デジタルホールディングスが、デジタルシフト事業に取り組む意義とは?

株式会社オプトホールディングは、7月よりデジタルホールディングス(以下、デジタルHD)に商号を変更し、あらためて経営の軸をデジタルシフト事業へと移し、日本企業のデジタルシフトを支援していきます。事業ドメインをあらためることにどんな狙いがあるのか。そしてデジタルシフト事業を拡大させる具体的な戦略について、代表取締役社長 グループCEO 野内 敦に、代表取締役会長 鉢嶺 登が聞きました。

デジタルシフトが、労働人口に比例しない経済発展を叶える

鉢嶺:まず、あらためてデジタルHDが考えるデジタルシフトの定義について教えてください。

野内:デジタルシフトには大きく分けて3つのフェーズが存在していると考えています。まず、情報をアナログからデジタルへと変換するフェーズ。そして、様々なプロセスをITによって効率化するフェーズ、いうなればプロセスのデジタル化です。さらに、こうしたデジタル化を前提として、産業構造やビジネスモデルをアップグレードさせるフェーズ。「デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)」という言葉は、この3つ目のフェーズを指しているといえるでしょう。

そして「デジタルシフト」とは、これら一連の流れと取り組みを指す言葉であり、最終的にデジタルトランスフォーメーションを実現することで、社会課題解決、経済発展を目指そうとする意志のことです。

鉢嶺:なぜ、我々はデジタルシフトに取り組むべきなのでしょうか。

野内:私は、第一にデジタルHDを「社会課題解決企業」にしたい。単に自社の成長だけにこだわるのではなく、社会に貢献する会社、未来の繁栄を築き先導する会社でありたい。従ってデジタルHDの存在意義は「社会課題解決」にあると考えます。日本の数ある社会課題の中で、最も重要性が高いのが、人口減少。それに紐づく労働人口減少、少子高齢化社会です。この日本社会における最大の課題を解決できるのはデジタル化に他なりません。

これから日本の労働人口は減り続けると予測されています。労働人口に連動しない経済発展を支えるためには、効率化を図る必要があるほか、余暇を得たヒトが、その時間で今まで以上の質のインプットとアウトプットを行わなくてはなりません。その鍵がデジタルシフトなのです。

もちろん、社会への貢献という観点では、医療の充実、再生可能エネルギーの使用率向上などいくつもの領域でニーズがあります。そんななかで、これまでに培ってきた我々の強みを照らし合わせて考えた結果、労働人口に比例しない経済発展の実現に最も寄与できると考えられるのです。

実際に、我々自身を例に考えても、これまで、社員数を増やすことで売上拡大を実現してきました。しかし今後、たとえば自社の売上を100倍にするため、100倍の人数を確保するというのは現実的ではありません。我々自身、これまで以上にデジタルによる業務の効率化を図るとともに、ロボットに代替できない部分で、社員一人一人が生み出す付加価値を高めていきたいと思います。

そんなときに例となるのが、急成長を成し遂げているベンチャー企業です。私は長らく、子会社であるオプトベンチャーズの代表取締役、キャピタリストとしてベンチャー企業を見てきました。彼らは、最初からデジタルを前提としたモノづくり、サービスづくりを行っていて、その業界では常識とされていたような事業構造そのものを、デジタルを土台とした新しいモノに作り替えているのです。旧態依然とした慣例などに縛られることもなく、デジタルネイティブの発想を活かし、少ない社員数で無制限のビジネスモデルを組み立てています。

とはいえ、世の中の9割以上の企業はまだまだアナログです。さきほどのデジタルシフトの3つのフェーズでいえば、前の2つのフェーズでとどまってしまっている状態も多く、ビジネスモデルのデジタル化を描くまでに到達していないと思われます。そうした企業のデジタル化をサポートすることが、我々の使命だと考えています。

元々、私たちは1990年代後半からデジタルマーケティング領域に参入し、企業のデジタル化をサポートしてきたという実績があります。しかし、あくまでもそれはマーケティング領域での話。もっといえば、マーケティングの4P(Product、Price、Place、Promotion)の中でもPromotionに特化したものでした。ほかの3Pでも支援をしてまいりましたが、さらに強化していかなくてはなりません。

そのために、この数年は、グループのアセットを拡充してきた期間でもありました。今後は、さらに、Personnel(人)、Process(業務プロセス)、Physical Evidence(物的証拠)を足した7Pの範囲までを視野に入れ、デジタルシフトの総合的な設計に携われる存在になっていく必要があります。

デジタルシフト事業の最初の一歩は、BtoBにおけるSaaS型デジタルシフトサービス

鉢嶺:デジタルシフト事業を軸とした場合、どのようなビジネスモデルを考えているのでしょうか?

