人・組織・リーダーシップ

95%が失敗しているDX化の課題を大企業・国・メディアのキーマンたちが語る

企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)化が待ったなしの状況を迎えている中、2020年2月7日に東京・渋谷で、5GとDXをテーマとしたカンファレンス「DX Drive 2020」が開催された。今回は「5Gが加速するDX」というテーマで行われたキーノートの模様を紹介する。

※この記事は、セッションの内容を一部、編集、抜粋してお届けしています。

ユーザー主権の時代の到来

須藤:株式会社Kaizen Platformの須藤と申します。今日は寒い中、足をお運びいただきありがとうございます。キーノートは「5Gが加速するDX」ということで、まずは2020年の大きなトレンドを2つご紹介してから、ゲストのみなさんとお話していければと思っております。

ひとつはプライバシーです。この問題は日本と海外ではかなり捉えられ方が違っています。GDPR(General Data Protection Regulation=一般データ保護規則)という法律はみなさんご存知かと思います。デジタル上の個人情報を個人がきちんと管理できるようにしましょう、という法律で、ヨーロッパで2018年5月から施行されました。また、これに対抗するかたちで2020年1月からカリフォルニア州では、CCPA(California Consumer Privacy Act=カリフォルニア消費者プライバシー法)という法律が施行されています。

実はこれらは似て非なる法律です。GDPRは利用目的を明示した上で、ユーザーの許諾をちゃんと取りなさい、という法律で、基本的にオプトイン(Opt-In)の考え方で作られています。一方のCCPAは、ユーザーが個人情報の開示や削除を求めた際に、企業はきちんとそれに応えられるようにしなさい、という法律となっています。

また、子供のネット利用に関する、COPPA(Children's Online Privacy Protection Act=児童オンライン保護法)という法律もアメリカでは制定されています。13歳未満の子供を対象に、保護者からの許諾なく個人情報を収集したり、個人情報を使ったターゲティング広告とかをやったりしてはいけないという法律で、最近、YouTubeが「YouTube Kids」という子供向けサービスを強化していますが、これはYouTubeがCOPPAに違反していると提訴され、昨年に1億7000万ドルもの和解金を支払うことになったために行っている措置です。

こうした流れを受けて、例えばAppleはブラウザのSafariで、ITPというサードパーティークッキーの利用制限をする機能を搭載しました。同じようにGoogleも、ブラウザのChromeでサードパーティークッキーの利用を段階的に制限していくと宣言しております。これは非常にインパクトの大きい対応で、今後はリターゲティング広告やアフィリエイト広告といった施策が、かなりの制約を受けることになるでしょう。

私たちは今、デジタルマーケティングのやり方を根本的に考え直さなければならない時期に入っています。もはやユーザーを無視した商売はできない。つまり、ユーザー主権の時代になってきたということです。そんな中、デジタルトランスフォーメーションをやっていくためには、デジタル上で何でも個人情報を取れるという発想を捨て、ちゃんとユーザーがデータを提供することで最適な顧客体験を得られるというメリットを提示できるか考えていかなければなりません。

デジタル上の顧客体験の良し悪しが事業を左右する

須藤:もうひとつのトレンドは、5Gによる動画の広がりです。昨年からKaizen PlatformはAmazonと提携させていただき、商品ページに動画広告を掲出できるサービスを展開しております。これは商品の検索結果に動画広告が載るサービスで、いわば、みなさんが買い物に行くと、店頭の棚でCMが流れているのと同じくらいのインパクトがございます。

こうした動画広告のサービスがめちゃくちゃ伸びているのですが、そこには長文をみなさんが読まなくなってきているという背景があります。だから我々としても、これまではLP(ランディングページ)の最適化を長くやってきましたが、ここも動画が主になっていくだろうと思い、LPにタグを1行入れるだけで、動画化が行えるサービスのリリースを準備しております。

