住友生命新社長 高田幸徳氏×立教大学ビジネススクール 田中道昭教授対談。“あなたの未来を強くする”住友生命が描く新たなビジョン、WaaS(Well-being as a Service)構想とは何か?

100年に一度と言われるような金融・保険業界の大変革期を迎える中、住友生命保険相互会社では昨年12月15日に本年4月1日付けで同社新社長が誕生することを発表しました。その数週間後には、三菱UFJフィナンシャル・グループでも三菱UFJ銀行の頭取交代を発表、2社共に前トップからの大幅な若返りということも重なり、変化や進化が加速されるものと期待されています。今回は、「あなたの未来を強くする」というブランドミッションのもと、「WaaS(Well-being as a Service)」というコンセプトでのサービス提供や、Vitality健康プログラムをプラスした健康増進型保険“住友生命「Vitality」”など、先進的な事業を展開する住友生命の新社長高田 幸徳氏に、立教大学ビジネススクール田中道昭教授がお話を伺います。

前編は、住友生命が10年前に策定したブランドミッション、「あなたの未来を強くする」に込められた想いや背景、そして新しい事業構想である「WaaS(Well-being as a Service)」について、高田新社長の描く世界観を伺います。

*本稿は対談の要旨であり、実際の対談内容は動画をご覧ください。

「あなたの未来を強くする」。強く、好ましく、ユニークなブランドミッションが3.11直後から10年続いた理由とは

田中:デジタルシフトタイムズ、田中道昭です。本日は住友生命の本社にお伺いしております。本日4月1日付けで住友生命保険相互会社の社長に就任されました高田幸徳さんにお話を伺います。まずは高田社長、社長ご就任おめでとうございます。

高田:ありがとうございます。

田中:高田社長は2011年3月に営業企画部長に就任され、私もその時からのご縁で10年間のお付き合いとなります。今回の社長就任、本当に心からお祝い申し上げます。まずは高田社長から、簡単に自己紹介をお願い致します。

高田:この4月1日より、新しく住友生命保険相互会社の社長になります高田幸徳でございます。戦後、住友生命になりましてから10代目の社長であり、一つの区切りでもあります。

田中:10代目なのですね。

高田:はい。コロナの時代の中にあり、ポストコロナに向けて日本、世界も大きく転換している中、自分がそういうチャンスやきっかけをいただけたことは、大変意義深いですし非常に責任も重大ですが、今、大変やる気に満ちております。

田中:日本にとっても住友生命にとっても重要な節目で社長に就任されたということですね。先ほどもご紹介させていただきましたが、2011年の3月に営業企画部長になられ、その後、企画部長、執行役員を歴任され、それから常務になられてからもCX企画部や、大きな話題となっている新商品担当部署であるVitality戦略部など、本当に最先端から本流までを担当されてきました。

その中で、最初にお伺いしたいのは、3.11が起こった2011年の3月に営業企画部長になられ、ちょうど10年が経ちました。2011年の3.11の時を振り返っていただいて、さらにはこの10年の節目の中で社長になられた想いをお伺いしたいのですが、いかがでしょうか?

高田:ちょうど10年前に3.11東日本大震災があったわけですが、この時ちょうど住友生命にも一つの節目がありました。今掲げている「あなたの未来を強くする」という新しいブランド戦略を、立ち上げる直前だったわけでございます。ちょうど今日4月1日で、このブランド戦略は10年目を迎えますが、その大きな節目でございました。

当時、これからの保険会社あるいは保険業界をこういう風に変えていきたいという大志を抱いて、よし行くぞという時に本当に大きな災害があり、改めて我々の保険会社の意義や生命保険の意義を考えた瞬間でした。ですからある意味、危機からのスタートでした。今はコロナ禍ですが、常に我々は危機を「生活をされているお客さまとともに」という原点を感じる時だと思っています。

田中:なるほど。「あなたの未来を強くする」という住友生命のブランドミッションもしくはブランドプロミスと言ってもいいと思いますが、まず驚くのはTVCMを含めて、それを長年にわたって使い続けてきたこと。他の日本の生命保険会社のCMを見ていると、ブランドミッションに相当するものが数年に一回変わっている印象です。それに対して、住友生命の「あなたの未来を強くする」というブランドミッションは、10年経っても変わらずに引き続き掲げられている。おそらく職員一人ひとりの目標にもなっていると思いますし、本当に対外的なブランドミッションになっていると思います。

