月4回のオンラインレッスンで年商1億円の事業者も!コロナ禍で急成長中のCtoCスキルマーケット「MOSH」の差別化戦略とは

ヨガにフィットネス、料理や英会話……、個人のスキルを活かしたサービスを販売するプラットフォームのMOSH。強豪ひしめくCtoC市場の中、MOSHはパッション・エコノミーに重点を置いた戦略で見事な差別化に成功しています。そんなMOSHの誕生背景には、創業者の籔 和弥氏が世界各国で150名のいろんな世代の方と話した経験が活かされているそう。DXが進む現代において、CtoCの市場はどう変化していくのか。MOSHで実際にサービスを提供している加圧インストラクターの鈴木 莉紗氏とMOSH創業者であり代表取締役社長である籔氏のお二人にお話を伺いました。

ざっくりまとめ

-MOSHはオンライン上で個人がスキルを販売できるサービス。コロナ禍により、オンライン完結でサービス提供する利用者が増加

-創業前に世界一周をしていた籔氏が各国の若者と会話をする中で、皆が自己実現の欲求を抱えていることを知り、MOSHの立ち上げにつながった

-他の競合サイトと異なり、MOSHが心がけているのはスキルを販売する事業者の顔が見えて、個性が伝わる仕組み

-DXが進めば距離の制約に囚われないレッスンが可能になるので、マーケットも大きく広がる

-これまで受講者側だった個人が、自分もサービスを提供する側にまわるという循環が生まれれば、情熱がめぐる経済圏となる。それがMOSHの目指す先

コロナ禍で加速したオンライン化。多様化し、活況を呈する個人のスキル販売市場

―2020年から続くコロナ禍の現在、MOSHのニーズにはどのような変化がありましたか?

籔:MOSHは「情熱がめぐる経済をつくる。」をミッションとした、人々が自分のスキルや技術を販売できるプラットフォームです。創業は2017年8月で、当時からオンラインとオフラインでのサービス提供を考えていましたが、いまいちオンラインレッスンの機能は利用されていませんでした。でも、外出自粛などの影響でユーザーのオンライン需要が急増し、事業者のサービス提供もオンラインへのシフトが一気に加速しました。前年比で7~8倍は増加していると思います。そういう意味でも大きいインパクトはありましたね。

―なるほど。MOSHを利用されている方は皆さん、どんなスキルを販売しているんでしょうか?

籔:大枠としてはフィットネス全般が4~5割を占めています。鈴木さんの「骨盤の歪みを直してランニングフォームを改善する」というサービスもそうですが、その人ならではのレッスン内容が多いですね。皆さん、健康やパフォーマンスの向上という共通の目標がありますが、そこに至るまでのアプローチがヨガだったりダンスだったりピラティスだったり、多様化しています。

文系では定番の英会話、料理教室の人気が高いですね。ペットのしつけ教室や家庭教師だったり、海外在住のツアーコンダクターの方が現地のオンラインツアーを開催したりすることもあります。

起業の原点は、スマホで外の世界を知ったマサイ族の青年が抱えていた生き方への悩み

―どのような想いで、MOSHを創業されたのでしょうか?何かエピソードがあれば教えてください。

籔:創業前に世界一周をしていたときに、150名ほどのいろんな世代の方とお会いしました。現在は途上国でもインフラが整備されて生活水準が上がっており、多くの人がスマホを持ってSNSを使う中で、多くの人の生き様を知ることができるようになっています。これによって「自分の生き方はこれでいいのかな?」という問題意識を持つ人が増えていることを知りました。

ケニアのマサイ族の村には、「15歳でライオンを殺せば奥さんを他の村から連れてくることができて、結婚して自分の家を建てて、いずれは村長になる」といった古くから続くロードマップがあるんです。でも、今のマサイ族の若者は皆、英語が喋れて、スマホも持っているから外の世界を知っています。私が訪れたときにはちょうど同い年の青年がいて、彼から一観光客である私に対して「この村で暮らすことが本当にいいことだと思うか?」と相談されたことがありました。

このとき、インフラはそこまで充実していないけれど、スマホが先に普及したことによって、人々が従来とは違う生き方について考えるようになったんだなと思いました。彼が住んでいたのはケニアの農村部でしたが、将来はナイロビで働く希望を持っていたり、日本に行く方法を知りたがっていたり、それまでのマサイ族とは違う生き方を求めていて。これは興味深いことではありますが、社会的にも大きな課題だと思ったんです。

―マサイ族の青年も、日本人と共通の悩みを抱えているということですね。

籔:生活水準が向上していく中、これからは心の豊かさや生き様に目を向ける人が多くなるんだろうなという想いが、MOSHのベースにあります。そんな時代において幸運にも自分のやりたいことを見つけた人に話を聞くと、そこには人との出会いがきっかけになっていることが多いんです。情熱を持っている人からインスピレーションを受けて、自分もなにか熱中できることを始めてみると、やがて情熱が周囲に伝播していい循環が生まれます。そのような経済圏を作っていければいいなと思っています。

個人の情熱が伝わり、収益を生み出す仕組みで競合と差別化を図る

―MOSHのような、個人間でスキルを販売するサービスは多くの競合が存在しますが、その中でMOSHが選ばれる理由はどこにあるとお考えですか?

