ヨーロッパ最大級のテックカンファレンスWeb Summit 2019が問う、これからの企業の在り方とは?

11月、ポルトガル・リスボンでヨーロッパ最大級のテクノロジーカンファレンスWeb Summit 2019が開催された。Forbesが「世界最高のテックカンファレンス」と称賛し、全世界から7万人が集結するほどの重要度の高いイベントだが、日本での認知度はあまり高くない。主催者側の情報では、今年参加した日本人はわずか700人程度だという。

そんな限られた参加者のうちの二人、トレジャーデータ株式会社の矢田 貴裕氏、株式会社オプトの伴 大二郎氏が、それぞれの視点でWeb Summitを解説するイベントが12月4日、丸ノ内で開催された。

二人のトークから、Web Summit2019の概要と、ヨーロッパのテックトレンドに迫る。

ヨーロッパ最大級のテックイベントWeb Summitとは?

トレジャーデータ株式会社 矢田 貴裕氏

トレジャーデータ株式会社 矢田 貴裕氏

矢田「2010年、アイルランドのダブリンで初めてWeb Summitが行われたときは参加者が400人しかいませんでした。それが今年は7万人以上を集めるほど大きなイベントになっているのです。160以上の国から人が集まっていて、46.3%の参加者が女性という点でも、他国のテックカンファレンスとは異なる特徴を感じます」

今回、Web Summitに初参加した矢田氏も、他国のテックカンファレンスの視察経験があっただけに、規模の大きさと男女比率の違いを強く感じとった。だが、「世界最高のテックカンファレンス」と称される理由は、規模だけに由来するのではない。

矢田氏が紹介してくれたのは、Web Summit専用のアプリだ。
出典元:アプリのスクリーンショット画面
アプリ上には出展社すべてのプロフィールが公開されていて、気軽にチャットで連絡を取ることができる。これを活用して10分程度の短いミーティングがいたるところで行われていたという。イベントを訪れた参加者の情報も登録されていて、他の参加者とQRコードを読み合うことで簡単につながりをもつことができる。

また、開催されるイベントを確認できる機能もあり、気に入ったイベントを登録しておけば、自動でスケジュールを作成してくれる。

かゆいところに手が届くアプリは、他のカンファレンスと比べても質が高い。実は、Web Summitは主催企業が大規模なエンジニア、データサイエンティストを抱えていて、アプリを独自開発しているというのだ。

カンファレンスで出資者を募りたい出展社や、ビジネスの種を探す投資家・ビジネスマンにとって充実したサポートは、アプリだけでなく開催地のいたるところで感じることができたという。

PC一台で参加も。Web Summitにかけるスタートアップ

多くの基調講演や、企業の体験型ブースに人が集まる一方で、Web Summitではスタートアップのブースにも注目すべきだという。2019年は2,150ものスタートアップが出展。プロダクトやサービスの開発段階などによってクラス分けされていて、アイデアだけを持ち寄り出資者を募るスタートアップも少なくないという。ブースにあるのはPC一台だけ。他のテックカンファレンスに比べても異様な光景だ。
出典元:プレゼンテーション資料より
矢田氏は、気になるスタートアップを紹介してくれた。
そのうち二つを紹介する。

一つ目は、BNAJO ROBINSON 子どもが架空のキャラクターと直筆で文通を楽しめるサブスクリプションサービスだ。テクノロジーの活用で、子供にごとにパーソナライズした内容の手紙が届くという。キャラクターのグッズ化などでの収益性も見込まれている。
二つ目は、E-SOROBAN、電子そろばんのデバイスとソフトウェアを提供する会社だ。すでに20,000人以上のユーザーを獲得しているという。
矢田「Web Summitはテックカンファレンスであるものの、テーマとしてはテック一辺倒ではありません。環境、健康、スポーツ、教育などをテーマにしたアイデアも多いです。デジタルはうまく活用すればエコシステムに繋がる側面がある一方で、現代社会へのアンチテーゼとして、地球全体として考えるべき根本的な問題、サスティナビリティにつながるようなテーマが多く見られました」

ヨーロッパから起こりつつあるマーケティングのルールチェンジ

矢田氏と異なり、マーケターとしての視点で、Web Summitを分析をし紹介したのが株式会社オプトの伴氏だ。

今回参加したことで、SDGsとプライバシーへの配慮から、マーケティングに変化が求められていることを実感し、「ルールチェンジに備えなくてはいけない」と危機感を強めたという。

