海外銀行アプリ事情、注目の「Empower」を解説 〜デジタルシフト未来マガジン〜
2019/11/5
石原 靖士 -Yasushi Ishihara-
㈱オプトホールディング グループ執行役員
㈱オプト 執行役員
SaaS系の新規事業を立ち上げ・グロース後、事業売却。2015年にオプト執行役員に就任し、エンジニアとクリエイティブの組織を拡大。2019年4月、オプトグループ執行役員に就任し、レガシー業界のデジタルシフトを狙った、顧客との共同事業開発を推進中。
■アメリカで人気のお財布管理アプリ「Empower」
サブスクリプションサービスが増えていく中で、水道電気、光熱費に加え、ネットフリックスにアマゾン、各種フリーミアムアプリと、知らない間に月額課金地獄になっていませんか??こうした支出管理をロボ・アドバイザー的に支援してくれるお財布管理アプリが国内外で成長しています。「Empower」も、そんなお財布管理アプリのひとつ。アメリカを中心に展開しています。
Empowerはユーザーの支出管理を助ける一方で、膨大な金融データを集め、そのデータを活用した独自のビジネスモデルを展開しています。本来であれば競合となる既存の銀行とも、彼らが集められないデータをEmpowerから提供することで共存しているのです。
それでは、Empowerのビジネスモデルを詳しく見ていきましょう。
■Empowerの概要
Empowerのコンセプトは大きく3つで、「資産の一元管理」、「収入と支出のレポート」、そして「アシスタント機能」です。
「収入と支出のレポート」は、データ連携しているものに限られますが、支払いや引き落としがあると、様々な分類で、一定期間の間に、どの程度の支出があるか記録してくれます。グラフ化もされるので、視覚的に自分の支出を確認することもできるのです。
そして、支出を効率化するのが「アシスタント機能」です。例えば、継続支払いしているサブスクリプションで、より安いプランがあれば提案されたり、連携している銀行で新しいサービスが出れば、オススメしてくれたりします。
ユーザーはこれらの機能を、なんと無料で利用できるのです。無料で自分の収入と支出の全体像を具体的に知ることができ、さらに改善案の提案まで受けることができる上に、アプリ内での貯金や電子マネーの使用が可能で、まさに至れり尽くせりのアプリと言えるでしょう。
■アプリの無料提供を支える2つのポイント
ポイント1:「低コスト体制」
Empowerは、資産の管理という意味で金融機関のようなサービスを提供していますが、既存の銀行やカード会社と比べると、圧倒的に少ない人数で運営されています。少人数で大きなユーザーを抱えられることは、テクノロジー企業の強みと言えるでしょう。
コストを抑えることで、ユーザーは無料でサービスを使うことができています。
ポイント2:「外部連携」
コストを抑えながらも、ユーザーから利用料を取らないEmpowerはどこでマネタイズをしているのでしょうか。ここに、Empower独自のビジネスモデルが発揮されます。
Empowerは、ユーザーのデータを活用し、連携している他の金融機関のサービスをレコメンドしています。これは金融機関側から見れば、マーケティングの重要なチャネルとして機能しているのです。ここで収益が発生しています。
また、Empowerは貯金機能などで、ユーザーから実際にお金を集めており、この資金を利用した貸出、融資も行なっています。つまり既存の銀行と同じ働きも持っているのです。
このようにデータを活用することで、独自の収益を確保できているため、ユーザーは無料でサービスを使うことができます。無料で使えるからユーザーが増え、蓄積されるデータも増える。蓄積されたデータは外部に提供され、さらに収益を上げるという好循環が生まれているのです。
■日本での実現可能性
個人の支出管理をめぐって、フィンテックベンチャーやメガバンクの競争が一層激化していくでしょう。消費者にとっては、こうした競争の中で、より利便性の高いサービスが生まれると良いですね。