過熱するエンジニア採用市場。エンジニアスキル可視化「Findy」提供で目指す、技術立国日本の再建
2022/7/5
DXが加速度的に進むいま、優秀なエンジニアの確保はどの会社にとっても喫緊の経営課題の一つです。採用部門が人材獲得に奮闘するも、エンジニアリングに精通した採用担当者はほんのわずか。その結果、機会ロスやミスマッチが幾度となく生まれているのが、現場の実態といわれています。一方のエンジニアも「自分のスキルは正しく評価されているのだろうか」と、疑問を抱きながらの転職活動を余儀なくされており、双方にとって納得のいくマッチングに至るのは、まさに至難の業といえるでしょう。
こうした課題に対し、「エンジニアスキルの可視化」という文脈から解決策を提案するのが、エンジニア転職に特化したマッチングサービス「Findy」などを展開する、ファインディ株式会社です。今回は、同社の代表取締役 山田 裕一朗氏に、日本のエンジニア転職市場の動向やFindyの誕生ストーリー、サービス特徴などについてお話を伺いました。
Contents
ざっくりまとめ
- 過熱するエンジニア採用市場。「スタートアップ」「大手企業」「メガベンチャー」が人材獲得に名乗り。
- 「採用担当者とエンジニア間のギャップを埋めたい」。この想いがFindy誕生のきっかけに。
- 現在は約750社、約10万ユーザーが利用。「後輩に勧めたい」「Findyにしかいないエンジニアと出会える」との声が聞こえている。
- エンジニア組織の生産性を可視化できる「Findy Teams」が採用ブランディングに活用されつつある。
- エンジニアが不安なく挑戦できるプラットフォームとしてイノベーションを起こし、社会に貢献することを目指す。
海外と比べて熾烈な環境にある、日本のエンジニア採用市場
コロナ禍の影響を受けた時期はあったものの、エンジニアを採用したい企業はここ数年、増加傾向にあると感じています。当社のサービスがローンチした当初は、いわゆるWebサービスを営むスタートアップが需要の中心でしたが、その後はDXの文脈から自動車メーカー、重工業メーカーをはじめとする大手企業もエンジニアの獲得に積極的です。スタートアップも大規模な資金調達を行う企業がここ数年増えてきており、「エンジニア採用年間100人」を掲げるところもあるなど採用規模が変わってきた点も大きな変化です。
また、ソーシャルゲームで一時代を築いたようなメガベンチャーも、現在はメタバースに進出すべく採用が活発化しています。こうした“三つ巴の争奪戦”が繰り広げられている点は、一つのトレンドといえそうです。
——海外と日本の市場の違いをどのように考察されていますか?
海外と比べると、日本は有数のコンペティティブなマーケットだと思います。日本は移民も多くないですし、人口も減少しているので環境は熾烈ですよね。一方、海外は言語障壁が低いこともあり、求人マーケットはかなり大きいといえます。アメリカでは、海外のエンジニアと雇用契約を結ぶための、法令やライセンスの支援サービスを展開する企業も出現しています。このように海外のエンジニア採用領域は、クロスボーダーが進んでいるように感じています。
「スキルの可視化」で、採用担当者と転職希望エンジニア双方の課題を解決
「GitHub解析によるエンジニアスキルの可視化」が大きな特徴です。GitHubはエンジニアがプロダクトの開発を行う際に用いるソースコード管理ツールで、Webサイトの運営には非常に有用なものとして広く知られていますが、開発プラットフォームとしての側面も持っています。つまり、Web開発に関わるさまざまなコードを、オープンソースという形で開放しているんですね。たとえば、入力フォームはどのWebサービスでも必要とされるものなので、誰かがソースコードをつくって公開すれば、ほかの人は自分でつくらずとも、そのコードを自分たちのサービスに組み込むことができるのです。さらには、誰かが公開しているものに対し、「こんなふうに修正したら、みんなにとってもよさそうだよね」と、改善提案をする人がいたりもします。
Findyでは、GitHub上でこうしたオープンソース活動をしているハイスキルなエンジニアのスキルを解析し、偏差値として表すことでスキルを可視化し、転職活動に活用いただくサービスを展開しています。2017年のサービス開始から現在にかけて日々改良しながら提供を続けています。
——Findyが生まれたきっかけを聞かせてください。
