自動運転の実現はモビリティの世界に100年に一度の大変革をもたらすと言われていますが、自動運転レベル5になると、人々は運転から完全に解放され、すべてシステムが担当するようになります。ブレーキやハンドルなど、運転に関する装置も車内には設置されず、いまとは全く異なる乗車体験となるはずです。そのため遠い将来のテクノロジーのように思えますが、各社は2020年後半から2030年代の量産体制を目標にしており、計画が送れなければ、あと10年〜20年先の近い未来の話です。ただ、技術的に可能になっても、法律やインフラの整備など、自動化のために整備しなければいけないことがたくさんあります。各社が開発を進める自動運転レベル5の進捗を理解しながら、今後、社会に求められる課題についても解説します。
自動運転レベル5とはどんな自動車?
自動運転レベル5は完全な自動運転を指し、走行エリアの限定がなく、いまの車と変わらず、どこを走行しても問題ありません。運転はすべてシステムが担当するため、ドライバーが不要になるだけではなく、ハンドルやアクセル、ブレーキなど運転席を設置する必要がなく、車内の空間デザインの自由度が格段に増すと言われています。そのため車内での過ごし方もいまとは全く異なることが予想され、テレビを見たり、打ち合わせをしたり、ひとつの居住空間のような形になると言われています。
自動運転レベル5が解禁になるのはいつ?
日本では2020年4月の改正道路交通法などによって、公道での自動運転レベル3の車両の走行への道が開ました。特定の条件下での部分的な自動運転がレベル3ですが、今後、自動運転レベル4、そして自動運転レベル5と、技術がさらに進歩していきます。大まかな目標として2020年代の後半や2030年代を掲げるメーカーが多く、自動運転の時代がすぐそこまで迫っています。
日本では2025年ごろと考えられている
日本政府が主導しているIT総合戦略本部は2017年に「官民 ITS 構想・ロードマップ 2017」を発表しています。この中に自動運転に関する記載があるのですが、2020年までに自家用車は自動運転レベル2相当の「部分的運転自動化」を実現し、2020年代前半には高速道路におけるレベル3相当の「条件付き運転自動化」を実現するとしています。さらに2025年前後には高速道路において高度な自動運転となるレベル4の実用化を目指すとなっています。したがって、レベル5についても高速道路など一定の条件下では2030年までに実現されるかもしれません。
中国は2030年ごろに解禁する予定
中国は日本やアメリカなどが批准している国際的な道路交通条約である「ジュネーブ道路交通条約」に批准していません。また、主に欧州が批准する「ウィーン道路交通条約」にも批准しておらず、こうした国際的な交通規則と国内法との矛盾を考慮することなく、開発に力を入れることができます。そのため国策として自動運転や電気自動車(EV)の開発に注力していると言われています。2015年に中国政府が発表した「中国製造2025」では2030年に自動運転レベル4〜5の技術を新車の10%に搭載することを目標にしています。
欧州は2030年代に一般化させる方針
欧州では2018年にEUが中心となって、2030年代までに完全自動運転を実現するためのロードマップを発表しています。2020年代にまずは都市部で低速での自動走行を実用化し、2030年代までには完全なる自動運転を導入する方針です。
アメリカの自動運転レベル5解禁は未定
アメリカでは2017年に自動車メーカーに安全性評価証明書の提出を義務付けたり、連邦自動車安全基準の見直す連邦法が提出されています。レベル5の完全自動運転に関する記述も含まれているため、先行きが不透明になっていると言われています。州によって法整備の状況も異なるため、実用化の時期については未定です。
各自動車メーカーの車の運転開発状況
国内外のメーカーが自動運転レベル5を開発し、自動車産業の覇権を握るためにしのぎを削っています。公にされている情報は少ないですが、各自動車メーカーの開発状況を紹介します。
アウディ
アウディは2017年後半に世界初の自動運転レベル3を実用化したことは、業界では広く知られています。各国の法体系の整備が遅れていたため、普及への道は厳しいものでしたが、引き続き開発が進められています。レベル5の完全自動運転もかなり早い段階で実現されると考えられており、2020年から2021年には高速道路での実用化を目標にしていると言われています。
メルセデス・ベンツ
メルセデス・ベンツではすでに「Sクラス」や「Eクラス」で、レベル2の自動運転システムの搭載が進んでいます。レベル5については2027年ごろまでに実用化する計画を立てています。
GM
GMでは、傘下のクルーズ社が中心となり、シボレー『ボルトEV』をベースにした完全自動運転車の公道での実証実験を数多く行っています。他社を圧倒する規模でデータの蓄積が行われており、目標は示されていませんが、近い将来、レベル5の車両が登場するかもしれません。
テスラ