ブランドミッション「あなたの未来を強くする」について、当時、その策定から深く関与されていらっしゃったと思いますが、最初から10年間継続して使われるものだと企図されていたのでしょうか。

高田:正直、その当時そこまで思っていたかというと、少し怪しいところはあります。ただ、ブランドは1日にしてならず、継続することがブランドの第一歩であるというのは当時から言っていました。当時それを作ったチームメンバーも、当時社長であった佐藤(現・取締役)も、「10年間やり続ける」ということを明確に言っていました。そういう意味では一つの区切りまでは来たかなと思っています。

田中:なるほど。私もインターナルブランディングや社内の浸透をお手伝いする様々な研修を担当させていただきました。そこでもお話ししてきたように、マーケティング、ブランディングの視点から、それらの「プロフェッサー」として語らせていただくと、やはり「ブランディングの三拍子」というのは、「強く、好ましく、ユニーク」です。これはフィリップ・コトラーが言っているのですが、「強く」、「好ましく」、「ユニーク」の三拍子、三つが揃っていないといけないわけです。

「強く」にはインパクトが必要です。でもインパクトがありすぎると二つ目の「好ましく」を得ることが難しく、顧客から共感されない。だからこれら二つを同時に達成するのはとても難しい。他社において、「強く」「好ましい」ものがあったら、真似すれば二つは達成できるわけですが、やはりそれでは三つ目の「ユニーク」が満たされません。住友生命の「あなたの未来を強くする」というブランディングはまさに、この「強く、好ましく、ユニーク」というところを同時に実現できていると思います。

特に重要なのは、「あなたの未来を強くする」というミッションにおいて、「強くする」という強いインパクトをもつ言葉が入っていること。これは最終的にこれを選ぶにも勇気がいる言葉だったと思うのですが、その当時いかがだったのでしょうか?

高田:先生がおっしゃる通り、住友生命はどちらかというと生真面目で、今で言う「お客さま本位」を地道にはやっていましたが、同業との競争戦略の中で、一歩抜きん出る差別化ができていたかというと、なかなかそこまでいっていなかったのが実情です。生命保険は目に見えないので、ブランディングを行うのは難しかったわけです。

当時も、タグラインを選ぶにあたって、生命保険において「強い」という言葉を出すことについてはどうなのか、という意見がありました。本当は「寄り添う」など、人が困ったいざという時のために備えることが生命保険の原点なのですが、それを乗り越えていくために、あえてエッジの効いたワードを立てた時に、反対論も当然ありました。ただ、当時の社長であった佐藤がこれでいくと決定しました。我々もそれに向けて、じゃあ「あなたの未来」という「あなた」は誰なのかを突き詰めて考え、先生にも色々ご教示いただきましたが、その言葉の実現に向けて、自分たち自身が強くなっていけたのかなと思っています。

田中:なるほど。そういう意味では、「強くする」の部分だけを見ると強すぎてインパクトのある言葉かもしれないですが、全体を通して見ると好ましく共感される、全体として本当に住友生命独自のユニークなブランドプロミスに仕上がっていると思います。

おそらく10年間続いてきたのは、職員一人ひとりの目標にまで高めていくことに、高田社長がずっと苦心されてきたことも大きかったのではないかと思います。ブランドミッションとして10年続き、いまだに経営理念の中核として大切にされている。10年続いた秘訣はどこにあると思いますか?