プライバシーの問題と動画の広がりに共通しているのは、デジタル上の顧客体験の良し悪しが事業の成否に直結してきたということです。だから、デジタルトランスフォーメーション(DX)化が急務となっている。しかし現実問題として、企業のIT部門のリソースは、その8割くらいを既存システムの保守・メンテナンスに当てざるを得ません。そのためDX化が思うように進まない。これが今の企業のあちこちで起きていることです。

スイスに本拠を構えるIMDというビジネススクールのマイケル・ウェイド教授が、『DX実行戦略 デジタルで稼ぐ組織をつくる』という本を出されていますが、ここに衝撃的な数字が載っています。実はDXで期待したような成果を上げられている企業は5%だけ。残りの95%は頓挫しているそうです。

こうした理想と現実のギャップを乗り越えていくために、我々はさまざまなかたちでDXの実行を支援しております。おかげさまで累計3万回ほどの改善業務に関わらせていただきました。そこでわかったことがあります。それは、みなさん同じことで悩んでいるということです。業種が違ってもビジネスモデルが似ていると、KPI・KGIが似てきますし、KPIに効く施策も似てきます。つまり、そこで抱える課題感も似てくるということです。

そこで、今日はゲストのみなさんと一緒に、DX化を進めるうえでの共通した課題についてお話していきたいと思っております。それでは最初のテーマは「巨大組織が挑戦するDX」。ゲストにNTT東日本の蛭間武久さんをお呼びします。

営業の商談をいかにデジタル化するか

蛭間:NTT東日本 東京武蔵野支店の蛭間と申します。今日は弊社の商品を紹介するのではなく、DX化のために組織としてどのようなことに取り組んできたか、その背景も含めてご参考までにお話させていただきます。我々は一貫してネットワークビジネスをやってきましたが、従来は人と人をつなげることが目的でした。それが今ではモノもネットワークにつながるようになり、企業としてやれることがどんどん増えてきております。

NTTグループの中でもNTT東日本は地域に寄り添っていろんなビジネスをさせていただく会社です。みなさんは電話やインターネットのイメージが強いと思いますが、実はさまざまな企業様の悩みを伺い、IoTやICTを活用することで解決のサポートをしていくというビジネスもしております。さらに最近では農業関連の会社やeスポーツの会社を立ち上げるなど、本当に幅広い分野でDXの推進をご提案するということをやっています。それだけにお客様から聞く課題も多様で、それに対応できるソリューションもいろんなものがございます。

須藤:NTT東日本さんのホームページを見るとわかりますが、100以上の商品がありますよね。これをどうやって売るのか。そもそも営業の人がすべてを覚えられるのかと最初は不思議に思いました。

蛭間:これは社長の言葉なんですが、「将来、『昔は通信会社だったよね』と言われたい」と。そんな中で私が主にやっているのは、法人の方々に地域密着で課題を伺ってソリューションを提案するビジネスです。そのため、東京武蔵野支店は120人くらいの組織ですが、どんどん課題密着型の営業にシフトしています。(商品を提案するよりも先に)お客様と課題を話し合うことがメインになっており、それに対応できる商材もかなり増えてきました。

ただ、須藤さんがおっしゃるように、商材が増えると営業が大変になるんです。一番の問題はお客様と商談をしているとき。営業マンにはそれぞれ得意分野があります。セキュリティが得意な営業、働き方改革が得意な営業……というように、人によってお客様と話せる領域に限りがある。本来、弊社としてはお客様の課題に合わせた提案をしたいのですが、実際の提案が営業の得意分野に限られてしまう。あるいはお客様が課題に関するさまざまなヒントを出してくれても、それを捉えられないということも起こってしまいます。

須藤:営業活動はコンタクトまではデジタル化されてきましたが、商談だけはデジタル化できてないんですよね。

蛭間:弊社も同じです。今話題のICT企業へと事業転換しようとしているわりには、デジタルのツールを営業の現場で活用できてなかった反省がありました。iPadも2年前くらいから営業は全員持っていますが、それをきちんと活かす事例を作れてなかったんですね。だから、まずはそこからDX化をスタートしようと。

