「2050年 カーボンニュートラル」に対し、企業は何をすべきなのか。ENECHANGE CEO 城口 洋平氏に聞く

「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」。2020年10月に菅総理がそう表明したことで、気候変動対策が遅れていた日本でもカーボンニュートラル*の実現が一気に現実味を帯びてきました。こうした社会の流れを「大きなビジネスチャンス」だと捉えるのが、ENECHANGE株式会社のCEOである城口 洋平氏です。脱炭素化によって企業の経済活動にはどんな変化が起きるのか、また何から始めるべきなのか、お話を伺いました。

*カーボンニュートラル:二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量と、森林などによる吸収量を同じ量にすることで、排出量が実質ゼロである状態。

ざっくりまとめ

-「2050年、カーボンニュートラル実現」には、あらゆる企業が今すぐ、本気で変革に取り組む必要がある
-今すぐできる対応策は、「グリーン電力」への切り替えや、「グリーン電力証書」の購入
-今後は、どんな企業も脱炭素化に取り組まざるを得ない。それを支援するDXサービスは、大きなビジネスチャンスがある。エネルギーテック分野に多くの企業の参入を!

「2050年、カーボンニュートラル」実現には、企業の急激な変革が必要

——菅首相が「2050年までにカーボンニュートラルを実現」と明言したことが、大きな話題となりました。私たちは、これをどう受け止めるべきなのでしょうか?

2050年までにカーボンニュートラルを実現する、つまり「温室効果ガスの排出を全体としてゼロ」にするというのは、かなりアグレッシブな目標です。これを実現するには、あらゆる企業が今すぐに、本気で変革に取り組まなければならないでしょう。本当に待ったなしの状況です。

例えば、昨年は新型コロナウイルスの影響で、多くの企業が一気にテレワークの導入へと踏み切りました。あのとき、「テレワークの是非」を議論している余裕なんてありませんでしたよね。あれくらいの急激な変化が、脱炭素化を巡っても起きると思ってください。

この変化は、大きなビジネスチャンスでもあります。テレワークでZoomが一気に普及したように、脱炭素化を支援する良質なサービスやプロダクトがあれば、多くの企業が我先にと導入を始めるはずです。各社が脱炭素化のためのツールやシステムを内製している時間的な余裕は、とてもありません。だからこそ、すぐに利用開始できるクラウド型やSaaS型のシステムは、特にニーズが高まると予想されます。

一番手軽に取り組めるのは「グリーン電力」の購入

——脱炭素化を支援するツールやシステムというと、例えばどんなものなのでしょう?

例えば、弊社が新たに提供をスタートしたのが「GreenCart」というサービスです。これを使えば、「グリーン電力証書」をネット上で、簡単に購入・即時発行できるようになりました。

グリーン電力証書とは、風力や太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーによって発電された電力が持つ「環境付加価値」を証書という取引可能な形にしたもの。通常の電気料金に上乗せしてグリーン電力証書を購入すると、購入分の電力が「再生可能エネルギーによって発電されたもの」と見なされます。

——つまり「GreenCart」を利用すれば、グリーン電力への切り替えが、ネット上で簡単にできるようになるということでしょうか。

その通りです。グリーン電力証書も即時発行されるので、IRページなどにすぐにでも「弊社はグリーン電力を使用しています」と記載することができます。「どこから脱炭素化に取り組んでいいか分からない」という企業にとっては、有力な選択肢となるはずです。

「グリーン電力」への切り替えは、経済的にも合理的?

——一方で、脱炭素化を進めるにあたり、多くの企業が気になる点に経済合理性の観点があると思います。 そのあたりはいかがでしょうか?

「再生エネルギーには経済合理性があるのか?」という問いですね。それは企業によるという答えになります。例えば、大規模な工場や店舗を構えているような企業にとって、再生エネルギーへの切り替えは、経済的合理性を帯びつつあります。屋根上に太陽光パネルを設置すればいいんです。近年は太陽光発電の導入コストが下がっていますし、初期費用なしでリースしてくれる会社も登場していますから、「電気料金の削減」という意味でも十分に合理的な選択になるはずです。

一戸建ての社屋など、決して面積が大きくない場合でも、屋根上に太陽光パネルを設置することには、一定の経済的合理性があると思います。

——とはいえ都市圏では、屋根上を自由に使える企業は決して多くない状況ですよね。

そうですね。そういった企業が「電気の脱炭素化」を進めるには、グリーン電力証書のような再エネ証書を購入するしかないため、割高になってしまうのが現状です。

しかし割高とは言っても、グリーン電力証書って、電気料金の20%程度で購入できるんです。工場などを有していない、一般的なオフィスでかかる電気料金は、年間でも数千万円程度ですよね。年間1,000万円の電気料金を支払っている企業なら大体200万円。地球環境へのコミットメントと考えれば、年間200万円というのはギリギリ許容範囲とも言えるのではないでしょうか?さらに、20%というのはあくまで現状の数値なので、中長期的には5%くらいまで下がってくると見込んでいます。

