DX戦略

デジタルシフト時代に求められる、ゲーム・チェンジャーを考える。早稲田大学ビジネススクール 内田和成教授×立教大学ビジネススクール 田中道昭教授対談 前編

デジタルシフト時代の今、業界構造を大きく変革しながらゲーム・チェンジを図る企業および事例は多くあり、業界内のことだけを考えていては企業は生き残っていけません。近年、多く見られる異業種からの競争戦略を、2009年刊行の『異業種競争戦略』および2015年刊行の著書『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』でかねてより紹介・分析してきたのが、早稲田大学ビジネススクール教授であり、かつてはボストン コンサルティング グループの日本代表も務めていらした内田和成氏。今回は、「ゲーム・チェンジャーのデジタルシフト戦略」と題し、2021年現在のビジネス動向を加味しながら、デジタルシフト時代に求められるゲーム・チェンジャーのあり方を、立教大学ビジネススクール 田中道昭教授とともに読み解いていただきます。

前編では、経営者にこそ大切な「右脳思考」の話から、『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』にも紹介されている4つのフレームワーク、そして今、自動車業界に起こりうる変化について、異業種競争戦略およびゲーム・チェンジャー視点で詳しく分析していただきました。

「結果を出し続けてきた」プロフェッショナルが語る、成功の秘訣

田中:デジタルシフトタイムズ、田中道昭です。本日はスペシャルゲストとして、早稲田大学ビジネススクール教授でボストン コンサルティング グループ元日本代表の内田和成先生にお越しいただきました。先生の著書は一通り拝読させていただいていますが、特に有名なのは『仮説思考』『論点思考』『右脳思考』の三部作ですね。本日は2015年に刊行された『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』も参考にしながら、ゲーム・チェンジャーのデジタルシフト戦略というテーマでお話をお伺いしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

内田:こちらこそよろしくお願いします。

田中:内田先生ご自身から、改めてこれまでのキャリアをご紹介いただけますか?

内田:新卒で入社したのは日本航空株式会社(JAL)で、いわば普通のサラリーマンですね。それからコンサルタントに転職して、コンサルティングファームの経営者も務めました。現在は、先ほどもご紹介いただいたように研究者として教鞭を執っています。

田中:これまで経験されてきたお仕事のなかで、なにか共通点を挙げるとしたら、どのようなものでしょうか?

内田:それがなかなか難しいのです。例えば、一つめの仕事はサラリーマンで、これはもう、正直に言って、私には全然合わない働き方でした。22歳の新卒で入ったのですが楽しくてですね、今でいう超ホワイト企業なのですよ。休み取り放題、給料高い、仕事が楽、周りはいい人ばかりと。

田中:JALはフリンジ・ベネフィット*が充実していたことでも有名ですよね。

内田:これはかえって人間がダメになると思いましたね(笑)。とはいえ、今とは違って転職しようにも情報が得られない時代ですから、どの道に進めば自分を鍛えられるのかがわからなくて、8年間ほどはサラリーマンを辞める方法が分からず苦労していたというのが正直なところです。結局、30歳のときに自費でビジネススクールに通ったことがきっかけで、コンサルタントへの道が拓けました。そこからは一貫して、専門技能を持ったプロフェッショナルとして、結果が勝負の世界で生きてきたので、そこが共通点といえば共通点かもしれませんね。

田中:先生がおっしゃったようにプロの条件には「結果を出す」ということがあると思うのですが、その他にプロとしてこだわってきたことはありますか?

内田:結局は、どのこだわりも「結果を出す」という一点に紐付けられていくのかなと思います。例えば、言い訳をしないことです。一流のシェフは、今日は火力が弱かったとか、いい素材が入らなかったとか、弟子が悪かったとか、そんな言い訳は絶対にしないじゃないですか。与えられた環境と素材のなかで、いかにベストを尽くすか。それを追求できるのがプロなのだと考えています。

田中:結果が全ての世界で常に結果を残されてきた内田先生ですが、結果を出す秘訣はどこにあるのでしょうか?

