2020年11月11日、自動運転に関するインパクトの大きなニュースが日本から世界に発信されました。ホンダが世界初となる自動運転(レベル3)の型式指定を取得したというもので、世界に先駆けて自動運転レベル3の量産車をある一定の条件下で走行させることができるようになったことを意味しています。自動運転は、日本の基幹産業のひとつである自動車産業が今後も競争力を保っていくために欠かせない技術ですが、欧米や中国などでも開発が進められており、国をあげた普及への取り組みも活発になっています。そんな自動運転を語る上で頻出する「自動運転レベル」とは何を指しているのか? レベルごとの特徴や違いについて解説します。
自動運転レベルとはどのようなこと?
交通事故の96%がドライバーに起因するといった統計データがあります。自動運転はこうした人間による運転ミスを削減し、自動車の安全性を向上させるだけではなく、渋滞の解消や慢性化するトラックドライバー不足への対策、あるいは移動手段が減少する地方部での新しい交通サービスの創出など、さまざまな社会問題を解決できるため、世界各国が競って開発や普及への環境整備を行っています。日本でも自動車産業は基幹産業であり、国をあげた支援が続いています。そんな自動運転技術では、ドライバーと車が担う運転動作の比率や、テクノロジーの到達度、走行可能エリアの限定度合いなどによって、レベル0からレベル5の6段階に「自動運転レベル」が分類されています。
SAEが自動運転技術を標準化したもの
日本を含め、世界には当初さまざまな「自動運転レベル」の定義が存在しましたが、「米運輸省道路交通安全局(NHTSA)」の定義を用いるケースが多く見られました。しかし、NHTSAがアメリカの「自動車技術会」(SAE)が示した基準を2016年に採用したことから、現在はSAEの6段階の自動運転レベルの定義が世界の主流となっています。なお、SAEはSociety of Automotive Engineersの略で、1905年に設立された学術団体が母体になった組織で、自動車に限らず、航空宇宙や産業車両など、幅広い輸送技術にかかわる研究者や技術者が会員になっており、あらゆる乗り物の標準化・規格の制定を行っています。
自動運転レベル3以上が「自動運転」
SAEによる6段階の自動運転レベルでは、レベル0〜2とレベル3以上では、その内容が大きく変化します。レベル0〜2では運転の主体は人間で、自動運転の技術はあくまで運転の補助や支援にとどまります。しかし、レベル3以上になると、運転の主体がシステム側に変わります。そのためレベル3以上が実質的な「自動運転」になり、区別されています。
自動運転レベルを段階別に解説
自動運転では、SAEによる6段階の自動運転レベルへの理解が欠かせません。各レベルには定義があり、それぞれどんな状態を示しているのか解説していきます。
自動運転レベル0
新型車をのぞく、現在、路上を走っている車の多くはレベル0です。ドライバーがすべての動的な運転タスクを実行している状態を指します。従来の車にも速度超過やライトの点灯など、さまざまな予防安全システムが搭載されていますが、システムが警告を発するだけのものは、車の制御に影響を与えないため、自動運転レベルは0とみなされます。
自動運転レベル1
レベル1は、運転支援技術が搭載された車を指します。アクセルとブレーキ操作による前後の加速や減速をシステムが制御、もしくはハンドル操作による左右の制御のどちらかの監視・対応をシステムが担っており、残りの監視・対応はドライバーが行うような車です。たとえば、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)という高速道路などで使用されるような、あらかじめ設定した速度で自動的に加減速を行うことで、前を走る車に追従する技術がありますが、これはレベル1に相当します。また、緊急自動ブレーキや、車線を逸脱したことを検知するとステアリング操作をアシストする車線維持支援(LKAS)もレベル1に該当します。
自動運転レベル2