——再生エネルギーを導入していることを数百万円で宣言できるなら、決して割高ではないかもしれませんね。

グリーン電力証書は国際規格なので、海外の投資機関へのアピールにもなります。私たちの「GreenCart」であれば、「消費電力の50%」といったように、予算に合わせた部分的な再生エネルギーの導入も簡単に進めることができます。年度ごとに購入する仕組みなので、「来年は予算の都合でやめる」とった選択も選べます。まずは経営者やIRの担当者が、気軽にグリーン電力を選択できるようにすること。それが私たちの役割だと思っています。

「冷蔵庫」の遠隔制御で、火力発電所一基分の調整効果を

——脱炭素化をさらに加速するために、御社では今後どのようなサービスの展開を考えていますか?

電気の需要と供給のバランスを取るために、需要側の電力を調整する「デマンドレスポンス」の取り組みに貢献していきたいと考えています。

火力や原子力による発電に比べると、再生可能エネルギーによる発電は、やや不安定です。天気によって発電量が変化する太陽光発電をイメージしてもいただくと分かりやすいでしょう。その前提で電力の需給バランスを維持するためには、電力の供給に併せて、需要側が柔軟に電力消費量を調整する必要があると考えています。

この分野で「本命」とされているのは電気自動車(EV)です。電力が供給過多になる夜間にEVが電気を溜めておいて、電力が供給不足になる日中にそれを使用する。つまりEV自体を、蓄電池の一つにしようという発想です。

ところがご存知のとおり、特に日本ではEVの普及にまだまだ時間がかかると想定されます。そこで注目されているのが、エアコンと冷蔵庫です。実はエアコンや冷蔵庫って、ある程度の時間なら電源がオフになっていても大きな影響がないんです。特にオフィスの空調は、30分くらいならスイッチが切れていても誰も気付かないと思います。冷蔵庫も同じで、30分くらいなら庫内の温度は、ほとんど上がりません。

この調整を実現するためには、電力供給に併せて、エアコンや冷蔵庫を遠隔で制御できるシステムが重要になってくるわけです。ちなみに日本中で、100万台の冷蔵庫を束ねて制御すると、火力発電所一基分にあたる100万kW程度の電力をコントロールできるようになると言われています。それくらいインパクトのある技術なんです。弊社もこの領域にアプローチするべく、さまざまな取り組みをスタートしています。

脱炭素DXには、日本企業が参入する十分な余白がある

——脱炭素化に向けて、社会全体ではどのような変化が必要でしょうか?

エネルギーテックの分野に、もっと多くの企業が参入してほしいですね。脱炭素化を実現するには、電気、ガス、石油の3産業が大きく変わらなければならない。それをテクノロジーの力で支援するプレイヤーが、圧倒的に足りていません。

例えばアメリカのユニコーン企業であるオーパワー社は、電力会社にDXサービスを提供する事業で、時価総額1,000億円を超えるまでに急成長しました。こうした企業が日本でも現れてほしいですね。

幸いなことに、電気は国ごとにガラパゴス化するしかない産業です。インターネットとは異なり、電線は国境を越えませんし、国による規制もある。だからITのように、GAFAのようなグローバルプラットフォームが市場を独占することもありません。それは日本企業にとって大きなメリットだと思います。アメリカを始め、脱炭素DXの先進国に学びながら、独自のサービスを展開していく余地が十分にあるわけですから。

冒頭でお話したように、脱炭素社会への変革は、時代の潮流です。今後は、どんな企業も脱炭素化に取り組まざるを得ない。だからこそ、それを支援するDXサービスが提供できれば、大きなビジネスチャンスになるはずです。この記事を読んだ皆さんにも、ぜひ自分たちの得意とする技術を活かして、新たな脱炭素DXサービスをつくることができないか、考えてみていただけると嬉しいですね。その結果、エネルギーテックという分野全体が、もっと盛り上がっていくことを期待しています。

城口 洋平

ENECHANGE株式会社 代表取締役CEO

東京大学法学部卒、ケンブリッジ大学工学部博士課程(現在、休学中)。ケンブリッジ大学在学中に電力データに関する研究所を設立。その研究成果をもとに、ENECHANGE株式会社(日本)とSMAP ENERGY社(イギリス)を創業。世界のエネルギー革命を加速させるべく、エネルギーデータのプラットフォーム企業として事業を推進する。2017年「Forbes 30 Under 30 Europe」 に日本人として初選出される。

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