内田:私は人より打席に立った回数が多いのです。だから実は、空振りしたり凡打もたくさん打っている。でもたくさん打席に入っていると、結果としてヒットやホームランも多くなる。プロの世界では多少打率が低くても、「ここぞ!」というときにヒットやホームランを打てれば許されるという部分もあって。だから私は「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」という感じで成果を出してきたタイプだと思っています。ゴルゴ13のような一発必中型のプロとは違いますね。

*フリンジ・ベネフィット:従業員に与えられる、現物給与以外の付加的給付のこと。

優れた経営者ほど大切にする、「右脳思考」とは

田中:先生は謙虚でいらっしゃるので、本当は打率も高いのだと思いますが、やはりそういった発想が「仮説思考」に繋がっていくのですね。

内田:そうですね。誰よりも早く山頂にたどり着くためには、正しい地図を用意したり、気象条件を吟味することも大切ですが、最後はやっぱり「ここだ!」というタイミングとルートでアタックをかけなければならない。その「ここだ!」という判断は、仮説ですよね。ビジネスを成功させるためには、こうした「仮説思考」を鍛えるということに尽きるのかなと思います。

田中:「ここだ!」という仮説を立てる「仮説思考」を鍛えるためのポイントを、ひと言だけいただくとしたら何でしょうか?

内田:変な言い方になりますが、たくさん失敗すること、でしょうか。失敗を重ねると、筋の良し悪しがわかるようになる。例えば、レストラン選びにしても、最初から百発百中でいいレストランを見抜くことはできないですよね。でも、経験値を貯めていくと、次第に雰囲気だけで「ちょっと寂れているけど、味は良いかもしれないな」と勘が働くようになる。そういう勘は一朝一夕には身につきません。結論としては、たくさん場数を踏むことに尽きると思います。

田中:そのあたりは、直近の著書でもある「右脳思考」というキーワードともつながっていきそうですね。

内田:おっしゃる通りですね。これまでたくさんの経営者の方にお会いするなかで、成功している経営者は、右脳、あるいは勘に頼っている方が多いということが分かったのです。三部作の最終作はコンサル出身者が書いたとは思えないような、『右脳思考』に至ったと言うわけです。

田中:経営者が、普通だったらありえないような大胆は決断をするときは、論理思考というよりも、その人ならではの勘、まさに「右脳思考」に頼っていることが多いですよね。

内田:それはつまり経営者が「これでダメだったら諦めよう」と、腹をくくれるかどうかでもあると思うのですよ。サラリーマン経営者の場合、任期に限りがある分、腹をくくりきれないことも多くて。だからこそ私は「サラリーマン経営者こそ覚悟を持つことが大切」とお伝えしています。とはいえ、優秀な経営者の方は、私が言うまでもなく覚悟を決めている方が多いですね。

田中:論理的な思考だと、当たり前の結論しか導き出せないという問題もありますよね。

内田:そうですね。誰でも導き出せる結論になってしまったり、決断自体がToo Lateなものになってしまう。けれど実は、私の著書のなかで売れているのはロジカルシンキングなイメージがある『仮説思考』などで、『右脳思考』は部数でいうとそうでもないのです。一方で、経営者の方からの反響が一番大きかったのは、やはり『右脳思考』。経営者になればなるほど、勘の大切さを体験として理解されているのだと思います。

バリューチェーン理論では説明できない、業界の変動をどう捉えるか

田中:今日は2015年に刊行されていながら、内容的には全く古くなっていない『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』の内容に基づいて、ゲーム・チェンジャーのデジタル競争戦略をお伺いしていきたいと思います。先生はこの前に『異業種競争戦略』という著書も出されていますが、これはどのような経緯で執筆されたのでしょうか?