では、何をやったか? これはKaizen Platformさんの力を借りた部分なんですが、お客様からヒアリングする際に、まず「世の中には今、こういう課題がありますよね」という話をしなければなりません。一方で、「広告がどんどん動画化している」というお話があったように、やはり動画はわかりやすく、言いたいことを伝えやすい。ならば、お客様にご提案したい世の中の課題も動画にして、それをiPadに入れて見ていただく。そのうえでお客様に自社の課題を考えていただく。最初はそこから取り組みました。

ブラックボックスだった商談が見える化された

須藤:この施策でポイントだったのは、その動画を営業マンが見せるのか、それともお客様自身に見ていただくのか。そこは議論になりましたね。

蛭間:そうですね。動画のあとに問診、ヘルスチェックの仕組みを入れたんですが、世の中の課題について知っていただいたうえで、お客様の企業の現状について答えていただくと。PDCAを回して検証しましたが、やはり、お渡ししたほうが正確に答えていただけますね。

須藤:営業の方に聞かれると、かっこよく答えちゃうんですよね(笑)。

蛭間:そうですね。この仕組みの一番すごいところは、クラウドにすべてのデータが上がるようになっているので、営業マンがメモしなくても、部署のメンバー全員に情報が共有されるところです。だから、お客様がヘルスチェックした瞬間から、どういう提案をしたらいいのかという検討が始められます。まだスタートしてから3カ月ですが、圧倒的にアポイントメントを取れる数が増えました。何の理由もなく営業マンがお客様のところに行くのって難しいですけど、「こういうツールを作ったので、ぜひやってみてください」と言うだけでアポが取れるんです。

また、アポイントメントから具体的な提案にスムーズに移れるようにもなりました。これまで100以上の企業様に試していただきましたが、10%くらい提案率が上がっております。これから最終的な受注率も変わってくると思います。

営業マンが客先で何をやっているか。そこは今までブラックボックスだったわけです。「こういうことを伝えてきてください」と言っても、本当にお客様に伝わっているかどうかはわからなかった。しかし、こうした仕組みがあれば、すべてデータで残るので、お客様がちゃんと動画を見ていただいたか、ちゃんと回答していただいたかわかるようになりました。

ヒアリングの幅も広がりました。今までセキュリティの話しかできなかった営業マンが、働き方改革に関する課題をお客様からもらってきて、そこに対して新しい提案をするということも起こっています。お客様にとっても、「自社の課題を振り返るいい機会になった」という言葉もいただいています。

大企業のDXは小さな成功体験を横展開することがカギ

須藤:なぜ、この取り組みが上手くいったのでしょうか?

蛭間:現場発で必要なツールを考えたところだと思います。ありがちですが、本社がツールを作って、あとは「営業さん頑張って」。これではダメですね。PDCAがすごく大事ですから、毎週定例会をやっています。営業マンの声を聞いて改善する。これを繰り返しています。本社が主体だと余計なツールを付けたくなりますが、最終的な判断軸は現場にありますから、「これだけあれば十分な提案ができる」ところで収めておく。だから、現場の社員にとって非常に使いやすい、軽いシステムにできた。秘訣があったとすれば、そこかなと思っています。

須藤:NTT東日本のような巨大組織のDX化を考えるとき、すごく大切なのは現場をどう巻き込むかにあると思います。DXにおける失敗の大抵の原因というのは、実は現場を巻き込めていないところにあります。現場とつながってやっていけば、上手くいったケースを吸い上げて、それを横展開できる。

蛭間:それで言うと、私は支店の部長ですが、「支店の売り上げのため」という発想でやらなかったことが良かったと思います。最初から会社全体の公式ツールにしたいと思っていたので、本部の役員にも説明して、了承をもらったうえで取り組みました。だから、組織横断的に広げていくことがやりやすい。

