「今求められるデジタルシフトの実行力」イベントレポート 〜企業がDXを成功させるために抑えるべき、15のポイント〜

「不確実性が高まっている」と言われる今のビジネス社会。プラットフォーマーが突然、異業種に参入したり、ユーザーの価値観が多様化したりで、事業の収益を安定的に上げられる見通しが持ちづらいとされています。

この不確実な時代を生き抜くには、圧倒的なビジネススピードを手に入れる必要があり、その手段の一つがデジタルトランスフォーメーション(DX)だと考えられています。

さらに、最近では新型コロナウイルス感染症の影響もあり、どうすればDXが実現できるのか、悩む企業が多くなってきました。実際、DXをどのように推進していけばいいのか、その解決策を探るべく、株式会社オプトが2020年5月28日に開催したオンラインセミナー「今求められるデジタルシフトの実行力」の詳細をレポートします。

当日は、実際に20以上のDXを推進するプロジェクトに携わってきた株式会社オプトデジタル代表取締役 野呂 健太氏に株式会社オプト執行役員 石原 靖士氏にお話をお伺いしました!

株式会社オプト
執行役員
石原 靖士氏
2003年、旧ソフトバンクIDC㈱に入社。ネットワークエンジニアとして従事した後、2006年に㈱オプト(現:㈱オプトホールディング)入社。営業、マーケティング職を経て、2010年にWebマーケ会社の㈱デジミホ(旧オプトグループ)の取締役に就任。SaaS系の新規事業を立ち上げ・グロース後、事業売却。2015年にオプト執行役員に就任し、エンジニアとクリエイティブの組織を拡大。2019年4月、オプトグループ(現デジタルホールディングスグループ)執行役員に就任し、レガシー業界のデジタルシフトを狙った、顧客との共同事業開発を推進中。
株式会社オプトデジタル
代表取締役
野呂 健太氏 
大学院卒業後、2011年株式会社NTTドコモに入社。経営企画部門にて事業計画立案に携わる。その後「dポイント」の立ち上げ、プロモーションを経験。2017年より損害保険ジャパン日本興亜株式会社(現:損害保険ジャパン株式会社)にて新規サービス創出に取り組み、「LINEによる保険金請求サービス」「SOMPO AI修理見積」においてプロジェクトリーダーを務める。在籍3年弱で約20のプロジェクトを世に送り出す。2020年、株式会社オプトデジタルの設立とともに代表取締役に就任。現在に至る。

デジタルシフトのサポート事業を始める背景

石原:まず私から、今回のイベントの背景についてご説明させていただきます。弊社グループは1997年にFAXのマーケティング会社として創業いたしました。その後2001年にインターネットが台頭してきたことから、インターネットの広告代理店業務に特化するようになります。この事業のシフトを第2創業期と捉えています。

そして今まさに第3創業期を迎えています。世界中の企業にデジタルシフトの波が押し寄せ、そのサポートに特化することを決めました。7月1日より親会社のオプトホールディングも「デジタルホールディングス」へと社名を変えています。

我々がDXのサポート事業をメインに据えるようになったのは自然な流れだと考えています。シンプルに、お客さまからの「サポートしてほしい」という声が急増したことが理由です。

我々の使命は、DXのやり方が分からないとお困りのお客さまをサポートすることだと思います。そのためのアプローチとしては大きく2つあると考えています。まず一つは、企業都合ではなく顧客都合で企画を立てること。そしてもう一つは提案する施策は小さく作って、実験を繰り返しながら磨きこんで行くということ。このアプローチは、我々がこれまでの事業で大切にしていたものでもあります。

具体的には、多くのユーザーの方々が利用しているプラットフォームとタッグを組み、お客様のご都合に合わせた柔軟な開発をスピーディーに行っていければと考えています。その第一歩として4月に発足したのがLINEと一緒に企業のデジタル化をサポートする専門組織LINE Innovation Centerです。そしてこの組織づくりを主導しているのが株式会社オプトデジタルです。

本セミナーでは、オプトデジタルの代表取締役であり、複数の大企業においてデジタル化を実現してきた野呂さんに、過去の経験を交えた上で、どうすれば企業はデジタル化を成し遂げることができるのか聞いていきたいと思います。

