自宅に居ながら、医師による診察・処方・薬の配送までが完了。DXにより「SOKUYAKU」が変える日本の医療

自宅やオフィスでオンライン診療と服薬指導を受けることが可能で、処方せんや処方薬を配送してくれるサービス「SOKUYAKU」。バリューチェーンが異なるためワンストップでの提供が難しかった「オンライン診療・服薬指導・処方薬の配送」を一つのアプリで完結しています。
「オンライン診療の導入は、患者、医療従事者、国すべてにメリットがある」と語るのは、ジェイフロンティア株式会社で代表取締役社長執行役員を務める中村 篤弘氏。社会保障費の削減が急務な日本において、オンライン診療はどのように機能し社会を変えるのか。医療業界の現状についてお話を伺いました。

ざっくりまとめ

- 病院での数分の受診と薬をもらうためだけに半日を要する現状を変えるべく開発されたサービスがSOKUYAKU。オンライン診療と服薬指導、処方せんおよび処方薬の配送までを提供する国内唯一のサービス。患者の利便性を上げるだけでなく、社会保障費の削減にもつながる。

- 社会保障費の増加につながるため、保険診療の医療機関は広告出稿が限定的。そのため医療機関は自力での集客が難しいが、SOKUYAKUはEC事業で培ったノウハウを活かして積極的にマーケティングを展開している。

- アプリをダウンロードしなくても、各地に設置された専用端末やWebブラウザからダイレクトにSOKUYAKUが利用できるサービスも展開し、患者の利便性向上に努めている。

- 今後は未病期間を長期化させ、疾病期間を短縮化させる「SOKUYAKUヘルスケア経済圏」を創出し、社会保障費の削減に取り組んでいく。

赤字を抱える病院は全体の約45%。社会保障費の削減が急務

――SOKUYAKUのサービス概要を教えてください。

SOKUYAKUはオンライン診療から服薬指導、処方せんおよび処方薬の受け取りが自宅でできるサービスです。16時までに服薬指導を受ければ、全国どこでも翌日中には薬を受け取ることができます。さらに東京23区、横浜市、大阪市、福岡市、名古屋市、札幌市では当日配送も可能です。オンライン診療と服薬指導、処方せんおよび処方薬の配送まですべてをワンストップで手がけているのは、国内ではSOKUYAKUのみです。

――SOKUYAKU開発の背景を教えていただけますか?

我々はもともと第3類医薬品や漢方薬をメインとしてD2C事業を手がけており、2019年には赤坂に調剤薬局をオープンしています。さらに店舗での販売に加えて、港区限定で薬剤師によるデリバリーサービスも行っていました。当時は薬を販売するときに対面での服薬指導が必要でしたが、コロナ禍で規制緩和が進みオンラインでの服薬指導も認められるようになったことを契機に全国展開しようと考えました。そうして生まれたのがSOKUYAKUです。我々は一貫して、一般のお客さまに薬を届ける事業を展開しています。

――2019年当時に行っていた薬剤師のデリバリーサービスは、どんなきっかけで着想を得たのでしょうか?

私の身内に要介護者がいて、学生時代から介護を行っていました。薬をもらいに病院まで同伴すると、診療時間はほんの数分で、毎回同じ薬をもらうにも関わらず、待ち時間が長くてそれだけで半日が終わってしまうんですね。そういった患者視点での体験を通して、医療機関や患者の課題解決が出来ないかと考えるようになったんです。

大学卒業後はドラッグストアで薬剤師のマネジメントなどを手がけ、Web広告代理店に移ってからは営業責任者としてECのノウハウとマーケティングを学びました。患者起点のサービスであるSOKUYAKUには、それらの経験が反映されています。

――医療業界は、やはりまだ十分な規制緩和が進んでいないのでしょうか?

現状の法制度だとオンライン診療は自宅と職場なら可能ですが、その他の場所では色々な制約があります。北海道には100km離れた病院に前泊して通院する方もいます。規制緩和が進み様々な場所で顔なじみの医師とオンライン診療でつながることができればどれだけ便利になるか。一方で、現在は国からも法改正に対する強い意気込みを感じます。なぜなら、現在約50兆円の医療給付費と介護給付金が2040年には約95兆円になる(※1)といわれているからです。22年度の国家予算は約107兆円ですが、それに匹敵する額です。つまり、社会保障費を抑制することは国として避けられない課題です。我々としてもSOKUYAKUに協力してくれる医療機関、薬局と積極的に連携していくつもりです。
(※1)2040年を見据えた社会保障の将来見通し(内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省作成2018年5月21日)より。

現在、全国にある18万件の病院のうち約67%が赤字(※2)であり、それを国や自治体が補填している状況です。過疎地にある病院は地域住民を守るために絶対必要なので、しっかりと支援して存続させるべきです。国民の健康寿命を伸ばし、疾病期間を短縮させる。未病期間が長くなればそれだけ社会保障費は下がります。これからは本当に患者のことを考えている病院や薬局だけが残っていくでしょう。
(※2)日本病院会等による報告 (2020年6月5日)より。

――医療の世界も淘汰が進んでいくということですね。

社会保障費を下げるためには避けられません。私はSOKUYAKUの利用者が圧倒的に増えればこの業界も変わっていくと考えています。患者が喜んでくれる医療体験が増えれば病院の経営も改善し、社会保障費の削減にもつながります。

広告出稿は限定的。医療機関の課題は「いかに集客をするか」

――ほかにも医療業界ならではの課題があれば教えてください。

もう一つの大きな課題は、医療機関の広告は限定的にしか出せないという制度の存在です。つまり、医療機関は広告出稿が大きく制約されているということです。

――テレビを見ていると美容外科などのCMが流れていますが、あれは大丈夫なのでしょうか?