伴氏によれば、テクノロジー開発を先導する3つの陣営の中で、ヨーロッパはSDGsや個人情報の問い扱いに対する関心が非常に高いという。
出典元:プレゼンテーション資料より
「Web Summitは、よりよい未来について議論し尽くす場所。とにかく自分の意見を言う参加者が多く、当然批判もあるが、議論が活発な点は大変面白いです。今年は特に、SDGsについての議論が多かった。2030年という期限に向けて残り10年というタイミングでもあり、議論が再燃しているようです。そんな中で、SDGsにきちんと取り組んでいいない企業、国に対する批判が非常に強かった。またプライバシーの観点から個人情報をどう扱うかという議論も目立ちました。私自身、アメリカや中国へのテックカンファも視察していますが、このままアメリカや中国だけを手本とすることに疑問を感じました。ヨーロッパの見習うべきところも取り入れていかなくてはなりません」
株式会社オプト 伴 大二郎氏

株式会社オプト 伴 大二郎氏

伴氏からは、サスティナビリティを尊重した企業の取り組みがいくつか紹介された。

スウェーデン発祥の家具ブランド「IKEA」は、今回のWeb Summitで、3年以内に家具のレンタルをスウェーデン国内で開始すると表明したという。実際、今年の2月からはスイスで試験導入が始まっているサービスだ。持続可能性への取り組みの一環であり、レンタルモデルにより「循環経済」を促進するとしている。

さらに2025年には、すべてのエネルギーを再生可能エネルギーで賄い、配達は電気自動車にするという方針を打ち出すなど、高いレベルでのサスティナビリティ貢献をうたっていることが特徴的だ。

また、オランダのファッションブランド「トミーヒルフィガー」を展開するPVHでは、服をデジタルでデザインすることで、これまでサンプルを作るためにかかっていた時間やコストを削減するという。2020年秋には「カプセル・コレクション」として発表する予定で、社内に3Dデザインの教育・研修機関を設けるなど積極的な取り組みを見せている。

環境負荷を考慮した、バリューチェンの大胆な短縮、低コスト化は、もはや欧州企業のトレンドと言えるだろう。

2020年、SDGs、プライバシーが企業課題として再注目

このようにWeb Summitに出展する企業の発言を読み解くと、ヨーロッパを中心に起こりつつある、いくつかのマーケティングトレンドが見えてくると伴氏は指摘する。

たとえば「顧客中心」から「人中心」への転換。

顧客が多少の不便を強いられても、サスティナビリティの観点で人類の未来を思えば、顧客に理解・協力を仰いでいくという企業スタンスが当たり前になるかもしれない。企業は、ブランドパーパス(存在意義)への共感者を増やす活動にシフトしていくべきだという。

また、プライバシーの民主主義化もキーワードだ。情報を提供する・しないの選択権は、個人にあるという考えに基づくと、企業は不必要に情報を収集することができなくなってくると指摘する。

企業は個人の価値観に応じた体験づくりを前提に、データの取得・活用法を考えていかなければならない。
出典元:プレゼンテーション資料より

経営者はWeb Summitに注目すべき

イベントの終わりに、登壇した二人と出席者で行われたディスカッションでは、Web Summit2019にたった700人の日本人しか参加していなかったという事実が嘆かれた。

世界最大級のイベントであり、アメリカや中国とも異なる未来を示唆する同イベントは、企業のトップが注視すべきものだ。

伴氏の言葉を改めて借りるならば、アメリカや中国のテックトレンドを追いかけることだけが、果たして真に人類社会に貢献するテクノロジー開発につながるのだろうか?
トレジャーデータ株式会社
矢田 貴裕 -Takahiro Yata-


東京理科大学卒。2015年株式会社静岡銀行入社。
支店業務に携わり、主に個人・法人向けの融資営業を担当。
2019年4月より、静岡銀行の人材育成プログラムによりトレジャーデータに出向中。
株式会社オプト
エグゼクティブ・スペシャリスト パートナー 兼 OMOコンサルティング部 部長
伴 大二郎 -Daijiro Ban-


小売業界においてCRMの重要性に着目し、一貫してデータ活用の戦略立案やサービス開発に従事した後、2011年にオプト入社。マーケティングコンサルタントを経て、2015年よりマーケティング事業部部長として事業拡大に向けた組織作りに着手。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門等々を立ち上げ、統括しながらエグゼクティブ・スペシャリストという立場から社内外への発信活動も担務。

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