損保ジャパン×LINEの事例紹介

石原:野呂さんはこれまで20以上のプロジェクトに関わってきましたが、その中で今回はLINEと協力して実現した保険金請求のオンライン化についての事例をご紹介頂きたいと思います。
この事例は、比較的保守的な金融業界において、機密情報をLINEでやり取りするという業界初のチャレンジングな試みでした。この取り組みのどこがDXなのか、改めて振り返りたいと思います。
Point1 利便性の向上

石原:まずは利便性向上という観点からどんなデジタルシフトがあったのか教えてください。

野呂:はい、保険金の請求について、従来は電話や郵送で手続きを行っていました。手間がかかっていたのに加え、事故があってから保険金が支払われるまでに、一週間ほどのタイムラグも発生していました。

それが、新しいサービスにより、事故受付から支払い完了までを約30分で完了できるようになり、ユーザー側からすると大変便利になったのだと思います。一方、システムを開発した損保ジャパンにとっても、連絡対応など、手続きにかかる手間が半分に減りました。

Point2 ユーザーの創意工夫によるサービス進化

石原:実際にサービスを作ってからリリースするまでは結構ドキドキしたと聞いています。リリースしてみていかがでしたか?

野呂:想定以上にユーザーさまがサービスを使いこなしていて面白かったですね。

送られてきた事故現場の写真に画像編集アプリを使って、事故の状況が書き込んであったり、Googleストリートビューを使って「ここにぶつけました」と連絡をいただくこともありました。これまで口頭で伺っていた状況が迅速に、的確に把握できるようになりましたね。我々が想定しなかった使い方が生まれるところも、お客さまと常につながるプラットフォームがある強みだと思います。

Point3 大手プラットフォームの活用

石原:ユーザーとつながるためにと、自社アプリの開発を行う会社さまもいらっしゃると思います。しかしこの事例ではLINEを活用されてますよね、それはなぜなのか教えてください。

野呂自社アプリを出しても、他のアプリの中に埋もれてしまい、結果使われなくなってしまうと思ったんです。また、お客さまは、保険金の請求なんて自分には関係ないだろう、と心の中では思っていて、事前にダウンロードをいただくことが難しいとも思っていました。その点LINEなら、サービスを受けるために必要なのは「友達追加」だけです。お客さまにとって、使いやすいのではと思いました。

石原:まさに「顧客都合」ですね。企業からすればどんどん使ってほしいと思いますが、お客さまからすると、いざというときにパッと使える方が良いですもんね。

Point4 やりとりできる情報量の増大

石原:お客様とのやりとりにもチャットを使っていますよね。すでにコールセンターの仕組みなどがある中でどうやってシステムの切り替えを進めたのか教えてください。

野呂:まずチャットに対するイメージを変えるところから始めました。なんとなく電話からチャットに切り替わると、コミュニケーションが薄くなってしまうような感覚が担当者の中にはあります。ただ私はそれは都市伝説だと思っています。チャットにすれば、テキスト、画像、URL、動画などやり取りできる情報の種類が増えます。使い方次第で既存のオペレーションよりも便利になると思ったんです。

Point5 金融機関の要求するセキュリティ

石原:損保ジャパンが求めるセキュリティレベルは非常に高かったのかと思いますが、どのようにクリアしたのか教えてください。

野呂:おっしゃる通り、損保ジャパンは金融庁の監査もあり、求められるセキュリティレベルは非常に高かったです。その基準をクリアするため、独自のセキュリティーシステムを構築しましたね。

企業のデジタル化を阻む壁とその乗り越え方

石原:ありがとうございます。これまでは野呂さんがどのようにデジタルシフトを実現してきたか、事例をもとにご説明いただきました。ここからは、企業の中でデジタルシフトを実現するにあたっての壁や、その乗り越え方について伺っていければと思います。

