広告代理店の枠を脱し、社運をかけて日本企業全体のデジタルシフトを遂行する理由<前編>

「その変革に勇気と希望を。」を、旗印に産声を上げたDigital Shift Times。
Digital Shift Timesは、日本企業のデジタルシフトの道しるべになることをミッションに掲げ、未来を見据えて経営の舵取りをしている経営者層やデジタル部門・マーケティング部門の責任者向けに、デジタルシフトと向き合い企業の変革を進めていく上で必要となる情報を提供していきます。

ローンチを記念してお送りするのは、「すべての日本企業にデジタルシフトが必要」と論じる、株式会社オプトホールディング代表取締役社長グループCEO鉢嶺登氏と、立教大学ビジネススクール教授田中道昭氏の対談記事。

田中氏とは、氏が著したデジタルテクノロジーに関する書に影響を受けたことを機に連絡を取って以来の仲、と話す鉢嶺氏。その後、オプトグループは、田中氏と共にデジタルシフトに関する様々なプロジェクトに取り組んでいます。
さて、この二人が感じる日本企業への危機感、焦燥感の理由は? いま、企業トップに伝えたい思いとは? さらには、Digital Shift Timesを立ち上げた意図まで、デジタルシフトに対する思いの丈を網羅した本対談。前編・後編に分けてお送りします。

1社でも多く、一刻も早く、日本企業をデジタルシフトしないことには、日本のビジネスは米中に飲み込まれる

田中 オプトグループは、他社に先駆けてデジタルシフトを標榜していますが、デジタル広告会社であるオプトグループが、なぜこんなにも熱心にデジタルシフトに取り組むのかはもとより、そもそもデジタルシフトが企業に何をもたらすのかを語れる人は少ないように思っています。この対談では、その辺りをぜひつまびらかにしていきたい。
まずは鉢嶺さんがデジタルシフトに本腰を入れようと考えたきっかけからお聞かせください。
鉢嶺 僕らは広告を軸としながらも、一方でベンチャー投資を続けており、その筋から最前線のビジネスの情報を入手しています。これに加え、米中のプラットフォームビジネスが大活況を呈している様子もつぶさに研究してきました。そのなかでもGAFAの影響力はすさまじい。トイザラスのように、アマゾンの台頭によって倒産する企業も出てきています。いまは小売業への影響が顕著ですが、いずれは全ての業種に行き渡るだろうと震撼しました。しかし、そんな話を対岸の火事のように安穏として聞く経営者も多く、この状況に危機感を覚えています。一社でも多く、一刻も早く、日本の企業をデジタルシフトしないことには、日本は米中のビジネスに飲み込まれてしまう。そんな焦燥感が出発点です。
鉢嶺 中学生のときに戦国武将の伝記を読み漁るなか、織田信長の功績に感銘を受けたことが原点なのかもしれません。各武将が自分の領土のことばかりを考えるなか、信長はどうすれば日本を統一できるのかを考え実行しました。結局、本能寺で明智光秀に討たれてしまいますが、実質的には、ほぼ天下統一までを実行した唯一の武将なんですよね。地元に貢献したい、世界に貢献したい、と実行の単位は人それぞれあると思うのですが、僕自身は、日本に貢献したいというのが一番しっくりくる。「国に影響力のあることをやって死にたい」。そんな天命が自分にもあるんじゃないかと思っています。