高田:そうですね。続けていくことがブランドだという一つの意志を持つこと、これは先生にも色々ご協力いただきましたが、会社の中の人たちの火を灯し続けるということに取り組み続けてきたことだと思います。

先生の著書である『ミッションの経営学』に、私も非常に共感を覚えました。やはりミッションの重要性をトップが説き続ける。それを各セクションブランチマネージャーが、導引して説き続けることがまず必要です。

次に、それだけでは中々難しいので、色々な先進の価値というか、新しいチャレンジをやり続けるということ。先生の言葉で言うとユニークさをどう出していくか、ということに取組み、結果、気づいたら10年経っていたということだと思いますね。

田中:なるほど。そういう意味でミッションについては、まずは策定自体が重要ですよね。当然、まずはどういうミッションなのか、ミッションとして優れているかというところです。一方で、実際は定着しないと競争優位に働かないわけです。そういう意味では、より重要なのは、実際にそのブランドミッションに書かれていることが職員の行動に投影されているか、あるいは実際に顧客に提供している商品・サービスの中に練り込まれているのか、です。

当時USP商品*と定義させて頂きましたが、あとで詳しくお伺いする「Vitality」が、「あなたの未来を強くする」というブランドミッションが練り込まれたUSP商品になっていると思います。そういう意味では、職員の行動や目標になり、なおかつこれまでの10年間、ちょうど新しいがん保障「がんPLUS ALIVE」もスタートをされましたが、やはりミッションを商品の中にも練り込んできたというところがその秘訣なのでしょうね。

*USP商品: Unique Selling Proposition(商品やサービスが持つ独自の強み)をもち、企業のミッションが忠実に練り込まれた戦略商品を意味している。

高田:そうですね。やはり生命保険の事業は、商品だけでは成り立ちませんし、あるいはチャネルを通じて伝えるだけでも無理です。加入をしてすぐ実感が湧かないプロダクトですから、どうサービスを提供し続け、その取組みをどう回していくかが非常に重要だと思います。

それはどの保険会社も皆やっていますが、何で差別化するかという点は各社悩んでいます。我々が探し続けたのは、やはり先進の価値です。先生のブランディング・マーケティングのキーワードで言うと、やはり「好ましく」「ユニーク」という、この二項対立をある意味どう乗り越えていくかが非常に大きな悩みでしたし、今も進化しようとし続けているわけです。

原点は、今の時代、顧客が何を悩んでいるのか、あるいはそれに我々がどう寄り添うか、どう問題解決していくのかということです。それが保険会社という我々のような公共性の高い事業に求められるものではないかと思っています。

田中:なるほど。そういう意味では「あなたの未来を強くする」というのは、実際に標榜するのにもすごく勇気がいる言葉だと思います。まずは住友生命自身が、“あなたの未来を強くする”生命保険会社にならないといけない。そして、そこでのトップリーダーである社長、それぞれの支社長、それぞれのリーダーが、“あなたの未来を強くする”ことができるような人間に成長していかなければいけないということだと思います。

そういう意味では会社全体の目標にもなるし、リーダーの目標にもなるし、働いている一人一人の職員の目標にもなるし、やはりそこが定着において見逃せない大きな点だったのでしょうね。

高田:そうですね。我々住友グループの考えのベースに「自利利他公私一如*」という、自分を利するだけではなく他人さまやお客さま、今で言うと世界や地球も含めて同じように考えるものだと思いますが、今で言うCSV(Creating Shared Value)の考え方が、当時からありました。それは我々の入社以来の原点の中に織り込まれていて、それが脈々と続いているということだと思います。

*自利利他公私一如(じりりたこうしいちにょ):「自利利他」とは仏教用語で、「自らの仏道修行により得た功徳を、自分が受け取るとともに、他のためにも仏法の利益をはかる」という意味。「公私一如」とは、「公」に思えることも「私」に通じ、この二つは相反せず一つのものであるという意味。

コロナ禍で迎えた社長就任。大切にするのは「人とデジタルの力」

田中:なるほど。ちょうど今原点というお話がありましたが、今日4月1日、社長就任だけでなく、入社式もあったと思います。そういう意味では4月1日、色々な人の原点だったと思うのですが、お差し支えなければ入社式に新入職員の方に、どんなメッセージを送られたのでしょうか。

高田:私は社長就任にあたって四つの「シン」という言葉を皆さんに言っています。信用の「信」。これが保険会社の原点です。信用信頼の「信」ですね。それから次に深めるの「深」。自分の価値、あるいは今ある色々なものを深めていくという意味であり、自分の技術や人間性を深めていくということです。次に新しいの「新」。これは新しいものにチャレンジをするということ。四つ目が、進むの「進」。これは今でいうサステナブル、それから進化をするということ。さらに、住友生命の社是に「進取不屈の精神」というものがあるのですが、「進取」=進んで取っていくということですけれども、こういうスピリットを持ってほしいという意味です。四つの「シン」を実現する職員になってほしいというメッセージを送りました。