Point6 泥臭い社内調整

事前にいくつかキーワードを用意していますが、その中でもまずは社内調整のやり方について教えてください。

野呂:ありがとうございます。ここからは少し生々しい話になっていくかなと思います(笑)。

デジタル化は、私からすると社内調整の塊です。何をやるにしても社内の関連する部署との調整が発生するからです。例えば先ほど例に挙げた損保ジャパンほど大きな会社にもなると、商品企画部門、事務処理部門、営業部門、カスタマーサポート部門、デジタル部門、経営企画部門など多数の部門との調整が必要です。また、実際にお客様とやり取りをする現場の人の疑問にも答える必要があります。

仮に方向性が決まったとしても「そのやり方はちょっとどうなの?」みたいな指摘がたくさん出てきます。もらった意見を伺いつつ、場合によっては選択しながら前に進まなければならない難しさがありましたね。

Point7 現場担当者の言い分を理解し、妥協点を探す

石原:まさに、DXを進めるうえでは、社内調整が非常に大変になるのだと思います。野呂さんはどうやって、周りの人を納得させていったのですか?

野呂:コツはいろいろありますが、そのうちの一つは、今のやり方を変えたくないと思っている人たちを強引に押し切るのではなく、彼らにも彼らの正義があることをきちんと理解することだと思います。相手の言い分を理解した上で一緒に妥協点を探すことを意識していました。

結局、新しいオペレーションがうまくいかなかった場合、責任が問われるのは現場の担当者たちです。だからこそ彼らが守りの姿勢に入るのはあたりまえだと思います。ただ、そうは言ってもイノベーションを起こすためにはチャレンジが必要です。そのことを伝えし、相手と一緒になってどこまでならオペレーションを変えることができるのか、折衷案を探すようにしました。

Point8 既存オペレーションは少しずつ変える

石原:また、新しいやり方を始める場合、いきなり既存のオペレーションをまるまる変えるのではなく、少しずつ変えていくのもコツだと思います。LINEの保険金申請サービスを導入する際は「コミュニケーションのツールが電話からチャットに変わっただけなんだ」と強調し、現場の方々の理解をいただきました。

Point9 小さく早く始める

石原:費用対効果も求められたのだと思います。どのように進めていったのでしょうか。

野呂:そうですね。新しいサービスを始める際、明確に費用対効果を出すのは難しいと思います。ユーザー調査を行いながら検証していきましょう、というやり方もありますが、それだと結局お金も時間もかかります。

だからこそ、新しいことを始める際は、早く安くやってみることが重要なのだと思います。そうすれば社内の稟議を通しやすくなりますし、説得もしやすくなります。

石原:なるほど。小さく行ってみることと合わせて、何かエラーが起きた時にすぐに止められる設計も大事ですよね?

野呂:おっしゃる通りですね。スモールスタートで始めつつも、保守の仕組みは念入りに作り、緊急時の体制はしっかり整えておくと良いと思います。上っ面を作るのは簡単なのですが、緊急時の対応などのオペレーションも含めて考えなければ、結局は現場に使ってもらえるサービスにはなりません。

Point10 デジタルに知見のある人と現場の人をつなぐ

石原:最近、DX部門みたいな部署が社内に新設されるケースも増えています。新しい部署とのうまい距離の取り方などあれば教えてください。

野呂:新設の部署には、デジタルに知見がある人を中途採用で引っ張ってくるケースがよくあります。ただし、それだけではデジタルシフトを進めることは難しいです。社員の意識やサービスのオペレーションを分かっていないと、社員から受け入れられる提案はできません。その結果、DX部門と他の部署との間で乖離が進むなんてこともよくあります。だからこそ、DX部門と他の部署とをうまく繋げられる人がイノベーションには必要だと思います。

石原:接着剤みたいな人ですよね。

野呂:そうですね。とはいえ、そんな人材は豊富にいるわけではないので、場合によっては社外を頼ってもいいのかなと思います。

Point11 プロジェクトリーダーは「決断」する

石原:なるほど。そうなると、改めてプロジェクトリーダーの役割が問われるのだと思います。

野呂:おっしゃる通りだと思います。結局、新しいことを始める際はリスクがあります。リーダーの役目は、そのリスクを最小化しつつも、折り合いのつかない部分は押し切って、最後には、これをやるんだと決断をするところだと思います。

石原:なるほど。現場の人がリスクを取れる会社だとデジタル化は進みやすいのですかね?

