中国EV市場を席巻する、三大新興メーカーを徹底分析。脅威の中国EVメーカー最新事情・後編【中国デジタル企業最前線】
2022/2/2
中国企業の最新動向から、DXのヒントを探っていく本連載。今回は、ガソリン車に代わるモビリティとして期待が高まるEV(Electric Vehicle=電気自動車)と、その核とも言える自動運転技術で世界をリードする中国の強さに迫ります。前編では「EV先進国」の名を欲しいままにしているその理由を、国の政策や技術の面から探ってきました。後編となる今回は、自動車産業に参入してきた新興メーカー3社を紹介するとともに、日本の立ち位置の考察、中国が抱える課題を話題に進めていきます。
Contents
ざっくりまとめ
- 「新興EV造車三兄弟」創業の裏側に、テスラが存在。
- 新興企業によって自動車業界がイノベーションされたことがスマートEV発展のきっかけ。自動車はソフトウェア基点にシフトしている。
- EVが主流になれない日本の自動車業界。イノベーターの不在がネックに。
- 中国市場では、使用済みバッテリーの処理・リサイクルが今後の大きな課題。
- 中国独自の自動車業界カオスマップ。日本にはないサプライヤーの存在にも注目。
「新興EV造車三兄弟」その創業に影響を与えたのは、テスラの存在?
また、Alibaba(阿里巴巴)の元幹部であり、Xpengの創業者、ヒー・シャオペン氏は、テスラのCEO イーロン・マスク氏のスピーチを聞いたことが、EV業界への関心を強めるきっかけになったと話しています。
【NIO】無料バッテリー交換方式で顧客のロイヤルティ向上をねらう
“三兄弟”のなかでもっとも勢いがあるのが、販売台数の一番多いNIOです。一番の特徴は、世界で唯一、バッテリー交換方式を採用していることです。NIOは2021年現在、中国全土500か所以上にのぼるバッテリー交換ステーションを独自に展開しており、車両購入者に対し、バッテリー交換の無料サービスを提供しています。NIOユーザーはステーションに行けば、わずか3分で充電済みのバッテリーと交換してもらうことができます。このサービスは非常にコストがかかるものの、顧客の満足度とブランドイメージの向上に寄与できることから先行投資として継続されています。
この仕組みからも分かるように、NIOが展開しているのは単純な車販売ビジネスではなく、コンシューマービジネスです。会員限定イベントを開催しているのも、その一環だと言えます。また、彼らが販売するEVは、“スマート車”でもあるため、車内向けエンターテインメントコンテンツの提供も収益源の一つになっています。
なお、NIO自身は自動車生産資格を有していません。そのため、自社で手掛けるのはEVの設計と開発まで。生産は、委託提携先のJAC(江淮汽車)が行っていますが、今後は新設や買収等を通じて自社工場を持つ可能性も考えられます。
【Xpeng】“テスラキラー”の異名を持つ、広州発の革新メーカー
元トヨタのデザイナー、元テスラの技術責任者を擁しており、3社のなかでは唯一、ナスダックに上場。2021年10月にはNIOに続いて海外進出を果たしており、“中国版テスラ” “中国のテスラキラー”の異名のもと各国を席巻するのではないか、とその動向が注視されています。
そんな彼らのプロダクトですが、2019年に発売したSUVタイプの「G3」は、航続距離が520kmと、現在、純EVを採用しているSUVのなかで最長を誇ります。バッテリーにはCATLの次世代リチウムイオン電池を採用しており、残り30%のバッテリーを30分以内に80%まで充電できる点も特徴です。
【Li Auto】順調な供給体制の構築で販売台数を伸ばす
同社は2018年に中堅自動車メーカー、Lifan(力帆汽車)の買収を通じて生産資格を取得、翌年には江蘇省の自社工場で「理想ONE」の生産を開始しました。NIOのようにブランド戦略に時間をかけなかった分、3社のなかでもっとも早く量産体制に入ることができ、以来、急速に販売台数を伸ばしています。2020年9月には米国の半導体メーカー、エヌビディア(NVIDIA)と提携。自動運転レベル4の実現を目指し、システム開発を強化しています。