須藤:最初は小さな範囲で成功体験をちゃんと作って、それを広げていくことが大組織のDX化のポイントですね。

蛭間:手前味噌になりますが、新しいことをやる組織が成果を出して、良い評価を受けることがすごく大事です。私たちは支店ごとに成績を比較されますが、やはり一番成績の良い支店がこういうことをやるから、他の支店も真似をしたくなるわけです。

須藤:「あそこを真似したい」という状態をどう作っていくか。それはとても大切ですね。

蛭間:だから、常に自分にプレッシャーを掛けている状態です(笑)。

須藤:今年もNo.1を目指して頑張っていきましょう。ありがとうございました。

日本がDX化に遅れると年間12兆円損失の可能性

須藤:次は「国家の競争力を左右するDX」ということで、経済産業省でDX推進を担当されている瀧島勇樹さんに登壇いただきます。瀧島さん、よろしくお願いします。

瀧島:経済産業省の瀧島です。みなさん、よろしくお願いします。

須藤:瀧島さんは2018年に、「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」という報告書をまとめられました。これは「日本でDX化が進まなければ、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警鐘を鳴らしたレポートですが、なぜ、これを作られたのでしょうか?

瀧島:もはやデジタル化が国の競争力を根本から左右することに異論はないと思います。私はITバブルの時代に社会に出ましたが、すべての産業がデジタル産業になるという意味では、DXはまさに国家の競争力を高めるための本丸だと思っています。しかし、日本はDXの実装が進んでいない。DXの実装に関する本も、こういうカンファレンスもいっぱいあるのに、実装はまだまだ進んでいない。そこに対する危機感から、こういうレポートを出させていただきました。

レポートのポイントはいくつかありますが、DXが進まない原因として大きいのは、やはりレガシーシステム(継続的な保守・メンテナンスが必要な既存のITシステム)の問題だと思っています。8割くらいの企業がレガシーシステムを抱えている状態では、新しいプロジェクトにリソースを割けない。さらに多くの人材を保守・メンテナンスに回さないといけないので、マクロで見ると日本全体の人材不足につながってしまう。DXを進めたくても、レガシーシステムに人もお金も投じ続けないといけないことが、大きなボトルネックになっているのではないかという認識です。

須藤:それを解決するために、どういったことを提言されてらっしゃいますか?

瀧島:結局、DXってそんなに難しい話ではなく、特に実装はコミュニケーションの問題だと思うんです。経営層と事業部門、事業部門の中でも本社と現場。そういう全体のコミュニケーションがきちんとできて、目指すべき方向が共有されていれば、DX化は進んでいくはずです。同じような課題意識はみんな持っているはずですから。

そのために我々は、「DX推進指標(デジタル経営改革のための評価指標)」を取りまとめました。企業がDX化の段階を自分で評価し、今後どういったことに取り組めばいいか判断するためのフレームワークです。

また、ほかにも経営層が投資家、ないしは外部のステークホルダーに対して、自社のDX化について説明するための「デジタルガバナンス・コード」というフレームワークも作ろうとしています。やはり市場から見ても、その企業が5年後、10年後にどれほどデジタルに対応できるかというのは非常に興味があるところですから。これは今年中の完成を目指しています。

DXへの本気度が企業の投資価値を左右する

須藤:アメリカでも先日、まさに監査法人が指標を作って企業をレーティングすることが始まりましたね。その情報が機関投資家に渡されることで、投資行動が大きく変わるということが起こっています。

瀧島:そうですね。特に競争が激しい業界の企業になると、どこまでDXをやる気なのかと相当細かく見られます。だから、DXをやっていかないと株価が落ちて、株価が落ちるとスタートアップの買収なんかもできなくなって競争力が落ちる。そういうことが起きるので、我々としても企業に対してプレッシャーを掛けたいわけではなく、こういうフレームワークを作ることで、会社が一体になって動くサポートができれば、という思いで取り組んでいます。

須藤:国だから大きなルールメイキングができるし、そこをやっていこうというわけですね。今後、日本全体で実現していくためには人材育成が大切だと思うのですが、瀧島さんのほうで、そのためのアイデアはございますか?

