働き方改革の提唱によりさらに推進されるワークライフバランスとは

誤解されがちなワークライフバランスの意味と本当の考え方、ワークライフバランスに含まれる二つの概念についてご紹介。なぜ今重要なのか、企業が推進させることでのメリットから、具体的に見直しをかけたほうがよい要素などもご説明します。

ワークライフバランスとは

近頃、ワークライフバランスという言葉を耳にすることが多くあります。実はここ数年で誕生した言葉ではありません。ワークライフバランスの意味を一言で表すと「生活と仕事の調和・調整」となりますが、本当の意味を調べていくと「生活の充実によって仕事もはかどりうまく進む。」または「仕事がうまくいけば、私生活も充実する」といった生活と仕事の相乗効果のことをいいます。今回は、誤解されがちなワークライフバランスの概念の本当の意味や、企業としてワークライフバランスを見直すメリットなどをご紹介します。

誤解されがちな考え方

まず、よく誤解されているワークライフバランスの考え方としてこのようなものがあります。「新入社員は仕事を7割、プライベートを3割にして生活すべきだ。」「仕事とプライベート、睡眠時間はすべて均等に8時間に分けるのがベスト。」「仕事とプライベートはきっちりと分ける。」などです。ワークライフバランスの本当の意味は、生活と仕事のバランスをとることではありません。この考え方は、一方の時間が増えれば、一方の時間は減ってしまうという考え方になっています。正しいワークライフバランスの意味を理解しましょう。

ワークライフバランスの本当の意味

ワークライフバランスの本当の意味は、仕事で結果を出すためのスキルや成長を仕事以外で手に入れ、手に入れたスキルによってより短時間で仕事の成果をあげることができるようになり、プライベートである生活も充実しさらにスキルアップや成長ができるというものです。仕事と生活を調和させることで、仕事でも生産性を向上させ結果を出すことができ、それに加えてプライベートも充実するという相乗効果・好循環というのが正しい解釈です。少し意外だったかもしれませんが、仕事とプライベートをきっちりと分けることではないということは理解しておく必要があります。

ワークライフバランスに含まれる2つの概念

ワークライフバランスに含まれる概念として、ファミリーフレンドリーと男女均等推進度、の2つがあります。この2つのどちらかが欠けてしまうと、ワークライフバランスは実現します。この概念を認識することで、さらにワークライフバランスへの理解が深まります。詳細をさっそくご説明していきます。

ファミリーフレンドリーについて

これは「両立支援」とも呼ばれ、働きながら子育てや介護をするために企業が制度・環境を整えることを表しています。仕事と家庭のバランスに配慮した上で柔軟な働き方ができる制度を企業が確立していて、かつ仕事と家庭の両立がしやすい企業文化があること。そしてその制度を実際に社員が利用していることや、法律で設定されている基準を上回る育児休業や介護休業制度を規定していることが条件です。ここ数年で話題になっている「働き方改革」で見直されることがあるのも、このファミリーフレンドリーの取り組みや内容であることが多いです。

男女均等推進

こちらは、性別に関係なく評価や待遇の差別を受けない・能力を発揮するための均等な機会が与えられることです。1985年に策定された男女雇用機会均等法が、日本における男女均等推進のスタートです。また、均等であることを守り差別を禁止する側面のほかに「今ある格差を解消していく」という概念もあります。均等(差別の禁止)・推進(格差の解消)どちらも含むものが男女均等推進という考え方です。厚生労働省では、女性の能力を充分に発揮できるようポジティブな取り組みを推進する企業のことを「均等推進企業」と位置づけています。

なぜ、今ワークライフバランスが重要なのか

ワークライフバランスは昔からある言葉ですが、なぜ最近改めて注目されているのでしょうか。それは少子高齢化社会へ向けた働き方改革と少子化に対する出産・育児支援を目的とした取り組みが国全体で進められているからです。今までの日本の企業の制度や文化のままでは働き方の選択肢が限定されており、急速な少子化にもつながっています。柔軟な働き方に対応できる企業へ成長しないと、優秀な社員が定着しなくなり企業としても衰退していってしまう、という懸念からです。

ワークライフバランスのメリット

個人それぞれの生き方や、子育てや介護などの人生の段階ごとにやってくる出来事に合わせて柔軟な働き方が選択できる世の中を目指していくために、ワークライフバランスが推進されていることがわかりました。では企業がワークライフバランスを進めることによって企業が得られるメリットとはどんなものがあるのでしょうか。大まかに項目を分けてみていきましょう。

