日本では、少子高齢化に伴う労働力不足が喫緊の課題となっています。テレワークは、育児中や介護中、病気療養中など、何らかの事情で働けない人材を活用できる方法ということで、注目を集めています。
本記事では、テレワークとはそもそも何か?というところから、テレワークの種類や最新動向、導入手順などについて詳しく解説いたします。
テレワークとは何か?
情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)を活用し、場所や時間にとらわれず働く働き方を指します。テレワークが普及することで、出産や育児をしている人、介護中、病気療養中の人も働く機会を失わず働き続けることができ、人材の有効活用化にもつながるものとして注目されています。
テレワークの「テレ」って?
テレワークのテレは英語の「tele」で、「離れた」「遠隔の」という意味を持つ言葉で、「tele+work」で遠隔の仕事という意味になります。ちなみに、テレワークという言葉は和製英語ではなく、1973年にアメリカ空軍にいたジャック・ニールズ氏によって作られた言葉です。なお、アメリカではオフィスで働くことを主としながらも、オフィス以外の場所でも働く働き方を「テレワーク」、オフィス以外の場所で働く場合をリモートワークと呼びます。
リモートワーク/スマートワークとの違いについて
テレワークは、「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」の3種類の働き方を内包する言葉で、リモートワークは「在宅勤務」「モバイルワーク」のことを主に指すケースが多いです。スマートワークは、ICTを活用し生産性を高める働き方や取り組みそのものを指すため、テレワークだけでなく、ABWやワーケーションといった働き方も含めた、より広義的な意味を持つ言葉になります。
テレワークの最新動向・推移
政府が推進する「働き方改革」にともなって、テレワークはここ数年で急激に浸透しました。2013年6月の「
世界最先端IT国家創造宣言」において、「テレワーク導入企業数3倍(2012年度比)」「雇用型在宅型テレワーカー数10%以上」などの目標が掲げられました。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/pdf/20130614/siryou1.pdf
2020年に開催される予定だった東京五輪における混雑緩和なども背景に、2020年を目標に政府はテレワークの普及策を打ち出していました。総務省「通信利用動向調査」によれば、テレワーク導入率は2019年度の段階で19.1%と約20%弱まで伸長しています。
参照:
第1部 特集 進化するデジタル経済とその先にあるSociety 5.0
厚生労働省のテレワーク総合ポータルサイトがまとめた資料によれば、アメリカは普及率が85.0%、イギリスは38.2%と、国土面積や商文化などの違いもありますが、諸外国に比べると少し遅れをとっていることが見てとれます。
参照:
海外の取り組み|テレワーク総合ポータルサイト
アフターコロナによってテレワークが急激に普及
しかし、新型コロナウィルスの蔓延により、外出自粛の措置がとられ、ソーシャルディスタンス、マスク着用といった新しい生活様式が生まれました。これに伴い、多くの企業がテレワークの導入をはじめました。
2020年に株式会社パーソル総合研究所が行った調査によれば、緊急事態宣言解除後におけるテレワーク実施率は緊急事態宣言から2.2ポイント減少しているものの、全国平均で25.7%と20%超となっております。ただし、業種や企業規模の大小によって、テレワークの実施率には大きな差があり、今後の課題となっております。
参照:
緊急事態宣言解除後のテレワークの実態について調査結果を発表 テレワーク実施率は全国平均で25.7%。4月に比べて2.2ポイント減少
テレワークの種類
テレワークは大きく分けると、「雇用型テレワーク」と「自営型テレワーク」に分かれます。
雇用型テレワーク
雇用型テレワークとは、事業者と雇用契約を締結した労働者が、自宅またはコワーキングスペースなど、オフィス以外の遠隔地で働くテレワークのことを言います。雇用型テレワークには、「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」の3つの種類があります。在宅勤務は、自宅にいながら仕事をする働き方を指し、育児や妊娠をしている人、介護をしている人に適した働き方です。モバイルワークは営業先や移動先のカフェなどで社用PCまたは貸し出し用携帯端末などで働くワークスタイルで、出張や外出の多い外勤の人に適した働き方です。最後のサテライトオフィス勤務は、会社が提携している、または指定したサテライトオフィスまたはシェアオフィスなどで働く働き方です。地方都市など遠隔地に居住している人に向いている働き方です。
