中国最前線

デジタル・エコシステムで鮮明化する消費者層のニーズ アリババのニューリテール戦略の今を体感

アリババが2016年にニューリテール戦略を発表してから3年。現在、その戦略はどのように社会実装されているのだろうか。ニューリテールの肝いり事業である生鮮スーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマー)」やスマートレストラン、アリババが買収したデパート「銀泰百貨モール」の様子を通して、中国小売の今をお伝えする。

新時代の生鮮スーパーマーケット「フーマー」

アリババ本社を見学後、同社が運営する生鮮スーパーマーケット「盒馬鮮生(フーマー)」にやってきた。フーマーは実店舗とECサイトを持っており、双方が連携している。例えば、今日店舗で見たものを、家に帰ってからECで購入することも可能だ。現在は約60%以上がECの売上だという。

実際に店舗はどうなっているのか。スーパーに足を踏み入れると、まず目に着くのは巨大な生け簀である。高級食材の上海カニやロブスター、アワビなど、新鮮な海産物が並ぶ。日本のスーパーの魚介売り場の比ではない。漁港近くの生鮮市場に近いイメージだ。

生鮮食品の売り場では「美味しさ」より「新鮮さ」のアピールに力を入れている。確かに、魚や果物など生鮮食品が多く並ぶ。さらに商品付近にあるQRコードを読み取ると、生産地や生産者の情報などが見られる仕組みだ。これで安全性を保証している。
売り場の近くにはレストラン。食材を購入してその場で調理してもらい食べられる。

レジは、すでに見慣れてきたQRコードを使った無人決済である。レジ対応が不要になるので、店員さんにも余裕ができるだろう。そう思って周囲を見てみたが、店員さんは商品を持って動き回っており、なにか忙しそうだ。

話を聞くと、商品の配送のために急ぐ必要があるという。フーマーでは、半径3キロ以内での注文であれば購入から最短30分以内で配送してくれるサービスがある。走り回っていたのは、ECから注文された商品をピックアップしていた店員で、30分以内に届けられるように忙しく動き回っているのも納得だ。

デジタルエコシステムの活用がアリババ・ニューリテールの真骨頂

顧客体験を中心とし、オンラインとオフラインが一体となったビジネスモデル、ニューリテール。フーマーはそれを体現した事業だと感じた。しかしニューリテールとは、ただ単にECと店舗が物理的に連携するだけではない。デジタルを活用し、オンラインとオフライン双方向のマーケティング活動に活用しているところがポイントだ。

例えばフーマーでは、ECの売れ行きなどのデータを分析し、陳列品をチョイスしている。地域の消費者に必要とされている商品を店舗に置けるため、商品の在庫を効率的に管理することができる。デジタルエコシステムの活用こそが、アリババのニューリテールの真骨頂なのだ。

取り組みは、フーマーだけにとどまらない。昼食で立ち寄ったスマートレストランもその一つだ。2018年10月にオープンしたワンタン専門店である。もともと店舗の生産性向上を図るためにデジタルシフトしたという。
店内に入ると、まず店員が通常の飲食店より少ないことに気がつく。その代わり、壁に大きく注文方法の説明がある。まずコウベイ(口碑)もしくはアリペイのアプリを使い、料理をオーダーすると同時に会計も行う。注文した料理ができると、カウンターに設置されたロッカーが開くので、お客さんが自分で中から料理を取り出す仕組みだ。
お客さんは近隣で働いている方が多いという。みんな問題なくシステムを使いこなし食事を楽しんでいた。この店は技術の導入によって、料理を運んだり会計したりする手間がなくなったため、以前は4人必要だった店員が2人でよくなったという。

目に見える省力化のテクノロジーも気になるところだが、このレストランにも裏側でデータが活用されている。まず、宅配データを分析し、集客が見込めそうな場所を選定して出店している。座席や料理を取り出すロッカーの数も、一度に来店しそうな人数から計算して割り出しているそうだ。データは、店舗全体の設計にも用いられていた。

化粧品店のARミラー、商品ピックアップにはロボット データを活用したデジタルデパートとは

圧巻だったのは、アリババが買収したデパート「銀泰(インタイム)百貨」だ。一見すると、日本のデパートと変わりない。しかし様々なテクノロジーで、ニューリテールを押し進めているという。