デジタル産業革命を生き抜くデジタル人材をつくるという使命も

田中 信長の優れた実行力は現代を生きる我々にとっても学ぶものが多くありますよね。ただ、天下統一よりも重要なのは、統一後にどういう国にしていくのか、の部分です。そういう意味では、デジタルシフトもそれ自体が目的ではなく、何をもたらしたいのか――オプトグループのトップとして、いかがでしょうか。
鉢嶺 現代のデジタル化の波は、「第4次産業革命」「デジタル産業革命」とも言われています。産業革命による技術の進歩により、有史上の人類3大課題であった貧困、戦争、そして疫病で命を落とす人は格段に減っています。技術が進歩すれば進歩するほど、人類が幸せになることは過去のデータに出ているのです。僕もデジタルシフトによって、さらに便利な生活を誰もが享受できる社会を創りたいと思っています。しかし、第一次産業革命でラッダイト運動*(注釈)が起きたように、デジタル革命の影響で職を失う人も出てくることでしょう。でも技術は止められません。人が変わっていくしかないのです。ですから、弱者を置いてきぼりにしない施策を同時に進める必要性を感じています。
現在オプトグループでは、マーケティングサービスに続いて、デジタル人材の育成に注力しています。独自に開発したプログラムは社内のみならず、クライアントへも展開し始めており、少しずつですが手ごたえを感じているところです。今後、ヒト・モノ・カネ全てのデジタル化をサポートしたいと考えていますが、なかでもヒトの部分は大きく捉えています。
*ラッダイト運動:19世紀はじめのイギリスにおいて、第一次産業革命で工業機械が普及したことで失業を恐れた労働者が、機械を破壊した運動。
田中 デジタルシフトの実現と同時に弱者を生まない社会を形成することが、鉢嶺さんの使命ということですが、すでにオプトグループでは、鉢嶺さんのみならず個性豊かな人材がその個性を最大限生かして働いている印象を持っています。ここには自分にしかできないことを成し遂げようとする使命感がある。鉢嶺さんとの共通点を感じます。
鉢嶺 当社の社是「一人一人が社長」のとおり、僕は、社員一人ひとりの個性を活かせる風土づくりを常に意識しています。一人ができることって限られているからこそ、それぞれが強みを伸ばして活躍するほうが会社も伸びる。これは、ずっと若いころから僕のなかにある考えです。

デジタルシフトの実現には、成功体験にとらわれない企業DNA刷新が不可欠

田中 僕が鉢嶺さんとオプトグループに大きな期待を感じるのは、鉢嶺さんの持つその価値観とオプトグループの企業DNAです。オプトグループには本当に個性豊かな人が多く、それぞれがそのままの個性を活かして仕事をしている。デジタルシフトの実現に対する強い使命感、社員の個性を活かす企業風土を知ると、なおいっそうこの思いが大きくなります。つまり、デジタルシフトとは、「何のためにやるのか」「やろうとしている組織がどういうカルチャーなのか」「そのトップがどういう価値観なのか」というのが、「何をするのか」以上に重要だと思うんですよね。
鉢嶺 おっしゃるとおり、デジタルシフト成功のカギは、トップが握っていると言えるでしょう。先生の著書『アマゾン銀行が誕生する日』(日経BP刊)で取り上げられているDBS銀行は、まさにトップ自らが戦略の中枢にデジタルシフトを置いているからこそ、「世界一のデジタルバンク」と言わしめられるほどの変貌を遂げることができました。銀行としての自身の存在意義を問い直し、既存事業との食い合いを辞さず、会社の芯までデジタルにこだわった。その成果をデジタル化が企業にもたらす収益性として開示したことで、世界中に大きなインパクトを与えました。いまやDBS銀行は金融企業としてではなく、テクノロジー企業として株式市場の評価を得るまでになっています。ここまで変化できたのは、トップの強い思いと本気度があるからにほかならない。この事例には多くの学びがあります。僕自身も過去の成功にとらわれない精神のもと、大胆な挑戦によって飛躍していく思いを常に持っています。
田中 今の鉢嶺さんのお話から、ノキアのデジタルシフトを思い出しました。日本人のノキアの認識って「携帯端末でトップシェアを誇っていた時代もあったよね」のような、“一昔前の会社”というものだと思うんですが、実は現在、第五世代移動通信システムの覇権を握るんじゃないかとまで言われています。ノキア現会長であるリスト・シラスマ氏の著作日本語版『NOKIA 復活の軌跡』(早川書房)の解説を担当したのですが、ここまでどうやってシフトしたのかというと、やはり「起業家的リーダーシップ」が中核なんです。すべては、企業DNAをスタートアップ企業のように刷新する。スタートアップ企業のようなフレキシビリティを持ち、スピーディーさを取り戻す。そこに尽きるなと。アマゾン創業者のジェフ・ベゾスも、『DAY1精神』を大切にしています。「今日がアマゾンにとっての初日ですよ」と。そういう意味ではオプトグループがどこよりも先陣を切って、デジタルシフトカンパニーになれるのかもまた、これまでの成功体験を自ら破壊し、一人ひとりが社会人になりたてのころのような、会社も設立当時に戻るような、そういう精神の持ちようが重要になるでしょう。