Findyの前に、「求人票採点サービス」という統計的機械学習を用いたサービスをつくった経緯があります。広告に品質スコアを付けるサービスがありますが、それの求人版のイメージです。「似たり寄ったりの求人票を差異化できたら応募数が増えるんじゃないか」という仮説のもと生み出したのですが、予想に反して売れなくて。その結果、創業したものの仕事がないという状況で、時間を持て余すようになりました。
そこで、「無料で求人票を書きます」という触れ込みのもと友人の会社をまわり始めたら、10社のうち9社から「エンジニアの求人を書いて欲しい」と言われ、どこもエンジニアの採用に困っていることに気が付きました。特に大きな課題としてあったのは、「エンジニアのスキルがどの程度のものか、自分では分からない」ということです。その結果、誰にスカウトメールを送ればよいのか、誰を面接に通してよいのか、常に手探りで行っていたという実情があると。「何らかの指標が欲しい」というニーズがあると分かりました。
一方、エンジニアからは「刺さる求人が少ない」「面接時に、採用担当者から技術的な質問があったから一生懸命答えたものの、何事もなかったかのように次の質問に移られた」のような話を聞いていました。そのほかにも「OSS(オープンソースソフトウェア)の頑張りを評価してほしい」「自分のスキルが向上しているのかどうか、定期的に知りたい」という声が挙がりました。この両者のギャップを解消することに価値があると考え、Findyの開発に至りました。
——この偏差値は、どのようにして算出するのでしょうか?
ユーザーにFindyとGitHubを連携していただくことで、開発履歴から必要な情報を入手し、独自のアルゴリズムを用いて解析・算出しています。連携した数時間後には偏差値が自動で提示されるので、エンジニアは手間をかけることなく自分のスコアを知ることができます。
なお、最近の採用プロセスでは、その競争の激しさから、エンジニアとカジュアル面談をしたいという人事側の要望があります。このとき、「レジュメをください」とお願いすると、用意する側のエンジニアのなかには、「面倒くさい。だったら、応募をやめよう」という心理が働きかねません。その際にスキル偏差値があれば、企業側はレジュメをもらわなくても、その人のスキルをはかることができるので、やり取りを短縮できるという利点があります。
転職は大きなライフイベント。だからこそ、人の手を携えたサービス運用を重視したい
企業数はおおよそ750社、ユーザー数は10万人を超えています。ちなみに、Findyは正社員向けのサービスですが、フリーランスの方向けには「Findy Freelance」を展開しており、その総数となります。後者は、企業がスカウトを送ることができたり、当社からの案件紹介でマッチングできたり、といった機能を搭載しています。
——導入企業からは、どのような声が聞こえていますか?
もっとも評価されているのは、ハイスキルなエンジニアと出会える点です。とある会社の VPoE(ソフトウェア開発や技術部門などの組織のマネジメント責任者)の方からは、「Findyにしかいないエンジニアがいる」というお言葉をいただいています。Findyはユニークな機能をいろいろと用意しているぶん、幅広くたくさんのエンジニアにご利用いただけている点が奏功していると考えています。
あとは、カスタマーサクセスに対する好意見が多いですね。当社は、求人票や採用プロセスに関する改善提案を導入企業に行っていますが、オンラインのやり取りだけでなく、CTOのもとに足を運び、他社の事例を交えながら具体的な提案を行っています。こうした、人対人のリアルなやりとりが、サービスに含まれていることへの評価も大きいと感じます。
——人の手や心も織り込みながらのサービス展開が喜ばれているということですね。
そうですね。転職は家を買うような大きなライフイベントなので、大きな意思決定が必要だと思っています。家を誰とも話さずに買う人は少ないと思いますが、転職もまた面接をはじめ、人と人との対話によるプロセスを重ねながら意思を固めていくものなので、人が携わることにこだわる必要があると感じます。
——続いて、採用される側であるエンジニアの声はいかがですか?
一番嬉しいのは、Twitter上で「後輩に勧めたい」「悩んでいるなら、Findyのユーザーサクセスに相談してみたら」といったコメントを見つけたときです。ユーザーサクセスチームのメンバーもこうした声に応えられるようエンジニアリングそのものを勉強していますし、社内イベントを通して、最新技術の概念をはじめ、さまざまな知識を得ることに積極的です。
——ところで、年を追うごとに変化する、人気業界の移り変わりやトレンドをどのように感じていますか?
