世界のMaaS先進事例7選。鉄道・バス・タクシーなど交通手段を統合したサブスクモデルも!
2021/2/15
国内でMaaS(Mobility as a Service)実証が活発化している。新たな交通社会を見据え、既存の交通サービスの在り方を見直す変革の時期を迎えているのだ。
交通社会は今後どのように変わっていくのか。MaaSの基礎知識について解説した上で、海外のMaaSに関する事例を参照し、その変化の方向性を探っていこう。
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MaaS(マース)とは何か?
その手法はいろいろ考えられるが、MaaSアプリを使って複数の交通手段の予約や決済などの機能を統合していく取り組みが、現在世界的な潮流となっている。
乗り継ぎの際、交通手段ごとに必要だった予約や決済を一括処理できるほか、MaaSをきっかけに交通事業者らが協調し、一定エリア内における共通フリーパスの販売を行ったり、交通結節点を整備し乗り継ぎを円滑にしたりするなど、地域全体の移動を円滑にする取り組みの促進にも期待が寄せられている。
また、MaaSと観光や医療、不動産など異業種を結び付けることで、地域におけるさまざまなサービスとの相乗効果を生み出すことも可能だ。
さらに、MaaSを介して協調することで、交通事業者が個別に保有している輸送人員データなどのオープン化が進み、交通関連ビッグデータを生み出すことが可能になる。こうしたデータを活用し、エリア内の交通最適化や新サービスの開発などを進めることも可能になる。
現在、MaaSアプリの実装を進める取り組みをはじめ、MaaSを構成する新たなモビリティの開発や異業種と結び付ける取り組みなどが盛んに行われている。行政サイドでは、こうしたMaaSを地域の都市計画や交通政策に反映させる動きも加速しているようだ。
MaaSレベルとは?
レベル1は「情報の統合」で、各交通サービスの運行時刻やルート、利用料金などが同一プラットフォーム上で統合された状態を表す。経路検索サービスがこのレベルに相当する。
レベル2は「予約、決済の統合」で、同一プラットフォームから各交通サービスの予約や決済を一括、もしくは個別に行うことができるようになる段階を指す。
レベル3は「サービス提供の統合」で、各交通サービスそのものが同一プラットフォームで統合されるイメージだ。各交通サービスの料金体系などを統合する形で運賃を提示することが可能になる。月定額で一定エリア内の交通サービスが乗り放題となるサブスクリプションの提供もレベル3の段階から始まってくる。
レベル4は「政策の統合」で、国や自治体が都市計画や交通政策と結び付ける形でMaaSを構築していくレベルを指す。交通サービスを最適化するには、交通結節点や道路の整備、専用道路の設置など民間だけではなし得ない施策を伴うケースが多い。官民協働で交通の最適化を図るMaaSの理想像と言える。
MaaS海外事例7選!
「Whim」:MaaS Global(フィンランド)
Whimのサービスは、エリア内のさまざまな交通サービスの予約・決済機能にとどまらない。従来、交通サービスごとに個別で設定されている運賃を体系化・統合し、月定額でさまざまな交通サービスが乗り放題となるプランを提供している。エリア内交通サービスの統合サブスクリプション化だ。
地域によって異なるが、例えばヘルシンキでは2020年12月現在、バスや鉄道などの公共交通機関やシェアサイクルが乗り放題になるほか、タクシーやレンタカーなどでも一定のサービスを受けられる30日間59.7ユーロ(約7,500円)の「Whim Urban 30」や、公共交通機関などに加えレンタカーも乗り放題となる上に、80回まで無料でタクシーに乗車可能な月額699ユーロ(約88,300円)の「Whim Unlimited」などが用意されている。
月額8万円超は高額に思えるが、自家用車を手放しても移動に不便を感じないサービス内容となっているため、自家用車から交通サービスへのシフトが進み、渋滞解消や環境改善など地域課題の解決につながっていくのだ。
定額チケット収入を各交通事業者にどのように配分するかなど詰めていくべき点はあるが、利用者の利便性を高めることで地域全体における交通サービス需要を喚起することが可能になる。
政策面では、フィンランド政府が交通関連の規制を緩和し、各交通サービスのデジタル化を図るとともにデータの効率的な利用を促進し、ユーザー指向のモビリティサービスを実現していくこととしている。
Whimはフィンランドのほかイングランド、ベルギー、オーストリア、シンガポールなどで導入されており、2020年度中には日本に進出する計画も公表されている。
MaaS Globalに対しては三井不動産が出資し、同社と街づくりにおけるMaaS実用化へ向けた協業で契約を締結しており、同社が千葉県柏市で取り組む「柏の葉スマートシティ」プロジェクトの一環としてWhimが導入される見込みだ。すでにタクシーやバス、カーシェアなど各交通事業者との提携が決定しており、月定額のサブスクリプションサービスを展開する予定としている。
「Kyyti」:Kyyti Group(フィンランド)
複数の交通手段を結び付ける純粋なMaaSをはじめ、単体の交通事業者向けアプリや従業員送迎用のアプリ、相乗りサービス用アプリなどさまざまなケースに対応可能で、顧客は経路検索や予約、決済機能などを備えた独自ブランドのMaaSアプリを持つことができる。
応用範囲は広く、スイスやスウェーデンの企業や自治体をはじめ、米国の非営利団体やカリフォルニア州大気資源局、デンバー地域交通局などもKyytiソリューションを使用しているようだ。
