DX戦略

「シリコンバレーのVCは何を見ているのか」の著者 山本 康正氏に聞く、デジタルシフト後進国 日本への6つの提言

with&afterコロナ時代となり、デジタルシフトの必要性を多くの企業が感じています。一方で、デジタルシフトをうまく進められていない企業は数多く存在しています。スムーズにデジタルシフトを果たすためには何が必要なのでしょうか。ベンチャーキャピタリストとして、アメリカ・シリコンバレー、中国・深センなど世界中の最先端企業を見てきた山本 康正氏に、デジタルシフトを通じて企業を支援する、デジタルホールディングス代表取締役社長 グループCEO の野内 敦氏が伺いました。

目次

・ポイント1 :株式報酬制度の導入でビジネスモデル転換の起点を作る
・ポイント2 :外部のリソースを取り入れ、スピーディーにシステム開発を進める
・ポイント3 :パッケージからSaaSへの移行で品質向上とコスト削減
・ポイント4 :変革には危機感が必要
・ポイント5 :「早すぎる」タイミングで体制作りを
・ポイント6 :情報ソースを変える

【デジタルシフト推進のためのポイントその1】 株式報酬制度の導入でビジネスモデル転換の起点を作る

野内:日本はアメリカと比べデジタルシフトが遅れている傾向があると感じています。その原因には、経営のあり方や文化の違いが大きいのではないかと思われますが、山本さんから見ていかがでしょうか?

山本:おっしゃる通りで、多くの日本企業はデジタルシフトで会社を変革させること自体にメリットをそれほど感じていないのだと思います。その中でも数少ない未来を見通せるオーナー企業は改革を断行できる体制でもあるので、唐突に感じるかもしれませんが、例えば役員報酬をお金ではなく株で支払うようにするなどにして、未来を見通せる経営陣を集める体制にすることも有効だと思います。

Microsoft社の業績が低迷していたとき、役員として就任したナデラ氏は事業転換を行い、業績を回復させました。その背景には、彼の報酬が株式で支払われていたことも大きいのではと思っています。

株で報酬を支払う制度は、創業家が自分の孫の代まで社長を継がせるなど、長期的に会社を経営するつもりと疑似的にインセンティブを設計する効果があります。日本企業でも導入が可能ではと考えています。

野内:面白いですね。お客さまにデジタルシフトの提案と合わせて株式報酬制度を提案するのも良いのかもしれません。

山本:それで全て解決するわけではないと思いますが、ビジネスモデルそのものを変える大きな起点にはなるかもしれません。

【デジタルシフト推進のためのポイントその2】 外部のリソースを取り入れ、スピーディーにシステム開発を進める

野内:デジタルシフトをうまく進めるために、組織設計はどうあるべきとお考えですか?

山本:一般的な日本の組織の在り方では、例えばデジタルシフトを専門で行う部署を新しく社内に作ったとしても、組織全体を変えることは難しいでしょう。部門長の権限が大きい欧米型組織とは違いますので。

仮にそういったデジタルシフトの部署を作る場合でも、外部からデジタルシフト人材を雇用するだけでなく、既存社員を新設部署へ異動させることが重要です。新しい人ばかりでは、既存の組織とうまく噛み合わない可能性が高いと思います。

あるいは、三菱UFJ銀行が、金融ビジネスをデジタルで変えようと、ジャパンデジタルデザイン株式会社を設立したような形で、デジタルシフトの推進役を、完全に組織の外に出してしまうのも手だと思います。その際は、うまくいった場合のインセンティブの設計をしっかりしなければなりません。そうすれば、外部からやってきた新しい人と、既存組織から参入した内部の人とが協力し合い、お互いのコネクションを活かしながら事業を作ることができると思います。

野内:なるほど。デジタルシフトはビジネスモデル改革でもあるので、外部のリソースや資本を借りることは重要です。場合によっては既存の事業が丸々残らない可能性があります。そうなったとき、元の会社のCEOや経営幹部たちが何をすべきなのかも含めて、組織のあり方を改めて考え直す必要がありそうですね。

【デジタルシフト推進のためのポイントその3】 パッケージからSaaSへの移行で品質向上とコスト削減

野内:新しいサービスのためにシステムを構築する際、日本では基幹システムと連携させようとするあまり、開発に時間がかかる傾向があると感じています。どうすればスピーディーなシステム開発が行えるのでしょうか。

山本日本のシステム開発のやり方は世界的に見ても特殊だと思います。SIerの力が強く、企業は彼らにシステム開発を丸投げしてしまっている現状があります。その結果、開発スピードが遅れたり、質の高いシステム開発がうまくいかなかったりして、真に顧客に寄り添ったシステム開発が進められていない会社もあるのではないでしょうか。

