BTSや乃木坂46も! SHOWROOMが提供する縦型動画アプリ「smash.」人気の秘訣

「手のひらが特等席。」をコンセプトに、スマホの縦画面に特化した動画コンテンツを配信するバーティカルシアターアプリの「smash.」。2020年10月にスタートした新興サービスながら、今ではBTSをはじめとする韓流グループ、AKB48や乃木坂46などの有名アーティストが出演する多数のコンテンツを擁しています。SHOWROOM株式会社の執行役員にして、smash.事業責任者を務める嵐 亮太氏が考えるsmash.の独自性とは? これからの時代の動画コンテンツのあり方とは? ファンとアーティストの距離感はどう変わるのか? 気になる疑問を投げかけてみました。

ざっくりまとめ

- smash.は縦画面に対応した短尺の動画アプリ。深く考えず気軽に楽しめることが売りの縦型コンテンツだが、smash.はユーザーに感動や気づきを与えられる内容を追求している。

- SHOWROOMなどで配信するライバーたちの憧れの場所になるべくsmash.は誕生した。すべてのコンテンツにはプロが関わっており、偶像性を担保している。

- コロナ禍の影響やDXの浸透により、ファンとアーティストの距離感は多様化すると予測される。アーティストには偶像性の保持と、距離感の使い分けが求められる。

- 現在のsmash.は動画配信サービスだが、将来的にはメタバース的な仮想都市を構築する展望も。

SHOWROOMは男性ユーザー6割、smash.は女性ユーザーが8割

——デジタルシフトタイムズの読者に向けて、改めてsmash.の概要を教えてください。

smash.はスマホの縦画面に特化した動画メディアで、縦型のフル画面を活かしたコンテンツを提供しています。月額550円のサブスクリプションサービスですが、いくつかのコンテンツは無料で視聴できます。

——SHOWROOMとsmash.のユーザー層に違いはありますか?

SHOWROOMは男性ユーザーが6割ほどで、女性が3~4割です。世代でみると30~40代がコア層ですね。対してsmash.は女性ユーザーが8割を占め、世代は10~30代の若年層がメインです。SHOWROOMにはギフティング機能(※)が付いているので、それなりにお金に余裕がある世代が必然的に多くなります。

※ギフティング機能:配信者に対してギフトを送ることができる機能のこと

——TikTokやウェブトゥーンと呼ばれる縦型のマンガなど、今は縦画面に特化したコンテンツが多い印象ですが、smash.もそういった時流に合わせたのでしょうか?

今の10~20代はスマホの縦画面で動画を見ることに慣れている世代かと思います。僕もギリギリ20代ですが、最近ではYouTubeやNetflixを見ていてもスマホを横にする機会がめっきり減りました。切り替えるのが面倒なんですよね。けれどもユーザーの嗜好性というものは常に時代とともに移り変わるので、縦画面全盛の今の流れも数年後には変化すると思っています。その時代において適したコンテンツの形があるので、smash.も縦のフルスクリーンが絶対というわけではありません。それをふまえた上で、現在の僕たちは、今までプロが進出してこなかった縦画面での動画コンテンツを提供することにこだわっています。

——以前、御社の前田代表が「smash.はshort but deepをスローガンにしている」とお話しされていました。変わらず、短い尺の映像でも深さを追求されているのでしょうか?

そうですね。今はスマホを手にして、つらつらと流し見できるコンテンツが人気です。それが現代のライフスタイルに適したトレンドであることは理解していますが、やはり時間を浪費しているだけではもったいない。僕たちもエンタメ企業として、若い世代に影響を与えられるような深い作品をつくりたいんです。短い時間でも新たな気づきがあって満足度の高い動画。そんなコンテンツを提供していきたいと考えています。

「ライバーたちの憧れの場所をつくりたい」との思いから、smash.を起ち上げ

——smash.では男性女性問わず人気アイドルグループの動画をメインに、バラエティ番組なども配信していますね。コンテンツをつくる基準を教えてください。

起ち上げ時は、有名アーティストを招いてユーザーに楽しんでもらうことを目的にしていました。多くのユーザーを集めると今度は継続率が求められます。さまざまなアーティストがYouTubeやTikTokやTwitterなど多くのSNSを活用するなかで、smash.がそのなかの一つのポジションを取れたとしても、やはりユーザーの多くは無料で楽しめるコンテンツに流れてしまうでしょう。そこで、smash.を継続的に利用してもらうためには、回遊性を高めることが一番だと考えました。そこで着目したのが、テレビにおけるバラエティ番組の裾野の広さです。「幅広い世代に見られているバラエティがsmash.にあれば、多くのユーザーが回遊先に選んでくれるのではないか?」そういった仮説のもとにコンテンツを制作しています。