優秀な人材の定着

日本の社会では、終身雇用制度が実質過去のものとなっています。新卒・中途採用どちらも売り手市場で、今後は優秀な人材の確保がさらに難しくなる可能性があります。そのため、ワークライフバランスを推進することで柔軟な働き方が認められる魅力的な企業として認識されることで、優秀な人材の獲得や他社への流出防止に大きなプラス要素となるのです。育児に関する制度の見直しは何年も行っていないという企業や、介護に関係する制度はほぼない、という企業は要注意です。早急に制度の見直しをする必要があるかもしれません。

社員のモチベーション向上

ワークライフバランスを推進するメリットは他にもあります。制度を見直すことで職場全体、社員のモチベーション向上にもつながります。過去にワークライフバランスの実現度と仕事への意欲について調査したところ、ワークライフバランスがとれている企業の社員ほど仕事への意欲が強いことがわかったという学術記事もあります。特に「プライベートが充実している」ことが、仕事へのモチベーションアップにつながる傾向にありました。これは、プライベートの充実がスキル取得や成長につながり、仕事の結果が出しやすくなる、というワークライフバランスの本来の概念とつながる部分もあります。

労働生産性の改善

政府が掲げている「働き方改革」でも大々的に"労働生産性の向上"が打ち出されている通り、現在の日本では仕事の質・同じ時間でどれくらいの仕事の結果が出せるかという労働生産性が、欧州諸国と比較して低い部類にあります。これは長時間労働が美徳であるという日本の企業風土が定着していることと関係があるようです。多様な働き方への対応、プライベートも充実させられる企業制度やの仕組みを改めて考え直し、推進していくことが求められています。

優良企業のイメージ構築に役立つ

企業経営では、自社の成長のみではなく「社会にどう貢献するか」というCSR(企業の社会的責任)が重要視される傾向にあります。ワークライフバランスを推進することで、社員を大切にしていて離職率が低く、安心して働ける会社、というよい企業のイメージを育てることができます。また、イメージだけを整えるだけではなく制度自体を整えていくことで優秀な社員の離職率低下も期待できます。社員からの評価が良くなることで、社員自身から発せられる良い評判が社会へ広がっていくことも期待できます。

ワークライフバランス推進のための取り組み

ワークライフバランスを推進していくにあたり、企業として具体的にどんな待遇や制度を見直すとよいのでしょうか?実践しやすい、基本的な取り組みをピックアップしてご紹介していきます。規模の大きな企業はもちろん、中小企業でも多くが制定しているであろう制度を主にみていきましょう。

フレックスタイム制度

フレックスタイム制度は、有名企業などでは比較的浸透している制度ですが、働き方改革で取り組む企業が多い制度でもあります。1か月間の中で総労働時間を決め、その枠内で始業・終了時間を決めていく仕組みです。ただ、本当に自由な時間に働けるようにしてしまうとコストがかさむ可能性が高いことと、全員の時間が合わずに会議ができない、などの問題も発生してしまう可能性が高くなります。そこで大多数の企業が設定しているのは1日のうち必ず会社にいる時間(コアタイム)を指定することです。コアタイムがあることで、組織の生産性を失わないように企業活動を維持できます。

短時間勤務制度

育児や介護に携わる社員を対象に、勤務時間を2~3時間または30分単位で短縮する事例が多く見られています。多くの企業では、育児休暇から復帰した女性社員へ向けたものがほとんどですが、今後は介護を目的とした男性社員・管理職社員の利用も視野に入れると人気が高まりそうです。社員の生活や希望の働き方に応じて、時間短縮のパターンを複数作成したり、1週間の勤務日数を減らす選択ができるなど、勤務時間・勤務体系にいくつかバリエーションを持たせるとよいでしょう。

テレワーク(在宅勤務制度)

在宅勤務制度は、ITを利用した時間・場所にとらわれない働き方と定義されています。この制度を取り入れる際には、業務を自宅や会社以外の場所で行うことができるよう社内システム・セキュリティを見直す必要があります。企業にとっては交通費の削減や休業からの復帰支援の一端としてメリットがあるでしょう。2020年にはやむなく在宅勤務となった企業も多いことから現在の在宅勤務状況や制度を見直し、さらに良いものにしていくこともワークライフバランス推進のひとつです。

