CES2020現地レポート① 立教大学ビジネススクール田中道昭教授解説 2020のキーワードは「プライバシーテック」

いよいよCES2020がスタートする。米ラスベガスで開催される世界最大級の家電・技術見本市CES(Consumer Electronics Show)は、あらゆる業界の最先端が集まり、テクノロジー、経済、そして人類文化の未来を占う場となっているが、今年の見どころはなんだろうか?

開催に先立ち、現地を訪れている立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏にインタビューした。

※デジタルシフトタイムズでは、CES2020の開催期間中の模様を現地からリアルタイムで発信します。ぜひ、記事と合わせ、Facebookの公式アカウントをチェックしてください。

田中道昭教授に聞くCES2019の振り返り

①自動運転
CES2019では自動運転に関する技術の展示が多くあった。中でも中国の百度(バイドゥ)は、2018年中に自動運転バスを実際に走らせることに成功し、2018年の7月には量産化に入ったとの発表もあったほどで、そのスピード感は目を見張るものがある。昨年の日本、米国、中国を比較すると、日本はコンセプトカー段階、アメリカでは商業化をスタート、そして中国はすでに社会実装を行なっている段階であり、中国企業の技術開発の早さが見て取れた。

また、自動車メーカー以外の企業の自動運転領域への参入も目だち、メガサプライヤーや家電メーカーが続々とコンセプトカーを打ち出した。完全自動運転が当たり前となったときには、ペダルやハンドルも不要だ。これまでの自動車メーカーの強みは絶対的優位ではない。いかにユーザーにとってストレスのない、心地よい空間が作れるのかが重要な要素といえる。空間設計に長けた会社の方が優位性があるのかもしれない。
②音声認識・AIアシスタント
CES2019では、音声認識領域にも注目が集まった。米国のAmazonが提供する「Amazon Echo」の対応アプリの数は60,000ほど、対応家電は20,000ほどにものぼり、搭載をアピールするメーカー製品の展示も目だった。今後とも、ますます利用範囲が拡大し続けることが予想される。

CES2020のポイント

①コネクティッド・シティ&モビリティビジネス
引き続き、自動運転技術に関する最新トレンドは要注目。中でも日本企業が注目を集めている。例えばTOYOTAはCES2020のプレスカンファレンス日である1/6(現地時間)、実証都市「コネクティッド・シティ」を静岡県裾野市につくり、人々が生活を送る実際の都市で自動運転の実証実験を行うことを発表した。コネクティッド・シティでは、自動運転に限らず、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)、パーソナルモビリティ、ロボット、人工知能(AI)技術などを導入する予定だ。

また、ソニーも同日、最先端テクノロジーを組み合わせることで、安心・安全かつ、快適さやエンタテインメントを追求した取り組み「VISION-S」を推進することを明らかにし、その取り組みの一環として試作車の展示を行なった。イメージング・センシング技術、AI(人工知能)、クラウド技術など多岐に渡るテクノロジーが満載だ。
②Ambient computing
昨年注目を集めた音声アシスタントデバイスを含む、Ambient computingが注目だ。スマホやPCといったデバイスを直接使わず、普段の生活の中で快適にアプリやデジタルシステムを利用する仕組みを指すもので、音声認識のほかにもデバイスが出てくるのかが期待される。
③5G
昨年も盛り上がりを見せた、5Gに関するブースは引き続き注目だ。CES2019では、関連デバイスが展示されるも、具体性に欠け、私たちの生活がどう変わるのかピンとくるものは少なかった。今年は、さらに技術革新が進み、身体感覚に訴える変化を味わえるデバイスやサービスが発表されるだろう。
④プライバシーテック
ブース展示ではないが、開催前から話題を集めているのが「Chief Privacy Officer Roundtable」というセッション。日本ではほとんど認知されていない「Chief Privacy Officer」について、その意義や在り方について複数企業の幹部達がディスカッションを行う。

プライバシーの在り方について、改めて見直されるようになった背景には、消費者の意識の変化がある。「GDPR(EU一般データ保護規則)」や今年の1月から施行された「カリフォルニア州消費者プライバシー法」などプライバシーを守るための動きが世の中的にも大きくなる中、アメリカでは多くの企業がターゲティング広告などの自主規制を始めた。その結果、これまで当たり前とされてきていた広告の在り方が変化しつつあり、その波は間違いなく日本にも押し寄せてくる。プライバシーテックと呼ばれる新しいサービスやアプリなども開発されて行くと予想され、目が離せない領域だ。

このセッションには、27年ぶりにCESへ参加するAppleの幹部が登壇するという点でも注目だ。人気セッションは並ばないと入れないので、参加予定の方は早めに会場へ向かうことをお勧めする。

最も重要なのは、消費者の価値観の変化

CESは最新デバイスやサービスについて知ることができるテクノロジーショーではあるが、その表層的な部分に囚われず、その開発の裏にある消費者の意識の移り変わりこそ考えるべきだ。

例えばサステナビリティに関する取り組みについて現在は、企業活動のついでに副次的に追いかけるのではなく、事業の中核に据えるべきものになってきている。今までサステナビリティ面では評価が高くなかったAmazonでさえ、2019年9月EVトラック10万台導入した。サステナビリティはもはや価値観であり、消費者に認められる上では避けては通れないものになってきている。そういった、消費者の考え方の変化を感じ取れることがCESの良さだと思う。
田中 道昭(Michiaki Tanaka)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。株式会社マージングポイント代表取締役社長。「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」という独自の立ち位置から書籍・新聞・雑誌・オンラインメディア等でデジタルシフトについての発信も使命感をもって行っている。ストラテジー&マーケティング及びリーダーシップ&ミッションマネジメントを専門としている。デジタルシフトについてオプトホールディング及び同グループ企業の戦略アドバイザーを務め、すでに複数の重要プロジェクトを推進している。主な著書に、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)、『2022年の次世代自動車産業』『アマゾンが描く2022年の世界』(ともにPHPビジネス新書)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『ミッションの経営学』(すばる舎リンケージ)、共著に『あしたの履歴書』(ダイヤモンド社)など。

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