ソフトウェア基点でスマートEVをつくることが本流に
もっとも中国の自動車市場も日本同様、現行メーカーが幅を利かせる世界です。しかしながら、産業全体という視点で見ると、自動車メーカーよりもIT企業のほうが影響力を持っています。“三兄弟”の主要株主をみても、NIOはTencent (腾讯)、XpengはAlibaba、Li AutoはMeituan(美団)にByteDance(字節跳動)と、すべてIT企業です。インターネットやソフトウェアを掌握している彼らはEV領域にも精力的に進出し、惜しみない投資を行っています。
前編から通して考察してみると、これからの自動車づくりは、デバイスからソフトウェアではなく、ソフトウェアからデバイスが本流になることが分かります。つまりは、IT企業によって車の概念が新しくデザインされている、ということです。その上、彼らは「クリーンエネルギーの活用によって環境に貢献したい。だからEVをつくっている」と声高に話しています。こうした動きに対する消費者の期待は大きく、ニーズは高まるばかりです。このトレンドに抗えない現行メーカーは、EVに移行したくないという本音を抱えながらも、仕方なしにEV、準EVをリリースしています。これはDXによる進歩の結果とも言えるでしょう。
ひるがえって、日本はどうでしょうか。楽天、ヤフー、ソフトバンク……いずれのIT企業にもこうした動きは見られません。中国に倣うとすれば、日本でイノベーションが起きる様子はなく、自動車産業を取り巻く勢力図が変わらないことを意味します。日本にGoogleのような企業が存在すれば、また違う状況が生まれていたのかもしれません。
Nio Nomi
課題は使用済みバッテリーの回収
一方、唯一の気がかりはバッテリーの回収です。ここ数年以内に起きる大きな課題と目されています。EV用バッテリーには貴重な鉱物がいくつも原料として使われており、それらを個々に分離するには高い技術を要します。環境への負荷や産業廃棄物の取り扱いも考える必要があり、また資源の有効活用の視点からリサイクルが必須です。重量も数百キロと重く、輸送や保管のことも考えなければなりません。実際、筆者のもとに中国メーカーから「日本の技術ある企業と提携できないか」と相談を受けたことがあり、国内外問わず、課題解決できる道を模索している現状がうかがえます。
日本には存在しない独自のサプライヤーに注目
続いて、下段の左の枠内は、IT関連企業になります。これからの車はすべてインターネットにつながり、スマホと同じ機能を有するようになります。運転履歴もすべてクラウド上に保存され、車検や修理の場で利用されるほか、技術開発にも活かされます。このほか、エンターテインメントサービス、トラブル監視サービスを提供する企業も含まれています。中央の枠内は、自動運転技術、AI技術の開発提供会社です。右の枠内は高精度電子マップのサプライヤーです。
このカオスマップを見れば、中国EV市場には多くの企業が存在し、いかに網羅的にサービス展開されているかがお分かりいただけるのではないでしょうか。遅れを取る自動車大国・日本が、今後どのように中国と向き合っていくのか、動向に目が離せません。
株式会社デジタルホールディングス 中国事業マネージャー兼グループ経営戦略部事業開発担当
天技营销策划(深圳)有限公司 董事総経理
2004年来日、東京工科大学大学院アントレプレナー専攻修了。IT支援やコンサルティング、越境EC、M&Aなど多岐にわたって従事したのち、2011年に株式会社オプト(現デジタルホールディングス)に入社。2014年より中国事業マネージャー兼中国深圳会社董事総経理を務める。日中間の越境ECの立ち上げ、中国政府関係及びテクノロジー大手企業とのアライアンス構築、M&Aマッチング、グループDX新規事業の立ち上げなどを担当。