高まる従業員エンゲージメントの重要性。 サステナブルな企業成長へと導くデジタルテクノロジー活用とは?
2021/2/24
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従業員エンゲージメントが、企業の成長に影響する
英国では、2008年に政府機関が以下の3つのクエスチョンへの答えを求め、専門家による調査事業を開始した。
① 従業員エンゲージメントとは何か?
② 従業員エンゲージメントが重要であることを示唆するエビデンスはあるか?
③ 従業員エンゲージメントを高められる組織がもつ4つの因子は何か?
そして、2012年にこれら3つのクエスチョンに答えるレポートが出版されるとともに、従業員エンゲージメントを高めることが、企業の業績や中長期の持続的成長に影響を与えることが示唆された。昨今では、経営における従業員エンゲージメントの重要性が世界中に広まり、世界のさまざまなところで、従業員エンゲージメントの高い企業を表彰するイベントが開催され、多くの企業が競い合っている。
日本国内では、株式会社リンクアンドモチベーションから、自社のメソッドをベースにした「モチベーションクラウド」というクラウドアプリケーションがリリースされた。これを機に、モチベーションクラウドに蓄積される従業員エンゲージメントデータを活用したエビデンスを導くための研究も開始されている。筆者の研究室でも一部、リンクアンドモチベーションと共同研究し、一定の前提条件においてではあるが、エンゲージメントスコアと業績や労働生産性とが、統計学的に有意な相関があると検証された。そして、2020年9月30日に経済産業省が公表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」では、これからの日本企業の人材戦略にとって従業員エンゲージメントが重要な要素の一つであるとして、上記の研究成果とともに、株式会社日立製作所、ソニー株式会社、中外製薬株式会社、株式会社サイバーエージェントなどの従業員エンゲージメント向上の取組事例が紹介されている。
従業員エンゲージメント活用をどのように推進すべきか
上述のように、英国政府が産業政策として従業員エンゲージメントの活用を推進しているのと同様に、日本でも産業政策として従業員エンゲージメントの活用を推進すべきと考え、筆者は、2021年2月1日に、「持続的な企業価値向上と人材戦略に関する一考察~従業員エンゲージメントの企業経営への活用とその推進策~」という政策提言レポートを発表した。このレポートでは以下を提言している。
【大企業向け】
従業員エンゲージメントに関するテーマ銘柄の創設
米国では、株価指数と従業員エンゲージメントスコアとの連動に関する調査結果も公表されており、日本においても投資における一つの指標として従業員エンゲージメントスコアが活用されることを期待する。
HR(Human Resource:人的資源)レポートガイドライン策定
現時点でも、TOPIX Core30(東京証券取引所の市場第1部全銘柄のうち、時価総額、流動性の特に高い30銘柄で構成された株価指数)の約半数の企業は従業員エンゲージメントについて情報開示しており、HRレポートのガイドラインを策定する際は、従業員エンゲージメントが重要なメトリック(測定基準)の一つとなる。
【中小企業向け】
従業員エンゲージメント活用ガイドラインの策定
ガイドラインについては、中小企業庁が2020年3月に公表した「中小企業・小規模事業者人手不足対応ガイドライン(改訂版)」を参考に策定するといいだろう。
持続的成長を実現するためのデジタルテクノロジー活用のポイント
慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授
日本パブリックアフェアーズ協会 理事
東京大学工学部金属工学科卒業。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。
日本モトローラ株式会社、日本ルーセント・テクノロジー株式会社、ノキア・ジャパン株式会社、
株式会社ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科特任教授。
「技術」「戦略」「政策」を融合させた「産業プロデュース論」を専門領域として、さまざまな分野の新産業創出に携わる。