自営型テレワーク
家内労働と似ていますが、家内労働はあくまで物品の製造や加工などを行うもので、家内労働法によって規定されています。一方、自営型テレワークは「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」によって遵守事項が定められており、法律的な観点からも全く別の概念となります。
テレワークのメリット
テレワークのメリットは大きく分けると、以下の5つになります。
生産性の向上
オフィスへ出勤する必要がなくなり、満員電車に乗る時間や労力が減る、または社内の雑談や他の人の電話に対応することから解放され、本来の自分の業務に専念できます。2018年に総務省が行った調査では、テレワークで労働生産性が向上したかどうかという回答に、「非常に効果があった」が23.5%、「ある程度、効果があった」が53.6%と回答しています。
参照:
第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長|総務省
ランニングコストの削減
一般的に、オフィスの賃料は粗利の10〜20%程度といわれており、コストの大部分を占めています。特に、丸の内や銀座といった一等地へオフィスを構えている企業では、ランニングコストだけで数千万、数億円規模になります。テレワークの実現によって、オフィス賃料だけでなく、OA機器、水道光熱費などのコスト削減にもつながります。
優秀な人材の確保/多様な働き方の実現
テレワークを導入することで、従業員それぞれの事情に合わせた働き方を作ることができます。今は育児や介護に追われ、時短勤務にならざるをえない、持病の関係で出勤が難しいなど、さまざまな事情によって働けていない優秀な人材の発掘と確保が実現できます。
BCP(事業継続計画)への対応
BCP(事業継続計画)とは、災害やテロ、戦争といった国家非常事態にみまわれたときに、企業の損害を最小限にとどめ、最重要業務を継続させ早期復旧を図る計画のこと。東日本大震災で注目され、さらに今回のコロナウィルス感染症で、BCP(事業継続計画)の策定をする企業が増えています。
テレワークによって、中枢のオフィス機能が分散化され、被害を最小限に食い止めることができます。従業員各自が主体的に業務を遂行できるため、非常事態によって、指揮命令系統が滞る心配もありません。
地球環境負荷の軽減
テレワークによって、通勤人数が減少し、オフィスの利用頻度が減ることでに節電でき、環境負荷の軽減につながるといわれています。国土交通省の調査によれば、テレワークの実施において年間で321〜442万tのCo2削減が実現できるとされています。
参照:
「テレワークによる効果の把握に関する調査研究報告書」平成16年3月|国土交通省
テレワークの課題点
一方、テレワークの導入にはいくつか課題もあります。
長時間労働の慢性化
テレワークは、業務を効率化させ、各々の事情に即した働き方を実現できますが、反面、
全て自己裁量に任されます。落ち着くひまもなく常に休日もメールをチェックするような状態になりかねません。こういった長時間労働の慢性化を防ぐためには、人事制度の見直しや勤怠管理システムの導入などの対策が必要となります。各々のマインドに委ねるのではなく、規則で整え、健全な労務環境にすることが重要です。
コミュニケーションの問題
周りの雑談に付き合わなくていい、急なの業務を任されずに済むというメリットもありますが、その点、困ったときに気軽に質問できない側面もあります。特に、新入社員などはこのコミュニケーションの壁にとても悩まされます。上司に気を遣ってしまい、事態やトラブルが大きくなってから相談するみたいなことも起きかねません。
出勤時と同じようにスムーズなコミュニケーションを実現するためには、チャットツールやビデオ会議ツールなどの導入が必須です。ただ、ツールを導入するだけでは、利用されずに形骸化してしまいます。コミュニケーションの活性化を促すような雑談スレッドの設置、定期的な1on1ミーティングなど、オンラインコミュニケーションに即した社内制度や取り組みの実施も合わせて行う必要があります。
セキュリティのリスク
テレワーク、特にモバイルワークやサテライトオフィス勤務では、自宅以外のカフェや