瀧島:本当に人材は大切です。それで思うのは、僕は40歳になって、もう一回デジタルを勉強し直さないとついて行けないと感じたんですね。それは僕のようなマネージャー層だけでなく、うちの幹部にも言っています。「みなさんも学んでいただかないと意思決定ができませんよ」と。社会全体で必要とされる技術はどんどん変わっていくので、そこに合わせてみんなが学び続けていくことが大切になります。そのためにも政策としていろんなご支援をしていきたいと思っています。

須藤:経産省そのものもDXをやろうとされていますよね。

瀧島:経産省も6000人くらいいるので、いかに現場を巻き込むかという、大組織ならではの問題はやはりあります。でも、我々自身がやっていかないと、みなさんに推進しましょうとは言えないので、頑張って取り組みたいと思っています。

須藤:今日はいろんな場所でDXを推進する方々が会場に集っていますが、みなさんに向けたメッセージを最後にいただければ。

瀧島:いつもいろんな方に申し上げているのは、やりたいことをやるのが一番いいじゃないですかと。本当に自分たちのやりたいことが、デジタルを使うと実はできるようになったりするので、そのためにDXを進めるのが一番いいと思います。僕たちは最近、若手で集まって外部の方と一緒に、『NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方』という本を作りました。そんなふうに「こうなったら面白いよね」ということに、みんなで取り組んでいけばDX化は進んでいくと思います。

須藤:『NEXT GENERATION GOVERNMENT』は拝読しました。草の根的な運動をつなげていき、大きなうねりに広げていければと思います。ありがとうございました。

日本は旧体制と新体制が融合しなければ変革が起きない

須藤:最後は「メディアと産業界のDX」ということで、NewsPicksの佐々木紀彦さんをお呼びしたいと思います。佐々木さん、よろしくお願いします。

佐々木:よろしくお願いします。

須藤:これは宣伝のために言えと言われているのですが(笑)、NewsPicksさんから、『ハック思考 最短最速で世界が変わる方法論』という本が3月18日に出ます。

佐々木:売れそうですね!

須藤:ありがとうございます(笑)。ほぼ同時に、『90日で成果をだす DX入門』という書籍も日経さんから出ますので、合わせてよろしくお願いします。さて、「メディアと産業界のDX」ですが、よく佐々木さんとは、「東京には西海岸と東海岸がある」という話をしましたね。

佐々木:よく話しましたね。西海岸っていうのは渋谷であるとか、六本木、青山といった東京の西のエリア。東海岸は丸の内や霞が関といった東のエリアです。この東西のエリアの企業カルチャーはかなり違っていて、こんなに近いのに交流がほとんどないんです。例えば、西海岸にあるDXなどのデジタルに関する知見が、東海岸側にシェアされない。それはもったいないとずっと思っていたんです。

須藤:僕がいつも思うのは、旧体制と新体制が一緒に扉を動かさないと、日本は大きく変わらないんですよね。明治維新だって新体制側の坂本龍馬や西郷隆盛だけではダメで、旧体制側の勝海舟もいないと実現しなかった。それで言うと、『ハック思考』は主に新体制(西海岸)の人向けで、『DX入門』は旧体制(東海岸)向け。この両方が一緒になることで世の中を動かしていければいいなと思って書きました。その取り組みのひとつとして、実は佐々木さんのNewsPicksと一緒に、DX人材を育成する法人向け講座も始めます。

佐々木:楽しみですね。NewsPicksとしても今年、銀座に大きな拠点を作ります。そこでは新しいスクール事業をやろうと思っているんですね。DXに限らず、いろんなビジネスをやられている方々と組んで、かなり本格的な講座を作ります。そこでは東京の東と西が融合するコミュニティを作ることで、単に座学するだけでなく、社会を変えていくための行動につながるような講座にしていこうと思っています。

手軽なコンテンツと深堀りするコンテンツの両方が大切に

須藤:というわけで、佐々木さんとはいろんなことを一緒にやっているわけですが、ここで聞きたいのは、経済メディアとしてDXをどう捉えていますか?