内田:1997年頃、ボストンコンサルティンググループがデコンストラクションというコンセプトを提唱していました。要するに、これから既存のバリューチェーンが分解されて再構築されていく、という考え方です。まずはこれが一番の出発点ですね。そこから具体的に事例を調べていくと、実際にさまざまな業界で、既存のバリューチェーンのなかでは説明しきれない変動が起きつつあることが見えてきました。

釈迦に説法ですが、バリューチェーンは企業を分析するためのフレームワークとしてよく知られています。企業内の活動を開発、生産、営業、マーケティング、アフターサービス、人事、経理といった機能で分類したものですが、各バリューチェーンはあくまでも業界内に閉じたものでした。ところが、90年代の後半頃から、業界の枠を越えた市場競争が起きるようになります。そのあたりの実情を分析しようというのが『異業種競争戦略』を執筆した一番の動機ですね。

田中:つまり、バリューチェーンではなく事業連鎖、ビジネスチェーンという概念を中心に、産業構造全体を分析されたわけですね。そのなかの事例をいくつかご紹介いただけますか?

内田:これまでは自分の会社の中で最適なシステムを作れば良かったのですが、その前後の事業とリンクさせて見る必要がでてきたわけです。わかりやすいのはレコード業界ですね。例えば、日本にはかつて非常に優秀なレコード針メーカーがありました。けれど、レコードがCDに取って変わられた時点で、レコード針の役割も終わってしまった。そこでレコード針にこだわり続けたメーカーは、当然ビジネスが行き詰まってしまうわけです。
出典元:書籍『ゲーム・チェンジャーの競争戦略 ―ルール、相手、土俵を変える』(内田和成著)を参考に作成
内田:これからはレコード業界だけでなく、こうした競争の土台となる環境の変化が、頻繁に起きる時代です。マイケル・ポーターのファイブフォースというのは、自分たちの業界の新規参入者、購入者、供給者をどう考えるかというものですが、今、経営者は自社および業界内のロジックだけではなく、より大きな視点で戦略を練っていかなければならない。そのための枠組みとして提案したのが、事業連鎖という考え方です。

田中:ポーターのファイブフォースの中に、「代替サービス」というものがありますが、「代替サービス」どころか、全般的に破壊が起こるというのが、デコンストラクションや異業種競争戦略のマクロ的な考え方ですよね。従来のバリューチェーンだけでは説明不可能なことが起きていますし、事業連鎖というアイデアは、今から振り返っても画期的だったと感じています。

既存のルールを破壊する、ゲーム・チェンジャーの4類型とは

田中:『ゲーム・チェンジャーの競争戦略』のなかでは、ゲーム・チェンジャーのあり方を4つに分類されています。下記はそれを表したマトリクスです。こちらについて、内田先生からご説明いただけますか?
出典元:書籍『ゲーム・チェンジャーの競争戦略 ―ルール、相手、土俵を変える』(内田和成著)を参考に作成
内田:まず横軸が「既存の製品やサービス」なのか、それとも「新しい製品やサービス」なのかを示しています。一方で、縦軸は企業としての儲けの仕組みが新しいかそうでないかを示しています。この2×2のマトリクスで、4類型のゲーム・チェンジャーが定義できるわけです。まず面白いのは、「既存の製品やサービス」×「既存の儲けの仕組み」でも、工夫次第で新しいビジネスを生み出せるということでしょう。その一例として、私がよく挙げるのはヘアカット専門店のQBハウスです。彼らはお客様が本当に求めているのはカットだけなのではないかと考えた。カットだけだと10分で終わるから、客単価もグッとさげることができる。つまり彼らは、これまで当たり前になっていた「ヘアカット+ひげ剃り+シャンプー」というプロセスを見直し、分解することで新たなビジネスを生み出したわけです。これを私はプロセス改革型と呼んでいます。

田中:なるほど。既存のバリューチェーンを見直す、と言い換えることもできますね。

内田:次が「既存の儲けの仕組み」を使いつつ、「新しい製品やサービス」を提供するパターンです。これもたくさん事例があると思いますが、わかりやすいのはJINSのPCメガネですね。これまで誰も注目してなかったブルーライトに着目することで、「視力を調整する道具」でしかなかったメガネに「目の疲れを軽減する」という新たな価値を付加したわけです。一方で、儲けの仕組み自体は、従来とまったく変わりがない。こうしたモデルを「市場創造型」と呼んでいます。

田中:「新しい儲けの仕組み」と「既存の製品やサービス」の組み合わせはいかがでしょう?