籔:ユーザーの皆さんからするとどれも似たようなサービスに映っていると思っていて、機能ベースでの差別化は難しいと考えています。サービスをつくる上で大事にしているのは、「どういうミッションに基づいてそのサービスを作っているのか」ということです。例えば、ユーザーを多く集めて手数料を取るビジネスモデルのマーケットプレイス型サービスは、集客力は優れている一方で、マーケット内での受講者からの評価や金額での比較が生まれ、上位になれるユーザーはごく一部になってしまう傾向にあります。

一方で、私たちは「情熱がめぐる経済をつくる。」というミッションからサービスを作っているので、MOSHを使う事業者の個性がちゃんと伝わり、それが利益につながるような支援をしていきたい。そのためには事業者のポテンシャルや能力が最大限に発揮できて、売上も最大化できるフォーマットが必要だと考えています。そして、MOSHでサービスを受けた方が、サービス提供者側にまわるという循環を生み出せれば、誰もが熱中できることを見つけられるようになる。MOSHがそんな場所になればいいなと思い、プロダクト開発に取り組んでいます。

障壁を下げ、サポート体制も充実。ユーザーフレンドリーな仕様

―では、鈴木さんにお聞きします。いろいろな競合が多い中でMOSHを選んだ理由、実際に使ってみて優れている点があれば教えてください。

鈴木:私はランナーの方に対して、骨格の評価と改善法をサービスとして提供しています。MOSHを利用した感想を一言で表すと、良心的ということですね。他では月々の手数料がちょっと高かったり、個人情報を事細かに開示する必要があったりするのですが、MOSHは月額利用料が不要で、必要なのは3.6%の決済手数料(割引期間中。通常は8%)だけ。スタッフの方による事業者へのサポートも行き届いているので、安心して利用できます。

例えば、MOSHのインスタグラムでは、売上や集客率が上がるためのアドバイスを定期的に発信されています。LINEによるサポートもあるのですが、ビジネス面までフォローしていただけるのは初めての事業者には嬉しいですよね。LINEだからこそ気兼ねなく、思ったときにすぐ聞けますし。MOSHは私の知り合いの信頼できるトレーナーさんも利用していたので、それなら間違いないだろうと思いました。やはり知り合いが使っているというのも大きかったですね。

―鈴木さんの提供する骨格の評価と改善法というサービスとは、具体的にどのようなものですか?

鈴木:私のレッスンを受ける方は初心者~上級者までさまざまなランナーの方で、皆さんいろいろなトラブルを抱えていますが、ほとんどの原因は骨格にあります。なので、骨格を整えてフォームを改善するお手伝いをしているんです。

―骨格とランニングフォームが関係しているんですか。

鈴木:私は10年以上ランニングを続けていますが、姿勢の歪みがランニングフォームの歪みにつながることに気づいたのは最近の話です。たまたま産後に姿勢改善をしたらランニングフォームがよくなって、「もしやこれは?」みたいな(笑)。ケガも不調もすべては姿勢、骨格の歪みから生じていることに気がついて、多くの人に広めたいと思ったわけです。骨格の改善は写真や問診を参考にすればだいたいの原因が分かるので、オンラインでも適切なアドバイスをすることができます。

やはりオンラインの利点は全国どこにいてもサービスを利用いただける点です。私は都内のジムでトレーナーもしていますが、オフラインだと近場に住んでいる人にしかサービスが提供できません。オンラインなら海外にお住まいの遠方の方なども、いつでもどこでも都合のいいときに受講していただけるので、いろいろな方にサービスを提供できるようになったことは非常にメリットを感じていますね。

DXで地理の制約を取り払い、事業者の個性に共鳴するターゲットを増やす

―MOSHのサービスを語るときに欠かせない「パッション・エコノミー」というキーワードですが、DX化との相性はいかがですか?

