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エネチェンジ 城口 洋平 代表取締役会長「エネルギーデータの活用で持続可能な世界の実現を」エネルギー業界のデジタルシフトに挑む若き起業家

「日本のエネルギー業界は変革期を迎えている」と、ENECHANGE株式会社の創業者であり、代表取締役会長をつとめる城口洋平氏は語る。ENECHANGE株式会社は、デジタル化が遅れていたエネルギー業界において、家庭向け電力・ガス比較サイト「エネチェンジ」や、電力小売事業者向けに電力データを解析して精緻な収益性分析をおこなう「SMAP収益性分析サービス」など、エネルギーデータの分析・活用を行ったシステムやサービスを提供している。     しかし、城口氏が成そうとしているのは、単なる比較サイトの運営や収益性分析ではない。見据えるのは、デジタル化が遅れているエネルギー業界の、本質的なデジタルシフト。そしてその先で、エネルギーデータを活用した持続可能な社会を実現しようとしているのだ。
今回は城口氏に、エネルギー業界の現状と、デジタルシフトによって業界をどうアップデートしていくのか、今後の展望について株式会社オプトベンチャーズ代表取締役の野内敦氏がお話を伺った。

3.11の震災でエネルギー業界に課題感を持つ 競争のない電力業界にデジタルシフトを

野内:はじめに、事業内容について教えてください。

城口:ENECHANGEグループは、エネルギーデータ活用の基盤として事業を展開しています。事業は「エネルギーデジタル化関連」と「エネルギー自由化関連」の大きく二つに分けられます。電力の消費情報や気象情報、発電所の稼働情報など、膨大なデータを有効活用し、世界中の人々が、より自分に合った形でエネルギーを利用できるように、システムやサービスを提供し「エネルギーの情報革命」を推進しています。

野内:事業をはじめようと思ったきっかけは何だったんですか?

城口:東日本大震災と福島原発事故で、日本の電力業界の現状に課題感を持ったことがきっかけです。電力会社は、電気事業法に基づき「総括原価方式」で電気料金を算出しています。発電所の建設や電線の敷設とそれらの保守にかかる費用、電力販売費、人件費などすべての費用を「総括原価」としてコストに反映させ、それに一定の報酬を上乗せした金額を電気料金として販売する。つまり常に一定の利益が保証されるため、競争する必要がなかったんです。だからこそ、競争原理が働かず何十年も変わらないまま存在していました。この業界の規制を緩和し、自由化して、健全な競争原理を入れていかなければいけないと感じました。

また、日本のエネルギー自給率の低さにも課題感を持ちました。震災後、原発の停止により日本は急遽、石炭や石油といった化石燃料を輸入しなければならなくなりました。緊急輸入にかかった金額は、年間約5兆円。それほどの金額がエネルギー資源を持つ中東の国に流れていることを知り、産油国でない日本はかなりの不利益を被っていると思ったんです。日本の経済全体のことを考えると、エネルギー自給率の問題に取り組むべきだと思いました。

そこで震災後、イギリスのケンブリッジ大学に留学し、2013年に「ケンブリッジ・エナジー・データ・ラボ」という研究機関をつくり、電力のデータ解析についての研究を始めました。

多くの産業がデジタルシフトを進めていく中で、電力業界は最もデジタルシフトと縁遠い業界と言っても過言ではありませんでした。どの業界も、競争があって効率化が必要だからデジタルを取り入れます。競争のない電力業界にはこれまで、そもそもデジタルシフトが必要なかったのです。しかし震災で潮目が変わり、世間からも電力会社の内部からも電力業界は変わるべきだという声が高まりつつありました。電力業界は競争を取り入れる方向に動くと感じ、デジタルを取り入れることで業界を変えていこうと考えました。

2年間ほど、研究に没頭しましたね。世界のエネルギー業界には、2030年までに達成するべき課題として、「4つのD」があります。一つ目が、電力市場に競争を導入する電力の自由化(Deregulation)、二つ目がデータを活用して効率化をはかる電力のデジタル化(Digitalization)、三つ目がリスクを分散する電力供給システムの分散化(Decentralization)、四つ目が電力のエネルギー源における脱炭素化(Decarbonization)です。これらの課題を達成するために、どうデータを活用するか考えていきました。

その中で電力会社の料金比較サービス、電力データを分析して電力会社に提供するサービス、発電所の発電情報を分析して効率化を促すサービスなど、現在の事業につながるアイデアが出てきました。電力自由化を一年後に控えた2015年にENECHANGE株式会社を設立し、それを一つずつ形にするために動いていったんです。

電力使用量データの活用可能性

野内:最初にイギリスでスタートして、日本に戻って来られたんですね。2016年に電力自由化が始まって規制緩和の時期ではあったけれど、規制産業だった電力業界で、デジタルシフトを進めることに反対はなかったですか。

城口:原発事故後の流れがあったので、業界の反対はなかったですね。あれを見ているからこそ、電力会社の人ですらこのままではいけないと考えていたと思います。デジタルシフトを進める僕たちの改革に対しては追い風でした。

ただ、実際やってみると、データの活用以前の問題が山積していました。本当に初歩的なデジタル化の普及から地道に進めましたね。例えば、地方の電力会社では、ホームページがスマホで開けないから、引っ越し時期などに大量の電話がかかってきて対応に追われていました。数百人規模のコールセンターが必要だと、人員の確保に困っていたんです。