まず店舗とECとの連携について。ECでも商品が購入可能になったことから、店舗では「体験」を重視している。わざわざ足を運ぶことに顧客が価値を感じる、新しい取り組みが用意されている。その一つがARミラー。化粧品店のARミラーでは、鏡の中でいろいろな化粧品を試すことができる。チークや口紅、アイシャドウなどを自分の顔に合わせ、色味の相性や雰囲気の違いを確認できる。

次に、店舗とECをつなぐ物流についても工夫が凝らされていた。このデパートも発送拠点の役割を果たしており、近隣住民から注文があれば10km圏内に2時間以内で売り場から直接、商品が発送される。18店舗で実施しているそうだ。ただ、注文が入ってから商品をいちいちピックアップするので、人手も時間もかかってしまう。ここで活躍するのがロボットだ。
バックヤードの担当者が、注文の書かれたレシートと発送用の袋をロボットの中に入れる。ロボットは指示された売り場へ向かい、到着すると音声でお知らせ。すると店員が袋を取り出し、商品を入れてロボットの中に再び収納した。店員が操作すると、ロボットはバックヤードへ戻っていく。
売り場の店員も、ECとの連携には慣れたものだ。商品をピックアップしにきたロボットにも全く動じることがない。さらに、各店舗には専用のタブレット端末があり、商品の発送状況をリアルタイムで確認できるという。クレームや返品への対応も行う。
さらに、リアルな接客の空き時間には、このタブレットを使ってオンラインでの接客も行う。売り場で商品の情報などをLIVE配信するのだ。この取り組みによって、リピーターばかりだったオンラインの店舗で、新規顧客も獲得できるようになった。まさに実店舗とECには垣根がない。

このデパートの凄さはこれだけでは終わらなかった。銀泰デパートを介して行われた取引のデータを統合・分析し、サービスに生かしているのだ。

一つの例として、中国の女性ブランドのアパレル店での取り組みが参考になった。女性服は特にニーズが多様化しているため、来店客の好みを把握しにくいという課題があった。しかし、来店客に多い層の購買、商品ごとの売れ行きなどのデータを分析することで、来店客に求められる商品デザインを次の新商品の開発に活かすことができるようになった。
このブランドでは、データを元に消費者トレンドを分析し、シャツのデザインに取り入れた。来店客が夏に購入しやすい素材やスタイル、丈感や色合いなどを特定し、商品に生かしたという。加えて、ブランドで打ち出す企画でもデータを参考にした。来店客は働く女性が多いとわかったことから、「定時帰宅」という企画を立て、仕事終わりに着たくなるような服を売り出した。実際に売れ行きは上々で、データを活用したデザインを導入した後、定価で売れる件数が大幅増加したという。

アリババのデジタルエコシステムに蓄積される消費活動のデータを分析すれば、様々な消費者層のトレンドをより高い精度で把握できるようになる。それをデジタルマーケティングに活かすのだ。

ニューリテールは概念ではなく、小売の「当たり前」になる

実際にアリババのニューリテールの肝いり店舗を見学して、実店舗・EC・物流が一体化していることを体感できた。その中で、店舗は「ものを買う場」から「体験する場」になりつつあると感じた。

見学する中で特に印象的だったのは、ニューリテールの店舗で働いている人、買い物している人が「特別なことをしていると感じてなさそう」なことだった。ニューリテールの仕組みは、すでに「当たり前」のものとして受け入れられつつあるのではないだろうか。もちろん、中国全土が同じように変化している訳ではないだろうが、少なくとも一部ではすでに当たり前のように浸透し、実装されていると言えるだろう。

人が何かを買いたいと思った時、実際に商品を見に行きたい場合もあるし、とにかく早く手元に届けて欲しい場合もある。自分で選びたいこともあるし、自分で自分の欲しいものに気づいていない場合もある。状況によっても、商品によっても、本人の志向性によっても、買い物の仕方は様々だ。ニューリテールは、言うなればそういった消費者のワガママに寄り添ってくれる仕組みだと感じる。

ニューリテールで肝要なのは、デジタルエコシステムの活用である。それによって、様々な消費者層のニーズがクリアになる。アリババグループはそれぞれの消費者層のニーズをよりタイムリーに精度高く把握できているからこそ、優れた顧客体験を生み出し、結果として売上が伸びているのだ。ニューリテールはもはや「新しい」小売の概念ではなく、「当たり前」になるだろう。

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次回は、アリババが運営する最新テクノロジーが満載のホテル「FlyZooHotel」に宿泊した体験をレポートする。

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