例えばNetflixは『全裸監督』のようなオリジナル作品で多くのユーザーを獲得することに成功しています。配信されている話題の作品が見たくてNetflixの会員になるわけです。一方Amazonプライムは、何かAmazonプライムの作品が見たいからというより、ECとしてのAmazonを便利に使いたいから会員になる人が多いと思うんです。Amazonプライムは吉本興業さんと一緒に番組をつくったり、バチェラーなどの恋愛バラエティを配信していますよね。まさにユーザーの回遊性を高めているわけです。僕たちは新しい取り組みとして、スマホ映画と呼んでいるオリジナルの作品も配信を開始しています。smash.は起ち上げから1年半ほどのサービスなので、試行錯誤しながらコンテンツを増やしている最中です。

——配信プラットフォーム「SHOWROOM」を手がけてきた御社が、smash.という新たなサービスを起ち上げに至った背景を教えてください。

ライバーたちの憧れの場所をつくりたいという想いがあったからです。ライブ配信のプラットフォームはここ数年で急増して、今ではレッドオーシャン化しています。ライブ配信業界では、観客から最も多くポイントを集めた配信者に対して、雑誌やテレビに出られるといった、いわゆる出口が用意されてきましたが、今はその出口も飽和状態です。

最近はYouTuberも職業として認知されてきましたが、今後はライバーも職業として認知されるようになるでしょう。けれども、ライバーとして憧れの存在がまだ出てきていません。「どうなることがライバーとして成功なのか?」が定義されていない。エンタメ企業として夢を応援してきた僕たちが、成功の定義の一つといえるような場所をつくれないかと思い、起ち上げたのがsmash.です。ライバーになりたての人たちによるライトなコンテンツではなく、プロが手がけた深みのあるコンテンツを提供することで憧れや偶像性を担保しています。

——偶像性の担保ですか。

smash.を起ち上げた2020年は、コロナ禍の影響でライブ配信に対する需要が高まった時期です。当時いろいろな芸能事務所に営業をかけていましたが、すでにイメージやブランドが確立されているアーティストほど、新しい一歩を踏み出すことに慎重な態度でした。偶像性を売りにしていた人が配信でプライベートな姿をさらすと、ファンとの距離が一気に縮まり幻想を壊してしまうかもしれない。そういったことが恐れられていたんです。そこで僕たちは「プロが入ることでブランドを崩すことなく、よりファンと距離感の近いコンテンツを打ち出せます」ということを強く訴えていきました。smash.なら偶像性が担保された距離の近さを実現できますよ、と。

男女で異なる、アーティストに求める偶像性の違いも考慮

——smash.におけるファンとアーティストの距離感の近さとは、具体的にどのようなものでしょうか?

これは男女でも異なるのですが、女性アイドルがすっぴんのパジャマ姿で自室から配信する姿は、多くの男性ファンに受けるんです。 それが男性的に心地のよい距離の詰め方だとするなら、女性にはまた違う距離感があります。男性アイドルが女性アイドルと同じように少しだらけた素の顔を見せても、女性ファンにはあまり受けないんです。男性アイドルが部屋を公開するときは散らかしっぱなしの部屋ではなく、最低限の清潔感がある部屋で、髪型も寝癖のボサボサ頭ではなくある程度は整える。そういった王子様感を女性ファンは求めるので、そこを演出する必要が出てきます。男女でキープすべきラインが大きく異なるわけです。企業のSNSアカウントがくだけた言葉づかいでバズることはよくありますが、その距離感を間違えると炎上のリスクもあります。企業として最低限のラインを維持した上でくだけた発言をするから面白くなるんです。ファンとアーティストの距離感も同じです。

——心地のよい距離感に合わせて楽しんでもらおうという考え方は、動画の任意の場面を保存できるPICK機能にも現れているように思います。詳しく教えていただけますか?

動画再生中に親指と人差し指でつまむような動作をすることで、好きなシーンを最大15秒間保存できる機能です。この動作ですが、当初は普通のタップでした。けれどもリリース直前に、代表の前田のこだわりで仕様変更になった経緯がありまして。PICKには、自分のお気に入りのシーンを切り取り、皆と共有して会話を楽しむ、いわゆる「推し活文化」を活発化させる狙いがあります。通常のタップだと連打もできるので単なる作業になりがちですが、つまむ動作だと本当にお気に入りのシーンを切り取っている感覚を与えられます。思い入れのあるシーンを切り取るからこそ、タップとは違うこだわりのある動作を採用しています。

——複数のユーザーが同時視聴できるシアターポッドは、コロナ禍で巣ごもり時間が増えたことから生まれた機能でしょうか?