長時間労働の削減

長時間労働の削減は、日本の多くの企業が課せられた最重要課題でもあります。長時間労働を削減するために、まずは残業の事前申請化や業務フローの見直しから始める企業が多いようです。注意すべきなのは、残業の禁止をするだけでは改善されないという点です。業務改善をせずに残業だけを禁止した場合、結局業務にかかる時間は減ることがないためです。業務フローの見直しと併せてここまでで紹介した短時間・フレックス勤務、在宅勤務などと組み合わせて社員が柔軟に働ける環境づくりが最も重要です。

福利厚生の充実

最初にお話ししたように、ワークライフバランスでは仕事の成果を上げるためのスキル・きっかけを作り出すことがとても重要です。スキルを得ることによって短時間で仕事の成果があげられるようになり、生活もさらに充実するというよいループを生みます。たとえ直接的な結果にすぐつながらなかったとしても、従業員の仕事のパフォーマンスは内包的な気分によって左右されることが研究によって証明されています。ジム・フィットネスの割引利用や資格取得支援制度などを充実させることで、社員が活気を持って働ける環境を整えていきましょう。

ワークライフバランスの実現へ向けて

ワークライフバランスの推進に向けて企業ごとにさまざまな施策が推進される一方で、中小企業での導入がやや遅れている傾向にあります。そこには資金力などリソース面の問題もありますが、経営者の中には先ほど説明した勤務時間の短縮や、福利厚生の充実、残業をゼロにすることなどがワークライフバランス推進の最終的な目的と考えている人も多いようです。しかし制度を見直すことは“目的”ではなく“手段”です。ワークライフバランスの本来の目的は、従業員自らが働き方を選択できることにあります。つまり従業員の働きやすい柔軟な労働環境を整備することが本来のワークライフバランスの推進につながるのです。

新概念「ワークライフインテグレーション」

ワークライフバランスから発展した「ワークライフインテグレーション」という新しい概念も誕生しています。これは仕事と生活を対立するものと考えずに、それぞれを人生の一部として統合(integration)して捉える概念のことです。優先順位をつけるのではなく、無理なく連動・調和させるという考え方はすでにサンフランシスコなどで広がっています。自社で働いている社員に、いかにFlexisibility(柔軟性)を与えられるかが優秀な人材の獲得・流出の防止のカギになっているといえます。
ワークライフバランスを支援するために、国は様々な制度や法律を策定しています。中小企業などでもワークライフバランスをさらに推進させるために、税制優遇制度や助成金制度もいくつか用意されていますので紹介します。また、今回紹介する制度以外にも働く人、働きたい人を支援するための育児・介護休業法や、離職した方や働いている人が厚生労働大臣指定の教育訓練講座を修了した場合、発生した費用の一部を支給する教育訓練給付制度などもあります。企業として取り入れたい場合などには調べてみるとよいかもしれません。

ワークライフバランスを推進する事業主を支援する制度

くるみん税制

2005年より、次世代育成支援対策推進法により従業員101名以上の企業は、子育てと仕事を両立できるよう働く環境の整備や、従業員の多様な働き方へ対応するための行動計画を提出することが義務となっています。この法律をもとに10の要件からなる「くるみん認定基準」を満たした企業には、税制優遇制度が設けられています。申告書を提出し、一定の期間内に初めてくるみん認定を受けた企業は、認定を受けた事業年度(1年間)に新築や増改築した建物などを18~32%の割合で割増償却することができます。

両立支援等助成金

仕事と生活の両立を支援したり、女性の活躍推進に取り組む企業に向けた助成金制度です。「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」「介護離職防止支援コース」「育児休業等支援コース」「再雇用者評価処遇コース(カムバック支援助成金)」の4つがあります。受給できる事業主の条件として、雇用保険適用事業所の事業主であること、支給のための審査に協力するために書類の提出などが必要です。詳細は厚生労働省のホームページより、金額や申請方法が確認できます。

本来の目的を見直そう

現在日本では、働き方改革を中心にワークライフバランスを推進しようという動きが少しずつ強まっています。しかし“手段”にばかり気を取られ、本来の“目的”が見えなくなってしまっている事業主や企業が多いのも事実です。ワークライフインテグレーションがすでに定着している海外諸国の企業などの影響で、さらに働き方に多様化が見込まれます。この機会に、仕事と生活の在り方を捉え直し、自社に合った「働き方改革」を推進してみてはいかがでしょうか。

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