野内:現時点では、特にこれから3~5年の間は、BtoBの取引周辺におけるSaaSの提供をメインで考えています。

デジタルシフトのサポートには、先ほども触れた3つのフェーズがあります。その中でも今は、情報のデジタル化を課題とする企業がほとんどです。彼らがすでに所有しているコンテンツをデジタル化するという支援を行うだけでも、十分なニーズがあります。また、情報を預かり、デジタル化し我々で保管するといったビジネスモデルも考えられるでしょう。

BtoB領域にこだわる理由は、自社のケイパビリティ的にBtoCモデルのサポートより我々の価値を存分に発揮できると考えているからです。BtoCモデルは、新規ユーザーが際限なく増える世の中であれば、成長が期待できるビジネスモデルでしょう。しかし人口減少が進めば、サービスを利用するユニークユーザーも減っていくのです。

また、デジタルHDの構造的な強みは、実は創業以来一貫してマーケティング事業においてBtoB取引を行ってきたところにもあるのです。結果として、我々は知らず知らずのうちにBtoBモデルにおける取引の課題や、関連する産業全体の課題を捉えています。従って、社員の気づき一つひとつがBtoB領域におけるSaaSの開発に繋がっていくのです。今後は、プロモーションに限らず幅広い視座でデジタルシフトできるポイントを見つける、あるいは、創発的に吸い上げていくことで、我々が提供するSaaSのサポート範囲は情報のデジタル化、プロセスのデジタル化にとどまらず、DXにまで広がっていきます。

鉢嶺:社員は、デジタルシフト事業を展開するに当たって何を学ぶと良いでしょうか。

野内:とくに重要なのは、お客さまの産業構造・事業構造の今を徹底して、研究・体験・熟知することだと思います。

例えばプロモーションの提案をするにしても、産業やお客様の業務を理解していなければCPA(顧客獲得単価)をどれだけ下げられるかの提案しかできません。産業構造を理解すれば、少なくとも4Pの議論はできますし、お客さま次第では7Pにまで話が及ぶかもしれません。

加えて、書籍などを通してもっと多くのビジネスモデルを知ってほしいとも思います。私自身これまでスタートアップを含めたくさんの企業のビジネスモデルを見てきました。そんななかで、ビジネスモデルは無限大だと感じていて、知れば知るほど市場やプロダクトを語れ、デジタルシフトに近づけると実感しているのです。
 
鉢嶺:実際にお客さまのデジタルシフトをサポートする上で重要なことは何でしょうか?

野内:お客様の決裁者や現場の責任者が躊躇なく意思決定できるよう、デジタルシフトの効果を見える化することが肝要だと思います。

弊社グループが、2000年に自社商品としてリリースした、ウェブ広告の効果測定を行い、コンバージョンを見える化する「ADPLAN(アドプラン)」は、ウェブ広告効果を初めて可視化したことで、お客さまがマス広告予算をウェブに移行させていくという重大な判断の背中を押したツールでした。それと同じように、デジタルシフトでも、導入することで効果が可視化できるという「安心感」を、現場の担当者が実感できる仕組みを早急につくることができれば、市場は一気に成長すると思います。

人の介在価値に革新を。広告事業のデジタルシフトを推し進めるのは我々に他ならない

鉢嶺:これまで我々の中核事業であった、広告事業についてデジタルシフトを語るなら、どのような変化が訪れると考えていますか?