佐々木:先ほどの西海岸・東海岸で言うと、DXは西海岸を中心に広がってきたと思います。でも、最近はスタートアップ的なカルチャーが大企業でも広まってきたじゃないですか。東海岸の大企業の変革も、今年くらいからかなり進んでいくという実感もあります。そのときにメディアとしては、まさに坂本龍馬じゃないですけど、旧体制と新体制を融合させる仲介役になることが大事じゃないかと思っています。

そもそもメディア産業自体がDX化の非常に遅れた業界なんですが、5Gだったりオリンピックだったりを契機に、メディアも大きく変わってくると思うんですね。だから、実は僕らにとってもDXは大きなテーマになってきたと感じています。

須藤:例えば、5Gを具体的にどう活用していこうとされていますか?

佐々木:須藤さんがおっしゃったように、動画が増えていくのは間違いないでしょう。でも、すべてのコンテンツが動画になるわけじゃないですよね。むしろ、わかりやすくて短い動画、短い記事が増えれば増えるほど、深い学びを与えてくれる本の価値が上がってくる。実際、意外と本の売り上げって落ちてないんですよね。だから、手軽に早く知識を得られるコンテンツと、本やスクールのような深い学びを得られるコンテンツを、どう組み合わせていくか大事になってくると思っています。

須藤:よくわかります。僕はNewsPicksの長尺の映像コンテンツをかなり見ているんですが、落合陽一さんの番組(「WEEKLY OCHIAI」)で禅の回があったじゃないですか。あれが大好きで。実は視聴率も良かったんですよね?

佐々木:良かったです。ああいうマニアックな話を深堀りするようなコンテンツが広がっていく例も作るのが、今後重要になると思っています。実は最近、5GとDXについて考えるうえでも、すごく参考になる本に出会いまして、みんなにおすすめしています。『オタク経済圏創世記 GAFAの次は2.5次元コミュニティが世界の主役になる件』という本です。

この「2.5次元」とは何かと言うと、2次元はいわゆるデジタルの世界です。3次元はリアルとアナログの世界。今後、DX化が進むほどアナログの価値も大切になってくるから、デジタルとアナログをどう融合できるかということが、コンテンツ業界に限らず、あらゆる業界の勝負になってくると説いた本です。それをさまざまなデータから語っているんですが、今後に関する示唆がたくさん詰まっているので、ぜひ読んでみてください。

コミュニティのつながりがDX推進の突破口になる

須藤:すごくいろんな人から勧められるので、僕も読んでみます。今日は「コミュニティや人材育成が大切だ、そしてメディアの役割も変わっていくんだ」というお話がありましたが、どうしてNewsPicksはメディアとして、いち早くそこに乗り出しているんでしょうか?

佐々木:福沢諭吉の例になぞらえると、彼がどうして1万円札の肖像になるほどの有名人になったか。それは3つのことを上手く組み合わせ、時代を変え、企業を変えたからだと思っています。1つ目は慶應義塾を作り、人材育成に取り組んだ。2つ目は『時事新報』というメディアを作り、新しい情報を流通させた。3つ目は交詢社や三田会で、異分野の人たちが交流し、新しい事業を起こしていくコミュニティを作った。

つまり、福沢諭吉にならって言うと、何かを変えるときには、人材育成と情報流通とコミュニティの創出をセットでやっていかないといけない。だから、NewsPicksもメディア運営だけでなく、人材育成とコミュニティ事業に取り組んでいます。

須藤:コミュニティの重要性で言うと、DX化でぶつかる壁って、どの企業でも同じようなところなんです。だから、他の企業に「そちらではどうしていますか?」と聞けば、意外にヒントを貰えたりする。そういう人のつながりを作ることが、DXを推進させるために実は一番大切だったりしますね。