野呂:そうだと思います。ただ、億を超えるような金額がかかったプロジェクトを担当者一人に任せることはできないので、先ほどもお伝えしましたが、スモールスタートできる形にすることが大事だと思います。


Point12 アジャイル開発による開発期間短縮

石原:小さく始めて、2~3ヶ月で実装するのが理想なのだと思いますが、一方で、システム開発という点でそんなスピーディーにはできないと考える方も多いと思います。その点はどうすれば解決できるでしょうか?

野呂:おっしゃる通り開発には時間がかかります。とくに、会社の基幹システムと繋ごうとするとその影響調査だけで数ヶ月かかり、実際に手を入れるとなれば数年単位の長期プロジェクトになる可能性もあります。

そこで、LINEによる保険金請求サービスの場合は、基幹システムとは連携しないと最初から割り切りました。さらに、要件定義に時間をかけすぎず、最低限の機能だけを持たせて世に出し、ユーザーからのフィードバックを反映させながらサービスを作っていく、アジャイル型の開発を進めました。その結果、開発期間3ヶ月で、短いトライアル期間を経て、リリースすることができました。

Point13 柔軟なユーザーニーズの取り込み

野呂:アジャイル開発は、開発期間短縮だけでなく、柔軟にユーザーの声を取り入れられるのも利点です。ユーザーというのは、エンドユーザーはもちろん、実際に現場でサービスを使う担当者も含まれます。LINEによる保険金請求サービスも、リリース後毎週のように会議を行い、ユーザーの声を吸い上げながら改修を繰り返しました。早い場合だと、リクエストが出された翌週にはシステムをアップデートしていましたね。そのスピード感は周りからご評価いただきました。

この変化の早い時代、2年も3年も先を見据えてサービスの要件定義をすることは難しく、時間をかけて開発をしても、いざリリースをする段階になると世間のニーズが大きく変わっていることもあります。だからこそ、開発には時間をかけず、短期間でできる形で素早く世に送り出すことが必要なのだと思います。

石原:しかもこのスピード感が、サービスの性質上どうしても意思決定が遅くなってしまう金融の領域で、かつ大企業で、実現できたことが大きいですよね。それなら我々もできるかもしれないと思ってもらえる企業さまが増えると良いなと思います。

Point14 独自のチャットシステムによる拡張性とデータ蓄積

石原:LINEによる保険金請求サービスの場合、これまでは一週間ほどかかっていた審査期間が大幅に短くなったという話があったと思います。どうやって実現したのか教えてください。

野呂大量に集まってくるデータを活用し、AIでの査定を一部組み込んでいます。まだ全てをAIに任せるのは難しいと思いますが、うまく組み合わせれば業務効率化やお客様の利便性向上につながるので、リアルとうまくハイブリッドさせることが有効だと思います。

Point15 大手プラットフォームサービスの活用

石原:なるほど、うまくリアルとデジタルをハイブリッドさせられるかが重要になってきそうですね。AIのような技術を活用する際、自社での開発や大手プラットフォームのサービスの活用などいくつか選択肢があるのだと思います。今回はなぜLINEを選んだのか教えてください。

野呂:大手のプラットフォームをうまく組み込んだほうが、お客さまのご利用のハードルが下げられると思ったからです。

デジタル化を進めるにあたって、陥りがちなのが、最先端スタートアップの技術を取り入れようとするものの、結局、うまく組み込めないというパターンです。テクノロジーはあくまでも手段でしかなく、どうやって活用するのかを考えなければうまくはいきません。経験上、サポート体制が整っているという意味でもGAFAなど大手プラットフォームが提供するテクノロジーを導入したほうが楽に、スピーディーにプロジェクトが進められます。

石原:昔から、プラットフォーマーの技術をうまく活用し、サービス開発のサポートを行うパートナーが日本にいないと言われていますよね。そこを担えるのがオプトデジタルなのかなと思います。

野呂:おっしゃる通りだと思います。いくら素材が良くても美味しい料理ができるとは限りません。結局、どうやって組み込むのかを考えることが重要で、その役割を担えればいいなと思います。

石原:以上で、トークセッションを終わります。本日はどうもありがとうございました。

野呂:ありがとうございました。

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