美容外科などのCMも色々な制限を意識した上で行われています。競合サービスと比べたときのSOKUYAKUの強みは、BtoC向けの集客をしている点です。現在もCMを流してSOKUYAKUのプラットフォームに集客をし、各地の病院と薬局に送客をしています。病院も薬局も自分たちで集客するノウハウを持っていないので、例えば他社のオンライン診療サービスを導入したものの、実際には受診率が一向に伸びないといったケースもあります。

――日本以外の国におけるオンライン診療はどのような状況なのでしょうか?

ここ数年で市場規模が拡大しているのはアメリカと中国とインドです。各国の市場規模はアメリカが約3.17兆円、中国が約1.27兆円、インドが約1.9億円となっています。政府による規制緩和がきっかけでオンライン診療が普及し、市場も拡大傾向にあります。いずれの国にもオンライン診療と服薬指導、処方せんおよび処方薬の配送までワンストップで提供する事業者が存在しています。

利用者とシーンに合わせたオンライン診療の形を提供

――SOKUYAKUの利用者は高齢者がメインになるかと思いますが、オンライン診療に対する抵抗などはありますか?

たしかに高齢者の方ご自身がスマホでアプリをダウンロードして、そこから会員登録をして使うのは難しいでしょう。ですので、SOKUYAKUは複数のサービス提供スタイルを用意しています。

まずは、専用端末からオンライン診療が受けられる「SOKUYAKU端末設置サービス」があります。遠隔地の患者はもちろん、医師の誘致ができなくて困っている地方の総合病院のためにもなるでしょう。規制緩和が進めば普段利用している公民館や介護施設から専用端末を通じて、顔なじみの医師に診てもらうことができます。現在は離島での実証実験を進めているところです。

もう一つはドラッグストアのEC化をサポートする「ついで買いサービス」です。こちらは処方薬を配送する際に、ドラッグストアの日用品もまとめてお届けするサービスです。患者は送料を安く抑えられますし、ドラッグストアとしては客単価が向上するだけでなくオンライン服薬指導のニーズを喚起できるなど双方にメリットがあります。

――今年の4月からスタートした「SOKUYAKUオンライン薬局」とはどのようなサービスでしょうか?

2022年4月1日の規制緩和によりオンライン服薬指導のチャネルが増加し、利用者数の増加が見込まれることから生まれたサービスです。アプリをダウンロードしなくてもWebブラウザ上でSOKUYAKUが利用できます。現在、多くの利用者がいるメルカリや食べログなどのサービスも、アプリなしでWebから利用できますよね。それと同じイメージで、Web上の検索からオンライン服薬指導や来店の予約ができます。ダウンロードという一つのアクションを省略することで、患者の利便性を高めています。

誰もが24時間いつでも受診でき、薬を受け取れる社会をつくる

――ではSOKUYAKUの今後の展望を教えてください。

ゆくゆくは電子カルテも病歴も薬歴もマイナンバーに紐づくようになるでしょう。2023年からは電子処方せんが施行され、ますますペーパーレス化が進みます。この流れは我々にとって追い風です。紙の原本がなくなり、オンライン診療は利便性が上がるはずです。我々のプランとしては、まずはテレビCMの出稿量を増やし、会員数、導入病院、対象の配送地域を増やしていきます。現在、全国で出される処方せんは約8.5億枚で、薬局調剤医療費は約7.7兆円といわれています。7.7兆円の1%がオンラインに切り替われば770億円。さらに10%なら7,700億円という大きな数字になります。

医療と教育は国の二大インフラです。いつでもどこでも誰でも24時間受診でき、薬を受け取れる。そんな社会をSOKUYAKUで実現していきます。オンライン診療の比率が上がれば、患者の利便性向上だけでなく医療従事者の負担も減り、社会保障費も削減されます。ここで損をする人は誰もいません。日本は世界でも有数の長寿国であり、3割の低コストで医療機関が受診できるという世界でも優れた健康保険制度を持った国です。しかし、その制度も崩壊寸前です。

我々が目指すのは、未病・予防期間を長期化させ疾病期間を短縮化させる「SOKUYAKUヘルスケア経済圏」を創出することです。健康食品や第3類医薬品・漢方薬を販売するD2C事業と、医療機関のDXを推進するSOKUYAKU事業を通じて、今後とも国と国民のために尽力していきます。

中村 篤弘

ジェイフロンティア株式会社 代表取締役社長執行役員

1980年神奈川県相模原市生まれ。大学卒業後、ドラッグストアでの医薬品の販売業務からスタートし、EC向けインターネット広告代理店の責任者に就任。2010年よりジェイフロンティア株式会社代表取締役に就任。数多くのヘルスケア関連商品のEC事業の立ち上げ・マーケティング支援に携わる。2021年2月より「SOKUYAKU」アプリを配信開始。2021年8月、東証マザーズ(当時)上場。

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