それから4月1日は、日本の場合、新卒で入社する際は、必ず社会人になった初めての日です。先生がよくおっしゃっているDay1。自分の人生のDay1なのだということで、常に今の原点を忘れずに、今どういう気持ちなのか、どういう気持ちで自分はこの会社に入ったのかということを、常に覚えておいてほしいと話しています。今日が、私も社長になってのDay1ですし、皆さんも職員としてのDay1ということで、Day1を原点として、そこから進み続ける自分たちであってほしいとお話ししました。

田中:なるほど。そういう意味では今日2021年4月1日が社長としての高田社長のDay1だと思うのですが、その一方で少し目をつぶっていただいてお考えいただくと、高田社長の原点、Day1とはいつだったのでしょうか。

高田:私にとってのDay1は、1988年の4月1日です。今、金融業界の頭取や社長も、だんだん1988年入社の方が多くなってきています。

田中:そうですね。1988年入社のトップ就任発表の第1号でしたよね。私の出身でもあるMUFGの半沢さん*も、1988年入社でこの4月から頭取となり、金融業界のトップが本当に一気に若返りました。

*半沢淳一氏:2021年4月に新しく三菱UFJ銀行の頭取に就任。

高田:ある意味バブル世代と言われています。

田中:超バブル世代ですよね。

高田:超バブル世代ですし(笑)、入社時は世の中自体イケイケドンドンでした。その後、バブル崩壊を経験し、そこからいわゆる平成不況の時代に入り、ようやく少し世の中が良くなってきた時にコロナ禍が起きた。自然災害を含め、我々の想像し得ないことが、この一年でありました。

そういう意味でのDay1は、職業人のみならず、一人間として一地球人としてどうあるべきかを、本当に考えさせられる時であり、エポックな時です。ちょうどそういう時期の同世代が経営に参画していくということは、ここから大きく日本の企業を変えていく、今日のテーマでありますデジタルシフトしていくという一つの大きなターニングポイントであると思っています。

田中:なるほど。やはりご自分としても1988年4月1日の入社がDay1であるということですね。2020年の12月に高田社長の新社長就任という発表があって、それから年が明けてMUFGでも同じく頭取交代の発表がありました。私も三菱、MUFG出身なので改めて思いますが、私が入社した当時のMUFG、三菱銀行というのは「日本一官僚的な会社」でした。その会社が住友生命の新社長発表に続き、金融業界であれだけの若返りを実現したというのは、やはり金融業界、銀行業界、そして日本も変わってきたということの現れだと思います。

そんな中でコロナになったことも物事が進んだ大きな要因だったと思います。次にお伺いしたいのは、コロナ禍で昨年2020年9月に中期経営計画を改定されましたよね。当然計画の修正に深く関与されていたかと思うのですが、コロナ禍で中計を改定したきっかけや想いはどんなところにあったのでしょうか?

高田:2020年の春先からコロナが世界中を震撼させ、我々の事業のベースである保険の対面営業や、お客さまとの接点をどう持つか、ということについては大きく考えさせられました。やがて来るであろうデジタル時代、デジタルシフトは業界によってはもうまさに起こっているのですが、我々金融業界は顧客層も幅広いですし、足の長い保険商品で言いますと、それほど進まない。

あるいはお客さまの要望においても、やはり最後は対面の方が良いというご意見もあり、対面だからこその目に見える安心感を非常に強く感じていただいておりました。そういう意味で、今まで対面営業を主流にずっと来たのですが、いよいよ人と接点を持てない、あるいは接触できないという大きな環境変化の中で、好む好まざるに関わらずデジタルシフトせざるを得ない、あるいはデジタルでの対応を備えざるを得ないということとなり、4月から突貫工事で、支払いや加入も含めてデジタルでサービスを提供できる体制を整えてきました。それだけではやはり事足りないので、どうやってニューノーマルの時代に向けて取り組んでいくのかということを盛り込んだ計画を9月に出したという形ですね。