籔: パッション・エコノミーについては「個性をバグではなく強みにする」というワードで広く知られていると思います。鈴木さんのように、実体験に基づいて生まれたその人独自のサービスで収益を生もうとしたとき、商圏を狭めてしまうと当然ながらターゲットも限定されてしまいます。でもDX化が進めば、その個性に反応してくれる人が一気に増やせる。これまで消費者が求めていることを優先していた事業者も、自分の個性を活かしたサービスに転換できるわけです。

その際、個人の体験に根ざしたサービスは、規模の大きいマーケットプレイス型のサイトに置かれると、バックグラウンドがすべて消えてしまうんです。個人的なストーリーよりも、受講者からの評価数などが判断基準として優先されてしまうので。鈴木さんの産後に行った姿勢改善がフォームの改善にもつながったというエピソードは、受講者にも説得力があるはずです。だから、MOSHは事業者の顔がぼやけないサービスを提供できるよう心がけています。

サブスクで年商1億円の事業者も。個人でもチームでも収益を最大化する仕組みを整える

―鈴木さんはMOSHを利用する前、オンライン上で同様のサービスは利用されていたんですか?

鈴木:いえ、MOSHが初めてですが、特に戸惑いなどはありませんでした。MOSHを利用し、オンラインのレクチャーを取り入れたことで、ストレスが減るというメリットも感じています。オフラインでのレッスンや講習会には会場が必要ですが、費用はもちろん、借りる手続き、参加者とのやり取り、当日の資料の準備などもろもろの作業が手間になっていました。しかしオンラインではそれらが不要です。会場もいらないし、資料も事前にPDFで送って各自でプリントアウトしてもらうので、本当にストレスが減りました。レッスンは動画で受講者にお送りして、後から復習ができるようにもしています。

―お話しできる範囲でいいのですが、MOSHを利用するようになって収益はどれくらい変化がありましたか?

鈴木:だいぶ変わりましたね。最初は子育てのかたわらにやっていたのですが、おかげさまで現在は思っていたよりも潤っています。

―なるほど。今の表情とテンションから伝わってきました。ちなみにMOSHにはサブスク機能もありますが、利用の予定はありますか?

鈴木:はい、これからはサービスのサブスク化も視野に入れています。

籔:傾向として、単発のレッスンをやられていた方が、そのままサブスクに移行するケースが多くて、現在は事業者の6~7割が利用されています。

―かなりの割合ですね。料金はどのくらいが相場ですか?

籔:MOSHの事業者は皆さんプロフェッショナルですので、だいたい5,000円~15,000円くらいの間に設定されている方が多いです。例えば中間の10,000円に設定したとしても、10人~20人の受講者を集めれば、ある程度の安定した収入の基盤になるんです。

おそらく物販だとサブスクは難しいし、オンラインサロンになると単価がもっと下がるので20万円を稼ぐのはけっこう大変なはず。でも、月額10,000円のスキルのサブスクは、これまでの月謝10,000円の習い事がオンライン化したのと同じです。オンラインでのレッスンは、場所や時間の自由度が高いので、これを機に思い切って移住したり、空いた時間を使って新しいクリエイティブな取り組みをしたりする事業者がこの1年で増えてきたという印象があります。

―なるほど。では最後に、MOSHの今後の展望を教えてください。

籔:事業者は自分の時間を売っているということを踏まえると、1時間あたりの収益性を上げていければ、この業界および産業が少し変わるかなと思っています。現在MOSHには、少数ではありますが、月4回のオンラインレッスンだけで年商1億円ほどを稼ぐ事業者がいらっしゃいます。このように、オンラインでのスキル販売は商品の在庫や店舗を持つ必要がなく、1回のレッスンの受講者を増やすことで収益性が上がるので、今後も集客のサポートを続けていきたいと考えています。

もう一つは、新しい取り組みの「MOSH for TEAMS」です。今は個人の事業者をメインにサービスを提供していますが、今後はチームとしてMOSHを利用できる仕組みを整えていきます。具体的には売上の分配や管理、チーム一覧ページなどの作成が簡単にできるようになります。その他にも、今までは消費者だった人がサービスの提供者側になり、より充実した人生を送れるような循環を生み出す仕組みを今後も整えていく予定です。

籔 和弥

MOSH株式会社 代表取締役社長

Retty創業期に社員7人目・新卒第一期生として入社。アプリのグロースPMを担当。その後、世界一周を行い、世界のCtoCの普及状況を見て、現サービス"MOSH"を着想。「情熱がめぐる経済をつくる」をミッションに、情熱やこだわりある方々のサポートをすると決意。技術・知識・経験などを人々に伝えるお仕事をされる方々のためのサービスであるMosh株式会社を創業。

鈴木 莉紗

加圧インストラクター

運動部への所属経験がなかったものの走歴1年半でフルマラソンのサブスリーを達成。現在、加圧トレーニングインストラクターとして働くかたわらランニングコーチとして活動中。著書に「1日10分も走れなかった私がフルマラソンで3時間を切るためにしたこと」「フルマラソンを最後まで歩かずに完走できる本 一番やさしい42.195kmの教科書」(ともにカンゼン)がある。フルマラソンベストタイム 2時間39分56秒(東京マラソン2016 日本人女子7位)。

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