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自社の経常利益は前年比8倍に。中小製造業のデジタルシフトを支援する、町工場の二代目社長の挑戦。

かつて世界中から注目を集めた日本のものづくり技術。現在でも世界に負けない技術力を持つ企業はたくさんあるが、その一方、グローバル市場でのシェア獲得競争では他のアジアの国々に出遅れてしまっている現状がある。

東京都大田区に拠を構えるダイヤ精機株式会社も技術力のある製造業の一つ。主にゲージと呼ばれる測定具を作るメーカーだが、2019年より中小製造業が生産性を上げるためのコミュニケーションツール「Lista(リスタ)」を株式会社テクノアと共同開発し、リリースしている。

Listaは、もともと自社の生産性を向上させるためのコミュニケーションツールとして生みだされた。監修をしたのは同社2代目社長であり、自身の経験が「マチ工場のオンナ」としてドラマ化されている諏訪 貴子氏だ。他社向けにもListaを提供し、全国中小企業クラウド実践大賞で「日本商工会議所会頭賞」を受賞するなど評価されている。40年以上前に誕生した、正社員20数名の町工場がデジタルシフトを成し遂げた要因はなんだったのか、社長にお話を伺った。

中小製造業向け、業務効率化ツールを共同開発

―まず、御社の事業内容を教えてください。

自動車の部品を測定する、ゲージと呼ばれる測定具をメインで作っています。正社員の総数は24人。うち5人が営業で、設計2人、事務1人、経理1人で、残りはみんな工場で働く工場員です。

2019年には中小製造業向けのクラウド型コミュニケーションツール「Lista(リスタ)」を、ソフトウェア開発を行なっている株式会社テクノアと共同開発しました。

Listaは社員が持っている情報を共有し合い、生産性を上げるためのツールです。お客様への納品スケジュールや受注見込み、企業目標や売上目標などの共有、進捗管理、日報、総務からの情報発信なども行えるのが特徴です。

さらに、名刺取り込みによる顧客管理、各種申請・稟議書のやりとり、情報発信のための掲示板機能など、我々くらいの規模の中小企業に必要なあらゆる機能を搭載しています。誰がいつ利用したか確認できるようにもなっているので、ちゃんと社員が使えているのかの把握も可能です。
(実際のListaのトップ画面)

(実際のListaのトップ画面)

就任当初、最初に着手したのがIT化

―諏訪さんは2代目社長と伺っています。会社を引き継ぐまでの経緯を教えてください。

大学卒業後、新卒で大手電機メーカーの子会社にエンジニアとして入社しました。その後、結婚・出産を機に退職しますが、子育てがひと段落した段階で、父から誘われダイヤ精機で働きました。ただ、経営方針が合わず長くは続きませんでした。

そんな中、父が肺がんであることが発覚し「もう一回会社に入ってくれ」とお願いされました。いつか跡を継がねばという気持ちがどこかにあったこともあり、社長になる決心をしました。そのすぐ後に父は他界。32歳で会社を継ぐことになりました。

2004年の就任当初、会社の業績は停滞し改革が必要な状況でした。そこでまず、最初に着手したのがIT化、生産管理システムの全面変更でした。前職で携わっていて、見識のある領域だったのです。図面をバーコードで管理するという方式に変えて、現場の進捗管理及び実績収集を徹底することによって、企業の生産性をあげたんです。当時、中小企業で「生産管理をIT化する」と言うと、ほとんどの人はピンときていませんでしたが、今では当たり前になっていますね。

―最初はIT化による反発などなかったのでしょうか。

ありましたよ。最初のIT 化って反発が大きいですし、しかも当時は50-60代の社員が一番多かったので。導入時にはとにかく社員にアンケートを取ったんです。私がシステム導入のプレゼンをやって、不都合を感じる箇所についてのアンケートをとって、それに全て答えていくんです。これを何回も繰り替えすと質問がなくなるんですよ。「これできねぇじゃないかとか、この機能がないと俺たちどうすりゃいいんだよとか」そういうのを全てカスタマイズすると、結局彼らはそこでとことんシステムについて話し合って納得ができちゃうわけですよ。このフローを経ることで当事者意識が生まれ、成功させなきゃと思うようになるんです。IT化の際、通常は旧システムを同時並行で走らせさせる必要があり時間がかかります。大手は3か月ぐらいでやるんですが、うちはパソコンの電源を入れるところから教えたので、半年か一年必要かなと思っていたら3か月で成功させちゃったんですよ。だからやっぱり社員を巻き込むことが重要だなと。今回のプロジェクトも、いろんな人の意見を聞きながら進めました。

ITが得意ではない人でも使えるツールを

―Listaも業務効率化の一環として開発に着手されたのでしょうか?

就任から15年経ち、2007年より人材確保と育成を始めました。2004年当時は、50代・60代の社員が一番多かったのですが、現在は20代・30代が多くなっています。技術を保持したまま、組織構造の変化に成功したのですが、一方で生産性は落ちてしまっていました。それはなぜかと思い、若手と熟練の職人の総稼働時間の違いを調べてみたんです。そこでわかったのは、若手は図面を手にしてから、機械を動かすまでにすごく時間がかかっていたこと。熟練の職人さんはいろんな経験を積んでいるので、図面を見た瞬間動けるのですが、若手って、それがなかなか難しいんですよね。なので、経験値とは関係なく、他に時間がかかっているところは何かを調べた時に、会議や電話対応、営業との確認や打ち合わせに時間がかかっていることがわかったんです。だからこそ、生産性を上げるためには企業の情報管理の徹底が必要だと考えました。社長就任当初に導入した生産管理システムは、一方通行のコミュニケーションでした。そうではなく、双方向のコミュニケーションを進めたいと思ったんです。各社員が持っている情報を一元管理できれば生産性が上がるのではと思ったことがLista開発のきっかけです。