例えばアメリカでは、かなりドライに開発を進め、方向性は自分たちで決め、外注するところを限定的にします、システム会社に対してもコストカットをバンバン要求しますし、開発の重要なところは内製化か、テクノロジーベンチャー企業の買収もすすめます。

野内:最近は0から開発をしなくても、SaaS(Software as a service)を活用すればスピーディーにシステム開発が可能ですよね。SaaSの提供会社からすれば大きなビジネスチャンスが生まれていると思います。現に新しく事業を立ち上げるスタートアップは、SaaSの開発を行なっていますし、我々もその開発に力を入れています。改めてSaaSの強みについて教えてください。

山本:いろいろな見方があるのだと思いますが、大きいのは、コスト削減とサービスの品質向上を図れる点だと思います。

昔のMicrosoftのOfficeを思い浮かべてください。これまでパッケージとして販売されてきたサービスは、売れた後どんなエラーが起こっているのか、クレームが来ない限りわかりませんでした。数年で新しいバージョンのものを改めて発売し、また0からマーケティングなど始めるので多大なコストもかかっていました。

しかし、SaaSを提供すれば、常に最新版をお客さまに提供できます。どこで不具合が起きているのかわかりますし、プライバシーに配慮しながらお客さまがどんな使い方をしているのかも分かります。そうすると、サービスのブラッシュアップが容易にできるわけです。

野内:SaaSの魅力はわかりましたが、馴染みのない日本企業からすると導入までのハードルが高いのではないかと思います。また業種・業態によっては自社サービスをSaaS化していくことも重要です。どうすればそうした流れが加速するのでしょうか?

山本:一番早い方法はいろんなSaaSを使ってみることだと思います。自転車と同じで、まずは体験してみることでその感覚を掴むのが重要です。逆に、情報を見るだけでわかった気になるのは一番危険です。とくに今は、新しいテクノロジーがどんどん生まれている時代ですので、まず体験して、その後考えるぐらいがちょうどいいのだと思います。

専門家の方々が解説を始めるのは、技術が生まれてから5年も経ってから…という例が多々あります。そのタイミングで参入しても意味がありません。先を行くためには情報が上がってくるのを待つのではなく、自分で取りに行くのが大事だと思います。

野内:現在、シリコンバレーはもちろん日本でもSaaSは注目を集めています。それゆえに差別化が難しくなっているとも言えます。そんななか、投資の観点から見て、SaaSの次にはどんな形のサービスが生まれるとお考えですか?

山本個人的に、何年先かはわかりませんが、たどり着くのは成果報酬型のビジネスモデルだと考えています。利用するだけなら無料というシステムもあり得るでしょう。例えば、会計ソフトでも、そのソフトを利用することで、導入企業の人件費がどれだけ下がったのかを測り、削減された経費の10%を報酬としてもらう、といった成果連動型の新しい収益モデルが出てきてもおかしくないと思っています。

野内:成果連動型のSaaSが一般的になると、今脚光を浴びているSaaSも利用されなくなるのでしょうか?

山本:おそらく業種や規模によって定額制か成果報酬の人気度が変わるとは思いますが、ユーザーからすると、安く成果が出るとなれば、そっちに切り替えない手はないですよね。

野内:逆に言うと、成果報酬しかもらえないということは、そのサービスを提供する企業は、アップデートなど追加開発がしづらいのではないでしょうか?

山本:確かに、既存のサブスクリプション型のSaaSのように、安定した収益があるからこそ良いものが作れる側面はあります。ただ一方で、安定した収益はプロダクトから来ます。鶏が先か卵が先かみたいな議論になってしまいますが、プロダクトの質を高める点では成果報酬型の方が向いていて、ひとたび良いプロダクトができれば安定した収益もあげられ、アップデートへの投資も継続できるようになるのだと思います。

野内:ZoomやSlackのように、IDが増えるとコストが増えるサービスは、満足頂いた場合のみ金額が増えていくという点では、成果連動型のモデルに近いのでしょうか?

山本:そうですね。いわゆるフリーミアムの中に、成果連動が段階的に組み込まれているかと。

特に、既に似たようなサービスを導入している企業において、社長、CDOやCIOを説得して新しいサービスに切り替えてもらうのはとても難しいものです。そこでZoomやSlackは、戦略的に、現場社員の満足度を高めることでシェアを広げていく戦略をとっています。社員が無料のSlackを使いはじめ、いつの間にか社員のほとんどが使うようになっている。そうなれば、会社としても正式にコストをかけて導入せざるをえなくなりますからね。

【デジタルシフト推進のためのポイントその4】 変革には危機感が必要

野内:私は会社にイノベーティブな思考を持つ人をもっと増やしたいと考えています。そのためにも、評価制度とも連動させ、イノベーティブな仕事をした人をきちんとたたえる文化を作りたいのです。山本さんから見て、イノベーションで成功した企業に感じる共通点などあれば教えてください。

山本危機感を持っていることは共通点だと思います。現在は先を見通すことが難しく、自分の会社が危機に瀕しているのかどうかも分からなくなってきています。そんななかでも、アンテナを高く保ち、このまま同じことを続けるのはマズイという感覚を社員に持ってもらうことが一番大事なのかなと思っています。

野内:危機感は、経営層、マネジメント層だけでなく担当者レベルの社員にも持ってもらうべきでしょうか?