内田:一番分かりやすいのはスマホゲームですね。従来のゲーム機メーカーのビジネスの仕組みをひと言でいうなら「ハードを安く売って、ソフトで儲ける」でした。ところがスマホゲームの場合、必要なのはスマホですから実質初期コストはゼロ。なおかつソフトにあたるアプリケーションはほとんど無料で、収益源は広告や課金です。ユーザーからすればプレイするゲーム自体は「既存の製品やサービス」なわけですが、「儲けの仕組み」は異なります。こういったゲーム・チェンジャーを「秩序破壊型」と呼んでいます。

最後は「新しい製品やサービス」と「新しい儲けの仕組み」の組み合わせです。私がよく紹介する事例は、タイムズのコインパーキングです。例えば、1時間の駐車料が300円だとして、24時間停めたら7,200円。1カ月停めたら21万6,000円になるわけで、普通に考えたらこんなに割高な駐車場はありません。けれど、ほとんどの皆さんは「1時間300円なら安い」と考える。その「安い」は何を比較しているかというと、近所の月極駐車場ではなく、違法駐車に対する罰金と比較しているというのが、私の仮説です。要するに、違法駐車で検挙されるリスクに対する保険料と考えれば、300円くらい安いものだろう、と。

もう一つ、駐車場のスペースを所有する地主さんの視点から考えてみても、コインパーキングには利がある。管理コストや集金にかかる手間暇を、管理会社がすべて負担してくれるからです。こうやってまとめると、コインパーキングというのは駐車場とは異なる、まったく新しいビジネスなのですね。そこでこうしたゲーム・チェンジャーを「ビジネス創造型」と呼んでいます。

CASEが引き起こす自動車業界のゲーム・チェンジ

田中:ここからは自動車産業にフォーカスしてお話を伺えればと思います。最近では、異業種からの参入も盛んですが、異業種競争戦略とゲーム・チェンジャーという視点からは、どういうことが読み解けそうでしょうか。

内田:まずは「自動車業界というバリューチェーン、あるいは事業連鎖の中でどんな変化が起きるか」という話と、「自動車という存在そのものがどのように変容していくか」という話を、切り分けて考えるべきだと思います。まず後者に関しては「CASE」と呼ばれる、大きな変化が起きています。そのなかでのE、つまりEV化だけに絞っても自動車業界にとっては、はかり知れない影響があるでしょう。自動車の形も売り方も変わりませんが、製造工程はモジュール型へとガラリと変わってしまうわけです。これまでの内燃機関系、ガソリンやディーゼルとは全く作り方が違ってくることが大きな変化です。

田中:「CASE」とは、CはConnectedで「つながる」、AがAutonomous/Automatedで「自動化」、SがService&Sharingで「サービスとシェアリング」、EがElectoricで「EV化」のことですね。 先ほどレコード針の事例がありましたが、EVシフトが貫徹されることで、必要なくなる部品が出てきますし、売上の8割・9割がなくなってしまう企業は多いですからね。

内田:これまで自動車にとって最も重要な部品といえばエンジンでした。しかし、EVにはエンジンが必要ありません。重要なのはモーターや電池、それからバッテリーなわけです。これまでの自動車にもバッテリーは積まれていましたが、まさかバッテリーが重要になるなんて誰も考えていなかった。現に、ほとんどの自動車メーカーが自前のバッテリーを作っていませんからね。それが今ではバッテリーを制するものがEVを制するとさえ言われている。この点一つとっても、自動車業界にとっては大きな変化です。一方で、CASEの中の「C」にあたる、コネクテッドによって、自動車がネットワークで繋がるということになると、自動車単体の技術だけでなく、道路状況などのインフラとうまくつなげていくことが非常に大切になりますよね。