やはり、そのときどきで人気業界に違いはありますね。少し前はFinTech、その前はAdTech、さらにその前はソーシャルゲームの人気が高かったように思います。そして、現在はSaaSへの注目度が高く、Web3への関心も出てきています。とはいえ、エンジニアにとって大事なのは、業界よりも「どんな人と働くのか」ではないでしょうか。これは、営業職などと比べて、人と密接に仕事をする職種である点が大きいと考えます。加えて、ハイスキルの人ほど優秀な人と働くことを重視する傾向があります。そのため、最近の企業の傾向として、エンジニアが社名を冠した発信を行ったり、さまざまなセミナーに登壇して自社の技術や開発プロセスを紹介したりする動きがあります。これらは、まわりまわって採用ブランディングにも非常に効いてきます。
なお、当社では「Findy Teams」というエンジニア組織のパフォーマンスを可視化できる企業向けサービスも展開しています。これは、現在活躍しているエンジニアがさらによいアウトプットを出すための改善点は何か、ということをチーム単位で見ることができるものです。その結果や改善した成果を公式メディアで紹介する企業も出てきており、「生産性の高いよい会社に入りたい」と思うエンジニアにとっても、それを測るバロメーターになっていると考えます。将来的には、Findy Teamsがクライアントの採用活動にも活かされることを目指しています。このように、優秀なエンジニアの獲得に向け、各社がさまざまな工夫を凝らしている点も近年の大きな傾向といえます。
エンジニアが安心して活躍できるプラットフォームを目指し、日本の豊かさの維持に貢献したい
基本的には、Findy、およびFindy Freelanceの機能の開発強化に充当していくことになります。現在のスキル偏差値やマッチングのアルゴリズムを進化させていくほか、既存ユーザーにもっと楽しみながら使っていただけるようFindyやFindy Freelanceの会員基盤の強化もしていく予定です。そのために、当社もエンジニア採用に注力することが大きなテーマです。同時に、Findy Teamsのプロダクト開発、さらには海外展開を見据え、そのための準備も始めていきたいと考えています。
——今後、Findy を介してどのような世界をつくっていくのでしょうか? 最後にメッセージをお願いします。
僕自身、「つくる人がもっと輝けば、世界はきっと豊かになる。」という想いを常に持っています。僕たちの子どもの世代が日本の豊かさをどう維持していくのかを考えたとき、外貨を稼げる産業をどれだけつくれるのかにかかっているように思います。その手段が高度成長期は製造業でしたが、現代はソフトウェアやアルゴリズムを取り込んでいかないことには、世界で勝負できません。日本でもテスラのようにハードとソフト両方を持つグローバルに勝てる会社を増やしていきたいと強く思っています。そのためには、“つくる人”であるエンジニアの活躍が必須なので、僕たちはエンジニアが不安なく挑戦できる支援を、プラットフォームを介し行っていきたいと考えています。将来的にはグローバルで展開し、エンジニアのプラットフォームをもってイノベーションを起こし、社会に貢献していくことを会社の中核に据えています。
僕は三菱重工出身なのですが、当時の上司に「文系の社員は、何をするんですか?」と聞いたところ、「エンジニアがやりたくないことを全部やるに決まっているだろ。だって、お前は未来に何もつくれないんだから」と、言われたことがあります。これが僕には非常にしっくりときたんですよね。たしかに、コードを書けないと未来はつくれないかもしれませんが、未来をつくる人のサポートはできるはずです。そのような想いのもと、これからも経営者とエンジニアのあいだに入り、両者を橋渡ししながらテック領域への関心を高めていく役割を担うことで、日本の豊かさの維持に少しでも貢献したいです。
山田 裕一朗
ファインディ株式会社 代表取締役
同志社大学経済学部卒業後、三菱重工業、ボストン コンサルティング グループを経て2010年、創業期のレアジョブ入社。
レアジョブでは執行役員として人事、マーケティング、ブラジル事業、三井物産との資本業務提携等を担当。
その後、ファインディ株式会社を創業。アルゴリズムづくりや特許申請にも従事。