テスラもまた自動運転を積極的に開発している企業のひとつです。「オートパイロット」というレベル2の自動運転システムが実用されており、「モデルS」「モデル3」といった量産車に搭載されています。また、2019年4月には次世代システムの「オートパイロット3.0」を発表しており、EVによるロボタクシー事業の開始も計画されています。あわせてオートパイロット3.0による完全自動運転を可能にするために設計されたチップを、今後、全新車種に搭載する計画も発表しています。
BMW
BMWは「5シリーズ」と「7シリーズ」にレベル2の自動運転システムが搭載されており、2021年にはレベル5の完全自動運転を実用化するといった計画を発表したこともありました。ただ現実的にはその計画よりもずれ込むことが予想されています。
Waymo(Google)
他の自動車メーカーとは少し異なるアプローチとなっているのが、Google系の自動運転開発企業「Waymo」です。同社はAI(人工知能)などGoogleが持つテクノロジーを生かした完全自動運転の実用化を目指しています。すでに自動運転配車サービス「Waymo One」のサービス提供をスタートさせています。
日産自動車
日産は「プロパイロット」と呼ばれるレベル2の自動運転技術をセレナなどの車種を中心に搭載しており、レベル3の実証実験も頻繁に行っています。完全自動運転の走行実験も目指していますが、時期についてはまだ未定です。
トヨタ自動車
トヨタ自動車ではレクサス「LS」にレベル2の自動運転システムを搭載しており、2020年頃に高速道路での完全自動運転を目指す計画がありますが、現時点で具体的な発表は行われていません。
自動運転レベル5を解禁する際の課題
自動運転レベル3の実現にも法改正の必要がありましたが、自動運転レベル5の解禁では完全なる自動運転となるため、より多くの社会制度を整える必要があります。考えられる課題をいくつかご紹介します。
インフラの整備
自動運転を普及させるためには、交通インフラの整備が欠かせません。自動運転車には周囲のさまざまな情報を取得するための、センサーやカメラが搭載されています。こうした技術の精度を極限にまで高めていくことで、事故も減っていきます。そのためには交通インフラの整備が必要だというわけです。たとえば、事故が起きやすい交差点や道路で歩行者や対向車に関する情報を送信する技術や、GPSが届かない場所で位置情報を取得できる技術の開発なども進められています。
事故発生時の責任の所在
もし、無人の自動運転車が事故を起こした場合の責任の所在はどこにあるのか?といった議論もあります。レベル5ではドライバーが存在せず、すべてシステムが車両を操作し、制御を行います。人ではなくシステムが事故を起こした場合の責任の所在を明確にしておく必要があります。また、歩行者を怪我あるいは死亡させてしまった場合に誰が責任を取るのかというテーマはもちろんのこと、ハッキングで事故が起こったケースや、地図情報やインフラ情報などの通信障害によって事故が起こったケースなどについても、あらかじめあらゆるケースを想定した補償制度や法律を考えておく必要があります。
自動運転に関係する法律の整備
日本では東京オリンピックの開催を控え、国をあげて世界に先駆けてレベル3を実現させようという機運が生まれたため、道路交通法や道路運送車両法の改正が行われましたが、レベル5となるとさらなる法改正も議論にのぼるでしょう。また、日本が批准する国際的な道路交通条約である「ジュネーブ道路交通条約」の動向も影響するはずです。自動車の運転が人からシステムに完全に切り替わるため、責任の所在など、さまざまな規定を見直す必要があります。
5GやAIシステムの開発
2020年3月から携帯電話各社が5Gのサービス提供をスタートさせましたが、都市部の限定的なエリアにしか、まだ電波が届かない状態になっています。現在の主流である4Gと比較すると、通信速度が20倍、デバイスを同時接続も10倍になると言われる超高速通信だけに、車両の走行するエリアを広くカバーする必要があります。走行する車両同士が通信することで事故の防止や、歩行者が持っているデバイスと通信して、危険を事前に察知することも可能になります。とくに車は走行スピードが速いため、通信のタイムラグも発生しやすく、遅延の少ない5Gの恩恵を受けることになります。
また、自動運転システムではセンサーやカメラで収集した膨大なデータをAIで解析・分析します。そのためにはビッグデータの通信も必須となり、ますます5Gのエリアが広がることが求められます。
セキュリティリスクへの対策
あらゆる通信機器・デバイスがセキュリティへのリスクを抱えていますが、自動運転の車両も同様です。ネットワークとつなげることで、安全な走行が可能になりますが、もしシステムがハッキングされると、暴走や衝突など深刻な事故が起こってしまうかもしれません。いかにして通信のセキュリティを高めていくのかも重大なテーマです。
自動運転レベル5の開発状況を把握しておこう
自動運転レベル5はまだ10年、20年先の技術と考えていると、なかなか普及が進みません。テクノロジーの進歩と歩調を合わせるように、同時に社会を変えていくことでスムーズな技術の導入が可能となります。自動運転レベル5の開発状況を把握しつつ、社会の変化を見守りましょう。