レベル2は、部分的に運転が自動化された車両で、アクセルとブレーキ操作による前後の加速や減速の制御と、ハンドル操作による左右の制御の両方をシステムが担うことになります。ただ、運転の主体はドライバーで、システムはあくまで運転を支援する役割に止まります。そのため、ドライバーは常にハンドルを握って、運転状況を監視操作することが求められます。こうした事故を未然に防いだり運転の負荷を軽減したりするための先進運転支援システムは「ADAS(Advanced driver-assistance systems)」と呼ばれており、ADASの機能が向上して、障害物を100%検知し、100%正しい判断を下し、100%正確な制御を行うレベルに達すれば、完全なる自動運転技術が確立したことになると言われています。
国内外の自動車メーカーの自動運転技術はこのレベル2に達しており、各社がそれぞれ独自の技術を搭載した自動車を販売しています。日産のプロパイロット、トヨタのトヨタセーフティセンス、ホンダのホンダセンシング、BMWのパーソナルCoPliot、メルセデスのインテリジェントドライブ、テスラのオートパイロットなどがこれに該当します。
自動運転レベル3
レベル3は条件付き運転自動化を意味し、運転の主体がドライバーからシステム側に変わる点で、レベル0〜2と大きく異なります。厳密にいえば、このレベル3からが自動運転です。ただ、一定の条件下ですべての運転操作をシステムが行いますが、緊急時にはドライバーが運転操作を担うことになっています。
これまで自動車の交通ルールを記載した「道路運送車両法」や「道路交通法」では、自動運転を想定しておらず、自動運転レベル3の車両が公道を走行することができませんでした。そこで日本政府が動き2019年3月に「道路運送車両法の一部を改正する法律案」及び「道路交通法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、2020年4月になり両改正案が施行されたという経緯があります。これによって世界に先駆けて、2020年11月11日にホンダが世界初となる自動運転レベル3の型式指定を取得しました。
海外ではドイツのアウディが2017年に「Audi AIトラフィックジャムパイロット」というシステムを搭載した「Audi A8」を発売しています。同システムは高速道路や中央分離帯のある片道2車線以上の道路で、時速60キロメートル以下の低速で車がスムーズに流れているときにドライバーに代わってシステムがすべての運転操作を引き受けることができるというもので、レベル3に相当しますが、各国の法整備がレベル3に追いついていなかったため、レベル2に相当するADASを実装して販売されています。
自動運転レベル4
レベル3では緊急時にはドライバーが運転操作を行うため、ドライバーはすぐにハンドルを握れる体勢を取ったり、安全に走行できているか、道路の状況や周囲の車などに注意を払っておく必要がありますが、レベル4になると「限定領域内」という言葉がつきますが、すべての操作はシステムが行います。限定領域内とは“高速道路内”や“平均時速50キロメートルの都市環境”など、自動運転が走行できるエリアを限定することを意味しており、あらかじめルートが決まっている路線バスや、空港内など特定の地域内を走行する送迎用のバス、広大なテーマパークなど商業施設内の交通手段となる小型タクシーといった移動サービスとの相性が良く、開発が進められています。なお自動運転レベル4は「高度な自動運転」と呼ばれています。
海外ではグーグル系のWaymo(ウェイモ)が自動運転タクシーの開発を行っているほか、中国の百度(バイドゥ)やDidi Chuxing(ディディ)もレベル4のタクシーサービスの検証を行っています。国内では、DeNAと日産が開発する自動運転タクシーEasy Ride(イージーライド)やロボットベンチャーのZMPなどが参入しています。
自動運転レベル5
自動運転レベル5は完全な自動運転を指し、走行エリアの限定がなく、いまの車と変わらず、どこを走行しても問題ありません。運転はすべてシステムが担当するため、ドライバーが不要になるだけではなく、ハンドルやアクセル、ブレーキなど運転席を設置する必要がなく、車内の空間デザインの自由度が格段に増すと言われています。そのため車内での過ごし方もいまとは全く異なることが予想され、テレビを見たり、打ち合わせをしたり、ひとつの居住空間のような形になると言われています。
自動運転が普及するメリットとは?