野内:徐々にではありますが、デジタルシフトによって広告業でヒトが介在する余地は相対的に減っていくことでしょう。

例として、20年ほど前から存在するアフィリエイトサービスは、未だに生き残っています。同サービスは、時代に先行してデジタルシフトされたサービスだったのでしょう。コンテンツの作成以外はほとんど人が介在せず、広告掲載面の判断や広告費の計算、成果の確認などすべて自動で行っています。また、バナーなどのクリエイティブも今やAIによってつくられるようになっています。このように、配信のみならず、クリエイティブまで含めた全自動型の広告プラットフォームは今後ますます増えていくでしょう。

例えば、これまではGoogleやFacebook等が提供する広告プラットフォームの取引高が増え、それに伴って、運用に長けた広告会社が生き残ってきました。元々、海外のプラットフォームにはそれ自体で物事を処理できるテクノロジーが組み込まれています。にもかかわらず日本では主に手動で運用が行われてきました。しかし、これからは、前述でも申し上げた通りクリエイティブまで含めた全自動化が前提となりますから、元々の広告プラットフォームの能力の通り、デジタルであらゆる処理が行われるようになると考えています。

そうなったとき、生き残るための選択肢は二つです。一つは人にしかできないことを確立し、テクノロジーによる運用との差別化を図ること。二つ目は自らテクノロジーを駆使するスキルを磨いていくことです。自社がどの方向に進化すべきかを、広告会社は考えていかなければならないのだと思います。“広告出稿1件につきいくら”というビジネスモデルではなく、実際にどれほどの効果が得られたか、例えばソーシャルメディアでの反応などを測定し、その数値に応じた収益を得るサービスなどに移り変わっていくはずです。すべての広告でそのようになるかは別ですが、より細分化されていくでしょう。

いずれにせよ、デジタルシフト事業を新たな事業ドメインとする我々は、これまで強みとしてきた広告事業においてもデジタルシフトを推進していく立場とならなくてはなりません。先の述べたような変化を能動的に起こしていくことが求められていると思います。

新しい価値観の世界へ

鉢嶺:新型コロナウイルス感染症の感染拡大がデジタルシフトに与えた影響はありますか?

野内:デジタルシフトをしなければまずいと言う機運はどの会社でも高まっているのだと思います。

そもそも、デジタルシフトという定義がまだ世の中に浸透していなかった中、テレワークという概念が浸透し、売り上げの増減に大きな影響を与える要因になりました。

企業のビジネスモデルがオンラインで完結するかどうかがデジタルシフトの進行度合いを測る指標の一つになったということです。その結果、デジタル化が進んでいない企業は、「いよいよデジタルシフトしなければ本当にまずい」と思い始めているはずです。

経済の話に限らず、なぜ今まで満員電車で通勤しなければならなかったのか、そもそも会社に行かなければならないのか、なぜリアルで印鑑を押す必要があるのかといった、これまでおかしいと思われながらも改善されなかった問題が強く認識されるようになったようにも感じます。

鉢嶺:長期的に見て、これからの社会はどのように変わっていくと思いますか。

野内:今回の出来事で、世の中の価値観が大きく変わりました。これまで隔たりとなっていた距離・立地を無力化することができる可能性に誰もが気づいたのです。

極端な話、これまでアナログな世界で行われていた、人に会ったり、物を取りに行ったりするための移動がデジタル化により無くなっていくでしょう。とはいえ、今のところ物理的に移動しなければ物事が進まないこともあります。

それが、20年後にはきっと物理的な移動価値が見直され、例えば働く人たちが自分の好きな場所で仕事をするのが当たり前になるのではないかと思っています。物理的な移動をせずにバーチャルな空間で旅行に行ったりもできるかもしれません。

現在と照らし合わせることで、そのギャップに恐怖を感じる人もいるかもしれませんが、相対的に見れば、ヒトはより人間的な生活を送ることができるはずです。経済を成長させなくても豊かに暮らせる選択肢がテクノロジーの進化によってもたらされる可能性すらあります。経済的な成長が果たして本当に幸せですか、という究極的で、ある意味幸福な問いにさらされる日も遠くないのかもしれません。

そうした未来に社会が向かっていくためにも、我々がデジタルシフトを推進する旗振り役となることに大きな価値があるのです。

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