佐々木:そうですよね。企業のノウハウを1社で囲い込むのではなく、どんどん流通させていったほうがいい時代だと思いますし、日本全体のためにもいいと思います。須藤さんと我々で、その仲介役をやっていきたいですね。

須藤:そうやって各業界のキーとなる人がつながっていけば、新しいビジネスが生まれて世の中がアップデートされる。人のつながりって本当に大事です。ぜひ、我々も佐々木さんたちの取り組みにご一緒できればと思います。今日は一気に大企業・国・メディアという3つのDXについてお話をさせていただきました。最後には会場にいるみなさんがつながって、共に育ち、育てられるコミュニティの重要性も感じていただけたかと思います。キーノートでした。ありがとうございました。
須藤 憲司
株式会社Kaizen Platform
代表取締役

2003年に早稲大学を卒業後、株式会社リクルートに入社、同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、アドオプティマイゼーション推進室を立ち上げ、株式会社リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍した後、2013年にKaizen Platform, Inc.を米国で創業。Webサイトの改善のため、A/Bテストを簡単に計画・実行できるツールと、9000名を超える(2018年2月現在)グロースハッカーから改善案をオンラインで募ることができるクラウドソーシングから成るUI改善プラットフォーム「Kaizen Platform」を提供している。
蛭間 武久
NTT東日本 東京武蔵野支店
副支店長 兼 ビジネスイノベーション部長

1996年早稲田大学卒業後、NTT入社。システムインテグレーション、新商品開発、事業戦略などを経験後、米大手IT企業へ出向しニューヨークにて勤務。帰国後、マネージャーとしてマスマーケティング、プロモーション、人事育成、新規市場開拓など幅広く経験。現職にて、中小企業から自治体まで地域社会へ幅広くICT/IoTを提案していくための営業DXをトライアル中。
瀧島 勇樹
経済産業省 商務情報政策局
情報技術利用促進課長

1978年神奈川県生まれ。2001年東京大学法学部卒後、経済産業省入省。2008年ハーバード大学公共政策学修士卒。その後、インドなど新興国へのシステム・インフラ輸出政策の立案・実施、中小企業金融政策、サイバーセキュリティ政策に従事。2018年、大臣官房会計課政策企画委員。予算要求のとりまとめ、経産省のDXを推進。2019年、商務情報政策局企画官。「21世紀の公共の設計図 ちいさくて大きいガバメントのつくりかた」の提言をとりまとめた。2019年7月、情報技術利用促進課長に就任。
佐々木 紀彦
NewsPicks Studios CEO
NewsPicks 取締役(新規事業担当)

1979年福岡生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。東洋経済新報社で自動車、IT業界を担当後、「東洋経済オンライン」編集長に就任。2014年、NewsPicksに移籍し、初代編集長に。2018年、映像コンテンツのプロデュースを手掛けるNewsPicks Studiosを電通との合弁で設立。最新著書に『編集思考』。ほかに『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』『日本3.0』『ポスト平成のキャリア戦略』(塩野誠氏との共著)がある。

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「ユニコーン企業」ーー企業価値の評価額が10億ドル以上で設立10年以内の非上場企業を、伝説の一角獣になぞらえてそう呼ぶ。該当する企業は、ユニコーンほどに珍しいという意味だ。かつてのfacebookやTwitter、現在ではUberがその代表と言われている。この連載では、そんな海外のユニコーン企業の動向をお届けする。今回は欧米を中心に注目されている「代替肉」を扱う「インポッシブル・フーズ」を紹介する。

「8割以上の精度で、赤ちゃんが泣く理由が判明」CES2021イノベーションアワード受賞。注目の日本発ベビーテック企業とは

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テクノロジーの力で子育てを変えていく。そんなミッションを掲げ、泣き声診断アプリや赤ちゃん向けスマートベッドライトなど、画期的なプロダクトを世に送り出してきたファーストアセント社。「CES2021 Innovation Awards」を受賞するなど、世界的に注目を集めるベビーテック企業である同社の強さの秘密とは。服部 伴之代表にお話を伺いました。