DX戦略

【倉庫屋からテック企業へ】寺田倉庫が事業転換できた3つのコツ

倉庫会社の中では異例とも言えるスタイリッシュなコーポレートサイトを持つ寺田倉庫株式会社。アートやワイン、建築模型など、取り扱うサービスも従来の倉庫事業の枠を超えるものだ。なかでも、誰でも自分の倉庫が持て、いつでも引き出し可能なwebサービス「minikura(ミニクラ)」はいまや寺田倉庫を代表するサービスの一つになっている。ほんの数年前まで従来のトランクルームや物流サービスを主軸としていた寺田倉庫が、デジタル変革を遂げ、リブランディングを成し遂げた経緯について、変革の一翼を担った専務執行役員の月森正憲氏に話を伺った。

倉庫事業をデジタルシフト「minikura」誕生の理由

ーーはじめに、現在の事業内容を教えて下さい。

現在は「モノを最適な空間で最適なお取扱いをする」を軸に、多岐にわたるサービスを展開しています。

toCではワインやアートなど、繊細ゆえに品質維持に専門技術が必要な商材を管理するサービスや、ダンボール単位で個人の持ち物を預けることができ、Web上のマイページでいつでも確認、出し入れできる「minikura」の運営を主に行っています。minikuraは2012年のリリース以来、売上もユーザー数も毎年20%ずつ伸びており、事業の柱の一つとして成長してきています。

また、toBではこれまで蓄積した、最適な保管環境を構築するノウハウを活かし、情報資産である映像・音声メディアや文書などのマテリアル保管のほか、メディアデータ管理システムの運営などをしています。

おそらく倉庫会社と聞いて一般の方がイメージされるような事業内容ではないと思います。ただ、寺田倉庫も元々は物流倉庫の運営など代表的な倉庫事業の提供をメインで行っていました。そんな方針から大きくシフトしたのはここ8年ほどのことでした。
ーーデジタルを活用した事業を展開するに至ったのはどのような経緯からでしょうか。

1950年創業の当社は、お米の保管を行う事業からスタートしました。そこから物流やトランクルーム事業を展開し、トランクルームといえば寺田倉庫と言われるまでになり、順調に売上を築いていました。当時は会社としても既存のトランクルーム事業の拡大路線で売上を拡大していくつもりでした。

その方向性に危機感を覚え出したのが2010年頃で、きっかけになったのは不動産業界がトランクルーム事業に参入しはじめたことでした。優良な場所や土地など物件開発の面では勝負できず、このままではどんどんシェアを奪われてしまう。かといって営業に力を入れても価格競争になるだけ。このまま同じ畑で勝負し続けることに限界を感じ、一旦事業の見直しをすることにしたんです。

不動産会社にはない自社の強みは何なのか考えた末、モノを預かり「管理」することだと思い至りました。場所の提供や契約はできても、預かった物品を正確に、適切に取り扱い、管理することは倉庫業しかできません。そこで次世代のトランクルームを目指し、デジタル技術を活用しつつ個人向けの新しい物品管理サービスを提供できないかと始まったのがminikuraでした。

デジタル化とリブランディングの変革期はそこからです。minikuraは順調に成長し、現在では法人向けにminikuraのAPIを活用した物流プラットフォームの開発・提供まで幅が広がっています。

事業部の半数がIT人材に

ーー新規サービスminikuraの開発プロジェクトはどのようにして立ち上がったのですか。

これしかないと思い、提案したのがきっかけでした。私はもともと物流関連の部署にいて、法人向け物流サービスで培ったノウハウが自社に蓄積されていることを肌で感じていました。そんな中で、利用者を法人から個人に変えることができれば新たな市場の開拓にもなるし、自社の強みも活かせるのではと思いました。

ーー新規事業を軌道に乗せるため、具体的にどのような行動を起こされたのでしょうか。

大きく三つのことを行いました。まず一つ目はプレスリリースを定期的に打ち続けること。具体的には、minikuraのローンチを皮切りに毎月何らかのプレスリリースを常に発信し続けました。

実は、日本の倉庫会社のオペレーションは世界一ともいえるレベルです。紛失や盗難も少なく、丁寧で安全性が非常に高い。しかしそのレベルの高さに対して業界では「できて当たり前のこと」であるため、あえて外に向けてアピールするものではないというのが従前の認識でした。保守的な業界ですし、自社オペレーションの良さを公表することに抵抗感を持つ社員も多かったです。

最初のプレスリリース内容を考える際には私も、わざわざこんなこと書く必要があるのかと懸念していましたね。しかしふたを開けてみると、「預けられた箱は中身を一点一点確認し安全に管理する」など我々にとって当たり前のことがものすごく評価されたんです。これにはとても驚かされました。今まで普通にやっていたオペレーションの内容を改めて解説することが、消費者に響く結果に繋がったんです。対外的に評価されたことで社内の空気も一気に変わり、改革の自信へと繋がりましたね。
世間へ発信する大切さに気付かされ、その後は必ず定期的にプレスリリースを打つようになりました。共感され評価される部分とそうではない部分を、客観的に知ることができるのもメリットに感じています。

