問われるものは、公平公正にしていかないといけないものです。例えばアメリカだと黒人の問題や、最近はアジア人に対する差別の問題など、人種間の問題があります。日本では、まずは、男女間のエクイティの問題が問われていると思います。そういう意味で、住友生命の新社長としてエクイティ、ダイバーシティ、インクルージョンに対して、どう取り組んでいかれますか?

高田:我々の事業は古くから、ダイバーシティの中でも特に、女性人材が働く場という点においては進んでいます。現在、管理職のうち女性が占める割合は42%*であり、これを5年後には50%にする予定です。世の中的には部長層や役員層が何人いるかが大きな指標となっていますが、女性の働く場所や、働き方などの環境を整えているのかも重要なポイントだと思います。​

*2020年4月時点の実績。

それからもう一つ、障がい者雇用について新しい取組みを進めています。日本でも、障がい者雇用についての取組みを一生懸命やっていますが、世界的にも障がい者雇用をどうしていくかは、なかなか難しい問題です。そこで、シンガポールのNPO団体に寄付をして、シンガポールに障がい者の就労支援を行う団体を立ち上げようとしています。障がい者と言うと、単純な作業だけをすると思われがちですが、デジタル人材の育成に向けて様々なサポートを実施します。新しい技術を取り入れることで、障がい者の方々が働く、あるいは世の中に貢献していくということを積極的に支援しようとしています。

シンガポールでプロトタイプを作り、それを日本、あるいは世界に展開していこうと試みていますが、これは一つのチャレンジでもあります。これは自社のためではなく、NPO団体と取り組んでいますので、社会公共にどう貢献していくのかということになると思います。多様性は非常に重要で、多様性がないとイノベーションも起こりません。人材をどう多様化していくのか、あるいは人材の多様化にどう挑戦していくかが、これからの時代の一つの大きなポイントです。先生の新著も読ませて頂き、今後さらにエクイティにも挑戦していきたいと思っています。

田中:そうですね。新著のサブタイトルを「デジタル×グリーン×エクイティ」という三つの掛け算にしたのには強い想いがあります。やはりデジタルに必要なのは、以前からお話ししているように、まずは顧客中心主義です。しかし顧客中心だけではもはや立ちゆきません。顧客中心を本質的に理解した上で、いろんな商品をデザインし、それが今や職員だけでなく様々な人も含めた、人間中心主義でないといけません。しかし人間中心だけでは地球環境が損なわれていくということを踏まえ、やはり人×地球環境中心であるべきというのがデジタル× グリーンに込めた思いです。

そこにエクイティを掛け算したのは、コロナ禍で一気に格差が拡大したことが背景にあります。収入や働き方などをとっても、格差は拡大しています。その格差をエクイティ、公平公正で正していかないといけないという想いを、三つの言葉に込めました。そういう意味では、デジタルこそ実は電力を消費しますのでグリーンなエネルギーでやっていかないといけないですし、格差も広がってしまうので企図してエクイティを意識して欲しいということで、是非この3つを意識していただければと思います。

高田:今まで世の中がやっていた競争優位による価値実現ではなく、SDGsの2030年までに「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という概念を踏まえたエクイティの中で、存在し続けることが必要という、先生のお考えですよね。

田中:そうですね。私の考えというよりも、実は日本ではあまり伝わっていませんが、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンというのは、2020年の世界経済フォーラムが「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン4.0」という報告書を出しているぐらい主流の概念です。そもそも、日本ではこの三つの概念が同時に語られることは少ないですが、世界では4.0と定義されるくらい、本質的な流れとなっています。単に形式的な平等ではなく、エクイティ、本当に公平公正、ジャスティス=正義にも近い概念だと思います。

高田:日本は地政学・歴史学的にも、あまりインクルージョンを言う必要がなかったのかもしれないですよね。これから経済がどうなるかは分かりませんが、 やはり世界全体の流れを我々日本がどこまでキャッチアップできるかが、ある意味必要になるかもしれませんね。