自動運転が普及すれば、ドライバーにとっては移動が楽になりますが、広く普及することで社会的にはどんなメリットがあるのでしょうか? 自動運転が普及することで享受できる効果やメリットを解説します。
渋滞問題が解消される
自動運転によって効率的な運転ができるようになれば、渋滞問題を解消することにつながると言われていますが、アメリカのミシガン大学ではこんな研究レポートを発表しています。自動運転による車両が一台走行するだけで、渋滞が緩和するとしています。先行する車が減速すると後続車がそれを見てブレーキを踏みますが、それが連鎖することで渋滞は発生します。このとき車間距離が短く、より強くブレーキを踏む車がいると、通常よりも早く渋滞が発生するそうです。自動運転車は常に適切な車間距離を取りながら走行しているため、減速のタイミングやブレーキの掛け具合も、迅速で最低限になると考えられています。そのため、自動運転が普及すれば、渋滞が解消されることになります。
交通事故が減少する
交通事故の96%がドライバーに起因するといった統計データがあります。スピード違反や車間距離が短すぎて追突する、車幅などを間違えて障害物に擦ったりなど、多くの事故が人間の判断ミスや操作ミスが引き起こすというわけです。また高齢者ドライバーの事故も近年問題視されています。高齢になると判断力や反射神経に衰えが見られるため、運転はリスクになります。自動運転が普及することで高齢者は自ら運転する必要がなくなり、事故も減らせることができます。
移動中の時間を有効活用できる
とくに自動運転レベル5が実現すると、車内空間が従来のデザインと一変することが予想されています。ハンドルやブレーキなどはもちろん運転席そのものがなくなり、リビングのような居住空間になると考えられており、移動中に会議を行ったり、パソコンで資料を作成することも可能になるでしょう。大画面のテレビを設置し、映画観賞をしたり、スマートフォンを閲覧して過ごすといったコンテンツ消費の時間にあてることもできます。移動時間を別のことに活用できるため、有意義で効率の良い時間の過ごし方が実現します。
日本における自動運転の普及状況
覇権を握るべく、世界各国で開発競争や実証実験が行われている自動運転ですが、日本の現状はどの程度なのでしょうか? 続いては日本における自動運転の普及状況を解説します。
2020年4月から自動運転レベル3が公道走行可能に
自動運転技術を搭載した車両の開発や、運行の実験が行われていますが、公道を走行するには、道路交通法や道路運送車両法の改正が必要でした。とくに自動運転レベルが3になると、運転の主体が人からシステムに移行します。そのような自体を両法律では想定していなかったため、自動運転の普及を前提とした法律改正が求められていました。主なポイントは「自動運行装置の定義に関する規定」「作動状態記録装置による記録に関する規定」そして「自動運行装置を使用して自動車を運転する場合の運転者の義務に関する規定」の3点です。とくに3点目は事故が起こった際の責任の所在に関わるため、重要です。2020年4月にこれらの規定が盛り込まれた道路交通法と道路運送車両法が施行されたことで、日本の公道で自動運転レベル3の走行が可能になりました。
走行中の過ごし方が大きく変わることになる
現在は走行中にスマホやカーナビを使用したり、注視する「ながら運転」は禁止されており、2019年12月の道路交通法改正では罰則が強化されています。もし、完全な自動運転が実現すれば、スマホやカーナビの操作はもちろん、車内でテレビを見ることも可能になるはずです。そうなれば走行中の過ごし方が大きく変わることになります。
海外ではアウディが自動運転レベル3を販売している
ドイツのアウディが自動運転レベル3の技術を搭載した「Audi A8」を発売したのは、2017年のことです。「Audi AIトラフィックジャムパイロット」というシステムで、高速道路や中央分離帯のある片道2車線以上の道路で、時速60キロメートル以下の低速で車がスムーズに流れているときにドライバーに代わってシステムがすべての運転操作を引き受けるというものですが、各国の法整備がレベル3に追いついていないという事情でレベル2に相当するADASを実装して販売されています。日本でレベル3の走行が可能になったため、本来の「Audi A8」が走行するかもしれません。
ホンダが自動運転レベル3の自動車を発売する予定
国内ではホンダが2020年11月11日に新しく開発した自動運転システムのTraffic Jam Pilotが、自動運転レベル3の型式指定を国土交通省から取得したと発表しています。ホンダはこのシステムを搭載したレジェンドを2020年度中に発売する予定で、日本で近いうちに本格的な自動運転車が走行する見込みになっています。なお、Traffic Jam Pilotは高速道路上の渋滞時のみ自動運転を行えることになっていますが、自車線と対向車線が中央分離帯などで分離されていない区間や急カーブ、サービスエリア・パーキングエリア、そして料金所などでは使用できません。また、速度の制限もあり、時速30キロまでならレベル3での自動走行が可能で、時速50キロを超えると自動運転は終了する仕組みになっているなど、現実的にどこまで自動運転で走行できるかは、未知数となっています。
自動運転社会を実現するための課題とは?
