「YouTuberのようなイケてるCSが登場する」AIチャットボットがもたらす、未来のカスタマーサポート
2020/4/8
IBMの人工知能Watson(ワトソン)に端を発し、今やあらゆるサービスやWebサイトで利用されているチャットボット。市場規模も2019年に51億円、2022年には132億円(予測値)と、伸び盛りの市場だ。
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こうした「チャットボットの今、CS職の未来」に対する問いを、「正答率95%保証」を掲げるAIチャットボットサービスKARAKURI chatbot(カラクリ チャットボット) を提供する、カラクリの小田志門CEOに投げかけてみた。
カオスなチャットボット業界
①提供形態
チャットボットの提供形態は、オーダーメイドでボットを開発するエンタープライズ向けか、エンタープライズ向けより導入ハードルが低いSaaSタイプに二分できる。
システムをゼロから構築するエンタープライズ向けは自社の要望に合わせたボットが作れる一方、コストが高額になる傾向がある。対してSaaSは、あらかじめ決まった形のツールが用意される事が多く、ユーザー側がある程度「合わせる」必要がある。しかし導入コストを抑えやすく、多くのユーザの要望をもとにボットがバージョンアップされる、といった恩恵が受けられる。
②利用用途
チャットボットの用途はふたつ。顧客への問い合わせ(カスタマーサービス)、もしくはマーケティング活用だ。うち、カスタマーサービスにおけるチャットボットの用途は以下の通り。
・BtoC、BtoBの顧客対応
・社内(従業員)の問い合わせ対応
BtoC顧客対応はECやネット証券など、インターネット上に流通チャネルを持っている企業での導入が多く、BtoB顧客対応はネット決済や、メーカーとマッチングさせるプラットフォームでの導入が増えてきているという。
③プロダクトの強み
プロダクトの強みは多種多様だ。導入費用もしくはランニングコストの安さを売りにしているサービスもあれば、操作性の良さ、キャラクター(バーチャルアシスタント)の存在やAIの性能を差別化ポイントとして推しているサービスもある。
しかし、日本で提供されているチャットボットサービスの過半数は、「人件費の削減」を主眼としたボットなのだとか。
――小田
「CS部門をコストセンターと捉え、人員削減しつつ、できる限り運用コストを抑えたいという企業は少なくありません。
数年前からAIやRPA導入がブームとなっているので、『AI導入をする』というだけで株価が上がった会社もありました。手っ取り早く導入実績を作って投資家にアピールしたい上場企業にとっては、『月数千円でAI(のボット)が導入できる』というコピーは魅力的に映るかもしれませんね」
カラクリが「カスタマーサポート全体」の支援に力を注ぐわけ
同社のサポートは手厚い。「なぜボットを導入するのか」を確認するキックオフミーティングに始まり、チャットボットの成果を測る指標「ボットKPI」や「ボットROI」の設定、ボット運用方法、ひいてはカスタマーサポート業務の全体像を顧客とともに作り上げる。
ボット導入時には、ボットの性能を高めていく「初期馬力」が必要になってくる。ボットに分かりやすい会話カードの作成や、会話データ(教師データ)を重複なく設定し、テストをやりきって精度を高めるといった多くの企業が挫折しやすい部分も同社がサポートする。
高性能なAIも、同社の売りだ。社内のAIエンジニアが独自のアルゴリズムを作成し、正解率を高めるキモになるデータの作成や、回答速度の向上に心血を注いで「正答率95%」を実現している。
そんなAI技術を持つ企業が、なぜCS業界に参入したのか。そこにはCS職に対する小田氏の問題意識があった。
カラクリの創業は、3年前の2016年に遡る。前職でCS導入支援を手掛けていた小田氏は、クライアントのLINECS導入経験を通じてチャットボットに興味を持ち始める。
――小田
「ひと昔前、2010年ころの自動応答は『全然答えられてない』という印象でしたが、LINEの顧客対応が流行りだした2016年頃には、自動応答の精度が上がっていた。自然な回答がテクノロジーで実現できそうだと思ったのです」
CS導入支援の仕事を手掛けている中で、あるプロジェクトではオペレーターの4分の3が離職。この例に限らず、CS担当者の離職率は低くない。人手不足になりがちな原因を、小田氏は「CS職のキャリアの行き詰まり」にみている。
――小田