シェアオフィスなど、場所にとらわれない利点がある一方、機密情報の管理(パソコン画面の盗み見、機密書類の管理など)は個々に委ねられます。特に、今回の新型コロナウィルスでテレワークを実施する企業が増える中で、ハッカーによる攻撃の格好の的となるのが、テレワークを始めたばかりの従業員です。
従業員のセキュリティリスクへの意識啓発だけでなく、BYOD(個人端末)ではなく端末を貸与する、貸与した端末には基本的なセキュリティ対策ソフトの導入を行う、機密情報は暗号化して送受信を行うなど、セキュリティ規定・ルールを設けることが重要です。
テレワークを導入する手順
最後に、テレワークを導入する手順について解説いたします。
目的と対象範囲を決める
まず、テレワークを実施する目的と対象範囲を決めます。生産性の向上なのか、優秀な人材の確保なのか、それともBCP(事業継続計画)強化なのか、あらためて目的を明確にしましょう。
目的が決まったら、次は対象範囲を決めます。全ての業務がテレワークが可能とは限りません。現実的にテレワークが可能な対象者、対象業務を絞り込みます。選定においては、不平等にならないよう、関係者の承認や理解を得ながら慎重に進めていくことが大切です。
「テレワークの導入レベル」を把握する
総務省では、「テレワーク導⼊モデル」というものを作成しています。これは、「業種」と「企業規模(従業員数)」の2軸で企業類型に分類し、企業類型ごとに各導⼊ステージで直⾯する課題とその対策を事例を交えて掲載したものになります。
試行導入期、正式導入期(一部)、正式導入期(拡大普及)の3ステージで、それぞれ類型ごとに課題が異なり、その課題ごとに解決策が提示されています。
出典元:
総務省 働き⽅改⾰のためのテレワーク導⼊モデル(p4)
まずは自社がどの類型に該当するか、そしてどのような課題があるのかをチェックしましょう。
環境整備
テレワークに適した環境を整備するには、「セキュリティ」「労務管理」「人事制度」「ICT環境」、この4つを考える必要があります。
テレワークではオフィスという閉鎖空間を出て、カフェや自宅など、それぞれの事情に合わせた環境で業務を進めるため、機密情報の管理は従業員に委ねられます。セキュリティリスクの意識啓発はもちろん、公共の無線Wi-Fiの利用を禁止し、会社貸与のポケットWi-Fiの提供、在宅勤務の場合は仮想デスクトップで接続する、機密データへのアクセス認証のレベルを上げる(多要素認証など)社外への紙資料、USBの持ち出し禁止、バックアップファイルの作成など、これらをまとめたセキュリティガイドラインを作成し、対策、実施の基準を決定しましょう。
テレワークは、自分に合ったペースで働けますが、それは、つまりプライベートと仕事の境目がなくなる裏返しでもあります。仕事のオンオフがなくストレスがたまる従業員もいるでしょう。また、会社側としては、正確な労務実態の把握が課題となります。厚生労働省が作成している「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」などを参考にしながら、勤怠管理ツールの導入、また、簡単に休憩や休暇ができるよう、申請手続きの簡略化などを実施しましょう。
参照:
テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン|厚生労働省
テレワークでは、従業員プロセスが見れず、成果で評価を測りがちになります。そのため、主体的に動ける人が評価される「成果主義」に陥る可能性があります。従業員の主体性を引き出すためにも、偏った評価にしないためにも、上司との協議のもと、従業員自身が目標を設定して行動計画を立てる、テレワークに沿った新しい目標管理の方法を採用することが望ましいです。
テレワークにおいて最低限必要となるICTツールは以下の6つです。
・チャットツール
・Web会議ツール
・勤怠管理ツール
・電子決済ツール
・タスク管理/進捗管理ツール
・ドキュメント・ファイル共有ツール
ICT環境の整備については、総務省の「
テレワークセキュリティガイドライン」が一つの指標となります。リモートデスクトップ方式、デスクトップ仮想化方式、クラウド型アプリ方式、セキュアブラウザ方式、アプリケーションラッピング方式、会社PC持ち帰り方式の6つの方式に対し、それぞれ対策が記載されています。
まとめ
テレワークは、以前と比べると一般的な認知を獲得していますが、未だ「コミュニケーションコストがかかる」「かえって業務効率が悪くなる」という先入観もあります。テレワークは、多くの優秀な人材確保ができるだけでなく、社内の優秀層の定着にも効果があります。本記事を通して、テレワークを正しく理解し導入を検討してみてはいかがでしょうか。