田中:コネクテッドカーの実用化も、自動車業界にとっては大きなインパクトがありそうですね。実は私もちょうど昨年、自動車を買い換えたのですが、そのときにふと「今まではこんなに身近なものがデジタル化されていなかったのだな」と気づいて。自動車がデジタルにつながることには、大きな可能性を感じています。

内田:実は私も自動車が好きで、今はテスラに乗っています。今まで5回程故障したのですが、サービスセンターに電話をすると「ハンドルの右と左にあるスイッチを同時に押してください」と言われるのです。言われた通りにやってみるとシステムがリセットされて、5回ともそれで直りました。自動車というよりは、パソコンを操作しているような感覚です。

田中:テスラはつながっている車の最たるものですし、自動アップデートも有名ですよね。車がアップデートされるというのは、もう本当にスマホと同じような感覚です。

内田:夜中の間に勝手にバージョンアップされていたりします。このようにコネクテッドカーが当たり前になると、自動車にとって重要なのは通信モジュールやIoTセンサーになります。これも従来の自動車メーカーが苦手とする分野なので、日本メーカーにとっては非常に厳しい戦いが強いられるでしょう。

CASEの「S」、つまりシェアリングも、従来の自動車メーカーにとっては大きな脅威になるはずです。学生たちと話していると実感するのですが、彼らはもうほとんど自動車を所有することにステータスを感じていません。自動車は単なる「足」でしかなく、必要に応じてタクシーやカーシェアリング、レンタカーを使い分けている。これに加え、地球環境などの「エコ」に関する関心は若い人の方が高いと考えると、自動車は「所有するもの」から「利用するもの」へと、消費者の意識が明らかに変化しています。

そうなると何が起きるのかというと、行き着くのは「誰も車を個人で所有しない世界」です。当然、自動車の販売形態も変わるでしょう。車を買うのは個人ではなく、レンタカー会社などの企業になるはずです。つまり、自動車販売はBtoBが当たり前になるわけです。そうなると、街中の一等地に店舗を構えたディーラーは、まさに無用の長物ですよね。それどころか、かつて日本の自動車産業を支えてきたディーラーが、組織の足を引っ張るようにすらなりかねない。自動車のシェアリングには、自動車業界のビジネスモデルを変えるほどの大きなインパクトがあると感じています。

自動車業界が直面する「異業種競争」、日本の自動車メーカーが抱える課題とは

内田:「CASE」のもう一つは「A」の自動運転です。せっかくなのでお伺いしたいのですが、田中先生は自動運転についてはいかがお考えでしょうか? どうして日本の自動運転は、こんなにも出遅れてしまったのでしょう。

田中:まずは先ほどシェアリングについての話が出ましたので、それについて付け加えますと、デジタルシフトタイムズではトヨタのサブスクリプションサービスKINTOを運営する株式会社KINTO 代表取締役社長の小寺氏、そして自動運転の分野ではバイドゥ株式会社 代表取締役社長の張氏にお話をお伺いしています。まずは自動車のサブスクリプションサービスについてですが、コロナ禍で車のサブスクリプションサービスは数字を伸ばしていますが、対談の中で非常に驚いたのは、若年層が多く利用していること。また6割ほどがディーラーではなく、オンラインで利用申し込みをしているということです。

自動運転に関しては、日本の場合は、安全に対する考え方が海外とは大きく異なる気がしています。私は2019年に、バイドゥが量産化を進めている自動運転ミニバスを北京へ視察に行きましたが、驚いたのが公園内で走行する自動運転ミニバスが、歩行者のすれすれのところを走っていたことでした。