電力会社の方には「田舎だから電話申し込みなんですよ」と言われましたが、今は地方でも9割の人がスマホを持っている状況です。まず企業の役員の方々に、問題の原因がサイトにあることを理解してもらい、サイトの整備をすることで解決していきました。こういった問題は他の電力会社さんでも起きていたので、システムを構築して他の企業にも展開しています。

野内:一個一個変えていかないといけないんですね。事業を始めてからここ数年で、業界全体でデジタルシフトが進んだ部分はありますか。

城口:電力使用量を30分ごとに計測し、遠隔でも自動検針ができるスマートメーターの普及があげられます。これにより個人が契約電力会社のマイページなどを通して30分単位で電気の使用量が確認できるようになりました。スマートメーターは自由化が始まった2016年頃から一気に広まりはじめ、2019年9月時点では約6000万台設置されています。ただ、このデータはまだ活用できない状態です。本来、データはスマートメーターを利用している個人のものであるべきですが、今はデータをとっている端末を管理する会社のもの、という考え方のもと、電力会社がデータを開示していないんです。

しかし、例えば銀行はデータを個人のものとして解放していますし、それによって新しいサービスが生まれてきているのがフィンテックの流れです。電力のデータも第三者に解放され、広く利活用されるべきなんです。

データを取れるようにしただけでは、本当の意味でのデジタルシフトとは言えません。大事なのはそのデータをどう活用していくか。多くの企業がより良い活用方法を探して競争し、もっとも価値を出せた企業が勝ち残っていく構造を作るべきだと思います。

電力データがあれば、例えば政府や自治体では、災害発生時の電力使用量を基に住宅・避難情報の把握ができますし、量販店事業者では、家電の電力使用データを推定し、新製品や買い替えの提案ができます。また、宅配業者はデータを元にして在宅状況を推定し、配達ルートを設定することで、配達効率をあげることができるかもしれません。僕らも、データを分析して見える化することで、より電気代がお得になるためのアドバイスができる「電気の家計簿」のようなサービスを提供できないか考えています。

消費者もデータを見ることができれば、より賢い電気の使い方ができるようになる。どの電気をどう使っていくか、消費者が選べるようになるんです。

今がエネルギー業界の転換期 デジタルシフトで、持続可能な世界の実現を

野内:通信業界や鉄道業界でも、民間に事業を委託して競争環境が生まれてきました。電力業界でもようやく今、同じことが起こっているんですね。

城口:そうですね、電力自由化からまだ3年なので、ようやくプレイヤーが出てきている状況だと思います。2020年の4月には送配電と販売の会社が分離することが決まっていて、ようやく競争が始まるんですよ。まさに今が転換期ですね。世の中を大きく変えたインターネットが登場した1995年の時のように、変革がようやく起き始めているのです。ここから10年はデジタル化や脱炭素化、電気自動車の普及などにお金が集まってくるはず。僕らはその中で、世界に出て戦っていきたいと思っています。

エネルギー業界は、脱炭素化など、持続可能な開発目標「SDGs」に従い、向かうべき方向は世界基準で決まっています。各国がその目標を達成するために動いているんです。その中で、日本は特に遅れている。電力の自由化も先進国の中で一番遅かったですし、自由化が進んだ理由も震災という外圧からでした。自由化が進まないからデジタル化も進まず、玉突き的に分散化や脱炭素化も遅れているのが現状です。

僕らは日本だけでなく、イギリスやレバノンにもオフィスがありますから、海外の状況と日本とを相対的に見られるのが強みです。危機感を持って、今後も業界のデジタルシフトを進めていきたいと考えています。

すでに、物事を行う根底にデジタルがあるのは当たり前になっています。どんな産業でも、デジタルシフトするのは前進への第一歩なんですよね。電力業界も同じです。まずはデータの第三者開放をして、その先のデータの幅広い活用を行っていくのが、僕らの使命だと思っています。

エネルギー業界のデジタルシフトが進むことで、効率化が進んで電気代が下がるでしょうし、自然エネルギーや電気自動車の普及も加速し、石油や石炭の依存を減らすこともできるはずです。化石燃料の輸入が減って日本の貿易収支も改善するでしょう。デジタルシフトを進めることで、エネルギー業界の未来を作り、持続可能な世界を実現させていきたいです。

プロフィール

城口洋平(Yohei Kiguchi)
ENECHANGE株式会社 代表取締役会長、SMAP ENERGY Ltd. CEO
1987年生まれ。東京大学法学部卒、ケンブリッジ大学工学部博士課程(現在一時休学中)。ケンブリッジ大学在学中に電力データに関する産学連携研究機関、「ケンブリッジ・エナジー・データ・ラボ社」を設立。その研究成果をもとに、ENECHANGE株式会社(日本)とSMAP ENERGY社(イギリス)を創業。世界のエネルギー革命を加速させるべく、エネルギーデータのプラットフォーム企業として事業を推進する。2017年「Forbes 30 Under 30 Europe」 に日本人として初選出される。
野内 敦(Atsushi Nouchi)
株式会社オプトホールディング 取締役副社長グループCOO、株式会社オプトベンチャーズ 代表取締役。1991年森ビル入社。1996年オプトに参画。共同創業者として、グループ経営、組織運営、新規事業設立など、グループ成長拡大に一貫して携わる。現在、グループCOOとしてシナジー戦略を牽引しつつ、ベンチャーキャピタル事業を行うオプトベンチャーズの代表者として、投資先を支援している。

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