田中:そうですね。三方よしにしても、日本は周回遅れで日本が従来掲げてきたことに戻った気もしますし、一方で欧米の動きを見ていると、戻ったようで全然違うような気もします。ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンにしても元々あったような気がしますが、やはり日本は相対的には単一民族ですのであまり差別を感じないで生活ができていましたよね。私もアメリカに留学した時に思いましたが、アジア人に対する差別はものすごいものがあります。ちょうど今アメリカもコロナ禍で、トランプ前大統領が「チャイナウイルス」と発言したことも大きく影響していると思いますが、アメリカに住んでみて思うのは、結局普通のアメリカ人は中国人と韓国人、日本人の見分けはつかないですし、そもそも見分けをしておらず、ひとまとめでアジア人なのです。

やはりアジア人はとても差別を受けています。私は自分がアメリカに住んで差別を受けたので人一倍そう思います。『目の見えない人は世界をどう見ているのか』というおすすめの本の中に、非常に面白いくだりがあります。本の中にも出てくるのですが、まず富士山をイメージしてもらえますか?富士山を健常者の、目が見える人にイメージしてくださいと言うと、大体どこかで見たような富士山の絵がイメージされます。でもこれを目の見えない人に質問するとどういう答えが出てくるかと言うと、立体で把握されるらしいのです。要するに目が見えない人というのはそもそも目では見えていませんから、そういう意味での視点がないわけです。

目の見える人は見えていますから、必ずどこかの視点から見た、富士山なのです。目が見えない人は、最初にどう学校で教わるかと言うと、富士山の模型を渡されて、手で把握するなど立体で把握しているらしいのです。そういう意味でやはり目が見えている人は必ず自分の視点でしかある物事を見ないのですが、目が見えていない人は物理的な視点がそもそもないから、立体的に大局的に理解しようとする。自戒を込めて、目が見えている人は、自分の見えている視点でしか物事が見えていないと謙虚に考える必要がある。物事を見る時に、多数派の視点ではなく、常に少数派の視点で見ることや、自分が多数派の視点だけで見ていないかを考えることが大切ですね。

私はアメリカに行って差別を受けた経験から、そういう意識が身についたところがあります。そういう意味では、日本は差別を感じる機会が少ないだけで、エクイティが必ずしもできているわけではなく、経験していないだけ。決して、本質的にエクイティが出来ているわけではありません。だからこそやはり機関投資家を代表する一社である住友生命には今後期待したいところですが、いかがでしょうか?

高田:そうですね。保険会社として、お客さまに約束した予定利率を上回る運用をすることは当然必要ですが、それ以上に先生が言うグリーンに向けて、環境に対する取組みをエンゲージメントする、アジャストする、そのための投資を通じてどう成長し、あるいは企業の存在価値と投資効率をどう上げていくか、という観点がより重要になってくると思っています。

田中:そうですよね。そういう意味で日本は急にグリーン、脱炭素と言われても、トヨタ自動車の豊田社長の言葉ではないですが、そもそもエネルギー政策から変えないと、やはり一産業、ましては一企業ではどうしようもないわけです。そういう意味ではエネルギー政策の転化というところ含めて、機関投資家として国を動かしていくことが必要なのでしょうね。

年間2億日分のデータが集まる、健康増進型保険“住友生命「Vitality」”の全貌に迫る

田中:デジタルシフトタイムズとして一番お伺いしたいのが、やはりVitality、健康増進型保険についてです。そもそもVitalityはどういう商品なのか、その3つのステップについて、改めてご説明いただければと思います。

高田:一言で健康増進型保険と言っていますが、日々の健康には様々な定義があります。身体的健康、精神的健康、そして社会的健康というものがある中で、我々としては身体的健康を生命保険でどうサポートするかということを考えています。まず自分自身の健康を知るということが第一ステップになりますので、毎年健康診断を受け、健康診断の数値を把握することが非常に重要です。

次に、把握した数値についてですが、実は統計的に半分以上の人が、少々数値が悪かったとしても、まあいいか、大丈夫か、と何もしていない状態です。本当に悪くならないと病院に行かない、という傾向もあります。それをどう改善するのか、あるいはそのための要素として運動、食生活、そして社会参加、この三つの取り組みをポイント化し、続けてもらう様々な仕組みをプログラムの中に入れています。