二つ目はIT人材の拡充です。プロジェクト開始当初は担当が数名しかおらず、IT人材もいませんでした。商品設計書や業務フローをひたすらまとめて、その内容を外部の開発会社に協力してもらいながら進めていくという状態でした。

しかし、それではどうしてもスピード感を出すことができないんです。ユーザーの意見や情報を基にフロントエンドの細かい調整をしたり、トライ&エラーで新しい施策にチャレンジしたりするためには、内製化の必要性を強く感じました。

最適な人材を採用するため、プレスリリースやイベントで認知を広げ、テックキャンプやプログラミングスクールなどに登壇し、事業内容のアピールを積極的に行いました。ポテンシャルが高く、比較的若い層を集める一方で、プロフェッショナル採用枠を設け、技術力の確かなベテラン層も受け入れられる体勢を整えました。一気に採用できたわけではありませんでしたが、徐々に人材の数を増やし、その結果、現在はminikura事業部に所属する社員の半数がここ数年に新規入社したIT人材になっています。

当社に新しくジョインした社員たちのほとんどは、倉庫会社で働いているというイメージは持っておらず、アートやワイン、minikuraなど、寺田倉庫の新しい側面に惹かれたケースも多いのではと思います。

三つ目はスピーディーな意思決定とアクションです。近年、テクノロジーの進化に伴って世の中がめまぐるしいスピードで変化しています。そのため、こちらも機敏に変化していかなければユーザーの求めるサービスの提供ができないと思っています。

時間をかけて大規模な開発を行うよりも、小さくても良いのでとにかく早くサービスを始め、その上でアップデートを重ねることを心がけました。その結果、minikuraは構想から1年でサービス提供を開始し、その1年後には倉庫システムのAPI化を実現しました。さらにスタートアップ企業を含む様々な企業と協力し、新規事業の創出をいくつも行いました。同時に、コーポレートブランディングの見直しにも取り組み、前述の通り募集人材の抜本的な改革も実現しました。

minikura事業を通じてIT界隈のベンチャー企業の方々と交流するようになり、彼らの意思決定のスピードを間近で見てからは、より一層スピード感をあげないと、と意識しています。
▲あずけられた品を一点一点写真で撮影し、管理している

▲あずけられた品を一点一点写真で撮影し、管理している

デジタルシフトで裏舞台から表舞台に

ーー最後に、今後の展望を教えて下さい。

minikuraとしては、感動No.1のサービスに成長させることが最優先ですが、思い立ったらすぐにモノを預けられる世界の実現はできつつあるので、その先のフェーズに挑戦したいと考えています。具体的にはモノを預かった「後」に着目し、ユーザーにより価値を感じてもらえる機能を拡充していきたいと思っています。

例えば長期間預かっている物をレンタルできるようにしたり、不要品をそのままフリマで売れるような仕組みにしたり。また、24時間好きな時に出し入れができるサービスにすれば、よりローカライズされたロジスティクスが構築できるようになるかもしれません。

会社全体としては、今後も倉庫事業の枠に留まらずスタートアップやベンチャー企業と手を組んで様々な事業を展開していきたいです。彼らは組織として小回りがきくため、大手よりスピーディーに事を進められ、その意思決定の速さには刺激がもらえます。また、ユーザー目線に寄り添った新しいサービス開発の姿勢には多くのことが学べます。

APIの提供とほんの少し背中を押してあげるぐらいの出資ですが、これまで7社ほど支援させていただきました。単なる送客ではなく、一緒にビジネスを作っていく関係性が理想ですね。

また、寺田倉庫として展開しているカルチャー事業についても、国内にとどまらずグローバルな展開をしていきたいです。当社には、時代を超えて価値あるものを受け継いでいくといった理念があります。それに基づいて、近年は希少な伝統画材を取り扱うショップや、建築模型専門のミュージアムなど、継承が難しい技術や素材を途絶えさせずに守り伝えていく事業を展開しています。そういった取り組みを今後は海外でも発信していきたいと考えています。

今後もモノをお預かりする技術にテクノロジーを組み合わせることで生活を改新させ、ユーザーの価値となるサービスを生み出し続けていければと考えています。

自社では当たり前だと思っている技術も実は当たり前でなく、活かし方やアピールの仕方次第では、世の中を変える可能性は大いにあると思っています。その手段の一つとしてデジタルシフトは有効です。我々のように普通は表舞台に出ない、陰ながら企業やユーザーを支えてきた業界でも、やり方次第では表舞台で輝けるチャンスです。既存の枠にとらわれず、これからも新しい世界を作っていければと思います。

プロフィール

月森 正憲(Masanori Tsukimori)
寺田倉庫株式会社 専務執行役員 minikura担当
1998年寺田倉庫入社。倉庫現場にて実際にフォークリフトを運転したりと倉庫内の管理・運営業務に10年間従事。その後、営業として4年間勤め、新規事業開発の担当へ。2012年に、預けた荷物をWeb上で管理できる収納サービス「minikura」を個人ユーザー向けにリリース。その翌年には、収納・管理システムをAPI化し様々な企業と共同で新規事業の立ち上げを行なっている。

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