自動運転を広く普及させるためには、テクノロジーの進歩だけでは不可能です。2017年に技術的には到達したアウディのAudi A8がレベル3での走行が難しかったことが示しているように、多くの障壁が残されています。自動運転社会の実現に向けた課題を解説します。
各種法律の整備
日本では東京オリンピックの開催を控え、国をあげて世界に先駆けてレベル3を実現させようという機運が生まれたため、道路交通法や道路運送車両法の改正が行われましたが、自動車はグローバルな製品なため、日本だけではなく世界各国で同様の改正が行われる必要があります。また、日本やアメリカなどが批准している国際的な道路交通条約である「ジュネーブ道路交通条約」や、主に欧州が批准する「ウィーン道路交通条約」といった条約もあわせて改正される必要があると指摘されています。これらの条約には、自動車には運転者がいなければならない、といった記載や、運転者が適切に操縦しなければならない、といった規定があるため、自動運転を実現するハードルになるからです。
交通インフラの普及
自動運転を普及させるためには、交通インフラの整備も欠かせないといいます。自動運転車には周囲のさまざまな情報を取得するための、センサーやカメラが搭載されています。こうした技術の精度を極限にまで高めていくことで、事故も減っていきます。そのためには交通インフラの整備が必要だというわけです。たとえば、事故が起きやすい交差点や道路で歩行者や対向車に関する情報を送信する技術や、GPSが届かない場所で位置情報を取得できる技術の開発なども進められています。
事故発生時の責任の所在
もし、無人の自動運転車が事故を起こした場合の責任の所在はどこにあるのか?といった議論もあります。歩行者を怪我あるいは死亡させてしまった場合に誰が責任を取るのかというテーマはもちろんのこと、ハッキングで事故が起こったケースや、地図情報やインフラ情報などの通信障害によって事故が起こったケースなどについても、あらかじめあらゆるケースを想定した補償制度や法律を考えておく必要があります。
5GやAIを活用したシステムづくり
2020年3月から携帯電話各社が5Gのサービス提供をスタートさせています。5Gは第5世代移動通信システムで、現在の主流である4Gと比較すると、通信速度は20倍、デバイスを同時接続も10倍になると言われています。こうした超高速通信の実現は自動運転にも欠かせません。たとえば、走行する車両同士が通信することで事故の防止にもつながり、歩行者が持っているデバイスと通信して、危険を事前に察知することも可能になるはずです。とくに車は走行スピードが速いため、通信のタイムラグも発生しやすく、遅延の少ない5Gの恩恵を受けることになります。
また、自動運転システムではセンサーやカメラで収集した膨大なデータをAIで解析・分析します。そのためより高性能なAIが開発されることで、より事故の少ない自動運転が実現できるようになります。
セキュリティリスクへの対応
あらゆる通信機器・デバイスがセキュリティへのリスクを抱えていますが、自動運転の車両も同様です。ネットワークとつなげることで、安全な走行が可能になりますが、もしシステムがハッキングされると、暴走や衝突など深刻な事故が起こってしまうかもしれません。いかにして通信のセキュリティを高めていくのかも重大なテーマです。
自動運転レベルごとの違いを知っておこう
ようやく自動運転レベル3に足を踏み入れたところですが、レベル3の普及や、さらに4や5への進化には、数多くの課題が残されています。自動運転が広く普及した暁にはドライバーはもちろん社会に大きな変革をもたらすため、期待が高まっています。こうした自動運転レベルの違いを把握しておくことで、より自動運転の現在地を理解することができるようになります。