中国最前線

信用の可視化でファイナンスの常識を覆す 個人も事業者も「信用スコア」が鍵に

アリババが重視しているファイナンス事業。日本に住む筆者が、中国でQRコード決済を体験しただけでは、決済サービス「AliPay」や信用を可視化する「信用スコア」などの実態について把握しきれない。そこで、北京の大学に留学して以来、中国の動向を追い続けている株式会社オプトホールディング・グループ執行役員(デジタルシフト創造管掌)の吉田康祐氏に、ファイナンスにおけるアリババの取り組みと日本との違いについて解説してもらった。
前回はこちら

QR決済の浸透

コーヒーを買おうとレジに並ぶと、前に並ぶ人は当たり前のように、財布ではなくスマホを取り出す。店員も慣れたもので、QRコードを使ってあっという間に会計が進んでいく。中国ではアプリでのQRコード決済が日常化しているのだ。

まず、具体的にどうやって支払いが行われているのか知りたい。スーパーで、実際に買い物するところを見せてもらった。

まず、商品のバーコードをスキャンする。
清算を選択し、アプリを起動。支払い用のQRコードを読み取らせる。
これで会計終了だ。

支払いには基本的に、中国の2大決済アプリのWeChatかAlipay、どちらかを使う。どちらのアプリでも、利用方法は主に3つあるという。

①消費者がQRコードを表示させ、事業者側がPOS端末などでQRを読み込む
②店舗のQRコードを消費者が読み込み、金額を入力し支払う
③アカウント間で金額の送受金を行う

①②の方法を使う場合は、銀行口座とアカウントとの紐付けが必要だ。WeChatは個人間の送金の機能がよく使われるのに対し、Alipayは支払いに特化しているという違いがあるそうだ。ちなみに、個人間送金は国を跨いだ場合も可能になるので、WeChatの決済機能は2019年7月末現在、中国人でなければ使用できなくなっている。

QRコード決済が行われるようになったことで、現金を数えたり財布から出し入れしたりする手間がなくなり、消費者はスムーズに買い物できるようになった。日本では未だ、QRコードではなく現金を使う人が多い。かく言う筆者もその一人。アプリを使おうとしても、QRコード決済に未対応の店も多く、財布を持って出かけないと不安である。さらにQRコード決済が使えたとしても、一部のアプリしか対応していない場合もあるので、使い分けが面倒なのだ。中国では事業者側がQRコード決済をする体制があるから、ここまで普及が進んだのかもしれないと感じた。

問題行動もスコアに影響!? 中国人の行動を大きく変えた信用スコア

アリババはもともとECサイトでの決済を行うために決済サービスをはじめた。以来、ユーザーの購買データを蓄積してきた。それらのデータを元にして取り組んだのが、個人の信用を可視化する「信用スコア」という評価軸の創出だ。アリババグループの子会社が運営する「芝麻信用(ジーマクレジット)」のサービスで、幅広いユーザーデータを元に、個人の信用度を測るスコアをつけている。350〜950点でスコアリングされ、およそ550が平均的な数値だ。

スコアによって、特別なサービスを受けられたり、デポジットが免除されたり、後払いが可能になったりと、様々なメリットがある。逆に言えば、スコアが低いと受けられないサービスが存在する。例えば、「CITYBOX魔盒」というこちらの自動販売機。
中に商品が入っていて、扉はロックされている。アプリで扉に付いているQRコードを読み取ると扉を開けられる仕組みだが、信用スコアが550以上でないと扉が開かない。信用がない人はこのサービスを使えないのである。

信用スコアは、債務の履行など経済上の信用に基づいて付けられている。スコアの算出に活用されるデータは、公共料金の支払い状況や納税の履歴など多岐にわたる。さらに、日常生活の中で法令を守らなかった場合にも、スコアが減点されるのだ。

習近平国家主席は2020年までに、中国国内に2億台の監視カメラを設置することを明言している。監視カメラやセンサーなどによって、問題行動はすぐにスコアに反映される。横断歩道で信号を無視した。駐車禁止の場所に駐車した。ゴミを路上に捨てた。日常の些細な行動が、自分のスコアに直結している。そのため、中国人の行動は大きく変わったという。

例えば、杭州市の道端でよく見かけるこのレンタルサイクル。
QRコードが付いている。カゴにはソーラーパネルを搭載。充電した電気でロックを自動解除できる。自転車だけでなくスクーターに近い「モバイク」も。

QRコードをスキャンするとロックを解除できる仕組みで、初乗りは1.5元(約30円)。30分間乗れる。乗り終えたらその場に停めて、ロックを戻すと自動的に清算が完了する。専用のアプリで自転車がどこにあるか位置情報を把握できるため、元の場所に戻す必要はない。

この仕組みだけでも驚きだが、気になるのがマナーだ。所定の場所に戻す必要がないので、自転車はどこにでも停められる。使う人がマナーを守らなければ、街は適当に停めた自転車で溢れることになる。

実際に、レンタルサイクルの仕組みが実装された2016年ごろ、路上には至る所に自転車が停められ、無秩序状態だった。しかし今、杭州市を歩くと、自転車は枠内にきちんと並んで停められている。
あらぬところに駐車すれば、それがしっかり監視されており、信用スコアに反映されるからだ。信用スコアの普及は、中国人の行動を大きく変えた。

農村部の高齢者にも浸透するアプリ決済

アプリによる決済。信用スコア。何より驚くのは、こういった仕組みがただでさえ広い中国国内で、多くの人に使われるサービスインフラとなっている点である。吉田氏によると、農村部の高齢者でもアプリによる決済を利用しているという。

「中国では、QRコードを読み取れば何かが起きる、という認識が浸透しています。とりあえず、ただスキャンする。誰にでもできる簡単なアクションだからこそ広まったんです。加えて、使用するアプリも統一されています。

日本でも様々な企業がQRコード決済サービスをリリースしていますが、店舗によって使えるサービスは異なります。ユーザーがキャッシュレス生活をしたいと思ったら、複数のアプリをいちいちダウンロードしなくてはいけなくなる。

信用スコアで個人や小規模事業者向けの融資も可能に

新たな決済方法や、信用スコアという評価基準の浸透は、単に支払い方法を変えるだけではない。事業者側にも大きな変化をもたらした。

例えば、QRコード決済が広まったことで、誰でも簡単に個人商店を始められるようになった。これまではレジなどの設備を購入する必要があったが、今やアプリさえダウンロードすれば取引が可能になる。間違いなく決済できるし、購入履歴も残る。商取引の履歴が残ることは脱税対策にも大きな効果があるため、政府も導入を推奨しているという。

さらに、アリババグループでは、信用スコアを元にして、これまで融資を受けられなかった個人や、小規模事業者向けの融資もサービス化している。信用スコアに加え、これまでのEC取引の金額など、アリババグループが所有している膨大なデータから、AIが貸付可能な金額を算出する。人手による審査はゼロ。申し込みから3分で申請が完了し、口座にお金が振り込まれる。1万元(約18万円)からの融資が可能だという。

ビックデータを活用することで、これまで信用がなく金融サービスを受けられなかった個人や小規模事業者への融資が可能になった。これらの変化の影響は、銀行や消費者金融にも及ぶだろう。テクノロジーと膨大なデータの活用。アリババによるデジタルシフトの先で、金融業界は大きな変革をとげようとしている。
***
次回は、アリババが運営する生鮮スーパー「盒馬鮮生(フーマー)」やスマートレストラン、デパート「武林銀泰モール」へ。アリババが提唱するニューリテールの現場を体験する。

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