最初は既存のグループウェア(※)導入を検討しました。ただ、設定が大変だったり、使いこなすのが難しかったりで、社内に浸透させることができませんでした。そもそも、既存のツールには現場の人たちにとって馴染みのないカタカナ用語が多く、使いづらいなとも思いましたね。

コレといったツールが見つからず、それなら、自社で作ろうと思い、Lista開発に踏み切ったんです。製造現場の人たちは、ITがあまり得意ではないので、「シンプル、簡単、感覚的に使える」ことを大切にしました。トップページで全ての情報を閲覧できるようにしたり、チャットではなく「掲示板」などツールを使う人にとってわかりやすい日本語表記をしたりと工夫しました。また顧客管理も徹底するようになりましたね。今は、各自の携帯で名刺を管理する手法もありますけれども、営業が辞めてしまうと顧客情報を失うことになるんです。顧客管理を財産にしましょうという考え方で、名刺と日報を紐づけました。大手はもちろんやっていますが、中小企業ではできていないところも多いのです。これをすることにより、戦略的営業ができるようになりました。

※グループウェア:ネットワークを使用し、情報共有やコミュニケーションを行い業務効率を上げるツールの総称。スケジュール管理などの機能が1つのシステムに統合されている。

コミュニケーションツール導入により経常利益が8倍に

―実際にListaを開発・導入したことでどのような成果が生まれたのでしょうか?

自分でも驚きましたが、経常利益は前年比8倍になったんです。プロジェクト化して全社で一気に進めたので、効果が出るのも早かったですね。クラウドサービスの業務への活用度・社内での浸透度が評価され「全国中小企業クラウド実践大賞」を受賞したりもしました。

Lista導入による変化は特に大きかったです。今会社で抱えている業務の全体量が把握できるようになり、例え受注が難しい場合でも「今ウチはコレだけ抱えていて納期はコレだけかかります」とお客さまにすぐにお伝えできるようになりました。それによって相手の信頼を落とすことなくコミュニケーションできるようになりましたね。

各部署の情報がオープンになったこと、これまでリーダー陣でしか共有できていなかった目標や不良数を常に見える化したことから、社員のモチベーションは確実にアップしました。

おかげで、目標に対して自発的に動いてくれる社員も増えました。仕事をとってくる営業と納期に間に合わない現場、といった対立構造もなくなり、全社で一体感を持って仕事ができるようになりました。


見える化により不良品も減ったので、改めて意識することはすごく大事だなと思いましたね。

日本の中小製造業活性化のために

―改めて、デジタル化を進める上で大切だと思うことを教えてください。

社員さんたちを説得する際には、「今までより楽になりますよ」と伝えていくんです。今までより大変になると言うとみんな拒絶しますが、楽になりますよということだと反発は少ないです。

あと、皆さん失敗されるのは最初から全ての機能を使おうとすることです。私がまずやりたいのは進捗管理だった。そこができれば、他の機能は全部捨ててもいいくらいの気持ちでやりました。だから全部使いなしたら成功ではなくて、一つ使い出したら成功、二つめを使い出したら成功と、段階的に領域を広げていったのです。

また、ダイヤ精機ではListaの活用を習慣にするため、社用PCのホーム画面をListaの画面に固定したりしています。また、毎日見てもらうために、一日一回は新しい情報を発信したりしました。習慣化に必要なのは3週間同じことをし続けること、など色々なやり方がありますが、結局、習慣化するまでが一番重要で、難しいところでもあるのだと思います。

―開発コストを考えると、1人490円ってかなり安いですよね。

アマゾン ウェブ サービスのクラウドを使い、セキュリティもしっかりしています。1人ワンコインで提供している理由は、完全に私の中小企業の社長としての感覚です。10人くらいの会社で、情報管理に使えるお金は5,000円くらいだと思うんです。20人だったら1万円。となると、1人当たりワンコインだと思ったんです。そうでないと中小企業は厳しいだろうと見込んだ上での価格です。

実は構想中に、司馬遼太郎さんの『竜馬がゆく』を読んで感化されちゃったんですよね。この国を変えるじゃないですけど、日本の中小製造業に改革を起こすには私利私欲よりも大義が必要だと。だから中小製造業の未来のために、IT化の第一歩として入れてもらいたいと思っているんです。これを使って1つでも多くの会社さんが「攻めの経営」をしてほしいという思いがあって。

現在、海外のIoTやロボット、AI技術が注目を集めていますが、それだけでは補いきれないものが日本の製造業にはたくさんあると思っています。ものづくりの日本を取り戻すためには、1社だけ頑張ってもダメです。だからこそ、ツールの提供をはじめたのです。日本の中小製造業全体の活性化は私自身の課題でもありますし、今後もそのため挑戦を続けたいです。
諏訪貴子
1971年東京都生まれ
成蹊大学工学部卒業後、ユニシアジェックス(現・日立オートモティブシステムズ)でエンジニアとして働く。2004年に父の逝去に伴い、32歳でダイヤ精機 代表取締役社長に就任。新しい社風を構築し、育児と経営を両立させる若手女性経営者として活躍中。日経BP社Woman of year 2013 大賞を受賞。 ニュースZEROや日曜討論等のメディアに多数出演し、中小企業の現状を伝えている。

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