コロナ禍でイベントも減り、物理的にも心理的にも人々の間に距離が生まれたことが構想のきっかけです。同時に、ユーザーの継続率を上げるという目的もあります。縦画面の弱点は、他のプラットフォームからコンテンツを借りることができない点です。例えば、Huluが日テレの番組を配信しているように横画面のコンテンツは他プラットフォームとの貸し借りができますが、まだまだコンテンツ数の少ない縦画面だとそれができない。コンテンツの少なさは当然ユーザーの継続率にも影響が出てくるので、その打開策として生まれたのがシアターポッドです。好きな動画を皆で見ながらコミュニケーションを楽しんでもらう。ユーザーの長時間滞在を狙った施策ですね。

多様化するファンとアーティストの距離感

——AKB48の登場以降「会いに行けるアイドル」が一般化しましたが、DXによりこの流れはどう変化するとみていますか?

「会いに行けるアイドル」といっても、それなりに長く話すにはCDを何枚も買う必要があったり、会場には剥がしのスタッフがいて秒数も厳密に決められていたり、それなりのハードルが存在します。アイドルと距離感が近くなりすぎると、それまでのようにファンとして純粋に楽しめなくなってしまうわけです。しかし、今後は距離感のつくり方が多様化していくと思います。デジタルを活用することで、「会いに行けるアイドル」のように近くなったファンとの距離をさらに近づけるケースもあれば、逆にこれまでより遠ざけるケースも出てくるはずです。

——握手会の代わりとして生まれた「オンラインミート&グリート(ミーグリ)」は今後どうなるでしょうか?

現状、コロナ禍の影響で対面イベントができないから使っている人もいれば、あえてミーグリを選んでいる人もいるでしょう。次の時代において、どちらが主流になるかは気になるところです。ミーグリの強みは海外にいるアーティストとも距離感を縮められることです。個人的にはオンラインのミーグリだけでは、ユーザーは満足しないと考えています。今は握手会も徐々に再開されてきているし、なんだかんだでファンの多くはリアルで対面できたほうが嬉しいはずです。

とはいってもミーグリが完全にゼロになることはないでしょう。面白い事例として、ネット上では一切、顔を出さないけれど、ライブやハイタッチ会では顔出しをするアーティストがいます。ライブ配信も行うことで適度に距離感を縮めてはいますが、顔出ししないことで偶像性を保っています。リアルとオンラインを上手く使い分けて、近すぎず遠すぎない距離感を演出しています。ミーグリも距離感を使い分けるツールの一つとして残ると考えます。

メタバース上で、推しのアーティストに会える日も近い!?

——今後の展望を教えてください。

まず一つは動画の単品販売ですね。CDの時代はアルバム単位で音楽を販売していましたが、iPodとiTunesの時代になって楽曲単位で販売されるようになりました。今ではマンガもコミックではなく1話ごとに販売しています。価値のある動画を生むことで、動画の世界でも単品販売の文化をつくりたいと考えています。

そして、推し活を盛り上げる施策も継続していきます。smash.は起ち上げ時より多くのアーティストの皆さんと歩んできたので、smash.を通じてより多くのファンを生み出していきたい新しいアーティストを発掘するためのオーディションを僕たちが開催するのもよいかなと思っています。

最後は、BTSの所属事務所であるHYBEとともに起ち上げた仮想都市「smash. city」の拡張です。現状は4組のアーティストに参加いただいていますが、今後は「smash. world」や「smash. planet」といった上位のレイヤーをつくって、事務所の垣根を越えたサービスが展開できればと考えています。さらにはユーザーの皆さんも参加できて、仮想都市の住民票が発行できたらより盛り上がるでしょう。アーティストもユーザーも同じ空間にいるメタバース的なイメージです。メタバース上のカフェで好きなアーティストにコーヒーを入れてもらう、なんてことができるかもしれません。そんな空間をつくれたら最高ですね。

嵐 亮太

SHOWROOM株式会社 smash.事業責任者

1993年2月24日生まれ。早稲田大学卒業後、2016年、リクルートマーケティングパートナーズに入社。
その後、2018年、SHOWROOMに入社。『SHOWROOM』の営業、IPプロデュースなどを経て、
2020年5月より『smash.』の事業責任者に就任し、現在に至る。

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