「CS職のキャリアパスが、行き詰まりを感じやすいというのはあると思います。いちオペレーターから出世してリーダーやセンター長になるといっても、ポジションが多いわけではないので、狭き門になります。キャリアビジョンが見えず、厳しい環境下で毎日マニュアルに縛られ、毎日同じような質問へ回答するという単純作業が繰り返されるとモチベーションを維持するのが難しい。
だから人とテクノロジーが融合したカスタマーサポート・顧客対応が当たり前な世界をつくり、CS職の価値を高めていかないといけない」
今ではメルカリやWOWOWなどの大手企業に導入されるプロダクトに成長したが、現在は「チャットボットのカラクリ」から、「CS Automation &Optimizationのカラクリ」に進化を遂げようとしている。
チャットボットが得意とするのは、FAQ(よくある質問)ページに掲載されているような基本的な質問への回答だ。しかし、カスタマーセンターに来るのは単純な問い合わせだけではない。「ECで注文した商品の配送状況を知りたい」といった複数のデータベースにある情報を照らし合わせて回答したり、人間が判断し対応せざるを得ない問い合わせもある。
――小田
「総合的な顧客対応を分析するツールを作り込むことで、ボットの自動対応から人間へのバトンタッチを最適化しようと考えています。すでにCS担当者向けのツールも開発し、一部のお客さまに使い始めていただいてるところです」
CS職における、AIで代替不能な「人ならでは」の価値とは
小田氏は、CS担当者の仕事がなくなることはない、と主張する。実際にKARAKURI chatbotを導入した企業のCS担当者は、顧客対応だけに留まらない新しいミッションが増えているという。
・チャットボットの運用・改善(教師データの作成など)
・一部CS業務の自動化
・ボットKPIを達成し、より良い顧客対応をするための施策づくり
また重要な顧客の対応や、難易度の高い問い合わせはAIに代替されず、人間が対応していくだろうと語る。
――小田
「3000人分の顔と名前を覚えて、VIP顧客の対応をしているという伝説的なドアマンがいますが、一瞬で顔を認識したり過去の宿泊履歴を辿ったりするのはテクノロジーでもできます。人経由でAIの情報を伝えることで、はじめて顧客満足度が上がる。AIは自動化だけでなく、人間のパフォーマンスを高めるのにも使えるんです。
でも一連の接客をAIがやっても、お客さんの心には響かない。Amazonに購入履歴からのおすすめを出されるより、人間の店員さんに『あなた1年前にこれを買っていましたね』と言われる方がぐっときますよね」
だが、AIチャットボット導入に抵抗感がある現場スタッフも少なくない。「自分たちの仕事が奪われる」「AIといってもよく分からなくて怖い」といった担当者に対して、ある秘策を用意している。
――小田
「管理者がチャットボット導入は意義あることだ、と思っていても、現場で働いている数百人というスタッフの中には、AIやチャットボットがどんなものか分からないから怖い、という方もいるものです。そうした”恐怖感”を払拭するのは、私たちの課題です」
先に触れたが、CSはコストセンターとして認識されることが多い。マーケティングの手法としてCSを位置づけている企業も増えてきているものの、未だ工数削減に目を向けられがちだ。
カラクリはこれも課題と認識し、CSの事業貢献価値を見える化するツールの開発を急いでいるという。
――小田
「CSの顧客対応によって、ツールを使えない人がアクティブになったり、解約を防いだり、ということで顧客担当単価が上がるなら、CS担当者は事業貢献した(稼いだ)と言えるでしょう。
成約後の顧客ケアなど、後工程で生み出した価値を金額換算することで、CSの対応が生み出したインパクトを可視化していけば、経営側も投資しようと考えるはずです」
YouTuberやライバーのような、イケてるCS担当者が登場する未来
――小田
「どの担当者でも同じ回答を返さないといけない、という部分はチャットボットなどで機械化されます。だから提案者の自由度が格段に広がった状態になっていくでしょう。」
こうした新時代のCSに欠かせないのが、チャットボットなど機械と人とが連携する仕組みや、顧客情報のデータベース化と活用だ。「人ならではの価値」を最大限に引き出すための機械化が急がれている。
――小田
「日本ですぐに普及するのは難しいでしょうが、中国ではすでに半自動化し、CS担当者個人にファンがつくという状態になっています。給料はうなぎのぼりになり、独立している人もいるほどです。YouTuberやライブ配信者(ライバー)のように、CSに紐付いて会社の製品を買ったり、サポートを請け負ったりする未来が来るかもしれません」
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