田中:なるほど。ちょうど2020年12月の社長就任発表時の記者会見でも、「人とデジタルで」とおっしゃっていました。デジタルも重要だけれども、そこに人の力を加えていくとおっしゃったと記憶しています。やはり両方で、先ほどの四つの「シン」を実現していくということなのでしょうね。

高田:そうですね。やはり我々の生命保険というのは目に見えないものであり、デジタルだけで安心を感じられる方は、まだそう多くないと思うのです。やはり安心感があって、実際の後押しやサポート、寄り添いをしてくれるのが、最後は人だというところが非常に強くあります。これは色々な調査でもわかりましたので、やはり我々の原点であります人、その上でデジタルを活用し、人とデジタルの力でどこまでやっていけるかということを考えて、自分の方針にしたという形です。

住友生命が提供するのは保険商品でなく、「WaaS(Well-being as a Service)」。17社のパートナーと共創するWell-being

田中:次にお伺いしたいのは、これもおそらく「あなたの未来を強くする」というミッションの一つの表れだと思いますが、最近高田社長は「Well-being」「WaaS(Well-being as a Service)」という概念を打ち出されています。3月23日の日経新聞の広告では高田新社長のメッセージの中に、「WaaS」という言葉が出ていました。Well-being as a Service、これはどういう思いで掲げられているのでしょうか?

高田:そうですね。生命保険商品そのものはずっと古くからあり、リスクに経済的に備えることによって、安心安全を提供するという原点があるわけです。ところが3年前に我々の会社でローンチしたVitalityという新しいプロダクト・サービスは、リスクに備えるだけではなく、リスクを減らしていくという新たな価値を提供し、新しいフィールドでイノベーションへの挑戦をしたわけです。

ところが、それは我々保険会社だけではなかなか伝わりにくいところもあります。所詮保険という概念も強いので、様々な事業会社様とネットワークを作り、パートナー事業者様と一緒になって一つの価値を提供しようとしています。

そのVitalityは今すでに17社のパートナー企業様と連携をして、目に見えない健康増進に関する価値提供と、よりよく生きていくことへの貢献をやっていこうとしています。保険というのは一経済の仕組みにすぎないので、我々が提唱しているサービスとしてのひとつの形、つまり「WaaS」というWell-being as a Serviceを通じてよりよく生きる価値を提供していこうと考えています。今、様々な企業様とこの理念について共有をし、どういうものが提供できるのかをお話させて頂いているところです。

田中:なるほど。ありがとうございます。WaaS、Well-being as a Service。As a Serviceというと、元々はやはりSaaSでしょうか。Software as a Serviceというのが原点で、その後Mobility as a Serviceなど、様々な形で広がってきた概念だと思うのですが、そういう意味では原点であるSaaSはやはりセールスフォースがその代表格であると思います。

そのセールスフォース社のSaaSから考えてみると、やはりSaaSの本質にはカスタマーサクセスが中核にあります。セールスフォースにおいては、カスタマーサクセスという概念が、①ミッションでもあり、②事業構造の中核でもあり、③サブスクということで収益構造の中核でもあり、カスタマーサクセスが起きないと、サブスクとしてのSaaSは契約更新もされないし、アップセルもされません。これらの3つが三位一体になっている。

そこから発展させて考えてみると、おそらくWaaS、Well-beingなどのサービスは、当然Well-beingが中核にあり、そのWell-beingをカスタマーサクセスと定義すると、Well-beingを顧客サイドで実現することが重要だと思います。まずそこでお伺いしたいのは、高田社長にとって顧客に提供したい、顧客や社会に提供したいWell-beingとは具体的にどんなものでしょうか?