先ほどもお話ししましたが、実は健康というのは、人間は本質的にはあまりやりたくないものなのです。どちらかと言うと不健康になりたいという動物らしいのですね。

田中:不健康なこと好きですよね。

高田:不健康、大好きですよね。例えばお腹いっぱい食べたいとか、すぐ寝たいとか、だらだらしたいとか。

田中:タバコも、脂ぎったラーメンしかりですね。

高田:目の前のちょっとしたご褒美や続ける仕組み、始めるきっかけをいろんな事業者と組んで、楽しくやっていけるような枠組みを作っています。

先月、『ポケモンGO』との提携を発表しました。『ポケモンGO』をしながらVitalityで歩数をカウントし、目標をクリアすることで『ポケモンGO』の中でアイテムがもらえるという取り組みを始めています。こうした取組みも含め、いよいよ保険も様々な楽しい取組みをしている事業会社と協働する時代になっています。

田中:前編からの文脈でいくと、“あなたの未来を強くする”というブランドミッションが練りこまれているのがVitalityだと思いますし、さらにWaaS、Well-beingなどとも直結しているサービスだと思います。一昨年には、私の立教大学ビジネススクールのメディカルビジネス論にもご登壇いただき、その時もご説明いただきましたが、さらに様々なデータが積み上がっていると思います。

次にお伺いしたいのはVitalityを使われて、人々に様々な行動変容が起きていると思います。当時も、Well-beingに貢献しているのがVitalityだと伺いましたが、Vitalityを顧客が使われることで実際にどういう行動変容が起こっているのでしょうか?

高田:最初にVitalityという保険にご加入いただくと、その段階でまず保険料が15%割引になります。人間の本質の一つに、一回得たものは失いたくないという損失回避の心理が働くので、これを維持していくために何をしたら良いか、ということになります。健康診断や日々の運動などの取組みをポイント化することにより、健康の見える化をしていくのですが、アンケートや統計を取りますと、Vitalityに加入いただいたお客様の約9割は日々の行動が変わった、あるいは健康に取り組むようになったという風にお答えいただいています。

さらに、血圧の高い方の約半数は血圧が10ポイント以上下がったというデータや、他の数値も改善したという例が多く、健康データ上も目に見える形で良くなっています。何より、家族との対話が増えたという意見が多いです。やはり家族と共に健康に取り組むことが、一番効果があるということですね。

田中:ご自身だけではなく、家族と一緒に取り組む方が多いわけですね。

高田:はい、ご夫婦やお子さまなど、ご家族で一緒に取り組まれる方が多いですね。日々のちょっとした健康のための取組みが家族のためになるという仕組みは意外に効果があります。健康ってストイックにやると実は続かないのです。アスリートの方はできますが、そうでない方は飽きてしまうのですね。

田中:強い意志が必要ですよね。

高田:一番身近な応援者は家族だということで、ご家族ぐるみでVitalityに加入いただくと、エンゲージメントがどんどん増えていくという、非常に優れた仕組みを持つ保険です。これは南アフリカのディスカバリー社という会社が20年以上前に開発をした世界的ブランドのプログラムなのですが、一国一社に導入するという方針があり、日本では住友生命が独占的に販売をしています。

南アフリカは寿命が短い国家だったわけですが、保険会社がどういう社会貢献ができるかを当時のファウンダーが考え、健康増進を促進する、エンゲージメントすることで保険事業として、社会貢献、国家貢献したいということが始まりだったようです。様々な仕組みが理論的に作られており、大変面白いプログラムだと思います。

田中:先ほども住友生命は保険会社として、人とデジタルで支援する、人とデジタルで顧客とつながるという文脈がありましたが、やはりVitalityこそデジタルで顧客とつながる大きなツールだと思いますし、その先にはパーソナライゼーション、カスタマイゼーション、まさに顧客をその人の宇宙の中核に置くということであり、顧客とデジタルでつながるということだと思います。差し支えない範囲で構いませんので、パーソナライゼーション、 カスタマーゼーションを通じて、Vitalityが個々一人一人の顧客に出来ることをお聞かせいただけますか。