山本:理想的にはそうだと思います。もしかしたら10年後、「うちの会社はなくなっちゃうかも」というぐらいまで強い危機感を持ってもらわなければ、新しいアイデアが現場で生まれることはないと思うのです。

【デジタルシフト推進のためのポイントその5】 「早すぎる」タイミングで体制作りを

野内:危機感を現場で感じるようになった時点では「時すでに遅し」というケースも多いと思います。我々が7月に商号をデジタルホールディングスに変えて、大きく体制変更を行ったのも、今変わらなければいずれ大きな危機に直面すると考えたからです。同じように急激な変革に挑戦する企業は増えていくでしょう。スピーディーな変革のためには何が必要なのでしょうか。

山本システム開発をアウトソースではなく内製できる体制作りに、いち早く着手しなければならないと思います。とくに、人工知能やディープラーニングといった領域のシステムを自分たちで作れなければ、その業界の中で淘汰される可能性は高いと思います。必要があればテックベンチャーの買収を通じた人材獲得、(Acqui-Hire: Acquire買収+Hiring雇用)を行うのも手元に流動資産があるうちにしか選べない手だと思います。

AmazonやGoogleが、様々な分野でシステム開発のプラットフォームを提供していくことは間違いなく、それを活用してシステムを作る会社が増えていくでしょう。しかし、それだけでは他社との差別化ができません。だからこそ、自社で開発できる体制づくりが必要になってくるのです。

おそらく大企業の中で、未来に備えて体制づくりをすべきだと提案をしても「早すぎる」と言われてしまうでしょう。逆に、早すぎると感じる今だからこそスタートしなければ失敗するのだと思います。早すぎて市場がついてこないことはありますが、早すぎるところからアクセルの踏み加減の調整はできますが、遅すぎるところからのアクセル調整は更に難しいです。

例えばMicrosoftはスマートフォンの流行に乗りそこないました。一方Googleはいち早くAndroidの買収を行ない、流行を掴むことに成功しています。iPhoneが出てきたとき「このままではマズイ」という危機感も大きかったと思います。まだまだデスクトップの時代は続くと考えている人が多かったなかで、早くに新しいことを始めることと、それを社員にも徹底させたことが今の成功に繋がっているのではないでしょうか。

【デジタルシフト推進のためのポイントその6】 情報ソースを変える

野内:日本企業のビジネスリーダーの方々が明日から変えられる行動としてはどんなものがあるでしょうか?

山本:先述したような、マインドを変えることと合わせて、情報ソースを変えることも有効だと思います。

例えば、イギリスの経済紙「Financial Times」や世界中で発刊されている日刊経済新聞「The Wall Street Journal」には、日本の経済新聞と比べ、さまざまなデジタル施策が掲載されています。まずはニュースを通して、海外でどんどん新しいサービスが立ち上がっている状況を知り、世の中の動きをもっと身近に感じてほしいですね。それは2年後ぐらいには日本にやってきますから。
山本康正氏の最新著書
アフターコロナの「未知の未知」に何ができるか? シリコンバレーで活躍する目利きに学ぶ「テクノロジー+ビジネス」の未来を先読みする力。
『シリコンバレーのVC=ベンチャーキャピタリストは何を見ているのか』東洋経済新報社

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山本 康正
dnx ventures
Industrial Partner
東京大学修士号取得後、米ニューヨークの金融機関に就職。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。卒業後グーグルに入社し、フィンテックや人工知能(AI)などで日本企業のデジタル活用を推進。ハーバード大学客員研究員。日米のリーダーシッププログラム 「US-Japan Leadership program」フェロー アジアソサエティ ヤングリーダープロフェッショナル 2013年度日本代表。
野内 敦
株式会社デジタルホールディングス
代表取締役社長 グループCEO
株式会社デジタルホールディングス 代表取締社長 グループCEO。Bonds Investment Group株式会社 代表取締役。1991年森ビル入社。1996年オプトに参画。共同創業者として、グループ経営、組織運営、新規事業設立など、グループ成長拡大に一貫して携わる。2020年4月より現職。

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