※ 田中氏は、アメリカ・ラスベガスのCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)2019に参加。バイドゥの発表を聞き、大きな衝撃を受けます。世界初のレベル4の自動運転ミニバス、2018年7月より量産開始。世界初のレベル4の自動運転ミニバス、すでに中国全土21ヵ所で運行中。これらの事実に衝撃を受けた田中氏は、その2か月後の2019年3月、中国・北京のバイドゥパークで自動運転ミニバスに試乗します。
なお、アメリカ CNBCは2021年11月24日、バイドゥが自動運転タクシー事業について北京の一部地区で料金を徴収する許可を得たと報じました。バイドゥは2020年10月より北京の亦庄(えきそう)地区で無料のテスト乗車を提供、既に2万人以上のユーザーが月に10回以上の乗車を行ったとのこと。それが今回北京当局から料金を徴収して事業開始する許可を取得したとのことです。また同社の担当者は、今回の自動運転タクシーのシステムやプラットフォームを海外のモビリティー運航者や自動車会社等に輸出する計画であることを明らかにしています。

実際の映像は動画でご覧いただけます。

日本だと、あれだけ人のすぐそばを自動運転バスが走行することは許されないでしょう。しかし、逆にいうとそういう状況下でAIアルゴリズムを学習させなければ、本当に安全な自動運転車はいつまで経っても完成しません。そうなると、完成したものを海外から輸入することしかできなくなります。もちろん、安心安全は徹底すべきだと思う一方で、ある種の完璧主義が自動運転車の開発の妨げになっている事実は否めないと思います。

内田:同感です。海外で自動運転の実験を盛んに行っている国は、累積での走行距離数は多いものの、一方で死亡事故も起きているわけです。アメリカでは、ある州で事故が起きたとしても、数カ月後には他の州で実験を再開していたりしますよね。その是非はさておき、新しい技術をいかに社会実装するかという部分に前向きですし、すごく知恵を絞っている。日本は自動運転の試験中に死亡事故が起きたとしたら、5年ほどは試験がストップするでしょう。こういう状況が続くと、携帯電話の世界で起きたことと同じように、日本の自動車メーカーが完全にイニシアチブを失ってしまうのではないでしょうか。

田中:本当にそうですね。安心安全は徹底すべきだと思いますが、その方針だと人が歩いているところに自動運転車がすごいスピードで通るということはない。しかしそういうことをしていかないと実証実験は進んでいかない。難しいところですね。

内田:一方でアメリカなど国土が広大な国で自動運転を導入するのと、日本のように狭い路地がたくさんある土地の事情とを比べると、日本で自動運転を実現する方が難しいと思うのです。歩行者のすぐそばを車が通って、何かの拍子に歩行者が倒れた場合、避けられなかった車が悪いということになると、いつまで経っても完全な自動運転は実装できない気がします。

田中:良し悪しはともかく、中国はある意味「なんでもあり」でテクノロジーを進化させる風土があります。そこも日本メーカーにとっては脅威だと思います。

内田:おっしゃる通りですね。自動車業界の異業種競争という視点で私なりの意見をもう一度整理すると、まずは自動車というフレームワークの中でこれから何が起きるのか、そして新たな社会システムのなかで自動車という存在をいかに位置づけるのか。この二つの命題に答えることが、日本の自動車メーカーが直面する大きな課題だと思います。

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コロナ禍でラジオが復権!? 民放ラジオ業界70年の歴史を塗り替えたradiko(ラジコ)の「共存共栄型 DX」とは

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Clubhouseをはじめ、新勢力が次々と参入し、拡大を見せる音声コンテンツ市場。その中で、民放開始から70年の歴史に「大変革」を巻き起こしているのが“ラジオ”です。放送エリアの壁を取り払う、リアルタイムでなくても番組を聴けるようにするといった機能で、ラジオをデジタル時代に即したサービスに生まれ変わらせたのは、PCやスマートフォンなどで番組を配信する『radiko(ラジコ)』。今回は、株式会社radiko 代表取締役社長の青木 貴博氏に、現在までのデジタルシフトの歩みと将来の展望について、お話を伺いました。