高田:本来生命保険というのは、いざという時のためにある商品でした。ですから無理やりデジタルにしなくても、備えておけさえすればよかったのです。しかし、Vitalityは毎日、24時間お客さまと接点を持つわけですので、非常に大きなデータ量があります。今60万人程のご加入者がいらっしゃいますので、365日を掛け合わせると、年間で2億日分のデータとなります。このデータをどうパーソナライズしていくか。例えば田中先生に対してどうカスタマイズをし、データ化して、一般化、あるいは提案していくのか。ちょうど今年になってから、生活支援やサポート支援などデータの統計を通して、お客さまに合わせた日常の変え方の提案を少しずつやっていこうと取組みを始めています。

田中:まずはデータをいくつかに分類して、そのセグメントごとにアドバイスをするところから始めていると。

高田:はい。ところがですね、人間というのはアドバイスをされるとなかなか行動したがらないという特徴もありますので、その通りにやったらポイント化されるなど小さなご褒美を検討しながら、取組みを進めていきたいと思っています。

“Beyond 保険会社”他社との共生で、なくてはならない会社を目指す

田中:最後に、ブランドミッションが練り込まれた商品サービスであるVitality、あるいはWaaSという概念の提起も含め、日本の生命保険会社としては相当先進的な取り組みをされていらっしゃる高田新社長にお伺いします。 4月1日に社長に就任されて、トップリーダーとして住友生命が描く、2025年の世界はどのような感じでしょうか?

高田:私の社長就任のテーマは「人、デジタル、Well-being」、この三つのキーワードでなくてはならない会社になっていくことを掲げています。なくてはならないというのは、非常に逆説的な概念でもあります。

田中:顧客が決める概念ですよね。

高田:はい。顧客が決める概念ですので、それを自ら宣言するというのは、かなり尖っていますが、それでも、なくてはならない存在でありたいのです。Well-beingも先ほど申し上げました通り、身体的なものを超え、精神的、経済的、そして社会的なところに挑戦しようとしています。その中で住友生命の存在意義をどう発揮していくかということを考えますと、Well-beingのような取り組みがこれから世の中でどんどん進んでいく中で、必ずそこには住友生命がいると。あるいは、気が付いたら住友生命のプログラムを使っていた。別に住友生命を意図して選んだわけではなくても住友生命を使って頂いていたら、それで良いと思っています。

そういう存在でありたいという意味では、我々はもっと様々なことに取り組んでいきたい。beyondコロナではないですが、beyond保険会社。これが一つのテーマであり、顧客や社会にどう我々が合わせていけるか。これが私のテーマでありチャレンジでありますし、それに向けて邁進をしていきたいと思っています。

田中:なるほど。 さすがにWell-beingを掲げていらっしゃるだけあって、being、在り方としてはかけがえのない存在でありたい、そこが目指すところなのですね。ありがとうございます。

お忙しい中、長時間にわたってお話をお伺いさせていただきました。最後にデジタルシフトタイムズをご覧になられている多くの経営者の方、デジタルシフトで変革を起こしていこうというリーダーの方々に対して、是非、高田新社長からメッセージをいただければと思います。

高田:改めまして高田でございます。今日は長時間ありがとうございました。今日の一つのテーマでもあるデジタルシフトですが、デジタルはこれからの時代ある意味必要条件ですし、デジタルがなくてはいろんなものは存在しえないと思うのですが、その上にどういう付加価値をつけていくか。人なのか、データなのか、理念なのか、環境なのか。それは各社の知恵の絞り合いですが、一社だけでなく共に進んでいくことが重要ですし、私どもは単独ではなく、共に生きていくということが社是の一つにございます。

やはり、そうなり得る、寄り添う存在でありたいと思っています。CVCファンドも行っておりますので、ベンチャー企業様含め、そういう事業者様の成長を我々も一生懸命応援して一緒に伸びていく、成長していく。これが我々の一つの企業としてのテーマでもあります。是非ご一緒できそうなお取組みがございましたら、積極的にお声掛けいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

田中:高田社長、本日は本当にお忙しい中ありがとうございました。住友生命の社長として、相当大きな使命をお持ちだと思います。日本全体も課題が山積ではございますが、トップリーダーとして一つ一つクリアしていただければと思います。本日はどうもありがとうございました。  

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