「UbiGo」:UbiGo(スウェーデン)
サービス開始は2019年と日は浅いが、2013年から自治体や研究所、自動車メーカーのボルボなどとともに実証を行っており、満を持してのローンチとなったようだ。
アプリでは、公共交通機関を一括運営するStorstockholms Lokaltrafikをはじめ、Hertz、Cabonlineといったタクシーやレンタカー、カーシェア事業者らが協調体制を整えており、公共交通の使い放題プランでは10日間で525SEK(スウェーデン・クローナ/約6,500円)というプランがあるほか、カーシェアでは最大で月間18時間使用可能な月額1,440SEK(約18,000円)といった上限付きのサブスクリプションプランがある。アプリからレンタカーやタクシーの予約も可能だ。
DB Navigator:ドイツ鉄道(ドイツ)
経路検索可能なエリアはユーラシア大陸全土に及び、ドイツ国内や近隣諸国の一部で予約・決済機能を実装しているようだ。公共交通が主体だが、自社展開しているカーシェアなども利用可能だ。現在、アプリの利用者数は1日あたり300万人に達し、チケット販売数も同10万人を超えているという。
「Moovit」:Moovit(イスラエル)
2012年に設立されて以来、スマートフォンやWebブラウザー向けのマルチモーダルアプリを開発し、2020年現在、世界112か国の3,400都市を網羅するに至っている。45の言語で9億3,000万人以上にサービスを提供しているという。
Moovit名義による経路検索サービス・アプリのほか、ホワイトレーベルとしてソリューションの提供も行っている。決済機能「Fare Payments」やオンデマンドサービスを可能にする「Moovit On-Demand」なども提供している。
Moovitの特徴の1つが、ローカル編集者「Mooviters」の存在だ。交通事業者から提供される各種交通データに加え、70万人を超えるMoovitersがデータ収集を進めることで世界展開を加速している。1日最大60億もの匿名データポイントが収集されているという。
膨大なデータベースを活用した交通分析も可能で、米Microsoftや配車サービス大手の米Uber、地図大手のオランダTomTomなどがこの分野で提携している。
Moovitは2020年に米Intelに約9億ドル(約960億円)で買収された。Intelグループの傘下で自動運転開発を手掛けるMobileyeと連携した今後の展開に要注目だ。
「Trafi」:Trafi(リトアニア)
Trafiはスイスの連邦鉄道(SBB)が運営するサブスクリプション型の「yumuv」に利用されているほか、ミュンヘン市交通局によるMaaSアプリにも導入される見込みだ。yumuvは2020年8月にリリースされたばかりだが、地域横断型の広域MaaSとなっているようだ。
また、同社は2020年8月、住友商事と業務提携を交わしたことも発表されている。住友商事グループはこの提携を通じて、各国・地域の状況に合わせたMaaSプラットフォームの展開やスマートシティの実現を全世界で検討していくとしている。将来、日本に導入される可能性もありそうだ。
SBBmobile:スイス連邦鉄道(スイス)
利用者の移動ルートに基づいてアプリが交通サービスを自動で判別・適用する機能で、利用料金は事前に定まっておらず、乗車利用後に最低価格が後付けで適用される仕組みだ。
先行する欧州、対する日本は?
こうしたサービス提供の統合は、民間主導より官主導の方が実現しやすいのかもしれない。各MaaSは開発段階から自治体がしっかりと関係し、場合によっては直営の形を採用している。交通政策にも密接に結びつけられるため、レベル4を見据えた長期構想にも着手しやすい。
国内では、トヨタが民間主導のMaaSアプリ「my route」を実用化し、サービスエリアの拡大を進める一方、多くの取り組みは国の事業のもと自治体と民間が協働し、実証を進めている。
my routeは民間ならではのスピード感ある展開と充実したサービス内容でシェアを拡大している。ビジネス性をしっかりと意識した社会実装を進めている印象で、大都市や観光型MaaSでその効果を発揮しそうだ。
一方、国の事業のもと各地で進められている実証は、地域課題を解決する視点をしっかりと盛り込み、施策とともに交通の最適化に向けて歩みを進めている印象だ。
ビジネス性と公益性は相反するわけではなく、どちらかが正解というものではない。ただ、将来的には海外の事例を含めMaaS同士の統廃合や連携が進む可能性がある。まだ社会実装が加速し始めたばかりのMaaSだが、長期的視点で交通サービスの在り方をしっかりと見極める必要がありそうだ。
自社サービス専用アプリが進化する可能性も?
単一の交通サービス、あるいは自社サービスを展開しているため、利用目的が合致するユーザーを集めやすく、また予約や決済といった各機能の実装も図りやすい。経路検索をはじめ、プラットフォームがMaaSアプリに見劣りすることもない。
こうした配車サービス事業者が、今後MaaS分野に本格進出する可能性もありそうだ。他社のさまざまな交通サービスを結び付ける難易度は否定できないが、すでに多くのユーザーを抱え、ノウハウも蓄積する各社の今後の動向にも注目したいところだ。
伸びしろ大きいMaaSはまだまだ進化を続ける
国内におけるMaaS開発・実装はまだ産声を上げたばかりで横一線の状況だが、今後独自サービスで差別化を図る動きなども活発化することが予想される。MaaSにはまだまだ進化の余地があるのだ。引き続き各社・各団体の取り組みに注目していきたい。