高田:Well-beingという言葉は非常に多元的で、哲学的でもあります。

田中:そうですよね。beingが入っていますからね。

高田:ウェルネスという「より良い状態」だけではなく、「より良い存在である」 あるいは「よりよく生きていく」、こういうことを多元的に示している言葉ですので、何か単一的により良い状態だけを指向しているわけではないのです。一つには健康増進を通じていわゆる肉体的な健康を維持していく。これはVitalityにご加入いただくことで実現を目指します。現実に、共感くださっているお客さまは現在60万名を超えており、大変多くの方に反響頂いているのですが、実はこの「健康」というキーワードは、聞いただけでネガティブに思う人たちもたくさんいます。

田中:そうなんですね。

高田:「私は健康はいらないのだ」、という方もたくさんいらっしゃいます。一般的には健康を自ら維持しようとする方は3割ぐらいだと言われていて、残り7割は本能的には不健康の方に行くと言われています。それを色々な仕掛けを作って、そうではない日常に少しでも足掛けをするきっかけとなるよう、Vitalityの商品・サービスにおいて構造上取り組もうとしています。ただそれだけではなく、我々としては経済的備えを担保する必要性があり、次に精神的、あるいは心の健康や、社会的に健康でいられる状態を提供していきたいと思っています。

SDGsなども含め、様々な事業者がどう「より良いもの」に対して貢献をしていくのか。それは自社のためではなく、顧客やその先の社会にどう貢献ができ、寄り添っていくのか。それがWell-beingではないかと思っています。先ほどの精神的というところで、心の健康というとやや宗教的で哲学的に聞こえてしまうのですが、その一歩前に、例えば社会参加や地域創生などの取組みも進めますし、それから病と共に生きるということもやっています。

やはり人間というのは、どうしても人生100年時代の中で、病や疾患を伴うことがあります。でもそれとともに、どう改善するのか、あるいは維持をするのか、願わくばより良く戻りたい、寛解したいという想いもあると思います。もちろん奥深くまで行けば医療やヘルスになるのですが、その前の人間行動、あるいは社会への関わり方に、我々として、Disease Managementと言っていますが、病など良くない状態になったとしても、どう寄りそうか、どう人生をより良く生きていくかを支えることに挑戦していきたいと思っています。

エコネットワーク構築で社会課題を乗り越える。保険会社を超えていくことが高田新社長のミッション

田中:Well-beingにもう一度戻らせていただくと、やはりWell-beingの、 beingは非常に重たい概念ですよね。マズローの5段階の一番上の自己実現の欲求はbeing-needsです。そういう意味では、これは在り方の欲求でもあり、Well-being、WaaSを掲げて広げていくとすると、まずはそのトップリーダーである高田社長ご自身の在り方の目標も問われてくるものであると思います。先ほどのSaaSの代表企業である、セールスフォースの成長について見逃せないのは、やはり彼らのCEOであるマーク・ベニオフさんのトレイルブレイザー(先駆者)という価値観や世界観だと思います。

WaaSを掲げられ、これが広がっていくかどうかは、もちろんテクノロジーや商品・サービスなど色々な論点があると思いますが、やはり大きいのはトップリーダーである高田社長がどういう価値観や世界観を広げていきたいのかだと思います。そこで改めて、Well-being、WaaSを含めて、高田社長はどういう世界観、どういう世の中になって欲しいと思っているのか、お考えをお聞かせいただけますか。

高田:非常に大きな話でして、住友生命だけで何かをできるわけではありません。我々の事業形態は相互会社という、生命保険事業以外にはない会社形態になっています。 相互会社では保険契約者様が事業そのものの、いわゆる所有者ということとなっており、その中において、我々がどういう価値を成し得るのかが重要です。

当然保険という商品そのもので付加価値をつけていくことは必要ですが、そこには限界があるわけですね。そうすると住友生命単独で何かをやることには自ずと限界があって。であるならば、我々がどのようにそういう価値を提供し続けるかというと、ひとつのエコネットワークを作っていく、あるいはその中心ではなくてもハブ機能として、我々が媒介する。こういうことによって、サービスなり価値を皆さんにチョイスしてもらいたい。その中で、例えば日本であれば健康寿命と実際の寿命の拡大というところ、これは社会問題としてありますし、あるいは認知症や介護の問題、長寿化社会になればなるほどリスクと現実にお困りごとが起こってくるので、そこにどう一事業者を越えて、我々に接点を持つ消費者やお客さまにどういう価値を提供していけるか。

保険会社を超えられるかが一つのテーマであり、自分が社長としてやっていきたいですし、それをやることが自分の使命でもあると思っています。

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