選手強化から審判、指導者の向上まで、多方面から”スポーツの質”を上げていくスポーツICTとは?
2020/2/20
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※本記事は、『drop:フィジタルマーケティング マガジン』で、2018年6月1日に公開された記事を転載したものです。
スポーツ業界にAIなどのICTが使われることで、どのようなインパクトがあるのでしょうか?今回は、東京オリンピック・パラリンピック推進本部の本部長代理である保田益男さんに、富士通の取り組みと導入の背景についてお伺いしました。
国際的なスポーツイベントに向け、ICTをスポーツに
また2016年には、プロ化したバスケットボールのBリーグのスポンサーになりました。
国際的なスポーツイベントは、数年に1度しか開催されません。その点、Bリーグなどのスポーツリーグは、毎年継続して行われ、シーズンがあります。そのため、私たち富士通では、数年に一度開催される国際的なスポーツイベントと、毎年継続して行われるスポーツリーグの両方にフォーカスして取り組んでいくことにしました。
システムは身近なものを応用させる、スポーツICT
防犯カメラの認識技術を応用して、人の動きに合わせてドリブル・パス・シュートを自動で認識させます。選手には何も身につけさせることなく、カメラだけで動きを判別することができるのです。
しかし防犯カメラは人がいることはわかっても、個人を特定することはできません。バスケットボールのコートで言えば、”誰”のプレーなのかが判断できないということです。
そこで選手の背番号で識別するようにしました。顔で識別しない理由は、選手が後ろを向いていると、識別できないからです。では、どのように背番号を認識させるのか?
背番号を識別するために、私たちは高速道路などで使われている車番を認識する技術を活用しました。課題となったのは、背番号を認識しても、2チームだと同じ番号が2つ存在するため、その違いも認識しなければいけないこと。この問題を解決するために私たちが着目したのが、色で識別する技術です。色の識別は、機械学習によって可能になります。
このような技術で選手の動きを捉え、選手強化や試合の記録に活用しようとしています。
レーザーを用いてデータを取得。体操の技を機械に記憶させる
スポーツICTはこんなところで役に立つ
例えば練習中のバスケットボールで綺麗なフォームをICTで見える化して、1回目、2回目、3回目のフォームのズレを分析しても、そのデータはフリースローのときなどにしか使えません。プレー中はディフェンスが存在し、互いに体をぶつけ合いながらやっているので、綺麗なフォームでシュートを打てることは少なく、再現性が限りなく少ないからです。バスケットボールでは、どんなフォームでもゴールすればいいわけで、美しいフォームが必ずしも必要ではありません。
プレー中に再現性が求められるのは、スリーポイントシュートです。バスケットボールの本場であるアメリカNBAでは、得点源の多くがスリーポイントシュートです。スリーポイントシュートは、比較的フリーな状態でシュートを打てることが多いため、日本選手が体格差のある外国人選手たちと戦うには、確実に決めるべきポイントの一つです。つまり、日本が世界と戦うには、このスリーポイントシュートの技術をもっと磨かないといけない。背が低くても、いつでも、綺麗なシュートを打つことができれば確実に得点のチャンスは広がります。
このスリーポイントシュートの精度を高めるために、正確性や綺麗なフォームを計測できるのがスポーツICTであり、今まさにBリーグから求められているテクノロジーでもあるのです。
スポーツICTが審判をサポートする
例えば体操では経験のある審判員の方々でも演技の判定に迷うことがあります。しかし、審判員の方々が、判定するときにこの体操の採点支援システムがあれば、審判の判定精度を確実に上げることができると考えられています。
採点競技では、審判の正確性がそのスポーツの向上に大きく影響します。スポーツICTにより、より正確な判定ができれば、それが選手強化にもつながるのです。そう考えると、スポーツICTの導入はより価値のあるものになります。
ただし、機械では判別にしにくい”美しさ”や”躍動感”といった芸術点が加味されにくくなり、競技そのものが無機質なものになってしまう可能性はあります。現実ではやはり、人間の目と、ICTをうまく融合させることが必要だと考えています。
審判の質とともに、指導の質も上がる
トップレベルで指導するコーチの多くは、コーチングのノウハウや技術を学ぶために海外に行って勉強してきた方がたくさんいます。しかしまだまだ海外のレベルには追いついていないのが現実だと、川淵さんはおっしゃっていました。つまり、選手の育成・強化をしていくためには、審判や指導者のスキル、能力も上げていかないと世界で戦える選手は育てられないということ。日本選手の競技力を底上げしていくためには、最先端のICTから得たデータや分析結果を活用できる、レベルの高い指導者を育成していくことも必要なのです。
課題はまだまだたくさんあります。でも客観的な視点から選手も指導者も課題点が見えるようになるスポーツICTは、確実に”スポーツの質”を上げてくれます。そうしたスポーツICTがもたらすスポーツ業界へのインパクトはかなり大きいでしょう。
AIをはじめとするテクノロジーでスポーツ業界に変革をもたらす。スポーツICTが、日本のさまざまな競技力向上につながることを私たちは信じています。