不動産テック「OpenDoor」〜デジタルシフト未来マガジン〜
2019/8/19
AIやIoT、VR/ARといったテクノロジーの進歩により、アメリカ・中国を中心に広がる「デジタルシフト」。世界的にも注目されているこの流れは、今や「第四次産業革命」とも呼ばれるほどだ。「デジタルシフト未来マガジン」では、オプトグループで新たな事業を創造しデジタルシフトによる変革を推進している石原靖士氏が捉えた国内外のデジタルシフトの最新事例を紹介する。
Contents
石原 靖士 -Yasushi Ishihara-
㈱オプトホールディング グループ執行役員
㈱オプト 執行役員
SaaS系の新規事業を立ち上げ・グロース後、事業売却。2015年にオプト執行役員に就任し、エンジニアとクリエイティブの組織を拡大。2019年4月、オプトグループ執行役員に就任し、レガシー業界のデジタルシフトを狙った、顧客との共同事業開発を推進中。
・【概要】OpenDoorのビジネス
売却を希望するユーザーは、専用のフォームに不動産の情報を入力します。OpenDoorは、その物件の近所や似た条件の物件の価格を参照、さらに蓄積されたデータで相場を確認することで合理的に金額を算定し、買取価格を提示します。ユーザーが買取を希望する場合は、物件の細かい状態を写真や動画で送信し、修理・修繕の必要な箇所の確認など売却に向けたプロセスを進めるのです。
OpenDoorは全米で約20都市に進出しています。各都市ごとに、十分な在庫物件を確保するために、全米へはまだ展開しない戦略を取っているのです。
・“デジタルシフト”なポイント
大きな企業と比べ、経営資源が限られるスタートアップにおいて、人材が重要なのは言うまでもありません。参入障壁が高く、様々な専門性が求められる不動産業界ではなおさらです。
OpenDoorは、決済サービスを提供し、多くの起業家を輩出している「PayPal」出身のキース・ラボイス氏が10年の構想を経て、共同創業者でCEOのエリック・ウ氏らを説得して創業しました。テクノロジー業界出身者はもちろんのこと、金融や法務系のメンバーも所属しており、通常のスタートアップよりも経験や実績を重視したメンバー構成になっています。このように専門家でかためたことが、不動産業界に入り込むことができた一因と言えるでしょう。
■ポイント2:「競争力」
OpenDoorが既存の不動産エージェントと比較して持つ競争力は、「データ」と「資金」です。
査定にデータを活用することで、売却希望のユーザーにとっては、「即時買取」「手続きの簡素さ」「透明性の確保」「高い買取金額の提示(入札)」と4つのメリットがあるのです。徹底的にユーザーメリットを追求し、従来の不動産エージェントが実現できないサービスを実現しています。
さらに、単なる仲介ではなく、一度自社で物件を買い取るOpenDoorには資金力が欠かせません。ソフトバンクの400億円をはじめ、総額で1300億円以上を調達し、この問題をクリアすることで、スタートアップながら不動産業界で頭角を現しているのです。
■ポイント3:「ビジネスモデル」
OpenDoorの強みは、買取から販売までを一気通貫に手がけているビジネスモデルです。
先ずは、物件の売却希望者を広告や説明会などオンラインとオフラインをまたいだマーケティングで獲得します。そして、データを活用した査定で早期に買取を完了させれば、販売フェーズです。先ずは自社サイトで販売します。自社サイトで販売後、48時間が経過すると不動産ポータルサイトでも販売を開始します。OpenDoorとしては、仲介を通さず自社サイトで販売したいため、この「48時間ルール」を設けているのです。
社外のチャネルもうまく活用しながらも、基本的には自社内で完結するビジネスモデルを採用しています。
・日本での再現性
この原因は、独特な商習慣が残る不動産業界に切り込むリソースが欠けていることではないでしょうか。OpenDoorのように、専門的なメンバーや莫大な資金がなければ、この岩盤はなかなか打ち砕けません。出来れば、外資資本の日本進出ではなく、メイドインジャパンの企業が、こうしたドメスティックな業界のデジタルシフトを起こして欲しいと願います。
プロフィール
株式会社オプト 執行役員
株式会社オプトホールディング 執行役員
ソフトバンクIDC(現IDCフロンティア)にてネットワークエンジニアとして従事。2006年にオプト(現オプトホールディング)入社。2010年にデジミホ(旧オプトグループ)取締役に就任。2015年にオプト執行役員に就任し、テクノロジー開発・オペレーション・クリエイティブ領域を管掌。2019年からは事業開発領域を管掌。2019年4月よりオプトグループ執行役員を兼務しデジタルシフト変革領域管掌。