なぜ広告代理店のオプトグループがデジタルシフトなのか

田中 さて、改めて今回のテーマは、「なぜ広告代理店のオプトグループがデジタルシフトなのか」ですが、そのとおりオプトグループの世間一般のイメージは、デジタル広告、デジタルマーケティングの会社です。このたびデジタルシフトを標榜しているのは、これらを超えて新しい会社になるということですよね。ずばりデジタルシフト後の新生オプトグループは、どんな会社を目指していくのでしょうか。
鉢嶺 従来の広告会社ではなくなります。広告だけではなく、人もビジネスモデルも、文化も全て変えなければいけない。会社全体がデジタルシフトするところを全てお手伝いできる存在になりたいですね。
田中 すでにオプトグループにデジタルシフトを依頼する会社は何社もあります。僕もいくつかのプロジェクトに関わっていますが、たとえばファッションブランドの最高峰ともいわれるグローバル企業の日本法人。こちらはオプトグループの長年のクライアントですが、現在、デジタルシフトを軸にしながら、ブランドの哲学や強みを活かした戦略や組織はどうあるべきかを一緒になって描いているところです。保険会社に対しても、ビッグデータの収集と解析のサポートから、コールセンターのAI化、新商品の開発まで業績向上全般のお手伝いをデジタルシフトの側面から行っていくプロジェクトが進行しています。両社ともデジタル広告が入口でしたが、そこからデジタルシフトへと、お手伝いする範囲を広げていますよね。
鉢嶺 そうですね。広告をマスからインターネットに、というニーズのみを持つ会社は少なくなってきていますし、値段が安いのを理由に代理店を選ぶというフェーズでも無くなりつつあります。最重要視されているのは、「どの会社が真のパートナーとして、自社のデジタル化をサポートしてくれるんだ」ということ。ですから、今後は広告だけでなく会社全体のデジタル化を本気でサポートしている姿勢を、これまでの実績と合わせていっそう打ち出していきたいと思っています。
田中 最後に、今回オプトグループは新たなメディアを立ち上げるわけですが、僕は、読者にとって1回限りの記事を読む存在なのか、それとも継続的に読むことになるメディアなのかは、そのメディアのトップがどのような価値観をもつ人物であるのか、そのメディアの組織がどのような企業DNAをもつ企業であるのかがより重要だと思っています。そういう意味で本メディアに期待しているんです。

プロフィール

田中道昭(Michiaki Tanaka)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。株式会社マージングポイント代表取締役社長。「大学教授×上場企業取締役×経営コンサルタント」という独自の立ち位置から書籍・新聞・雑誌・オンラインメディア等でデジタルシフトについての発信も使命感をもって行っている。ストラテジー&マーケティング及びリーダーシップ&ミッションマネジメントを専門としている。デジタルシフトについてオプトホールディング及び同グループ企業の戦略アドバイザーを務め、すでに複数の重要プロジェクトを推進している。主な著書に、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)、『2022年の次世代自動車産業』『アマゾンが描く2022年の世界』(ともにPHPビジネス新書)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『ミッションの経営学』(すばる舎リンケージ)、共著に『あしたの履歴書』(ダイヤモンド社)など。
鉢嶺登(Noboru Hachimine)
株式会社オプトホールディング 代表取締役社長 グループCEO
公益社団法人経済同友会 幹事
一般社団法人新経済連盟 理事
一般社団法人ネッパン協議会 代表理事

1994年㈱オプト(現:㈱オプトホールディング)設立。2004年、ジャスダック上場。2013年、東証一部へ市場変更。インターネット広告代理店の枠にとどまらず、日本企業のデジタルシフトを支援する会社として業務を拡大し、幅広いサービスを提供している。また、自ら新規事業の立ち上げや、ベンチャー企業の投資育成に努めている。著書に『ビジネスマンは35歳で一度死ぬ』、『役員になれる人の「読書力」鍛え方の流儀』
田中 米中ビジネスの情勢と日本の現状を比較して憂えたことが、デジタルシフトを行き渡らせたいと考える一歩になったということですね。ただ、鉢嶺さんには、それにも勝る使命感があるように思います。オプトグループという一企業の行く末だけではなく、日本全体を変えたいという広い視野からは、崇高さを感じるのですが、その強い思いはどこから来ているのでしょう。

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